欧州関連

ベルギーのF-35A追加調達、米国ではなくイタリアで生産された機体を希望

ベルギーはNATO加盟国間で合意された目標=GDP2.0%を達成するため、今後5年間で200億ユーロを超える追加資金を国防分野に投資する予定で、フランケン国防相は弾薬備蓄の少なさについて「戦争が始まれば数時間以内に弾丸や手榴弾を使い果たし、その場にある石を投げ始めなければならない」と述べた。

参考:Minister Theo Francken onthult voor het eerst bij HLN: “Ik heb gevraagd om extra F-35’s in Italië te produceren, niet in de VS”

注目すべきはカーメリで組み立てられたF-35Aの追加調達を希望している点

ベルギーでは5党連立のデウェーフェル政権が誕生、11日に5党間で「寛大だった難民政策の厳格」「手厚い失業給付金の制限」「国防予算の増額」を含むイースター協定が成立し、ベルギーはNATO加盟国間で合意された目標=GDP2.0%の国防投資を年内に達成するため40億ユーロの追加投資を行う予定で、Het Laatste Nieuwsの取材に応じたフランケン国防相は以下のように述べている。

出典:AUR Alianța pentru Unirea Românilor/Public Domain

HLN:デウェーフェル政権は国防支出を大幅に増加させる。これを貴方は『過去40年間で最大の国防投資』と呼んでいる。

これはベルギーにとって非常に重要な1歩だ。2014年のNATO首脳会議で約束したこと遂に実行するのだ。これは今後5年間で200億ユーロを超える国防投資となり、こうした大規模投資を歓迎しない軍人はいないだろし、首相にとって安心材料になるはずだ。もうトランプ大統領の怒りを恐れることなくNATO首脳会議に出席できるし、トランプ大統領もデウェーフェル首相に「役割を果たせ」と催促の電話を掛ける必要もない。NATO本部はベルギーに残るし、モンス近郊には欧州連合軍最高司令部とNCIAのための新しい施設が建設される。我々は再びNATOの忠実なパートナーとなったが、これで終わりではない。

出典:Donald J. Trump

HLN:貴方が言及した6月末のNATO首脳会議では旧水準より多くの拠出が求められることになる。トランプ大統領は加盟国の国防投資を5%、ルッテ事務総長は3%以上に引き上げることを提案しており、イースター協定は直ぐ時代遅れなものになるだろう

確かに6月末のNATO首脳会議で「旧目標を超える拠出」を求められるだろう。米国は5%を要求しているが、他の加盟国はそれより低い目標を望んでいる。加盟国の国防投資を何%にするかは交渉が必要だが、政権内では「要求される高い水準の目標も達成しなければならない」という点で合意している。我々に他の選択肢はなく、加盟国が外交的に合意し、これに政府首脳が署名すれば支持するしかない。唯一の問題は5年以内に引き上げるのか、10年以内に引き上げるのかで、それ次第で政権の取り組み方が変わるだろう。

もはや「そんなことは止めよう」「これまで通りのやり方を維持しよう」と考えるのは不可能だ。我々は全く弾薬を備蓄しておらず、戦争が始まれば数時間以内に弾丸や手榴弾を使い果たし、その場にある石を投げ始めなければならない。国内には多数の国際本部があるのに防空体制も整っておらず、こうした状況は終わりを迎えようとしている。我々は再び信頼される同盟国になった。

出典:U.S. Army Photo by Cpl. Geordan J. Tyquiengco, Operations Group, National Training Center

HLN:追加される資金を何に使うつもりなのか?

私が取り組むべき課題は「国防予算の増額」「戦略計画の策定」「人員の獲得」で1つ目は達成済みだ。戦略計画は7月1日までに策定され、この中で「増額された資金を何に投資するのか」が決まる。優先事項は防空、戦闘機、無人機、第2旅団、そして何よりも重要なのは大量の弾薬だ。NATOの要求を満たすなら今後数年間だけでも110億ユーロ分の弾薬調達が必要になり、これだけで増額された予算の半分が消える計算だ。人員を増やすには仕事の魅力を高める措置が必要で、そのための社会的な合意形成に取り組んでいる

HLN:追加の戦闘機はF-35か?他の国はトランプ大統領の復帰で発注を迷っている。

我が国の空軍は規模が小さいため2種類目の戦闘機を購入するつもりはない。但し、我々は追加調達するF-35を米国のフォートワースではなくイタリアのカーメリで生産できないか調査している。もしカーメリで生産できれば欧州の雇用創設に貢献できるだろう。追加調達にはベルギー企業に対する追加の経済的補償や雇用についても協議しなければならない。

出典:Belfius

HLN:イースター協定否定派は国防予算の増額の批判的だ。この増額は主に一時的な収入、凍結されたロシア資産から徴収する法人税やベルフィウス上場の特別配当などで賄われており、安定的で構造的な資金調達計画がない。

凍結されたロシア資産から徴収する法人税は一過性の収入ではない。凍結が解除されるまで法人税は発生し続ける。ベルフィウスにも特別配当を2回要求するつもりで計10億ユーロになる。さらに支出も徹底的に精査するつもりだ。既存の支出の中からNATOに請求できるもの、政府の安全な通信手段、宇宙分野への投資、軍人年金などだ。多くの国民が兵役の対価として受け取っている僅かな年金は国防分野の投資にカウントされていない。さらに港湾、道路、橋といったインフラ投資の一部も国防分野の投資に含めたい。結局のところインフラへの投資はイネーブルメント、つまり戦時における部隊や装備の移動にも役立つからだ

出典:European Defence Agency

HLN:それでも不足する資金を確保するため、政府は今年20億ユーロの借金をする。我が国は既に多くの負債を抱えているのにだ。

確かに政府は20億ユーロの借り入れを行うものの、GDPが債務を上回るペースで増加しているため、全体の債務比率が上昇することはない。EUも財政目標に影響を与えることなく国防資金の借り入れを認めている。但し、これは欧州の協力(欧州域内での調達)が条件となる

出典:Ministerie van Buitenlandse Zaken/Attribution-ShareAlike 2.0 Generic

HLN:財政赤字は大きな額になっているのだがら、国防のための構造的な財源を確保したほうが良い。貴方自身も社会保障の削減に言及して連立を組む他の政党から歓迎されなかった。

我々は200億ユーロを超える歴史的な協定を締結して国防力を強化している。私の要請によって投資額は2.0%までに抑えられ、それ以上の投資については未定でNATO首脳会談の結果待ちだ。秋には2026年度の予算が編成され、NATO加盟国間で合意された基準引き上げと構造的な財源に関する議論が行われるはずだ。予算審議では常に政治的左右の議論があり、国際情勢も貿易戦争やウクライナ戦争など予測不可能な状況だ。

注目すべきはカーメリで組み立てられたF-35Aの追加調達を希望している点で、これは「トランプ政権への不信表明」ではなく「カーメリで組み立てられたF-35Aが欧州で製造された航空機として認められれば、F-35A調達資金を条件の良いEU融資から引き出せるかもしれない」という意味だが、まだ1,500億ユーロの融資プログラムは正式決定されておらず、フランケン国防相が言うように状況は流動的だ。

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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

  • コメント (14)

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    • 全てF-35B
    • 2025年 4月 15日

    F-35は便利な戦闘機だな。
    生産国も選べるのか。

    17
    • もへもへ
    • 2025年 4月 15日

    >凍結されたロシア資産から徴収する法人税は一過性の収入ではない。

    資産の凍結と利子の流用だけじゃなくてそれに法人税も徴収してたんだ。
    もはや停戦になってもこの凍結資産は凍結解除できないですね。
    その収入を当てにしてるとのことなので、いろんな理屈を並べて凍結解除を反対しないと、国民負担が増えてしまう。
    凍結資産はウクライナへの賠償に使う為に接収すると言って、一旦ウクライナに渡してそれを今までの援助の対価と言って欧州側が回収するという流れであれば今まで通り凍結資産を使える。

    流石頭が良いですね。
    西欧は。

    29
      • 皇道派
      • 2025年 4月 15日

      やっちゃ駄目だろって言われてたのにごっそり着服しまくってて、盗人猛々しいとはまさにこれだなぁと思っちゃいますね

      30
        • ななし
        • 2025年 4月 15日

        ナチスに収容所に入ったユダヤ人の預金をそのまま没収したスイスとかね

        16
          • 特盛
          • 2025年 4月 15日

          それは話が違う。
          預金の所有者、相続者が全て亡くなっている場合はどうしようもない。

          12
    • 溜池
    • 2025年 4月 15日

    正直・・・欧州は気楽でいいですね。
    結局アメリカの盾が本気で無くなるとは思ってない。

    トランプが自衛に金使わないと怒るから使ってやるよ、程度。
    実際にアメリカ抜きで防衛することがいかに困難か、全く考えていない。

    台湾がわかりやすいが、結局いざとなった時に中露と対峙できる国はアメリカ以外に存在しない。
    アメリカがまた政権が変われば元通りになると思ってるのだろうが、アメリカ人もめちゃくちゃやったトランプで得られた旨みがあればそれは忘れない。

    米国の盾はこれまでよりも高くつくようになる、それだけは確か。
    欧州が日本やオーストラリア、台湾を助けに来ることは決してないのがわかっているから、
    これらの国はトランプ相手でもなんとかうまくやろうとしている。

    F-35もわざわざイタリア産がいいなんて今の段階で言うのは単にベルギーの国内世論をまとめたいだけで、
    トランプからしたらまたアメリカの美味しいところどりするのかと関係悪化するだろうに。

    トランプのめちゃくちゃで唯一良かったのは、ウクライナ問題でも見えていたが欧州の防衛がハリボテで、
    米国の傘なしには成り立たないものであるということ。
    それでいてプライドだけはご立派。

    31
      • 2025年 4月 15日

      ミリタリーバランス2020より引用のフランス軍の対空ミサイル配備状況
      陸軍
      ・Mistral…数不明(91携SAMに相当)
      空軍
      ・SAMP/T…8基(03中SAMに相当)
      ・クロタルNG…12基(81短SAMに相当)

      これに対して、自衛隊は
      陸自
      ・03中SAM…43基
      ・改良ホーク…120基
      ・11・81短SAM…51基
      ・93近SAM…113基
      ・91携SAM…数不明
      ・87AW…52両
      空自
      ・PAC-2・PAC-3…120基
      ・81短SAM…数不明
      ・VADS 20mm対空機関砲…数不明

      21
        • 無印
        • 2025年 4月 15日

        おぉ、陸自頑張ってますね、と言うかフランスが貧弱過ぎるのかな
        ただ中SAMと11式短SAM以外は、冷戦時代の物を使っているのが泣き所と言った所でしょうか
        93式近SAMはこんなにあるのに、使うの止めるってもったいないなー

        17
          • 名無し
          • 2025年 4月 15日

          この度のロシアによる侵略でも、冷戦時代のSAMが活躍しているし
          PAC2、PAC3はアップデートし続けているので
          特に問題ではないでしょう。ホークは流石にどうなんだろうとは思うけど

          自衛隊の地対空装備の充実具合はかなりのもんですが
          フランスは貧弱どころではないですね。核兵器と空母であらかた予算もってかれているのでしょうか

          3
    • たむごん
    • 2025年 4月 15日

    凍結されたロシア資産から徴収する法人税ですか。

    ベルギーは、ユーロクリアがあるため、国の規模に対してロシア凍結資産が大きいのでしょうね。

    欧州がウクライナ支援の対価として接収するのか、停戦交渉に凍結資産の返還が入るか分かりませんが、ウクライナにロシア凍結資産100%分が行き渡ることはなさそうですね。

    9
    • DEEPBLUE
    • 2025年 4月 15日

    計画の額面では共同相手な筈のイギリスの存在感の薄さよ

    2
    • ブルーピーコック
    • 2025年 4月 15日

    組み立てが欧州なら欧州機とか、そんな業務用スーパーの『国内工場製』の加工肉製品じゃないんだから

    16
      • バーナーキング
      • 2025年 4月 15日

      「EU域内やウクライナなどで設立され、域外国の支配を受けない企業から調達することが原則として義務付けられる」…アウトな気がしますねぇ…。

      13
      • a.k
      • 2025年 4月 15日

      むしろ南米や東南アジアで作った服に、イタリアでボタンを付けて仕上げればそれはイタリア製高級ブランドです。
      的な感じ?

      8
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