中国関連

中国空軍のY-20B、パレット投下方式のミサイル運搬能力に対応する可能性

中国国営メディアは大型軍用輸送機Y-20Bについて「爆撃機、早期警戒機、電子戦機としての役割も担える」と報じ、ここで登場する爆撃機とは「パレット投下方式のミサイル・無人機運搬能力」のことで、輸送機、空中給油機、爆撃機、早期警戒機、電子戦機との境界線はますます曖昧になっている。

参考:Y-20B can switch between transport, tanker, other combat roles, PLA documentary reveals
参考:China discloses MRTT capability for Y-20B transport aircraft

Y-20Bは中国にとって「敵に対処しなければならない空中の脅威をばら撒く手段」の1つに過ぎず、日本はこの脅威に直接晒される国の1つだ

中国の西安航空工業公司が開発したY-20(最大積載量66トン)は米国のC-17に匹敵する大型輸送機で、ロシア製D-30KP-2を搭載した試作機のY-20、エンジンを中国製WS-18に変更した量産機のY-20A、Y-20Aをベースにした空中給油機のYY-20A、エンジンを中国製WS-20に変更して空中給油・輸送機(MRTT)化したY-20B、Y-20Bをベースにした空中給油機のYY-20B、Y-20Bをベースにした空中早期警戒管制機のY-20AEW(KJ-3000)が存在し、2023年のドバイ航空ショーで披露されたY-20BEはY-20Bの海外輸出バージョンだ。

出典:Mil.ru/CC BY 4.0 Y-20A

MRTT化したY-20Bは給油ポッド等の空中給油キットを組み込むことで簡易の空中給油機としても機能し、輸送機に戻すのも容易なため「運用上の柔軟性が向上している」と喧伝されているが、現時点でY-20Bに組み込む空中給油キットの存在は確認されていない。

中国国営メディアの中央電視台は8月5日に放映した番組の中で「Y-20Bは高バイパス比のターボファンエンジン=WS-20(通称:中国の心臓)に切り替えたことで任務プロファイルがより柔軟になり、給油ポッド等の空中給油キットを追加することで即座に空中給油機へと転換できる。輸送機と給油機の境界線はますます曖昧になっており、Y-20Bの登場で中国人民解放軍空軍の給油機部隊は大幅に拡充されている」と言及、番組に登場した空軍航空部隊の龐栄奇氏も「輸送機、爆撃機、早期警戒機、電子戦機との境界線はますます曖昧になっており、この全ての任務をY-20Bは完遂することができる可能性を秘めている」と述べた。

ジェーンズも11日「中国国営メディアの報道によればY-20Bは多用途空中給油輸送機としての能力を備えている。中国空軍のパイロットは番組の中で『Y-20Bは爆撃機、早期警戒機、電子戦機としての役割も担える』と述べており、給油ポッド等の空中給油キットを追加することで空中給油機にも改造できると付け加えている。龐栄奇と名乗る空軍航空部隊の人物も『輸送機、爆撃機、早期警戒機、電子戦機との境界線はますます曖昧になっており、これをY-20Bは完遂することができる可能性がある』と述べた」と報じた。

ここで登場する爆撃機とは「パレット投下方式のミサイル・無人機運搬能力」のことを指している可能性が高く、エアバスも輸送機に対する将来ニーズを見越してA400M mothership variant(輸送機を貨物室からのパレット化投下方式による巡航ミサイルや自爆型無人機の空中発射能力)の開発を開始し、A400Mは将来的にタウルスサイズの巡航ミサイルなら最大12発、中型ドローンなら最大50機を運搬・発射できるようになるらしい。

エンブラエルも今年7月のファーンボロー国際航空ショーで「アンドゥリルのパレット発射式スタンドオフ巡航ミサイル=バラクーダ-500M(B-500M)をC-390に統合することで合意した」と発表し、A400MとC-390/KC-390は巡航ミサイルや自爆型無人機の空中発射能力でも競う格好となり、MRTT化したY-20Bは2024年に本格的量産が始まったばかりなのでまだ数は少ない(Y-20全体で100機、そのうち約1割がY-20Bだと予想されている)が、年間生産数は推定10機前後なので今後急速に数を増やしてくる可能性が高く、これがパレット投下方式のミサイル・無人機運搬能力を備えると非常に厄介なことなる。

Y-20Bの最大積載量はA400Mの倍なので1機あたり20発の巡航ミサイルをパレット投下方式で運搬できると仮定すると、10機の同時運用で200発の巡航ミサイルを空中発射できることになり、1機あたり100機の中型ドローンをパレット投下方式で運搬できると仮定すると、10機の同時運用で1,000機の中型ドローンを空中発射できることになる計算だ。

出典:Embraer

上記の計算は非常に乱暴なものなので200発や1,000機といった数字自体に大きな意味はないものの、ここで重要なのは「輸送機は敵に対処しなければならない空中の脅威を一気にばら撒くことができる」という部分であり、ミサイルや無人機による飽和攻撃自体はウクライナ戦争で現実のものになっているため、今後も対処手段に対するプレッシャーは増すばかりで「コスト交換比に優れた対処手段」の存在しか飽和攻撃に対する抑止力になりえない。

そしてY-20Bは中国にとって「敵に対処しなければならない空中の脅威をばら撒く手段」の1つに過ぎず、日本はこの脅威に直接晒される国の1つだ。

関連記事:エンブラエルはC-130更新需要で絶好調、コロンビアとKC-390調達契約を締結
関連記事:中国の大型無人機が6月に初飛行、徘徊型弾薬や小型ドローンを100機搭載
関連記事:中国、新型空中給油機「Y-20U」がJ-16に給油を行いながら飛行する動画が登場
関連記事:Y-20ベースの空中給油機が初登場、中国空軍の長距離展開能力が格段に向上する可能性

 

※アイキャッチ画像の出典:China Military Bugle

ウクライナ軍は弾道ミサイルの迎撃が困難、関連データの公開を停止前のページ

ドイツ陸軍、射撃と機動の原則に基づき砲兵部隊の大幅増強を予定次のページ

関連記事

  1. 中国関連

    ステルス爆撃機H-20? 中国が戦略的・歴史的意義のある航空機のテストを予告

    中国の航空機開発を主導する中国航空工業集団(AVIC)が「戦略的・歴史…

  2. 中国関連

    中国、建造を再開した4隻目の空母に原子力推進を採用する可能性大

    香港のサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙は13日、技術的な問題で建造…

  3. 中国関連

    2026年まで量産は無理? 中国、第5世代戦闘機用の新型エンジン年間生産量は5基

    中国の第5世代戦闘機「J-20」の性能を引き上げる新型国産エンジン「W…

  4. 中国関連

    J-20複座型に続き今度はJ-31艦載機バージョンの実機、飛行中のJ-35を収めた写真が登場

    数日前に中国が開発を進めていると噂されたJ-20のツインシート(複座)…

  5. 中国関連

    中国、日本がイージス艦を増強してもDF-17を迎撃することは不可能

    日本がイージス・アショアの代替案としてイージス艦増強を検討していること…

コメント

  • コメント (11)

  • トラックバックは利用できません。

    • 名無し
    • 2026年 8月 13日

    やはり、デカくて鈍重な航空機を、ドローンの航続距離外で屠る超長距離対空ミサイルが必要なんよなあ。飛行機で迅速に運ぶというのも難儀な話なので、地上の固定基地から発射する弾道ミサイル方式で、こういう高付加価値航空機を10分から20分で迅速に落とす仕組みが欲しいですよね。

    1
    • 戦車
    • 2026年 8月 13日

    日本もパレット投下式のミサイルを真似したい所ですけど、日本はC-2、C-130合わせても三十機しか無いので大規模運用は難しいんですよね。中国だとIl-76、Y-20、Y-8C、Y-9合わせると135機の輸送機が有りますし、アメリカだとC-5、C-17、C-130を合わせると596機保有しているのでパイロット含めて余裕の有る国は良いですよねー。

    14
      • 通りすがり
      • 2026年 8月 13日

      一度に20発の投下を頻繁に繰り返していたらどんな国でもあっという間に枯渇するだろうから、日常的に行うのではなく選択肢の1つとして実行可能な程度の、本来の輸送任務への影響は小さい手法だと思う。
      出来るならできた方が良い的な。

      8
      • nachteule
      • 2026年 8月 13日

       タイミーとかと同じで隙間時間の有効活用みたいな物だから本来の任務に支障をきたさないか、輸送より攻撃を優先した方が全体の利益になるならやるべき話です。
       保有機数が少なかろうが事前の物資集積が十分で機体が空いて居るならやれない事も無いでしょう。

       中国で言うなら上陸して拠点確保しないには輸送機の出番は少ないから上陸支援の為に動く事も有り得るでしょう。この手のパレット投下型ミサイルの弱点は投下=パレット分全発射なので調整が効かず。ターゲットが多い初期段階で投入しない事には効率の良い攻撃が難しい事ですね。

      2
    • 58式素人
    • 2026年 8月 13日

    どうなのでしょうね。
    大体の場合、輸送機には、補給物資を運ぶという本来?の任務があるのだし。
    自軍の戦力は、その輸送力に裏付けされているのだろうし。
    実際の戦争時の状況にもよりますが、副次的な任務になるのかな?。
    米空軍の例だと、ICBM、ALCMの空中発射実例がありますね。
    ICBM(ミニットマン3型)の場合、コスト高で開発中止したとか?。
    そして、例として、C-17の巡航速度は450kt(≒833km/h)だそうです。
    UAVでも機体構造の弱いものは運用できないのでは?。
    可能性があるのは、ミサイルドローン(≒低価格亜音速巡航ミサイル)以上、かな?。
    まともに数で来られると確かに大変ですね。きっと。
    多分、APKWS相当の低価格ミサイルが大量に必要では?。その運用母機ともども?。
    あと、できるかどうかわかりませんが、当該地域のGPS(類似含む)の
    位置情報データの発信を停止したりはできないかな?。
    大量のミサイルドローンを放出するとして、放出後に各機体のINSの初期設定
    と途中補正をするのにGPS(類似共)を必要とするだろうし。

    • 無印
    • 2026年 8月 13日

    どこも考える事は同じやね

    13
      • 名無し
      • 2026年 8月 13日

      パラシュート射出は空挺降下の要領で済むし、地上激突前にエンジン点火できるか、下向いてる場合に所定の体制に戻れるかくらいしかハードルなさそうだし
      元からネットでもてはやされるほど大した技術か?って感じだったから、巡航ミサイル作れてるなら普通にやれるでしょ

      1
    • cosine
    • 2026年 8月 13日

    矛が盾に半~1歩勝る時代がまだ暫くは続きそうです。
    その間に有事が発生した場合の趨勢に関わるのは、「国家の基礎体力」とでも云うべきもの。

    軍事面での持続力・修復力の重要性はロシアやイランなどが示している通りですが、忘れてはならないのは「民意」におけるそれらの力でしょう。

    中国におけるそれらの程は未知数でしかありませんが、日本は果たして今、その面にて優位たるか。

    5
    • YF
    • 2026年 8月 13日

    Y-20、ドローン・ミサイルキャリア―としての運用はともかく、この大きさの機体で早期警戒機や電子戦機は効率悪いような気がしますね。

    3
    • 2026年 8月 13日

    簡易版とはいえ空中給油機のリスク分散と戦略的価値が低下すんのは結構デカい

    • まめ
    • 2026年 8月 14日

    防衛措置としてのドローンのパレット型投射。危険度も高い地域への輸送時にドローンをばら撒いて警戒及び相手への妨害実行ってのも出来るか。
    爆撃機のパラサイトファイターみたいに。 

    ネタ的には郵送機搭載型のフリップナイトシステム

    1

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  2. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  3. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  4. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  5. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
PAGE TOP