欧州関連

英国がF-35Aと戦術核兵器の取得を検討、戦闘艦も14隻から25隻に増強

英国のスターマー政権は国防戦略の見直しを2日に発表する予定で、Timesは31日「政府がF-35Aと戦術核兵器=B61の取得を検討している」「この措置は英国の核抑止政策において最大の転換点になる」と報じたが、それでも見直しの中心はドローンと防衛産業の復興になるらしい。

参考:British fighter jets to carry nuclear bombs

これまで収集してきた知見を国防戦略の見直しで答え合わせ出来るのが楽しみだ

英国のスターマー政権は国防戦略の見直しを2日に発表する予定で、Timesは先月21日「国防戦略の見直しでは『20-40-40』と呼ばれる新しい戦闘教義が提示され、これは兵士の死傷者を減らすことを目的にしている」「敵と交戦する能力の80%が無人戦力によって提供されるようになる」と、Telegraphも30日「砲弾・爆薬の生産に15億ポンドを投資する計画を月曜日に発表する」「長距離攻撃兵器の7,000発購入も約束する」「国防戦略の見直しにおける主要な対策の1つには弾薬供給体制を『常時稼働』に切り替えることが挙げられる」「戦争勃発に備えて生産能力を大幅に拡張できる兵器工場を少なくとも6つ建設する予定だ」と報じた。

出典:MBDA

Sky Newsは長距離攻撃兵器の7,000発購入について「具体的に何を購入するか明かされていないが、この数字は長距離ミサイル、ロケット弾、ドローンなど含めたものだと思われる」と報じており、国防戦略の見直しには「若者の入隊を促すため学校で英軍の価値観を教えること」「発電所や空港など重要インフラを攻撃から保護するため第二次大戦時のようなHome Guard=民兵組織の創設」も提案されているらしいが、Timesは31日「政府がF-35Aと戦術核兵器=B61の取得を検討している」「この措置は英国の核抑止政策において最大の転換点になる」と報じて注目を集めている。

Timesは国防戦略の見直しが設定する目標について「軍需品の備蓄補充に60億ポンドを投資」「内15億ポンドを砲弾・爆薬工場の新設に投資」「弾道ミサイルの脅威から英国を守るための新たな防衛ライン構築」「国内のインフラを保護するためHome Guardの再創設」「造船業の復活と駆逐艦とフリゲート艦の数を14隻から25隻に増強」「海底ケーブルやパイプラインを保護するAtlantic Bastion計画の推進」「新兵獲得のための対策」「長期的な軍隊の規模拡大」などを挙げた。

出典:U.S. Air Force photo by Trevor Cokley

“国防戦略の見直しの中で具体的な「空からの核兵器投射能力」について言及していないものの「NATOの共同核抑止に対する英国の貢献度を拡大すべきだ」と提言しており、ヒーリー国防相は「F-35Aと戦術核兵器の取得協議」についてコメントを避けたが、それでも「英国は新たな脅威の時代に適応しなければならない」と認め「世界が直面しているリスクは確実に拡大している」「確実に核リスクが高まっている」「我々が国家間の紛争に巻き込まれるリスクが高まっている」「ウクライナから得た教訓は『軍隊の能力と強さは国内産業の強さに等しい』ということだ」と述べた”

“英国はヴァンガード級原潜計画を推進してV爆撃機(ヴァリアント、バルカン、ヴィクター)を廃止したため、核兵器を発射できるプラットホームが1つしかなく、ロシアが核兵器によるエスカレーションを繰り返しためNATO加盟国の東欧諸国で戦術核兵器を使用する可能性が高まっている。この行為は確実に第5条発動条件を満たすためNATOと戦争を誘発するが、戦術核兵器による攻撃が全面的な核報復を誘発するかどうかは未知数だ”

“戦術核兵器の攻撃に都市をまるごと壊滅させるようなヴァンガード級のSLBMで対応すれば本格的な核戦争を招く危険があり、軍上層部は「ロシアを効果的に抑止するため英国も戦術核兵器を保有すべきだ」「戦術核兵器と戦略核兵器を保有することは強度の異なるロシアの挑発に必要不可欠だ」と考えている。政府高官らはF-35Bよりも航続距離が長く、B61を統合されているF-35Aの取得を検討しているものの、戦術核兵器を運搬するプラットホームについては他の航空機も検討している可能性が高い”

英国が国防戦略の見直しの中で「明確な戦術核兵器の取得」を追求してくるかは不明だが、Timesの取材に応じたヒーリー国防相は「国防戦略の見直しの中心はドローンと防衛産業の復興になる」「ウクライナとロシアの戦争は西側諸国の武器備蓄を許容できないレベルまで枯渇させ、ウクライナに提供した武器を迅速に補充できない国内産業の問題も浮き彫りにした」「将来の戦いはドローンが中心になるはずだが、ここでも従来のように同じ種類のシステムを延々と調達できない」と指摘しているのが興味深い。

出典:Сухопутні війська ЗС України

Timesは「ロシアが無人機運用を妨害する技術を次々と投入してくるため、ウクライナは数週間毎に全く新しいタイプのドローンを生産しなければならない」と述べ、ヒーリー国防相も「これはイノベーションと生産拡張だけの問題ではない」「これは産業力の強さに関する問題だ」と指摘し、戦争が短期戦ではなく長期戦になればなるほど戦前に準備していたシステムの効率が落ちるため、同じものを大量に生産する能力と同じぐらい「柔軟な適応力をもつ産業力が重要だ」と言いたいのだろう。

これまでウクライナとロシアの戦争を通じて戦術やテクノロジーの変化や問題点を収集してきたが、これを国防戦略の見直しで答え合わせ出来るのを個人的に楽しみしている。

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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

  • コメント (13)

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    • SB
    • 2025年 6月 02日

    航空機や弾薬はともかく造船業は茨の道だろうな
    26型だったかな、イギリスメディアに「日本のもがみ型は1年に2隻も建造されるそうだ、すごいね。ところで我が国はこのn年で何隻フリゲートを建造したんだい?」って煽られてたの

    31
    • B61
    • 2025年 6月 02日

    B61戦術核爆弾の価格が約3000万ドル、日本が米国から購入し
    F35Aに搭載すれば非常に低コストで核抑止力構築が可能です
    国民の莫大な税金を使って専守防衛など経済破綻でしょう
    法治国家を名乗るのなら当然ながら憲法9条の改正が必要です

    15
      • 他人事では無い
      • 2025年 6月 02日

      買っても、管理はアメリカ。

      9
    • たむごん
    • 2025年 6月 02日

    造船業の復活といっても、日本は衰退したと言われてきましたが10%程度、イギリスが3%程度になっているわけですがどうなんでしょうね。

    イギリス最後の高炉が、中国企業に命運を握られていたなか環境政策(!)により閉鎖する話しが浮上、国が保護する話しがでてましたがどうなるのかなあと。

    (2025年3月28 ブリティッシュ・スチール親会社、英国で最後の高炉閉鎖へ-赤字続き bloomberg)
    (2025年4月14日 英下院、ブリティッシュ・スチールの政府管理を全会一致で可決 ロイター)

    10
    • kitty
    • 2025年 6月 02日

    英国「よし、F-35で核シェアリングだ!」 ただし、Block4に限るw。

    6
    • 58式素人
    • 2025年 6月 02日

    「弾道ミサイルの脅威から英国を守るための新たな防衛ライン構築」
    どのように実現するのかな?。
    素人などには、イージス・アショアくらいしか思い浮かばないのだけれど。
    簡単に実行しようとすれば、現在退役しつつある米国のタイコンデロガ級の
    武装を譲ってもらうしかないのかな。古いだろうけれど、当面の対策として。
    更新はおいおいに行うものとして。
    自前でやろうとすれば、SM3/6に相当するミサイルの開発が必要だろうし。

    • a.k
    • 2025年 6月 02日

    >「敵と交戦する能力の80%が無人戦力によって提供されるようになる」

    ドローンと遠隔操縦システムによって「前線から兵士の姿が消える」という事になれば、それはイコール「後方の都市や軍事拠点をお互いに無人機で叩き合うという直接的な第一次攻撃目標になり、戦場における前線という概念が喪失する」とまで行きそうな予感がします。
    さらにはそこに戦術核が普通に用意される場合は、交戦国にとってはもはや後方という安全地帯の無い地獄になりそうな未来が来るかもしれません。

    まあ都市制圧は歩兵がいないと不可能なので、その辺りは不可欠で無くなりはしないんでしょうけど。

    3
      • elmoelmo
      • 2025年 6月 02日

      > 都市制圧

      二足または四足で歩行して建造物内部まで侵入し、AIで敵と識別した対象に銃撃を行うロボットが徘徊する地獄が来るかも…。

      4
        • kitty
        • 2025年 6月 02日

        刃の付いた回転円盤バグで十分なのでは。電池切れする直前に自爆。

        3
    • DEEPBLUE
    • 2025年 6月 02日

    日本も戦術核はオプションとして保有したいですねえ。もちろん先制不使用宣言した上で。

    3
      • kitty
      • 2025年 6月 02日

      日本の場合、戦術核持っても何の役にも立たないです。

      6
        • 2025年 6月 02日

        参考になるのは北朝鮮でしょうか

      • 下僕
      • 2025年 6月 03日

      日本が戦術核を保有するのは通常兵力の劣勢を一挙に挽回する起死回生策以外にないと思います。従って先制使用はマストでなければならないと考えます。

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