ボーイングはT-7Aの輸出機会を最大2,000機と見積もっているが、AviationWeekは「パイロットの育成コストが高騰しているため練習機に対する需要には変化の兆しがある」と指摘し、次世代ターボプロップ機と地上シミュレーターの組み合わせに存在価値が奪われるかもしれない。
参考:Opinion: Is The Military Jet Trainer Becoming Obsolete?
先進的なジェット練習機の必要性はトレーニングシラバスの一部に限られる
ボーイングは米空軍の次期練習機プログラム=T-Xを92億ドル(開発作業、プロトタイプを含む381機の生産、地上シミュレーター46台、メンテナンストレーニング、各種サポート)で獲得したものの、既に開発遅延と生産コストの上昇を反映して27億ドルの損失が発生しているが、ボーイングは練習機市場の需要=T-7Aの輸出機会を最大2,000機と見積もっており、この見通しが事実なら失った資金を取り戻すのに十分な数字だ。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Christopher Ornelas Jr.
老朽化したT-38やHawkを運用する国も後継機探しに動きだしているため、ボーイングが語る「練習機の需要予測」には信憑性があるように見えるものの、AviationWeekは「パイロットの育成コストが高騰しているため練習機に対する需要には変化の兆しがある」「T-38やHawkが全盛期だった時代との大きな違いはシミュレーションと地上訓練だ」「現在の訓練プログラムは航空機の挙動だけでなく使用するシステムの特性まで地上シミュレーターで再現できる」「そのため訓練生が空を飛ぶのは地上で学んだ内容の確認と反復に過ぎない」と指摘し、T-7Aは開発だけでなく将来の可能性においても波乱に巻き込まれるかもしれない。
T-7Aの将来に暗い影を落とす「もう1つの要因」は次世代ターボプロップ機との競争で、PilatusのPC-21やEMBRAERのスーパーツカノは戦闘機パイロット向けトレーニングシラバスの大部分(ジェット練習機でしか対応できないトレーニングは約10%)に対応することができ、欧州で最も先進的と評されるフランス空軍もBabcockが提供するトレーニングプログラムを採用し、後継機なしで訓練用途のアルファジェットを退役させ、PC-7とPC-21のみでラファールのパイロットを育成している。

出典:Pilatus Aircraft
AviationWeekは「まだ幾つかの訓練要件やF-35パイロットの技量維持で役立つかもしれない。そのためT-7Aはニッチな用途で新たなニーズを見つけかもしれないが、ボーイングが期待するほどの需要は見込めないだろう。T-7Aは多少高価でも合理的な練習機としての立場を維持し、かなりの数の欧州諸国もM-346やT-50といった競合機を購入するかもしれないが、シミュレーター訓練は非常に高度なものになっているため、先進的なジェット練習機の必要性はトレーニングシラバスの一部に限られる」と指摘し、以下のように疑問を投げかけた。
“全ての軍隊が自問する基本的な疑問はこうだ。PC-21を使用すれば1時間あたり半分のコストで同等の訓練が実施できるのに、なぜ高価なジェット機を飛ばさなければならないのか”

出典:Lockheed Martin
この現象はF-22AやF-35Aにも発生しており、機体の飛行特性に左右されない戦術訓練を飛行コストの高価なステルス機で実施するのではなく、F-22AやF-35Aの搭載システムをシュミレーション可能な戦術訓練機を用意して「訓練コストを削減する」という動きが登場しており、米空軍が進めているAdvanced Tactical Trainer=ATTがそれだ。
T-7Aは訓練分野で次世代ターボプロップ機と地上シミュレーターの組み合わせに存在価値が奪われるかもしれないため、戦闘機部隊から訓練ニーズを奪う必要があるのだろう。
関連記事:開発に手間取るT-7A、米空軍が同機の生産を2025年から2026年に延期
関連記事:開発に手間取るT-7A、米空軍はIOC宣言を2027年から2028年に延期
関連記事:デジタルエンジニアリングの落とし穴、誰もT-7Aの完成時期が分からない
関連記事:芳しくなくT-7Aの開発状況、量産機引き渡しは2023年から2025年以降に変更
関連記事:T-50にRED6のATARSを統合、米戦術訓練機を受注するための布石か
関連記事:米空軍、T-7Aレッドホークとは異なる「高度な訓練機」を最低100機調達する計画を発表
関連記事:ボーイング、米空軍が調達計画している新しい戦術訓練機にT-7Aを提案することが濃厚
関連記事:米空軍に続き米海軍も高度な戦術訓練機の調達を発表、F-35の運用時間削減が目的
※アイキャッチ画像の出典:Pilatus Aircraft
ロッキードのT-50でよくない…?
あっちの方が実績も積まれてるし…
上記の話はそもそもLIFT機自体が高価で無益
シュミレータや地上訓練なら気候も関係ない、コストは安い
それでも、実機がいるなら高性能プロペラ機で充分、よりコスト安いので有益という記事
以前からそう言われていた
実戦機へのスムーズな機種転換が確保できるならば、パイロット養成課程においてはそれでも良いんでしょうね。
戦闘機パイロットの実践的訓練には精神的及び肉体的ストレスが必要で、シミュレータではそれがカバーできないとする主張もありますが、米空軍のATT構想はその意味合いがあるのかもです。
最大速度マッハ1,5でAAM2発積めるから、飛行時間当たりの運用費用が高い主力戦闘機の代わりにスクランブル任務を任せることもできる。小国であればこれの派生型FA-50で十分主力機として使える。アフターバーナーを取り外せばもっと安価な練習専用機にできそう。
練習機としては高くても
しょぼい戦闘機としての需要はありますからね
日本のスクランブル任務は航続距離の長さと敵戦闘機等の排除の可能性があるものなので、
予算が許すなら足の長いステルス戦闘機を充てるべきだと思います。
練習機は航続距離を短くすることで軽く安くできるので向いてない気がします
×航続距離の長さと
〇航続距離の長さが求められ
でした。失礼
今後中等練習機の必要性が縮小され高性能ターボプロップ機と戦闘機ライクな高等練習機の2本柱になるようなら高等練習機をそのまま戦闘機として使用する選択も出てくると思いますよ。
T-4後継機(という名目の機体)は米ATTと絡めて共同開発するとなってますが、その時点では「ATTじゃ中等練習機にならねーだろ」と違和感を感じてましたが中等練習機自体が廃止される方向ならそれも有りかと。
となれば戦闘機をシミュレート出来るATTは(限定的ではあるでしょうが)軽戦闘機になれるわけで、これをスクランブルに活用&前線を擦り抜けた巡航ミサイル・長距離自爆無人機に対応する後詰の迎撃機とする事で経費削減と共に防空網の重層化に寄与します。
初めからそういうつもりで開発するなら長大な航続力を与えることも可能なわけで、練習機としてのコスパの悪さは主力戦闘機をスクランブルから解放し実戦においては防空網の隙間を埋められる利点で相殺できるでしょう。
そもそも日本は練習機をスクランブル任務に使うなんて考えていないと思うんだが、どんな発想なんだろう?
戦争状態でないスクランブルは侵犯機に認識させることも重要なので、ステルス機なんか使う必要性があるの?
t-7aについては外販でいくらになるか個人的には大変な面白く見ておりますが。
一機100億ぐらいになれば面白いのに
上記の話がさらに進むと有人の練習機自体が不要になる可能性もある
プロペラ機で最新のジェット戦闘機シミュレート出来るなら高価なジェット練習機要らないですもんね。機種に合わせてコックピット変えられたりとなかなか凄いですね。無人機も増えてくるでしょうしどんどん需要が減りそうですねえ。
コスパの良さを踏まえると現ジェット高等練習機運用国も早めに退役させて、テキサン2やピラタス、スーパーツカノの様なプロペラ機になる可能性もある
コスト半分なら10年もすれば充分もとは取り返せるかもしれない
結局、期待の種類が増えれば、調達コスト・整備コストは増えます。
ヒトモノカネが限られている中で、何を優先していくのか配分先は難しい課題ですね。
結局F-35の墜落が結構頻繁に起きている以上、本当にシュミレーター頼りで良いのかと言う懸念もあるけどな…
寧ろ練習機でバグ取りした上で、ステルス戦闘機にソフトを組み込んだ方が良いのでは?
T50は最低7人の死傷事故がこれまであった
F35は死亡は1人
乗ってるパイロットの質もあるんじゃないの
F-35はなんだかんだで最新鋭の虎の子でパイロットも選りすぐりだろうし
同感です
ジェット練習機でしか出来ないトレーニングが10%しかない、シミュレータで操作感は覚えられるにしても実際に飛んでみたら空間識失調やヒューマンエラーは必ず起きるわけですからね
T-7Aである必要もないけどね。
T-4後継機が見えてこない日本はどうなるのかな?
ターボプロップ機で訓練して仕上げにGCAPの複座型とか考えてしまいます。
イタリアのでいいんじゃないかね
”欧州で最も先進的と評されるフランス空軍もBabcockが提供するトレーニングプログラム
を採用し、後継機なしで訓練用途のアルファジェットを退役させ、
PC-7とPC-21のみでラファールのパイロットを育成している。”
疑うようですが、”ホント”かなあ?。素人にはにわかには腑に落ちません。
シミュレーターが進歩しているのは、それはそうでしょうけれども。
ヒント ラファールには複座がある
なるほどです。
でも、考え方によっては、非常に高価な練習機になってしまうような?。
PC7/21終了時点で、候補生の適性にカケラほどの曇りもあってはならないでしょうし。
その意味でT-7はやっぱり必要かな?、と思ったりします。
もちろん練習機としては高価になりますが、その分1番実機に近い訓練ができますし、有事には戦力化も可能です。
複座の実機で訓練やるのは4世代機以前なら普通で「フランスはそれがちょっと多い」というだけでしょう。
レシプロ/ターボプロップ/ジェット(亜音速/遷音速/超音速)練習機/実機をどう揃えてどう使い分けるかはコストだけでなく訓練効率/他の用途/産業への影響その他まで考慮する必要があって、
フランスではほぼ国産のラファールを空海軍共通で使用してますから「練習機としてはかなり高価」でもラファールの量産効果や運用インフラの統合を考えればアルファジェットの維持コストの何割かがドイツに流れるよりはマシ、ということかと。
ラファール最近でこそ売れてるけど、単独開発だから以前はほぼ自国分しか売れてなかったですからね。
練習機としての生産分はスケールメリット確保のためにも重要だったでしょう。
> PC-21を使用すれば1時間あたり半分のコストで同等の訓練が実施できる
逆に実機で訓練しても、たった2倍のコストで済むということに驚きました。
直感的には1/10以下で済みそうなんですが。。。
アルファジェット(やT-4やT-7A)の様なジェット練習機と比較して半分、かと。
そもそも「練習機で超音速が必要か?」という議論がありましたよね?
日本も超音速練習機を廃止してしまったし、英伊も同様だったのでは?
少なくともT7には茨の道が待っていると思いますよ。
確かにそうですがF-15やF-2は複座がありますしねえ。
F-35とかの訓練にはT-7クラスがいるかなと。
>F-35とかの訓練にはT-7クラスがいるかなと。
空自はF-15DJが現役のうちはF-15DJで超音速練習をしてからF-35で良くないかな?
F-15DJが退役した時に備えて、GCAPには複座型も欲しいですね。
練習機に超音速や音速以上は要らないとしても遷音速は欲しいでしょう。
まあ「戦闘機の練習課程においてそんなん要るの10%しかねーよ」というのが今回のお話なんでしょうけど、逆に言えば「10%はある」訳だし、おそらく残りの90%の内でも何割かは「ターボプロップ機でも(質は落ちるが)できなくはない」程度の話でしょう。
コスト以上に貴重な訓練生と教官の時間や、ジェット練習機より更に数倍運用コストの掛かる実機との兼ね合いを考えるとジェット練習機はやっぱり必要だとは思いますが、どちらかと言えばT-7Aより守備範囲の近い遷音速練習機の方が茨の道な気はします。
たしかに欧州の一部やカナダは、自国のジェット練習機を退役させて、練習機を持つ他国にパイロットを派遣させるケースもあります。
その一方、自前のジェット練習機手放したハンガリーはL-39、オーストリアはM-346を新たに購入しましたし、トルコは新規に開発しています。お国によって事情が異なりそうですね。
個人的にはターボプロップ練習機って前時代的なフォルムで好きじゃないから初等から対応のジェット練習機をまた作ってほしいくらいだけど
そうはなりそうもないな
旧軍の震電みたいに後方プロペラ配置にすればジェット機に近い挙動になるのではないでしょうか。若しくは旧西ドイツが開発したダクテッドファンのターボプロップ練習機も比較的ジェット機に近い飛行特性だったようです。
旋回や上昇のときにかかる加速度の感覚を体で覚えるには実機しかないと思うのですが
そういうものでもないのでしょうか。
PC-21は8G、T-6は不明ですがPC-9が7Gまでいけるので訓練には十分かと。
上昇加速は機種や装備によって全然違うでしょうし、練習機で「体感」してもあまり意味はないでしょうし。
フライトシム愛好者はかなりお金をかけて、スティック・スロットル・ペダルなんかは当たり前、ワイドモニターや複数モニターにヘッドトラッキングデバイスまで付けるなんて人も少なくないのですが、さすがにドーム型ディスプレイまでは自宅に導入はできませんね。
ゲーセンにガンダムゲームが置いてあるくらいですから、そこまで高いものでもないのでしょうけど。
「シミュレーションと地上訓練じゃ不足だった」から高機能なLIFT機を開発してるわけで、元記事の主張はちょっとズレてる
「高機能なLIFT機はいらない、シミュレーションを改善すれば充分だ」なら分かるが
むしろ「(高機能なLIFT機なら必要かもしれないが)ターボプロップ機と大差ないジェット練習機に何のメリットが?」という話では。
日本はT-7初等練習機の後継にT-6を決定しましたが、
機体出力も高くむしろT-4中等練習機の課程の前半分に向いた機体な気がします。
アメリカのように初等には軽飛行機課程を別途入れてほしいと思ってます
それくらいの用途ならT-7を数絞って延命させればまだ当分は事足りるのでは。
米空軍にはT-6による基本練習の前に軽飛行機を使用した飛行適正検査がありますが、米海軍では最初からT-6による基本練習を行っています。空自がT-7後継にT-6を選定したということは訓練体系を米海軍式にするということでは。
個人的には、飛行適正検査こそシミュレーターで代替できそうに思います。
2020年に始まった現行のNaval Introductory Flight Evaluationでもその前の時期も
アメリカ海軍は軽飛行機によるスクリーニングをパイロット候補生に対して行っているようです
ご指摘ありがとうございます。
参考に読んでいた資料では上記のような説明があったのですが、NIFEに関する英文資料に当たりましたところ、候補生は大抵の場合民間人教官により民用機を使用して数時間の教習を受けることを確認しました。
必要なパイロットの数も減ってきてるしシミュレータも充実して、実機訓練が少なく済むなら。専用の高等練習機作るより最新鋭戦闘機の複座型を使えば、というのが現実的かも。
シュミレーターからシェアを奪還するには、『体験』の価値の重要性を売り込んでいくしかない
気候や気流の影響、体に及ぼすGなど、人間の脳は想像以上に無意識で情報を処理している
バーチャルは所詮バーチャルなんで、生の体験には敵わないと思う
コストが高騰しているという事情も分かるが、そこは削っていいのか?という疑問も大きい
もうやめて!ボーイングのライフはとっくにゼロよ!
どうせだったらP-51マスタングにそっくりな機体作ればいいんじゃない
士気も上がるかも
結局必要なのは高性能高額なターボジェット、プロップの練習機ではなく、単座-複座どちらも可能な戦闘機なのでは?
それ考えたらF-35は辛いな…GCAPは単複どちらも作られるかもな
F-15DJには退役機からのパーツ盗りできるんなら相当維持できそうだし
F-2Bも同様に
むしろパーツさびさせないための施設の方が大事な気がしますが
F-15J-MSIP能力向上改修機の更新は、F-2Aの次期戦闘機への更新後になるので、概ね2045年頃からになると予想されます。退役まで「戦闘機操縦(F-15)課程」が維持されるかは微妙ですが、パーツ取りで一定数のF-15DJが維持できるならば、その更新は後回しになると思います。
F-2に関しては、複合材料構造主翼の耐久保証期限が更新時期を左右するわけですが、共同開発の条件として片翼等は米側が権利を持っているので、機体寿命延長には結構なコストが掛かり現実的ではありません。
防衛省が次期戦闘機(GCAP)の取得開始を2035年に強く希望する理由です。