欧州関連

勝利に近づくアゼルバイジャン、ロシアとイランが武力奪回を容認か

3度の停戦合意も無視され戦闘が続くナゴルノ・カラバフ紛争についてイランの最高指導者アリ・ハメネイ師は3日、アルメニアが占領しているアゼルバイジャンの領土は全て解放される必要があると語り注目を集めている。

参考:Azerbaijani territories under Armenian control must be ‘liberated’: Iran’s Khamenei
参考:PUTIN FINALLY REVEALS HIS SOLUTION TO THE ARTSAKH CONFLICT

イランがアルメニアに突きつけた現実、不当に占領しているアゼルバイジャン領から出ていくことが紛争終結の条件

アゼルバイジャン領に帰属するナゴルノ・カラバフ地域を巡る戦いの戦況は依然としてアルメニアが苦戦しており、アルメニアとナゴルノ・カラバフ地域を結ぶ「ラチン回廊」を抑えて補給路遮断を狙うアゼルバイジャン軍の攻勢を阻止できるかにナゴルノ・カラバフ地域の運命がかかっている。

しかしトルコやパキスタンの支援を受けているアゼルバイジャンに対してアルメニアは軍事的な支援を提供してくれる国が存在しないためジリ貧状態で、この劣勢を打開するためにはロシアなどの周辺国を動かして紛争の武力解決を止めるしか無いのだが「アゼルバイジャンによるナゴルノ・カラバフ地域奪回を認める」と受け取れる発言が相次ぎ、アルメニアは「ナゴルノ・カラバフ地域の放棄=自主撤退」を迫られているのかもしれない。

出典:アゼルバイジャン国防省が公開した動画のスクリーンショット

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は3日、ナゴルノ・カラバフ紛争について「この紛争は可能な限り早期終結させなければならないが、アルメニアが占領しているアゼルバイジャンの領土は全て解放されアゼルバイジャン側に戻す必要がある」と発言、これは事実上「不当に占領しているアゼルバイジャン領から出ていくことが紛争終結の条件」とアルメニアに言っているようなもので到底容認できないだろう。

ロシアのプーチン大統領も西側メディアの取材に応じた際、ナゴルノ・カラバフ紛争について「ロシアはアルメニアだけでなくアゼルバイジャンとも関係を築いてるのでアルメニアだけを特別扱いすることは出来ない」と語り、今後も両者が納得する形での妥協点を模索する努力を続けるとロシアの立場を説明したためアルメニア側は失望している。

アルメニアメディア「The Armenia Weekly」はプーチン大統領の見解について、アルメニアとロシアは二ヶ国間の防衛協定を締結して南コーカサスにおけるロシアの戦略的な同盟国であるはずなのにアゼルバイジャンと同列に扱われるのは容認できないと言っており、特にプーチン大統領が「アゼルバイジャン領土の相当量が失われた状況が永遠に続くことはない」と語ったことに対して「このような発言はアゼルバイジャン側に間違った認識を与えると同時にアルメニアの立場を貶める」と糾弾した。

出典:kremlin.ru / CC BY 4.0 CSTO集団安全保障評議会

結局、The Armenia Weeklyは「アルメニアとアルツァフ共和国(旧ナゴルノ・カラバフ自治州が独立国だとして名乗っている国家名)の運命は断固たる防衛のみ」と結論づけているが、ラチン回廊が陥落確実になればアルメニアとナゴルノ・カラバフ地域は陸路での行き来が遮断されるため、どれだけ「断固たる防衛」と叫んだところでアルツァフ共和国の降伏は避けられないだろう。

しかも頼みの綱のロシアからはアゼルバイジャンと同列扱いを受け、イランからは「不当に占領しているアゼルバイジャン領から出ていくことが紛争終結の条件」と受け取れる発言が飛び出し、アルメニアが置かれた状況は日増しに悪化するばかりだ。

果たしてアルメニアのパシニャン首相はアルツァフ共和国と運命を共にするのか、苦渋の選択を決断するのか注目される。

関連記事:ナゴルノ・カラバフ紛争はアルメニア領土外、プーチン大統領が支援を否定
関連記事:ロシア軍をナゴルノ・カラバフ地域に派遣? ラブロフ露外相が平和維持軍に言及

 

※アイキャッチ画像の出典:アゼルバイジャン国防省が公開した動画のスクリーンショット

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    ソビエトの赤野郎が一方的に帰属を決めてしまったのが悪い。

    16
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    ひとまずアル・アゼ戦争はアゼルの勝利で決着しそう。だが、イランはアゼル併合を虎視眈々。
    将来、アゼルはイランのナゴルノ・カラバフかもしれない。
    アルメニアはロシアに切られて、当然米欧へ接近。在米のアルメニアロビーが黙っていないだろう。

    11
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      その場合カウンターパートとして、ユダヤロビーはどうするかな?

      • 匿名
      • 2020年 11月 05日

      >イランはアゼル併合を虎視眈々

      さすがにない。イスラエルがすっ飛んでくる

      5
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    大国は自国の利益のため動いていているという原則を忘れてアルメニアは今置かれてる状況に満足して防衛強化しなかったからこのざまなんだよな
    日本も尖閣含めた小さな紛争程度ではもしかしたらアメリカは援助してくれないかもってこと前提に防衛計画を考えるべき

    18
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      しなかったじゃなくて出来なかった。
      アルメニアは資源もなければまともな産業もない超貧乏国家なのでとにかく金がない。

      16
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    ロシアはアルメニアに居なくてもいい人だって決別したようなもん
    将来、ウクライナ、ジョージアと共に元ソ連反ロシアを形成するだろうね

    8
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    アゼル側の勝利で終わるにしても問題はどこで決着するか
    アゼル側が優勢でもはやアルメニアが覆し用がないといっても、全土を明け渡す気などアルメニアには1ミリも無いわけで

    3
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      これからプーの取り組みはアルメニアの受け入れる条件作りじゃないの
      そうでないとメンツ丸つぶれのまんまで紛争終了
      内政的にもまずいだろ、強いロシアのイメージが唯一の売りなんだから

      7
      • 匿名
      • 2020年 11月 05日

      アルメニアに占領されてた地域を取り返して軍は停止、あとだらだら交渉して終わりだろ

      1
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    ナゴルノ・カラバフ紛争は旧東側国家間の領土問題であって、欧米は関与したくないのが本音かと。
    ロシアもアルメニア本土への侵攻が無ければ軍事介入の積極的義務は無いという立場表明です。
    イラン最高指導者の発言も同紛争はアルメニア・アゼルバイジャン二国間の問題という切捨てです。
    ロシアもイランも直接的に利害が及ばなければ関与したくないのが本音なのでしょう。
    米国は領土紛争は当事国間で解決すべき問題てのが基本的外交姿勢ですから、まず動きませんね。

    5
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      国連にも動きがないですよね~。

      3
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    日米同盟のまやかしも同じ事です。アメリカに忠誠を誓ってアジアを裏切るような真似をすれば日本に平和が保障されるのでしょうか?真摯なアジア外交無くしてアメリカとの軍事同盟に頼る日本は危うい

    5
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      日本の友好を散々裏切り続けてきたのが『アジア諸国』なんですけどね
      そんな寝言を言う暇があったら米国よりマシな対日外交やったらどうかね

      32
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      アジアって中国の別名でしたっけ?

      20
      • HY
      • 2020年 11月 04日

       東南アジア諸国からすれば中国に日本が宥和的な方が「裏切り」なんですけどね?

      14
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      日米同盟云々については中国が台湾に永久に手を出さないこととベトナムから奪った島々を返還してからですよね。

      10
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    まともにとり合いたくないですが、一応事実関係を指摘しておきます。
    日本政府の対アジア外交は独自のものです。
    ASEAN諸国への経済支援を伴う平和外交、及び中国の軍事的脅威に晒されている諸国に防衛装備品・技術提供によって友好的協力関係を築こうと画策しています。
    これら諸国に対する軍事的協力政策は、中国の軍事力による一方的現状変更の動きを牽制するのが目的です。
    日本の場合、アジアでの孤立は軍事的経済的な敗北に繋がりますので、基本的にですが、全方位のwin-win関係構築を志向した外交政策をとっています。

    12
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    もし某C国に尖閣なんかを攻撃された時アメリカを上手く巻き込めないと日本もこうなってしまうかも

    6
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      「米国が犠牲を出しても守るべき同盟国は日本」ってシンクタンクの発言を引き出したのは成果と言うべき。

      12
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    そもそも、ナゴルノ・カラバフ地域はアゼルにとって、アルメニア人の自治区状態でも良かったけど、そことアルメニアを繋ぐラチン回廊のアゼル人を追放、殺害したのが、問題のきっかけで。
    永久解決するつもりならナゴルノ・カラバフ地域のアゼル人の追放しかない。

    2
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    アルメニアは民族浄化を回避できたら勝ちぐらいの考えで行かないともう無理

    3
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    本当にロシアの影響力って無くなったんだなぁって
    舎弟も守らないロシアと防衛協定を結ぶ意味ないじゃん
    ロシアの経済力なんてたかが知れているし、そいつらが頼みにしているのは軍事力なのにそれも使えないんじゃねぇ
    ロシアと懇意にする意味が無くなっちゃうよ

    6
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      何でアルメニアが勝手に侵略して占領している領域をロシアが
      出張って守らねばならんのだ?
      ましてアルメニア政府は占領地域は独立国であると喧伝してる
      のだがね?アルメニア領であるとすら主張していないw

      6
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    ロシアがクリミア半島でやってる事を
    アゼルバイジャンも真似て始めました。
    ってだけだしな、そりゃ非難もしづらかろう。

    10
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      先にアゼルバイジャンに対してやったのはアルメニアだしな。

      3
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      アゼルバイジャンとしてもそういう狙いがあったのは間違いないですね。
      ロシアは敵とすると面倒ですけど、味方にするととことん役に立たないなあ・・・。

      5
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      全然違うだろ
      ナゴルノ・カラバフは国際的にもアゼルバイジャン領で国際的にウクライナ領で
      あったクリミアのケースとはまるで話が違う

      5
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      そもそもロシアは以前より一貫してナゴルノ・カラバフをアゼルバイジャンに返せと繰り返している立場だぞ

      6
    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    この件はアルメニアを被害者と捉えると明後日な方向から見ることになるのだなと最近理解しました。

    かように遠地での紛争は理解しにくく、仮に今日本が竹島や北方四島を武力で取り戻しても、それまでの経緯を知らない他の国は「日本が侵略」という第一印象から始まるのでしょうね。だからこそ普段からの広報が大事なのだなと理解しました。

    4
      • 匿名
      • 2020年 11月 04日

      メディアの公平性(笑)に任せるのではなく、国民(特に無教養層)に分かりやすく、経緯や歴史から説明するような丁寧な広報が必要だと思いました。
      もっと予算かけるべきですね。

      5
      • 匿名
      • 2020年 11月 05日

      領土紛争は個々の歴史的背景があるんでどちらに正当性があるか一概には言えません。
      事前にどんな国内事情があったにせよ、アゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ地域を武力侵攻をもって占領し、独立宣言させたアルメニアにそもそもの非があった。実態的に同独立政府はアルメニアの傀儡政権と見做されたから国際承認を得ることができてこなかったのでしょう。
      アゼルバイジャンにしても国際的に見ても、今回の紛争はアルメニアによって不当に占拠された同地域の奪還戦という認識なのかと。
      戦闘継続の是非はまた別の問題です。

    • 匿名
    • 2020年 11月 04日

    この状況は、尖閣をめぐる日本としても、他山の石にしてはいけない。

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