ポーランドでは与党PiSのカチンスキ党首が「最終的に国防予算をGDP比5.0%に引き上げる。軍隊は反対派が主張するようなおもちゃでもなければ、お金の無駄使いでもない」と明かし注目を集めている。
参考:Kaczyński zapowiada 5 proc. PKB na wojsko. Polska byłaby liderem w NATO
2023年以降、各国が増額する国防予算の資金が武器市場に流れこみ、発注が遅れるほど納期が遅くなるかもしれない
ポーランドの与党PiSで党首を務めるカチンスキ氏は有権者との対話で「現在のウクライナを見れば『冷戦で倒れた帝国が再び襲いかかってくることはない』という主張が幻想であることを示しており、我々は欧州の安全保障問題に真剣に取り組む必要がある。2023年に国防予算はGDP比2.4%から3.0%に増加するが、最終的に5.0%まで引き上げたい」と明かし注目を集めている。
カチンスキ氏は「ウクライナ人は果敢に戦っているが両軍の戦力には大きな不均衡がある。それにも関わらず対等に渡り合えているのは何百万人もの国民が犠牲を支払う用意があるためで、兵士が死力を尽くして戦っているためだ。我々も十分に武装して勇気を備えた国になる必要があり、そうでなければ災難に見舞われるだろう。軍隊は反対派が主張するようなおもちゃでもなければ、お金の無駄使いでもない」と主張、さらに「国防予算への多額の支出は『我々を攻撃しても成功しない、損失に見合うだけの利益を得られない』というメッセージをロシアに信じさせるためものだ」と語り、国防予算の引き上げについて理解を求めた。
具体的に「国防予算をいつまでにGDP比5.0%へ引き上げるのか」についてカチンスキ氏は言及しなかったが、2023年の国防予算は222億ドル(3.0%相当)になると予想されており、これを5.0%に引き上げると大凡370億ドル前後=約5兆円(円安なので日本円に換算すると若干多めに感じる)になる計算で、GDP比に占める国防予算の割合で米国(3.4%)を抜くことになる。
非常に興味深いのはウクライナ侵攻の影響で各国が国防予算の増額を検討し始めている中、ポーランドは常に先手を取り続けている点だろう。
ポーランドはウクライナ侵攻発生前からロシアの脅威を危惧、昨年10月に時代遅れの国防法(防衛義務法)を廃止して新国防法(祖国の防衛に関する新法)を導入、今年5月に新法が発効して現行14万人(現役約10万人+領土防衛軍兵士約4万人)のポーランド軍を30万人(40万人まで拡張する可能性が浮上中)に拡張するため動き出し、矢継ぎ早に装備の大量調達に乗り出している。
調達先 | 種類 | 数量 | ステータス | |
米国 | 戦闘機 | F-35A | 32機 | 契約済 |
輸送機 | 中古C-130H | 5機 | 引渡し | |
UCAV | MQ-9 | 不明 | 交渉中 | |
主力戦車 | M1A2/SEPv3 | 250輌 | 契約済 | |
NEW | 中古M1A1 | 116輌 | 合意 | |
装甲車輌 | クーガー | 300輌 | 契約済 | |
防空システム | パトリオット | 8セット | 契約済 | |
MLRS | HIMARS | 20輌 | 契約済 | |
500輌 | 交渉中 | |||
防空レーダー | LTAMDS | 不明 | 交渉中 | |
英国 | 短距離防空システム | CAMM | 不明 | 契約済 |
空対地ミサイル | ブリムストーン(駆逐戦車向け) | 不明 | 交渉中 | |
フリゲート | アローヘッド140 | 3隻 | 契約済 | |
フランス | ISR | 偵察衛星 | 2基 | 交渉中 |
イタリア | 多用途ヘリ | AW149 | 36機 | 契約済 |
M-29の後継機 | M-346(FA-50と競合) | 不明 | 交渉中 | |
韓国 | 主力戦車 | K2 | 計500輌? | 交渉中 |
K2PL | 交渉中 | |||
歩兵戦闘車 | K21もしくはレッドバック | 不明 | 交渉中 | |
自走砲 | K9 | 不明 | 交渉中 | |
防空システム | 天弓2 | 不明 | 交渉中 | |
M-29の後継機 | FA-50(M-346と競合) | 不明 | 交渉中 | |
トルコ | UCAV | TB2 | 24機 | 契約済 |
国内調達 | 掃海艇 | コルモラン型 | 3隻 | 契約済 |
歩兵戦闘車 | ZSSW-30統合タイプのRosomak | 70輌 | 契約済 | |
駆逐戦車プログラム | 不明 | 不明 | 開発中 | |
砲兵システム | グラディウス | 契約済 |
恐らく2023年以降、各国が増額する国防予算の資金が武器市場に流れ込む=限られた防衛産業企業の製造能力を奪いあう形になり、正式発注が遅れれば遅れるほど納期が遅くなるはずで、それを見越してポーランドは2022年中に発注して大量の主要装備を確保する狙いがあるのかもしれない。
世界的に安全保障環境が急激な悪化したため「お金があっても武器や装備の調達に相当時間がかかる=本当に危機が迫って発注しても手遅れ」という状況に陥る可能性があり、武器市場は久々に売り手市場へ移行するのかもしれない。
因みに韓国ではポーランドへのK9輸出承認に関する関係書類が公開(輸出内容は機密なので非公開)されて注目を集めている。
関連記事:ポーランド、米国から中古エイブラムス116輌を調達することで合意
関連記事:ポーランドは軍隊を欧州最大規模に拡張か、与党党首が40万人規模を示唆
※アイキャッチ画像の出典:Ambasciata di Polonia a Roma
やる気あるのはいいことだけど予算はどこから湧いて出てくるんだ……?
それな。ユーロ圏じゃなく独自通貨ならギリギリ可能性あるかもしれないけど、
5%はギリシャみたく財政破綻の可能性出て来る気が・・・。
西に金持ってる割に軍備がスカスカな国があるじゃろ
もちろんニエムツィに払わせるに決まってんだろ
なるほど
ただでさえウクライナに送った在庫を埋め戻すだけでも時間かかるのに更におかわりとなると大変だわな
わーくに日本ヤバそう
弾薬どころか、余剰装備もムードに煽られて供与してる場合じゃないでしょうね
その代わりを入手できる伝手なんてこの世の何処にも有りゃしない
軍というのは一種の公共事業なのだから、そこから削って持ってくるのが割と無難な策かな。
あるいは「生命・財産を守る保険」と考えれば、保険料の値上げ=増税ということになるだろう。
戦争が起きてすべてを失うくらいなら、保険料の値上げで対策できるのなら安いものだと思うがな。
問題はその掛け金のバランスですね。
無尽蔵に大きければいいもんじゃないけど、防衛は産業にも関わってくるから複雑。
明確な方程式が決まっているものじゃないから難しい。
流石に周辺国家に何度も理不尽な侵略を受けた国としては
すぐ隣ウクライナへのロシア侵略は他人事では無いからね
日本の場合多くの武器弾薬は国産なので、国際市場での売り手市場化による影響を
受けにくいが、製造余力があまり無く備蓄分の増産をしにくい
という現状理解は正しいのかな?
入手困難になりそうなのはF-35向けのミサイルぐらいですか?
いいや、近年の日本の防衛装備品は武器弾薬を問わず輸入が占める割合が増えているよ。
例えば、先日「日本が秘密裏にウクライナへ輸出したのでは?」と言われた60㎜迫撃砲弾(M49A2榴弾)は現在日本国内では製造されておらず、陸自が現在持っている60㎜迫撃砲(B)の弾薬は迫撃砲本体と同様に住商エアロシステムと言う会社が輸入している。
そう言う状況が自衛隊のあらゆる武器弾薬で広まっているから、現在国内の防衛産業に関わっている企業が次々に撤退している訳なので、製造余力や備蓄の問題を抜きにしても、今台湾有事とかが起これば多くの防衛装備品の部品や弾薬等の消耗品が入手困難になる可能性は高い(米軍が持っていない装備品も有るし、有事に米軍が確実に送ってくれるのかと言う問題もある)。
しかし、これ程分かり易い形で、某・清谷が主張していた「自衛隊の装備は輸入で充分」と言う主張を覆す根拠が出て来るとは…(苦笑)
「理解を求めている」ってポーランドにもハーフ田んぼみたいな、兵器爆買批判みたいな主張をする人が居るのかな?
そりゃ教育にも医療にもインフラにも金はかかるし増税すると生活や産業にも負荷がかかる
爆買い支持者は金がどっかから湧いてくると思ってそう
某氏の「爆買い批判」の問題点は「爆買いを批判すること」じゃなくて「妥当な買い物を爆買い呼ばわりして批判すること」なんじゃないかな。
今F-15J pre機をF-35で更新することのどこが「爆買い」なんだ、と。
個人的にはロシアは通常戦力のすり潰しと役満レベルの国内問題で、ウクライナが終わったら当面侵略どころじゃなくなるとは思っているんだけど、国境を直に接している国からすればゆったり構えてはいられないんだろうな。
5%はさすがに財政への影響が大きすぎるし時期も明言していないからどこまで本気かはわからないけど、日本の世論もせめてポーランドの10%くらいは危機感もってほしい。
正直、現状ですらロシア陸軍のすぐに動かせる戦力の数割が壊滅していて過去十数年分の積み立てがチャラになりつつあり、最早欧米から最新のセンサーや半導体、製造装置などの輸入もできない関係で近代的な戦力の補充も無理そうなので、放置しておくだけでも勝手に自滅しそうな気も。
ネットではどうしても軍事費増やすとなると賛成意見ばかりになり、慎重論にたいしては平和ボケと言われがちなのですが、私は流石に程度はあると考えてしまう。
ポーランドはそこまで豊かな国ではないのに、5%の軍事費は大きすぎる。
安全保障は保険に例えられる。
家計で例えるなら、年収300万の人が年間15万円の掛け捨て生命保険に入るような話で、普通の感覚だと異常と感じるしかない。
アメリカ位の経済規模があり、世界に展開することで軍事に限らない効果があるならわかるけども
増額する歳入をどこから持ってくるのか、支出をどこにするのかが大きいでしょうね。
またEU加盟国は通貨が変動しない特殊な環境ですから、最善は歳入を増やさず歳出は国内に留める事になる。まぁ無理だ。
オフセットを最大限駆使したとして、時間が過ぎたら相当な不人気政策になるのは間違いありませんね。
国債発行で対応するんじゃないですかね?経済成長率は高いですし公的債務残高は60%未満、延々20年30年とか続けるならアレですが軍近代化完了までの短期間であるなら問題ないと思います
ちなみにポーランドはEU加盟国だけどユーロは導入していない独自通貨国(ズロチ)で対ユーロ相場も変動制ですよ
ポーランドは独自通貨なんですね、勉強になりました。
保険に例えるならばリスクに応じて掛けるべきで、むしろポーランドは保険がっつり掛けないといかん、という話になるのでは。
お金の件はさておき、PT-91の供与を始めたということは、
元々持っていたT-72M1(382輌)を出し尽くしたということかな。
PT-91の手持ちは232輌だったと思うので、これもすぐに無くなるかな。
K2PLは間に合わないのかな。そうすると、M1がさらに入る事になるのだろう。
先の記事のレスの通りに、APUを付ければ燃費が許容範囲に入るなら、良いのかな。
T-72の供給元としては、後はフィンランドと思うのだけど、在庫の情報がないですね。
フィンランドは物持ちが良いので(例:三突が’70年頃まで現役)まだありそうですね。
合計162輌を2006年まで現役にしていたし。後は、レオ2A4の出番でしょうか。
K2PLに関しては、ご指摘通り間に合わないので原形のK2を180輌調達するしないと言う話がこのブログにも出ていましたよ。
それと、フィンランドのT-72は退役後、保管にすらならず完全に処分されています。
2021年に斎木伸生氏が出した同人誌「写真集・フィンランド軍戦車発達史戦後編Vol.2」(現在、メロンブックスととらのあな通販で購入可能)によれば、フィンランドのT-72は退役後、一部が海外に販売されて残りが2007年までにスクラップ処分、スペアパーツはチェコへ販売されたとの事で、現在フィンランド国内に残っているのは博物館で保存されている車体のみとの事です。
ですので、他国の装備数を考慮すると、ポーランドがPT-91を出し尽くしたら、もうNATO諸国にまとまった数のロシア製戦車は残っていないと思いますので、後は西側製戦車を送るしかないですね。
K2×180輌は新規生産みたいですね。
ウクライナ情勢の変化に付いて行ければ良いのですが。
もう生産は始めているのでしょうか。
開戦から130日強でT-72M約400輌を提供ですから
悪くすれば、PT-91約200輌もあっという間に無くなりそうですね。
1ポーランドズウォティ≒29円(2022年7月現)
2022~2026年 5年間平均経済成長率予測(以下 IMFによる推計)
ポーランド;約3.2%(年3%前後を予測)、日本;約1.3%(年々の低下傾向を予測)
2022年時点GDP
ポーランド;約29,015億ポーランドズウォティ≒841,432億円(2.4%≒20,194億円)
日本 ; 5,569,529億円(1%≒55,695億円)
2026年時点GDP
ポーランド ; 約40,584億ポーランドズウォティ ≒ 1,176,933億円(5%≒58,847億円)
日本 ; 5,909,506億円(2%≒118,190億円)
為替レート変動を無視した概算ですが、2022年に対する2026年のポーランドの軍事予算差額は約38,650億円。それに対しGDPは約335,500億円増になります。
国防最優先に政策を切るなら別ですが、5%達成は5年間では厳しそうです。IMF推計以上の経済成長を軍事産業に期待しているのかもしれません。
日本の場合の数値はそれぞれ、差額約62,500億円及び約340,000億円増になります。
経済成長率が大幅に改善され国庫収入が相応に増えないと、防衛費GDP比2%は画餅になりかねません。成否は今後の経済政策如何にかかっていそうです。
>「国防予算への多額の支出は『我々を攻撃しても成功しない、損失に見合うだけの利益を得られない』というメッセージをロシアに信じさせるためものだ」
国防力増強は必至だろうけど、ウクライナ侵攻を見ててどうしてロシアの合理性を計算する、ね(戦争行為そのものの非合理性だってね
ロシアは今回のウクライナ侵攻に当たって、3日もあればウクライナは降伏する、として始めたてのが広く認識される見解だと思います。
予想外の大損害を出しつつ未だに目的を達成できない現状は当初考えていなかったのが本音かと。現在は始めたからには面目が立つまで止められないという非合理性があるだけでしょう。
ロシアが合理的判断をするにせよ非合理的判断をするにせよ、軍備増強は役に立つということでしょう。
例え5%が絵に描いた餅に終わっても、今現在ロシアに対する警告にはなるでしょう。
どうせ10年も経たずに、またどこかに侵攻するでしょうし。
仮に露が「非合理的判断」をした場合それまでの防衛費は全く無駄にならないどころか、むしろプラスに作用する訳で。
とりあえず今後数年は3%で様子見かと。一時的にまとまった国防予算が必要なら、公債を発行することで補うことはできるでしょう。
頑張ればなんとかなる、我々は先行して豊かになった国々のように軟弱ではない、一生限界まで働き続け成長し続けられる。そう思っていた時期が我々にもありました。
予算ケチって国が亡びるのと国は残るが借金が残る・・・
どちらが正解なのでしょう・・・
過去に大国の蹂躙を何度も経験している国の判断は重いです。