欧州関連

空中給油技術で先行するエアバス、今度はプローブ&ドローグ方式の自動化

エアバスはフライングブーム方式の自動空中給油システム「A3R」を完成させて市場で競合関係にあるKC-46Aに大きな差をつけたが、今度はプローブ&ドローグ方式の自動空中給油システムを開発するらしい。

参考:EDA begins research into automatic air-to-air refuelling for hose and drogue system

KC-46Aはブリッジタンカーの競争入札で本当にLMXT(A330MRTTの米空軍仕様)に負けるかもしれない

エアバスはフライングブーム方式の自動空中給油システム「A3R」の開発を既に終えており、A330MRTTのオペレーターはA3Rを起動させるだけで給油ブームが受け手の給油口にめがけて伸びていき、最終接続のタイミングも燃料移送も全て自動化されているためオペレーターは一連の作業を監視するだけで良く「緊張が強いられる空中給油作業」の負荷を大きく軽減することが可能で、スペインが今年7月にA3Rを実装したA330MRTTを正式な空中給油機に認定した。

A3Rが優れている点は給油を受ける側(戦闘機等)に追加の機器や改造を必要としないところで、オペレーターの技量に左右されていた空中給油の作業性と安全性を向上させることで「作戦状況における空中での燃料移送スピードが最適化される=緻密に組み上げられる作戦スケジュールの遅延が減少する」と評価されているが、エアバスはA3Rを無人機の空中給油に対応させるため自律的な空中給油システム「A4R」や自律的編隊飛行システム「AF2」の開発を進めており、2024年頃にA310とDT-25を使用して実証実験を行うと述べている。

つまりA330MRTTはフライングブーム方式を採用するF-16やF-15などへの自動空中給油が既に可能(F-35AへのA3Rテストは未実施)で、A3Rの機能を拡張したA4RやAF2の開発が完了すれば無人機に対しても自動空中給油が可能になるという意味だが、欧州防衛機関(欧州防衛庁/EDA)は21日「プローブ&ドローグ方式の自動空中給油システムの開発を開始する」と明かし、2024年にA330MRTTとタイフーンを使用して実証実験を行うと発表。

プローブ&ドローグ方式の自動化とはドローグに接続するプローブの最適な軌道を計算して「接続失敗」や「接続にかかる時間」を短縮、A3Rで実現したフライングブーム方式と同様にプローブ&ドローグ方式でも「空中での燃料移送スピードを最適化させる」という意味で、既に空中でのドローグ姿勢を安定化させる技術開発に取り組んでいるらしい。

海外市場でA330MRTTと競合するKC-46Aは空中給油システムの欠陥修正に忙しく、フライングブーム方式の自動空中給油システムは研究段階に止まっており、プローブ&ドローグ方式の自動空中給油システムを開発しているとは聞いたことがない。

海軍が開発したMQ-25の給油システムは従来のもの=プローブをドローグに接続する給油を受ける側(戦闘機等)の技術に依存してるため「空中給油技術の革新」という点で完全にボーイングは後手に回っており、ブリッジタンカー(KC-Y)の競争入札で本当にLMXT(A330MRTTの米空軍仕様)に負けるかもしれない。

米空軍はKC-46Aを2027年までに179機調達する予定だがKC-135の更新需要を全てカバーしている訳ではなく、研究が進められている次世代空中給油機「KC-Z」の開発や実用化も到底間に合わないためKC-46AとKC-Zの間にはギャップが存在し、KC-46Aが順調ならボーイングに新たな契約を与えるだけで済んだのだが、米議会はKC-Z実用化まで問題続きのKC-46Aを追加調達するのではなく「ブリッジタンカー(KC-Y)の競争入札を実施しろ」と要求。

出典:Lockheed Martin LMXT

ブリッジタンカーの調達プロセスは正式に決定されていないものの「2029年納入開始」が絶対条件なので2024年頃までに調達機種を決定する必要があり、KC-46Aの継続導入を押す米空軍は新規設計の空中給油システム(RVS2.0と新型ブーム)の開発を急ぐため予備設計の審査を再び簡略化、米政府説明責任局から「KC-46Aの開発失敗を再び繰り返そうとしている」と警告を受けたものの無視して「RVS2.0の予備設計審査が完了した」と発表。

しかし米空軍は10月に「KC-46Aの空中給油能力を制限している不具合の解決が19ヶ月遅れる」と発表、RVS2.0のリリースが2024年3月から2025年10月に遅れる理由について米空軍とボーイングは「ハードウェアの入手性悪化や耐空証明を取得するプロセスが原因」と説明しているが、開発スケジュールを何度も破ってきたボーイングを信用する人は少ない。

出典:U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Abigail Klein

米空軍は自らブリッジタンカーに求める要件に「2029年から納入可能な『非開発』の空中給油機」と述べており、この要件をKC-46Aがクリアできるのか非常に怪しいが、仮にクリアしてもフライングブーム方式、プローブ&ドローグ方式、無人機への自動空中給油に対応してくるLMXTに勝利できるとすれば「米国民の雇用」しかなく、この点もエアバスと組んだロッキード・マーティンが「クリーン状態のA330をLMXTに改造する作業は全て国内で行う」と提案しているため持ち前のロビー活動でLMXTを蹴落とすしかないだろう。

幸いKC-46A開発でボーイングと一蓮托生の米空軍上層部がKC-46A継続採用を支持しているため、来年はブリッジタンカーの話をなかったことにする努力が最大化するだろうと思われるが、もしRVS2.0や新型ブームの開発に致命的な欠陥が見つかれば「今度こそKC-46Aはとどめを刺される=議会の要求するブリッジタンカー入札を止められなくなる」かもしれない。

関連記事:また約束を破ったボーイング、KC-46Aの不具合解消は19ヶ月遅れる
関連記事:懲りない米空軍に米会計検査院が警告、KC-46のRVS2.0開発で同じ失敗を犯す
関連記事:KC-46の問題が大きく改善? 米空軍がブリッジタンカーの必要性を否定
関連記事:自動空中給油システムの開発が完了したA330MRTT、欠陥の修正に忙しいKC-46A
関連記事:ボーイングの防衛部門は第3四半期に28億ドルを失う、KC-46Aの累計損失額は68億ドル

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain 豪空軍のA330MRTTから給油を受ける米空軍のF-35A

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コメント

    • lo
    • 2022年 12月 25日

    そんなKC-46Aをあと10機以上調達する日本くん……
    まあ今更A330MRTTを導入しても面倒を見れる民間航空会社が日本にはないので言っても詮無いことではあるが
    頼むからボーイングくんはまともなフライングブームを作ってくれぇ

    40
      •   
      • 2022年 12月 26日

      防衛省の文書ではKC-46A等と書かれているので機種を断定していない

      ボーイングが問題を解決できなかったり吹っ掛けてくるなら他機種の採用もありえる書かれ方なので機種断定されたE-2Dと対称的

      2
        • lo
        • 2022年 12月 26日

        そもそもKC-46A等の等はヘリへの給油を視野にKC-130Jあたりの調達を考えていそうではあってもKC-46Aと同規模のタンカーをもう1機種というのは考え難いですしもしそうなら調達担当者は処分されるべき愚行ですね

    • おにぎり
    • 2022年 12月 25日

    自衛隊もKC-46Aなんてゴミ止めてA330MRTT導入せい
    A330MRTTはF-35Bにも給油できるぞ

    15
      • ξ
      • 2022年 12月 25日

      A330運用してる国内企業がないのにMRTT導入してどうすんねや
      後方が死ぬぞ

      27
      • HY
      • 2022年 12月 26日

       どうやら価格がネックっぽいですね。インドも度々価格を理由にキャンセルしているみたいでですし。日本の選定時に至ってはエアバス側から提案を見送ってますね。

      3
    • 774545
    • 2022年 12月 25日

    >幸いKC-46A開発でボーイングと一蓮托生の米空軍上層部が
    幸いかなぁ!?これ米空軍にとっては幸いかなぁ!?

    19
      • けい2020
      • 2022年 12月 26日

      そもそもは米議会が決めたのになぁ、ここまで深入りした米空軍は逃げれないだけだな
      ここで米空軍が引いたら、こんどは米議会が責任追及してくるだろうし

      書いててひでえ話

    • 千葉の猫
    • 2022年 12月 25日

    A330は国内にまともな運用基盤がないのと
    B767より一回りデカくて重い機体なので空自が採用するなら
    美保基地のみならず各地の航空基地で滑走路やエプロンその他諸々を拡張・改良するはめになるんだが
    そもそも空自基地の周辺が民有地なケースが多くて土地取得からするなら10年20年かけないと無理そうっていうどうしようもない現実があるのだな
    KC-46Aをよしとするわけではないけどさ

    37
      • クリスマスケーキ
      • 2022年 12月 25日

      A330の運用基盤がない説って何か裏付けのある話なのか、無人機の時みたいにミリオタが編み出した理論なのか、どっちなん?

      自衛隊は稼働率が良い、韓国の兵器なんてゴミ、小型の無人機なんて海に囲まれた日本には要らん、衛星対応してないTB2は日本では役に立たんなどなど、何かミリオタの理論って的外ればかりじゃね?

      5
        • lo
        • 2022年 12月 25日

        そういうことは日本の航空会社の保有機種くらいWikipediaでも見て調べてから言おうね

        13
          • クリスマスケーキ
          • 2022年 12月 25日

          Wikipediaを見て判断されただけで、貴方の妄想ってことね。理解しました。

          7
            • lo
            • 2022年 12月 25日

            防衛力整備計画での追加調達分含めて20機程度しかない機種を国内で自衛隊のみが運用する状況は「運用基盤がない」という他ないでしょ
            あなたの方こそ兵站舐めてるんですか?

            18
              • クリスマスケーキ
              • 2022年 12月 25日

              しつこいな。

              防衛力整備計画での追加調達分含めて20機程度しかない機種を国内で自衛隊のみが運用する状況は「運用基盤がない」という他ないでしょ

              と判断するは貴方の自由だけど、それが防衛省のオフィシャルな回答じゃないだろう。

              5
                • はやぶさ
                • 2022年 12月 28日

                裏付けがあるかないかの話だったのに、防衛省のオフィシャル回答の話にスライドさせるのはなんなんだ?

                防衛省が無理してでもA330を使う可能性もゼロとは断言できんが、運用基盤がない(国内に運用・整備している団体は無い)のは紛れもない事実。

                4
            • クローム
            • 2022年 12月 25日

            日系の航空会社がA330を運用したのはスカイマークが7か月運用したのみで当然自衛隊が扱ったことはなく、他は全て国外ベースの国際線です。
            対して767は長きに渡ってJAL•ANA•スカイマーク•AIRDOなどで主力並みの活躍をし、自衛隊でもE-767やKC-767として運用されています。
            4機7か月と150機以上37年の差は運用基盤の良し悪しを判断するには十分でしょう。

            23
        • 千葉の猫
        • 2022年 12月 25日

        A330は今日本の航空会社が使ってないので整備拠点とかが国内に無し 以上
        一方B767はJAL/ANAが使ってますし他にももう1者位使ってたかな
        当然維持整備に関して付き合いある会社もいるわけでと

        後半についてはミリオタって言っても色々いるのでくそでかすぎる主語使われてもねぇ
        まーバイアスかかってるのでしょう

        25
      • クリスマスケーキ
      • 2022年 12月 25日

      あと10式ができた頃に主力戦車は軽量化が主流になるって豪語してたけど、アレも外れてね?

      70トンが60トンクラスに落ちてる可能性はあるけど、装甲戦力自体は重装甲が進んでるし、アクティブ防護装置も採用国が増えてるし、ミリオタの主張の根拠って何かの根拠や海外の関心とか関係なくて、盲目的に国産装備が正しいと言いたいだけじゃないかと感じるわ

      2
        • lo
        • 2022年 12月 25日

        50t越えの戦車を導入した場合に本州での機甲戦闘がほぼ不可能になることくらいわかるだろ

        19
          • クリスマスケーキ
          • 2022年 12月 25日

          別に日本の環境に合わせた10式はあれでいいと思っているけど、10式が軽量化したから「これが今後の戦車の主流になる」って言ってたのは違うだろうって話ね。

          あと50t越えの戦車を導入した場合に本州での機甲戦闘がほぼ不可能になるって話は、道路の重量制限かなにかに関係するの?

          6
    • HY
    • 2022年 12月 25日

     そもそも中露の長距離空対空ミサイルの餌食になるかもしれないことを考えると、大型ジェット機ベースの空中給油機自体がこの先も有効なのか疑問に思う。

    7
    • 折口
    • 2022年 12月 25日

    高価な割に生存性が低く、単調な任務の割に危険な空域に進出せねばならない空中給油機を無人化するのはいい考えですよね。空母艦載機向けは既に米海軍でやってますが、空軍向けの大型タンカーも絶対需要はあると思うんです。まぁ自動化出来るならもっと小さくして分散させたほうが良いでしょうけど、航空戦力の「滞在時間が短い」という特性をひっくり返せるだけのポテンシャルのあるプログラムですね。

    2
      • HY
      • 2022年 12月 26日

       記事にあるのはあくまで「空中給油システムの自動化」であって給油機の無人化じゃないのだけど、コメントの主旨には賛同です。上にも書いたけど大型ジェット機ベースの給油機の在り方を再考するべきだと思います。

      2
    • NAFO
    • 2022年 12月 26日

    日本もトラブルだらけのKC-46AなんてやめてA330MRTTを導入すればいいのに。
    運用実績がないとは言われるけれどそれを考えてもなおこちらのほうがいい選択肢だと思う。

    4
    • けい2020
    • 2022年 12月 26日

    KC-46Aに、自動空中給油システム「A3R」を統合できるように動いたほうが現実的だと思ってきてる
    エアバスもKC-46Aがポシャって独占状態になると、色々不都合が出てくるだろうし

    自動空中給油システム「A3R」をボーイングに高値でノックダウン方式で供給すれば、エアバスも美味いのでは
    ボーイングの有様では、10年後も追いつくどころか離されてそうで、
    それに巨額をつぎ込むよりは経済的合理性もあるから、エアバス、ボーイング、米空軍、米議会すべてがWin-winになれそう

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