欧州関連

アゼル軍が要衝シュシャに進軍、アルメニア側の補給路遮断に成功か

アゼルバイジャンのアリエフ大統領は8日、ナゴルノ・カラバフ地域の都市シュシャを解放したと発表した。

参考:アゼルバイジャンのアリエフ大統領のツイート

補給路が絶たれたアルツァフ共和国、シュシャ奪還に失敗した時点でアルメニア側の敗戦が決定する

アルツァフ共和国(旧ナゴルノ・カラバフ自治州が独立国だとして名乗っている国家名)の首都ステパナケルトから南に約5kmの地点にあるシュシュは、アルメニア領から首都ステパナケルトに繋がる幹線道路上にあるアルツァフ共和国第2の都市で、ここをアゼルバイジャン軍に解放されたと言うことは陸上補給路を事実上絶たれたことになる。

アルメニア領からアルツァフ共和国の首都ステパナケルトへの陸上補給路は北と南に1本づつあり、アルメニアのヴァルデニス~ステパナケルトへと続く北ルートは途中のアグダラ地域でアルメニア軍とアゼルバイジャン軍が交戦しているため機能していない。

そのためアルメニアとアルツァフ共和国側に残された陸上補給路はアルメニアのゴリス~ランチ~シュシャ~ステパナケルトへと続く南ルートのみで、シュシャを物理的にアゼルバイジャン軍に抑えられたということはアルメニア側の戦略的敗北が決定づけられたと言っても良い。

※シュシャ市内に侵入したアゼルバイジャン軍と交戦するアルメニア軍の様子を収めたと言われる動画

今のところアルメニア国防省は「シュシャでの交戦は続いておりアゼルバイジャンに同地を奪われた訳ではない」と主張しているが、市内(南北2km程度の大きさしかない)で交戦している時点でアゼルバイジャン側は「補給路遮断」という戦略的目的を達成できるため無理にシュシャ全域からアルメニア軍を追い出す必要がなく、逆にアルメニア側は少なくともシュシャからアゼルバイジャン軍を後退させない限り市内を貫通する幹線道路を使用した補給が再開できないため非常に不利な立場と言える。

参考:There are hard, decisive battles for Artsakh’s Shushi

恐らくアルメニアとアルツァフ共和国は総力を挙げてシュシャ全域の奪回に力を入れるはずで、この試みが失敗したときアルメニア側の敗戦が確定する瞬間だ。

そのため今後1週間程度がナゴルノ・カラバフ紛争の天王山になるはずだ。

果たしてアルメニアとアルツァフ共和国はシュシャ奪回に成功するだろうか?それともアゼルバイジャンはシュシャから首都ステパナケルトへ進軍して物理的に戦いを終わらせてしまうのだろうか?

関連記事:アゼル軍、ナゴルノ・カラバフ地域への補給路遮断まであと一歩
関連記事:勝利に近づくアゼルバイジャン、ロシアとイランが武力奪回を容認か

 

※アイキャッチ画像の出典:YouTubeで公開された動画のスクリーンショット

大統領選挙に勝利したバイデン氏、書き換えられる米軍や防衛産業の未来前のページ

国防総省、旧ソ連の技術で開発されたウクライナ製レーダーを購入次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    戦争のルールを変えたトルコ製UAV「バイラクタルTB2」の活躍

    アルメニア軍の防衛戦を破壊するのに成功した無人攻撃機の活躍を目の当たり…

  2. 欧州関連

    駐EUアルメニア特使、数週間以内にアゼルバイジャンが侵攻してくると警告

    アルメニアのバラヤン駐EU特使はロイターに「西側諸国が毅然とした行動に…

  3. 欧州関連

    プーチン大統領が提案したクリスマス停戦、ゼレンスキー大統領は否定的

    ゼレンスキー大統領は「ロシアは我が軍の前進を一時的に阻止するため停戦を…

  4. 欧州関連

    トルコが開発中の第5世代戦闘機「TF-X」、調達コストは1億ドルで試作機は2023年完成

    トルコ国防省調達部門のイスマイル・デミール氏は28日、開発を進めている…

  5. 欧州関連

    ポーランドが装備調達に15兆円を投資、ロシアの野蛮な侵略に対する正しい反応

    ブラスザック国防相はポーランドの安全を保証するため「2035年までに5…

  6. 欧州関連

    ゼレンスキー大統領が反攻作戦を示唆、我々は絶対に実行する

    ゼレンスキー大統領は3日「(反攻作戦の)準備が整う時期を話すことは難し…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 11月 09日

    王手
    待ったなし
    プーチン杯泥沼戦

    3
    • 匿名
    • 2020年 11月 09日

    バクーでは、アゼルバイジャン、トルコ、あと何故かパキスタンの国旗を掲げた市民達が大音量で国歌流してお祝いしてるらしい。アゼル国歌カッコいい。

    3
    • 匿名
    • 2020年 11月 09日

    アゼルはこれで大々的に勝利宣言したし、アルメニア人の大移動も始まってる。
    徹底抗戦するなら今後ゴリゴリとアルメニア人死者激増するだろうけど、どうなるかな。
    どれだけ民間人が死のうが強く介入してくる国は無さそうだが

    4
      • 匿名
      • 2020年 11月 09日

      ここからアルメニア本土まで進撃しない限り、ロシアも静観でしょうからね
      逆に言えば、アルメニア本土に侵攻を開始すればロシアも動かざるをえないと言う事ですが

      8
        • 匿名
        • 2020年 11月 09日

        ナゴルノ・カラバフとアルメニア本土との間にラチン回廊と呼ばれるエリアがある
        アゼル軍がここまで侵攻するかどうかか今後の注目ポイントじゃないかな

        ラチン回廊も国際法上はアゼルバイジャンの領土で今はアルツォフ共和国に占領されてるけど、
        ここを占領されるといよいよアルメニア本土南部が最前線になるから、アルメニアは軍事・外交両面で必死に抵抗するかと思う

          • 匿名
          • 2020年 11月 09日

          そもそもシュシャはラチン回廊上の都市なんだが
          今回シュシャが占領されたことでラチン回廊は寸断された

          8
    • 匿名
    • 2020年 11月 09日

    虐殺が始まりそう

    1
      • 匿名
      • 2020年 11月 09日

      あの辺の冬は厳しいらしいから、無理に進撃して虐殺せずとも、UVAで車列を攻撃するだけで餓死・凍死に追い込めるでしょうね……

      8
      • 匿名
      • 2020年 11月 09日

      これは店仕舞かな…早めに逃げないとヤバそうですね。

      1
      • 匿名
      • 2020年 11月 09日

      アゼルは、やられっぱなしで、軍事に金をつからないし、ここも容認していたけど、ここがあるから、アルメニアとの回廊に住むアゼル人地域が追放、殺害されたからな。
      ここのアルメニア人に引っ越してもらわないと。スターリンなら楽勝か。

      • 匿名
      • 2020年 11月 09日

      あの寒そうな場所で燃料と食料の補給が絶たれるとか想像したくない
      死ぬ

      3
    • 匿名
    • 2020年 11月 09日

    もうシュシャは終わり
    ステパノケルトで地獄の市街戦の時間だあああああ

    1
  1. シュシはステパノケルトと目と鼻の先だから首都防衛部隊が続々と増援に来て今戦争最大の激戦になるだろう
    あと戦闘が行われてるアグダラは北の幹線ルートから少し離れてるため補給はまだ機能している

    2
      • 匿名
      • 2020年 11月 09日

      追記
      11/5時点の戦況
      リンク
      今の戦線もそこまで移動はしていない

      1
    • 匿名
    • 2020年 11月 09日

    こういう時だからこそ両国には平和憲法9条をよく読んでもらいたい。
    戦争の惨禍を経験した日本が知恵を絞って出した答えなのだ。両国も平和を真剣に追及してほしい。
    極東の小国から声を大にして送ります

      • 匿名
      • 2020年 11月 09日

      アゼルバイジャン憲法9条2項をよく読んでもらいたい
      誰かに言われるまでもなくアゼルバイジャンは国際紛争を解決する手段としての戦争放棄を憲法に規定しているのだ

      12
      • 匿名
      • 2020年 11月 09日

      日本だけが戦争を経験したわけでも、9条は日本だけの特別な知恵でもありませんよ
      なにしろ当のアゼルバイジャン憲法にも紛争解決のための戦争を拒否すると書かれていますので。彼らは日本と同じいわゆる平和憲法の下で行動しているのです
      現代では平和憲法を採択した国はいくつもありますが自衛戦争を拒否する国はない。それが国際常識です

      12
      • 匿名
      • 2020年 11月 10日

      極東の先進国から自分は無知だと叫ばないでくれ恥ずかしい

    • 匿名
    • 2020年 11月 09日

    ドローンで圧倒!みたいに言われてた割には時間かかったなという印象かな

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  2. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  3. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  4. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  5. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
PAGE TOP