中国関連

中国、6回目となるミッドコース・フェイズでの弾道弾迎撃テストに成功

中国メディアは「中国軍がミッドコース・フェイズで弾道ミサイルの迎撃テストに成功した」と報じており、キネティックキルによるミサイル防衛技術でも中国は進歩を見せている。

参考:China holds latest antiballistic missile technical test, ‘proves reliability amid improving technologies’
参考:China Conducts Successful Anti-Ballistic Missile Test

中国は「GBIクラス」の弾道弾迎撃ミサイルを開発している可能性が高い

今回実施したのは2021年と同じミッドコース・フェイズ(中間段階)での迎撃に必要な技術要素を確立する実証実験で、2010年、2013年、2014年、2018年、2021年に実施された実験と合わせると今回で6回目だ。

出典:米国政府説明責任局 弾道ミサイルと極超音速滑空体の飛行コースの違い

弾道ミサイルの飛翔コースは打ち上げ直後のブースト・フェイズ、宇宙空間を慣性飛行しているミッドコース・フェイズ、目標に向けて落下中のターミナル・フェイズの3つに分かれており、これを迎撃するにはミッドコース・フェイズで実行するのが最も現実的だが、短距離弾道ミサイル(SRBM)、中距離弾道ミサイル(IRBM)、大陸間弾道ミサイル(ICBM)はそれぞれ射程距離が異なるため到達高度も異なる。

例えば準中距離弾道ミサイルをミッドコース・フェイズで迎撃するため開発された「SM-3Block1A」は到達高度の関係でIRBMに対しては限定的な迎撃能力しか備えておらず、ICBMに対しては全く届かないが、Block1BでIRBMの迎撃にも対応、さらにミサイル本体の直径を34cm→53cmに大型化したBlock2AでICBMの迎撃テストに成功したが、サイズに制限があるSM-3ではカバーできる範囲に限界があるので「特定条件の下でならICBM迎撃も可能」と言うべきだろう。

出典:米ミサイル防衛局 キネティック弾頭

このICBMをミッドコース・フェイズで迎撃するため専用に開発されたのがGBIで、退役したミニットマンIIのロケット部分に大型迎撃体「EKV」を搭載しているためBlock2Aよりもカバーできる範囲と破壊力に優れているが、ロシアや中国が次世代のICBMを次々と実用化しているため米国はGBIの更新用に次世代迎撃ミサイル(NGI)の開発を進めている最中だ。

中国が開発を進めている弾道弾迎撃ミサイルは「SM-3のように移動式プラットフォームに対応した小型のものなのか」「GBIのように固定サイロで運用する大型のタイプなのか」「IRBMに対応しているのか」「ICBMにも対応しているのか」も一切不明だが、中国の軍事アナリストである宋忠平氏は「中国が開発中の弾道弾迎撃ミサイル技術は中距離弾頭ミサイル以上の目標を迎撃するためのものだ、中国は複数回の実証実験を通じてキネティックキルに関する技術が成熟して迎撃の成功率と信頼性が大幅に向上している」と主張している。

出典:public domain 迎撃体「EKV」

これが事実なら中国が開発を進めている弾道弾迎撃ミサイルは「GBIクラス」ということになるので中々興味深い動きだ。

関連記事:キネティックキルに取り組む中国、弾道ミサイルの中間段階迎撃を想定したテストに成功
関連記事:米次世代迎撃ミサイルのプログラムコストは約2兆円、削減される国防予算から費用を捻出可能か?
関連記事:日米が共同開発したSM-3Block2A、ICBMを想定した迎撃実験に初成功

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo courtesy of the Missile Defense Agency

ゼレンスキー大統領、ウクライナにとって歴史的な1週間が始まる前のページ

ロシア軍がウクライナ軍司令部を攻撃、司令官を含む50人以上の将校が死亡?次のページ

関連記事

  1. 中国関連

    カタパルト装備の空母で運用?中国、ステルス戦闘機「J-20」艦載機型を開発中

    中国は、カタパルトを装備した空母で運用するための艦載機について、実戦配…

  2. 中国関連

    中国、将来のAWACSは無人化されネットワークに統合されたものになると断言

    中国は将来のAWACSについて「単一プラットフォームではなくネットワー…

  3. 中国関連

    中国国営企業の発行物に登場したステルス爆撃機「H-20」のCG画像、但し機関紙が即否定

    中国国営の防衛産業企業「中国兵器工業集団有限公司」が発行する月刊誌「现…

  4. 中国関連

    中国国営放送、ステルス無人機「GJ-11」と小型UAVによる運用コンセプトを披露

    中国の国営放送「中国中央電視台(CCTV)」は今月6日、珠海航空ショー…

  5. 中国関連

    中国が大型ステルス無人艦の建造を開始、実用的なのか実験的なのかは不明

    ゴースト・フリート(幽霊艦隊)の実用化を進める米海軍よりも先に中国が大…

コメント

    • バクー油田
    • 2022年 6月 20日

    なんかもう弾道ミサイルには将来性が無いなあ
    極超音速と神の杖みたいに、宇宙に事前に上げておいて上から落とす2方向に分かれていくんやろうな

    1
      • ミリオタの猫(やっぱり、アンツィオ…いや、ロシア軍は強い?)
      • 2022年 6月 20日

      実態は逆で、弾道ミサイルが戦略兵器として効果的だからこそ、各国共対抗策の開発に躍起になっているんですよ。
      それに、弾道ミサイルの側も多弾頭化とか極超音速兵器との組み合わせ等と言った手法で迎撃手段に対する対抗策が開発されているから、戦車や攻撃ヘリと違ってまだまだ将来性が無いと言う状況ではありません。

      30
        • ネッコネコ
        • 2022年 6月 20日

        >実態は逆で、弾道ミサイルが戦略兵器として効果的だからこそ、各国共対抗策の開発に躍起になっているんですよ。

        これ戦車や攻撃ヘリにも当てはまる事だと思うけどね。
        対抗策が練られるのはそれだけ戦場において脅威の存在だからで、対抗策が登場しても戦車や攻撃ヘリの役割/任務を完全に肩代りする存在でなければ取って代わる事はない。

        例えば攻撃型ドローンの登場で確かに攻撃ヘリの役割は縮小したが、湾岸戦争のようなエアランドバトル戦→空陸一体の協調進撃において激しく流動する前線に垂直離着陸が可能で前線で補給ができる攻撃ヘリは火力支援が提供できるが、低速で後方の基地から運用するドローンでは流動的な前線には適応できないだろう。つまり対戦車砲には成れても騎兵隊にはなれない。だからヘリボーン作戦でも輸送ヘリの護衛や支援をドローンができるかと言うと疑問です。

        よって
        >戦車や攻撃ヘリと違ってまだまだ将来性が無いと言う状況ではありません。
        →対抗策の登場で今まで以上に行動に制約こそあるものの、無くなる事はない、と断言します。戦車が今まで辿ってきた歴史が繰り返されてるだけです。

        対戦車兵器登場の歴史
        ・対戦車ライフル
        ・対戦車地雷
        ・対戦車砲
        ・対戦車攻撃機(シュトルモビクやスツーカG型)
        ・対戦車自走砲(駆逐戦車や突撃砲)
        ・対戦車ロケット砲(パンツァーファウスト、RPG7)
        ・対戦車ミサイル(第4次中東戦争)
        ・攻撃ヘリコプター
        ・無人攻撃機(ドローン)←New!!

        戦車はより効率的な対戦車兵器が登場する度に戦車不要論が出ますから。でもいずれも戦車を撃破はできても戦車の役割を肩代りするものじゃないです。

        9
      • バーナーキング
      • 2022年 6月 20日

      衛星軌道を回ってる物体を短時間で地上に落とすには打ち上がるのと同等のエネルギーが必要なんですが…。

      7
      • WSO
      • 2022年 6月 20日

      神の杖の事は忘れましょう。アレ、物理学的になんも意味がないとどこかのDr.が理詰めで撃破していた筈ですよ。それに、衛星軌道から何か落下させると地球を周回しつつ徐々に高度を下げていく、なんて感じのいわゆる隕石・はやぶさ的軌道になると思われます。目標地点にまっつぐ垂直にぶっ刺さるという訳じゃありませんです。

      11
    • ido
    • 2022年 6月 20日

    弾道ミサイル、極超音速ミサイルの迎撃ほど難しいものはない。というか艦船への攻撃の場合CIWSで対応できるものなのだろうか。

    2
      • 伊怜
      • 2022年 6月 20日

      ファランクスの有効射程が1.5kmなので、マッハ5以上は有効射程に入ってから着弾まで1秒もないことになる。
      少なくとも機関砲での迎撃はほぼ不可能なのでは

      10
        • ido
        • 2022年 6月 20日

        事前にCIWSを手動にしてばら撒いておいても…多分無理だな…

        2
          • G
          • 2022年 6月 21日

          ファランクスは射程の短さもさることながら20mm弾の威力不足が問題ですからね
          大型対艦ミサイルに対してさえ効果が疑問視されていますし

          1
    • 黒丸
    • 2022年 6月 20日

    SM-3 Block2AでICBMの迎撃テストに成功したのが20/11/16の出来事だから
    技術格差は1.5年程度にまで縮まっている可能性があるのか。
    実戦で使えるレベルまでシステムとして仕上がっているかは不明だが、
    後発の強みとはいえ、この追いつきはアポロ計画みたいですごいな。

    8
    • 7tmj
    • 2022年 6月 20日

    撃ったのはDong Neng-3 (DN-3)かな?
    DN-3は中距離弾道ミサイル(DF-21)のミッドコース迎撃に成功している。
    DN-3だったら車載移動式ですね。

    1
    • 戦略眼
    • 2022年 6月 20日

    こうやって、弾道弾の迎撃ができれば、核兵器の重要性もさがるかな。

    1
      • ネコ歩き
      • 2022年 6月 21日

      極超音速巡航ミサイルや極超音速滑空弾等、従来のミサイルでは迎撃困難な核弾頭運搬手段が実用化或いは開発段階にあります。弾道弾にしても、効果的迎撃手段を持たない国家・地域にとっては脅威であり続けます。
      運搬手段と迎撃手段は今後もいたちごっこを続けるわけで、考え得る運搬手段を全て無効化する迎撃手段の登場と普及までは核兵器の戦略的価値は低下しないでしょう。

    • 折口
    • 2022年 6月 20日

    やはり金と人が揃ってる国は仕事が早いですね。

    核を含む米国の戦略兵器体系を列島線の内側で無効化できるようになった時こそA2AD戦略は完成すると言われていましたし、この種の高性能迎撃兵器体系が構築されるのも必然なんでしょうね。これによって東アジアの自由主義陣営諸国が被るリスクについては今更言いようもないですが、同時にこの種の武器は露との軍事バランスも壊しているというのも気になります。

    4
      • STIH
      • 2022年 6月 20日

      単に順番の問題では。中露は現時点ではアメリカをどうにかするのが最重要課題ですから。アメリカが台湾や韓国+日本への影響力を維持しようとする限り、中露はそこだけに注視すりゃ良いわけで。
      逆に言えば西太平洋への影響力をアメリカが諦めた瞬間、中露の対立が表面化しますが、その時にはロシア単独では中国に対抗する力は残ってないでしょう。

      2
    • 杞憂民
    • 2022年 6月 20日

    弾道ミサイル迎撃までできるということは中華イージスの実力も本物なんだろうなぁ…

    30隻予定だっけ? 頭が痛い

      • 四凶
      • 2022年 6月 20日

       どこから中華神盾の話が出てきたんだ?

      3
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  2. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  3. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  4. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  5. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
PAGE TOP