欧州関連

和平交渉を開始したアゼルバイジャンとアルメニア、再びナゴカラで戦闘

アゼルバイジャンとアルメニアは7月に和平交渉を開始したが再び停戦協定が破られナゴルノ・カラバフ地域で戦闘が発生、緊迫した状況が続いているらしい。

参考:Nagorno-Karabakh Military Accuses Azerbaijan Of Attacks; Baku Denies Cease-Fire Violations

アゼルバイジャン側がパシニャン首相を引きずり下ろしたいのかは不明が、和平交渉で有利な立場を得ようと画策しているのは間違いない

2020年のナゴルノ・カラバフ地域(自称:アルツァフ共和国)を巡る戦いでアゼルバイジャンはアルメニアに奪われた土地の大部分を回復、ロシアは両国が署名した停戦協定が守られているか監視するため平和維持部隊を派遣しているのだが、ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まると停戦協定が破られ両軍による小規模な衝突が発生した。

出典:@301_AD

この衝突はロシアの仲裁で鎮静化、EUの仲介で両国は和平交渉に向けた準備開始で合意したものの交渉の枠組みに「領土の相互承認=ナゴルノ・カラバフ地域がアゼルバイジャン領の一部であることをアルメニアが承認するという意味」が含まれているのが発覚、アルメニアのミルゾヤン外相も「ナゴルノ・カラバフ問題は領土問題ではなく、当該地域に住むアルメニア系住民の権利問題だ」と主張したため国民が激怒、パシニャン首相の退陣を求め数千規模の抗議集会に発展したことがある。

ただアゼルバイジャンとアルメニアの和平交渉はジョージアの首都トビリシで7月に開始されており、ようやく両国関係の正常化に向けたプロセスが始まったかに見えたが、7月末に再び停戦協定が破られナゴルノ・カラバフ地域で戦闘が発生、アルツァフ共和国とアルメニア側は「アゼルバイジャン軍が定められた境界を超えるため陣地に対して攻撃を開始したが、我々はこれを阻止し続けている。今のところ犠牲者は出ていないものの状況は依然として緊迫している」と主張。

出典:President.az / CC BY 4.0

ロシア軍の平和維持部隊も「前線の状況に関する詳細な情報(詳しい内容は不明)を受け取った」と発表したが、アゼルバイジャン国防省は「ナゴルノ・カラバフ地域で我々は停戦協定を破っていない。これはアルメニア側からの挑発行為だ」と主張、ハサノフ国防相も軍に「敵の挑発行為を阻止する準備を開始しろ」と命じており、アルメニア側は「再び紛争状態をアゼルバイジャンはエスカレーションさせる気だ」と指摘している。

どちらの主張が正しいのかは不明だが、アゼルバイジャンは天然ガスの供給量を2倍に引き上げることで和平交渉の仲介役であるEUを手懐けており、ナゴルノ・カラバフ地域で軍事的緊張を作り出すことでパシニャン首相のアルメニア国内における政治的立場を追い詰め、和平交渉を有利に進める狙いがあるのだろう。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY 4.0 パシニャン首相とプーチン大統領

アゼルバイジャン側がパシニャン首相を引きずり下ろしたいのかは不明だが、もしかすると政治的立場を難しくさせることでパシニャン首相を追い詰め「再び先に手をださせる」よう仕向けているのかもしれない。

関連記事:アルメニアで数千人規模の抗議集会、ナゴルノ・カラバフを敵に売り渡すな
関連記事:ウクライナ侵攻失敗で低下したロシア軍のプレゼンス、きな臭いコーカサス

 

※アイキャッチ画像の出典:WalkerBaku / CC BY-SA 3.0 アゼルバイジャン軍の特殊部隊

ペロシ米下院議長の台湾訪問が迫る中、台湾海峡は一触即発の緊張状態前のページ

台湾は防空壕の準備を開始、中国は福建省への地上部隊の移動を開始次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    中東の気候に耐えられるか? 英海軍、ホルムズ海峡へ機関の欠陥で停電する「45型駆逐艦」派遣

    英国は4日、イラン革命防衛隊精鋭「ゴッズ」部隊の司令官を米軍が殺害した…

  2. 欧州関連

    英BAE、消耗型と再利用型の無人戦闘機に関するコンセプトを発表

    英空軍は無人戦闘機の技術実証機開発・製造プログラム「モスキート」をキャ…

  3. 欧州関連

    ポーランド首相、米国の介入があれば韓国はウクライナへの武器供給に応じる

    ポーランドのモラヴィエツキ首相は「バイデン大統領の介入があれば韓国はウ…

  4. 欧州関連

    緊迫するウクライナ情勢、豪州とカナダが大使館移転、セルビアは食料備蓄を指示

    バイデン大統領とプーチン大統領の電話会談は物別れに終わり、ウクライナ侵…

  5. 欧州関連

    ウクライナ軍のレオパルト2A4、爆発反応装甲を取り付けたタイプが登場

    戦場で確認されたウクライナ軍のレオパルト2には保護装置の追加が見られな…

  6. 欧州関連

    ポーランド陸軍元司令官、ドイツがロシアに曖昧な立場をとるならNATOは崩壊する

    ポーランド陸軍で最高司令官を務めた経験をもつWaldemar Skrz…

コメント

    • スポンサー・ドリンク
    • 2022年 8月 02日

    東西南でロシアに嫌がらせを出来たらおもしろそうですね
    中央アジアがロシアと距離を置いているかも?というニュースを見ましたし

    • ダヴ
    • 2022年 8月 02日

    ロシアもアゼルバイジャンのような鮮やかな勝利を夢想してたはずなのに、どうしてこうなったんやろうな。

    22
    • K(大文字)
    • 2022年 8月 02日

    つくづく思うのはロシアって本当に人望無いんだなということ。
    曲がりなりにも「仲裁」した子分同士が、国運を掛けた戦争やってる最中に小競り合いなんてまぁ大概。
    東欧やウクライナから愛想を尽かされたのもそうだし、ベラルーシも結局半年間(!)も洞ヶ峠決め込んでるし、ロシアに合わせてくれてるのって“無敵の国”北朝鮮くらいでは?
    軍事力も経済力も信望も全部ひっくるめて、自己評価に対して本当に実力足りてないから、いい加減身の程を弁えた方がいいと思うんだけど…

    38
    • 名無し
    • 2022年 8月 02日

    ロシアはアルメニアを助けられる状況ではない、EUはアゼルバイジャンの天然ガスが欲しいからアゼルバイジャンに強くでない。つまり、アルメニアは血の涙を流してでも絶対に手を出してはいけない状況だが、我慢しきれるか?

    10
      • 名無し
      • 2022年 8月 02日

      アルメニアは民主主義国家だから、国民の不満に突き動かされて、やったら不利になることを、絶対やっちゃう。

        • 名無し
        • 2022年 8月 03日

        そこをぐっと抑えるのが民主主義政治がうまく回るコツなんだがなぁ…
        国防大臣の胃に穴が開いていればなんとかなりそう。参謀総長とか胃に穴が開いていたらだめそう。

    • ポルトガル・コレクトネス
    • 2022年 8月 02日

    アルメニアに未来はあるめにあ?

    3
    • はげにゃん
    • 2022年 8月 02日

    パシニャンという名前から感じるゆるキャラ感

    12
      • 名無し
      • 2022年 8月 02日

      「ナゴカラ」も、なかなかユルい。
      念のためググったけど、そんなニッチな略語使ってるの、ここの管理人だけだ。(いいぞ、もっとやれ。)

      2
        • A
        • 2022年 8月 02日

        管理人さんに座布団三枚!

    • 無無
    • 2022年 8月 02日

    背後でうごめくトルコの野望
    プーチンが引けばエルドアンが出てくる
    それを操らんとするEUも危ない賭け
    第一世界大戦のときはドイツと正面からぶつかるロシアを横から襲ったトルコだが、予想外の大敗北を喫して帝政が終わるきっかけになっている。
    今世紀はどう展開するかな

    3
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  2. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  3. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  4. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  5. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
PAGE TOP