欧州関連

NATO首脳会談、2026年に5つの加盟国が国防費3.5%の基準を満たす

2025年6月のNATO首脳会談で「国防支出=3.5%」と「軍事インフラ分野への投資=1.5%」を組み合わせた総額5.0%で合意し、7月7日に開幕したNATO首脳会談でも「2026年には5つの加盟国が国防費3.5%の基準を満たす」「加盟国の国防投資が順調に伸びている」と発表した。

参考:Defence Investment Update: Record Spending in Europe and Canada
参考:Norway provides both a model, and a warning, for NATO
参考:Sánchez se presenta en la cumbre de la OTAN en Ankara con 6.287 millones más bajo el brazo para Defensa
参考:NATO snubs Boeing, picks Saab to build alliance’s next radar plane
参考:GlobalEye von Saab für die NATO: Deutschland will sich mit rund 3,4 Milliarden Euro am AWACS-Nachfolger beteiligen

借入に頼らず財政規律を守ってきた国、高い経済成長率が見込まれる国は財政的余裕があり、そうでない国はEU融資から資金を調達するしかない

2025年にトランプ政権が再登板してNATO加盟国にGDPに占める国防支出を5.0%まで引き上げるよう要求、NATO加盟国は2025年6月の首脳会談で「国防支出=3.5%」と「軍事インフラとしても活用できる分野(重要インフラの保護、ネットワークの防衛、民間防衛や回復力の確保、イノベーションの促進、防衛産業基盤など)への投資=1.5%」を組み合わせた総額5.0%の新支出基準で合意し、加盟国は2035年までに新支出基準を満たすことが義務化され、スペインだけは新支出基準を支持しても「国防支出=3.5%」を拒否してトランプ政権との関係が極度に悪化している。

出典:NATO 国防支出=3.5%+軍事インフラとしても活用できる分野への投資=1.5%=総額5.0%達成に向けた米国・アイスランドを除く加盟国30ヶ国の平均

7月7日に開幕したNATO首脳会談でも「各加盟国の新支出基準達成に向けた取り組み」が報告され、NATOはプレスリリースの中で「欧州の加盟国とカナダは2025年の国防費を2024年と比較して約20%増加させた。2026年には5つの加盟国が国防費3.5%の基準を満たすと見込まれており、17の加盟国が防衛・安全保障関連投資(軍事インフラとしても活用できる分野)1.5%の基準を満たすと予測されている。これはハーグで合意された2035年の期限を大幅に前倒しするものだ」と発表した。

2026年に国防費3.5%の基準を満たした5つの加盟国はリトアニア(5.33%)、エストニア(5.10%)、ラトビア(4.92%)、ポーランド(4.68%)、ギリシャ(3.65%)で、2026年に3.0%を超えてきた4つの加盟国はデンマーク(3.49%)、スウェーデン(3.22%)、米国(3.17%)、ノルウェー(3.17%)となり、全体的な分布は3.0%を超えた加盟国が9ヶ国、2.5%を超えた加盟国が5ヶ国、2.0%を超えた加盟国が16ヶ国、2.0%を超えたと主張する報告が認められなかったスロベニア、常備軍をもたないため集計から除外されているアイスランドとなる。

出典:NATO

スロベニア政府はNATOに「2025年の国防費がGDP比2.04%になった」と報告したものの、ルッテ事務総長は2026年5月に書簡を送り「スロベニアの中核的防衛支出はNATOの定義に合致しない」「NATO基準で再計算すると1.6%程度になる」と指摘し、スロベニアの国防関連支出は「国防支出=3.5%に分類するもの」と「軍事インフラとしても活用できる分野への投資=1.5%に分類するもの」がNATOの定義に一致していないため、今回の報告書でもスロベニアは唯一の2.0%未達成国(2025年1.57%/2026年1.61%)に分類されている。

正直なところ「防衛・安全保障関連投資=軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%」に関しては「トランプ大統領の主張をNATO加盟国が受け入れた」というポーズに過ぎず、総額5.0%の新支出基準で重要なのは従来の国防費に相当する3.5%の部分で、これを2035年までに全加盟国(アイスランドを除く)が達成しなければならず、2026年時点で計9ヶ国が3.0%超え、計13ヶ国が2.5%超えというのは3.5%達成に向けて順調に国防投資が伸びているシグナルと言えるだろう。

出典:Bundeswehr

ちなみに、Breaking Defenseは「米国を除くNATO主要国の中で国防費の大幅増額に耐えうる財務的支払い能力があるように見えるのはドイツのみだ。フランスの投資は複数の領域に分散しているため1ユーロあたりの厚みが乏しくなっている。英国の財政状況は債務増加や膨れ上がる社会保障費を前に破綻状態だが、ノルウェーが2035年までの3.5%達成を達成するのは容易だ」と興味深い指摘を行っている。

“人口が600万人弱のノルウェーには2兆ドルを超える政府系ファンド=政府年金基金グローバルがあり、これはサウジアラビアの有名な政府系ファンドの2倍の規模だ。ノルウェーは通常予算を支援するため政府系ファンドから最大3%まで資金を引き出すことが法的に認められており、この余裕はノルウェーにある程度の財政的柔軟性をもたらし、どのNATO加盟国も享受していないレベルで国防費増額への圧力を軽減させている。ノルウェーの長期防衛計画は2025年から2036年の間に1,670億ドル=約27兆円を支出する予定だったが、今年3月に120億ドルの追加支出を発表したため、2035年までに3.5%を超えるのは確定的になった”

出典:Hanwha Aerospace

“ノルウェーの主要政党や政治家は軍事費を増額し、ウクライナへの支援を継続する必要があるという点で一致している。こうした方針は政治的立場が違っても「そうすべきだ」という考え方が支配的で、そこには政治的な曖昧さは一切見られない。友人と敵に関する古い皮肉をもじって言えば、ノルウェーのような同盟国がいれば一体誰がロシアを恐れる必要があるだろうか。もしNATOにノルウェーと同等に防衛と抑止に注力し、政治的能力があり、財政的支払い能力を備え、戦術的かつ戦略的に思考する32の加盟国が揃っていれば同盟の未来へと続く道は穏やかなものになるだろう”

“しかしNATOにはノルウェーのような国が32ヶ国あるわけではない。たったの1ヶ国だけだ。それでも同盟全体を強化するため他の同盟国がノルウェーから学ぶことができ、また学ぶべき教訓が確かに存在している”

結局、借入に頼らず財政規律を守ってきた国、高い経済成長率が見込まれる国は現在の危機に対応する財政的余裕があり、そうでない国はドイツとオランダの信用力に基づく低金利のEU融資から資金を調達するしかなく、EUから離脱してしまった英国はEU融資に頼ることができないため財政的に最も厳しい状況に置かれている。

追記:スペインのサンチェス首相は昨年のNATO首脳会議で「総額5.0%の新支出基準」を支持したが「他の加盟国が国防費を3.5%に増額しても、我々は2.1%でNATOの能力要件を満たせる=事実上の3.5%受け入れ拒否」を公式に表明している唯一の加盟国で、スペインに対してはトランプ大統領だけでなく欧州の加盟国からも「3.5%は能力要件に基づいてNATOの専門家が計算したもの」「これを2.1%で実現できるならスペインのサンチェス首相は天才だ」と皮肉られており、スペインのディフェンスメディア=Infodefensaも「今年のNATO首脳会談もスペインにとって緊張した雰囲気になるだろう」と予想している。

出典:Saab

追記:ルッテ事務総長は7日に開催されたNATO首脳会議の防衛産業フォーラムで「最大10機のGlobalEyeを共同調達する」と言及、サーブのミカエル・ヨハンソン最高経営責任者は記者団に「この取引の総額は約45億ドルになるだろう」と述べ、ドイツのディフェンスメディア=hartpunktは「昨日の閣議で承認された2027年予算案にはE-3更新費用として約30億ユーロ(2028年~2034年分)の支出が計上されている」「2026年と2027年にはE-3更新費用として約4億ユーロの支出が見込まれている」「ドイツはGlobalEyeの共同調達に約34億ユーロを拠出する」と報じた。

ヨハンソン最高経営責任者が言及した約45億ドルは約40億ユーロなので、最大10機のGlobalEye調達費用の大部分を財政的余裕があるドイツが負担する格好になり、当然のことだが負担した費用分だけのワークシェアをドイツが持っていくのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:NATO

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コメント

  • コメント (18)

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    • たむごん
    • 2026年 7月 08日

    NATO首脳会談中に、『イランの商船攻撃』『アメリカのイラン攻撃(規模拡大)』、『中国原潜のSLBM発射』など、かなり重要なことが発生してるんですよね。

    高市首相がNATO諸脳会議参加をとりやめて代理を立ててるわけですが、『各国首脳が今何を考えているのか・日本が訴えたい事を首脳に訴える』安全保障問題の情報受発信する機会を失ったのは、日本にとって本当に痛手だなあと…。

    14
      • たむごん
      • 2026年 7月 08日

      追記です。

      中国原潜のSLBM発射は7月6日、NATO首脳会談は7月7.8日でしたね。

      5
      • Mr.R
      • 2026年 7月 08日

      この世界情勢、外交がどれだけ大切なのか…
      ていうか参政とかに至っては議員定数の削減を訴えたやんけ!

      9
        • たむごん
        • 2026年 7月 08日

        ほんとそれですよ。

        『スペインとの貿易全面停止の意向』アメリカが狙い撃ちして、NATO首脳会議期間中に、こんなのも飛び出しましたからね…。

        3
        • 名無し
        • 2026年 7月 09日

        軍事力あっての外交ですからね
        欧州も日本も米国パワーを水や空気のように
        当たり前に使えると思ってた
        トランプとうとうブチ切れて
        自助努力の世界へ

        3
          • たむごん
          • 2026年 7月 09日

          仰る通りです。

          『戦争は、外交の延長である』いう趣旨の名言があるくらいですよね。
          軍事力がないと、外交どうしようもないわけで…

          日本は、欧州と比較して、対米国なかなか上手くやってるなあと。
          (他国もやりますが)日本お台場付近で、アメリカの独立記念日を祝福してることに、アメリカ人が感動してバズってましたね。

      • YF
      • 2026年 7月 08日

      野党はどこにあるかもわからない動画の話より、高市総理のNATO首脳会議不参加を責めるべきですよね。

      18
        • たむごん
        • 2026年 7月 08日

        「総裁選後の画像」総裁選前に作ったとする動画に入ってて意気消沈みたいですね。

        ほんと仰る通りで、野党が仕事してるアピールのために、首相の時間を使う事がもったいないなあと。

        17
    • せい
    • 2026年 7月 08日

    ギリシャも?と思ったけど、あそこ公務員大国な上にトルコとも揉めてたな
    それ以外はバルト三国とポーランドと現実的に前戦になるだろう国々か
    しかしやっぱり必要な防衛装備を数値化するのはモヤモヤする

    2
    • あるまじろ
    • 2026年 7月 08日

    外交上の貴重な機会というのはわかるが、今回のNATOはトランプVSそれ以外の国々となって滅茶苦茶荒れることになるので参加見送りという選択肢を選んだこともわかる。

    スペインが国防費がGDP2.1%で嫌味言われている所に、2%の日本が行って何か成果が見込めるのかな?

    12
      • 名無し
      • 2026年 7月 09日

      欧州と日本は対ロシア対中国で
      アメリカの軍事力を奪い合う関係だから
      実は利害一致してない

      5
    • YF
    • 2026年 7月 08日

    NATO首脳会議、韓国の大統領は行ってますからね。招待受けた以上高市総理は行くべきでしたよね。アジア地域として韓国のトップが行って日本のトップが行かないのはいかにもマズイです。(茂木・小泉両大臣の参加でバランス取ったのかもしれませんが)
    一説によればトランプ大統領との会談が組めなかったから行かない事にしたらしいですが(大荒れの国会対応もあるとは思います)それが本当ならあまりにセンスがないですね。もちろん出席を強く推さなかった自民党・防衛省・外務省も悪いですが。

    15
    • ドンキーコング
    • 2026年 7月 08日

    そもそもNATOは集団防衛の仕組みであり、今回のイラン戦争は頼まれてもないのに勝手にアメリカが仕掛けた違法な戦争である以上何も助ける義理は存在しません。スペインとの貿易停止は諸々の失敗の八つ当たり兼話題逸らし兼支持者へのアピールにしか見えませんし、そんな国に誰が付いてくるというのか。

    首相以下我が国の政府に対しては、あの世界の王様気取りの矮小な男がレームダックに陥るまでの間のらりくらり時間を稼いでやり過ごすようお願いしたいものです。

    16
      • 名無し
      • 2026年 7月 09日

      無理して助けなくてもいいけど
      アメリカの軍事力はずっと中東に張り付いたまま
      日本は単独で中国と向き合うことになる
      台湾にもアメリカの代わりに日本が武器売却しないと
      アメリカは中東で兵器使い果たすから

      3
    • ななし
    • 2026年 7月 08日

    国防費ノルマなんとか誤魔化せないかね
    今のうちに必要な施設の補修とかあれやこれややっておいて
    トランプが辞めたら一気に減らすとか

      • 名無し
      • 2026年 7月 09日

      減らしたら中国が大喜びして台湾や南西諸島攻めるだけ
      次の米国大統領が軍備減らす日本を
      気前良く守る確信でもあるの?

      11
    • paxai
    • 2026年 7月 09日

    スペインに関しちゃトランプの剛腕外交が効いてるなと思うねえ。
    多数の国から弱い一箇所を突き崩す。 それをドンドン広げる。   気が付いたらあんなに反発してたNATO加盟国はトランプと一緒にスペインに圧力を掛けるようになったんだから。 
    今回もトランプは会議で好き放題し不機嫌アピールしてるけど実際にはそれなりに従わせられて満足なんじゃないかな。

    7
    • 名無し
    • 2026年 7月 09日

    欧州と中東と東アジアの3地域で
    アメリカの戦力を必死に奪い合う状態なわけで
    カネ持ってる欧州くらいは自己防衛してもらって
    アメリカをアジアに集中させてもらわんと
    巨大な中国に圧迫されてる日本は非常に困る

    4

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