ウクライナ戦況

空からの攻撃に依存する英国、航空戦力が拒否されたウクライナでの戦い

英空軍参謀総長のマイク・ウィグストン大将は13日、3年に渡る実験でドローン群によるスウォーム攻撃は『敵の防空網を混乱させ圧倒できる』と確信を得たと明かし注目を集めている。

参考:Britain’s Royal Air Force chief says drone swarms ready to crack enemy defenses

航空作戦における有人戦闘機のハブ化は今以上のスピードで進むのかもしれない

米国を始めとする西側諸国は「地上目標を空から攻撃する戦術」に依存してきたため第4世代や第5世代の技術に巨額の資金を投資してきたが、13日に開幕したGlobal Air&Space Chiefs’ Conferenceに出席した英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク氏は「ウクライナの戦いで両軍の航空戦力が拒否された事実は英国や西側諸国にとって重大な意味をもつ」と語り注目を集めている。

出典:Командування Повітряних Сил ЗСУ

ブロンク氏は「ウクライナ軍とロシア軍の防空能力が互いの航空戦力を機能できなくしてしまい、両軍とも大砲や膨大な兵力など地上ベースの戦力に依存している。この事実は空からの攻撃に依存する英国や西側諸国にとって重大な意味を持ち、如何に航空戦力が安全に交戦空域を飛行できる環境を確保するかが課題になってくる」と指摘し、費用対効果の優れた方法で敵の防空能力を無効化するには「圧倒的なドローン群によるスウォーム攻撃」が効果的だと主張した。

英空軍参謀総長のマイク・ウィグストン大将も「最も過酷な空域で戦い勝利することを求められるFCASプログラム(将来戦闘航空システム)は群れで飛ぶドローン、無人の戦闘機、テンペストのような次世代の有人戦闘機で構成することを検討しており、3年に渡る実験でドローン群によるスウォーム攻撃は『敵の防空網を混乱させ圧倒できる』と確信を得た。しかもこのコンセプトは今直ぐにでも実行に移せる」と述べているのが興味深い。

出典:Royal Air Force

さらにウィグストン大将は「F-35やタイフーンと無人戦闘機の組み合わせについても引き続き検討作業を進めている。2023年に初飛行が予定されていたモスキート・プログラム(無人戦闘機の技術実証機開発・製造)から多くのことを学ぶことができたが、我々がモスキートをキャンセルしたのは『もっと早く実用化できるシステム』に焦点をあてるべきだと判断したからだ」と明かしている。

この問題を整理すると「ウクライナの戦いでロシア軍の航空戦力が活動できないのは防空網制圧に失敗したからだとか、大規模で複雑な航空作戦の立案・実行能力が劣っているからで、米国やNATOならウクライナ軍相手にロシア軍のような失態は演じない」という次元の話ではなく、ウクライナ軍レベルの防空能力と大量に配備されたMANPADSでロシア空軍の航空作戦を抑制できる=費用対効果が悪すぎて割に合わない状況を作り出せる事実を見た多くの国は「近代的な防空システムによる接近拒否強化」に走るのは確実だ。

出典:Lockheed Martin

さらに言えばウクライナの戦いを見た中国は「A2/AD戦略の有効性」を実感した可能性が高く、高度な防空システムが今以上に張り巡らされると「大規模編成になることが多い有人機による敵防空制圧ミッションの作戦コストは成果と損失に見合うのか?」という問題に直面し、空からの攻撃に依存する西側諸国は「如何に交戦空域での安全を低コストかつ低リスクで確保できるか=無人戦闘機やドローン群によるスウォーム攻撃が重要になってくる」と言いたいのだろう。

モスキートを2023年に飛ばして無人戦闘機「ランカ」を2030年より前に実用化する計画を「もっと早く実用化できるシステムに焦点をあてるべき」と理由でキャンセルしたのも、もっと早く有人機のF-35やタイフーンを「リスクから遠ざける必要がある」と判断したからであり、航空作戦における有人戦闘機のハブ化は今以上のスピードで進むのかもしれない。

出典:Lockheed Martin Common Multi-Mission Truck

因みにブロンク氏は「ドローンで敵防空網を圧倒するアイデアは、小型ドローンのスピードと航続距離が不足しているため今のままでは実現不可能かもしれない」と指摘しており、これを実現するならジェットエンジンを搭載したドローンを前線まで運搬して射出しなければならず「本当に敵防空制圧ミッションを安価で実行できるのか疑問が残る」とも述べている。

関連記事:ロッキード・マーティン、独自に有人・無人チーミングの概念を発表
関連記事:英国防省、無人戦闘機の技術実証機「モスキート」製造をキャンセル

 

※アイキャッチ画像の出典:Air Force Research Laboratory

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コメント

    • ウツボ
    • 2022年 7月 15日

    こういった分野でもイギリスと協力できるといいんだけれど、有人機と違って日本がイギリスに提供できる技術が思いつかない。日本が反撃能力を保有して敵地へ航空戦力を投射することになるかはわからないけれど、占領された離島に防空システムを置かれた場合に、制圧作戦をローリスクで遂行できるようになってほしい。

    22
    • daishi
    • 2022年 7月 15日

    防空システムの進化によるA2/ADの高度化に対抗するためには従来の有人機による作戦は困難で無人機を活用したトランスフォーメーションが求められている状況、という示唆ですね。
    同時に無人機の航続距離や巡航速度と言った課題もありますから、これからどのようにシステムを構築していくのかに注目したいです。

    14
    • 無無
    • 2022年 7月 15日

    自衛隊もミサイルによるハリネズミ防衛論を研究せんとならんのかな
    自国防衛に割りきれば無いこともないか

    2
      • ナイトアウル
      • 2022年 7月 15日

       一応、陸自ですら対空ミサイルの種類においては近距離から遠距離まで一通りカバーはしているがロシアや中国とかみたいにS−400みたいなレンジのミサイルが無いのをどう考えるか。
       射撃と探知の分離とかは冷戦期からでもやってたし、
      外国から見たら少々厄介な防空にはなっていると思うが最近の事情にはマッチはしてないと思う。

      18
    • あばばばば
    • 2022年 7月 15日

    自己進化・自己再生・自己再生機能は欲しいよね
    スウォ-ムの意思決定のAI化とバイオマス変換技術も必要となってくるだろう

    2
    • 成層圏
    • 2022年 7月 15日

    結局、物量の多いほうが勝つってことか。
    ミサイルの飽和攻撃と同じか。
    (違いはUAVの方が安いことかな)

    16
    • k.ziro
    • 2022年 7月 15日

    何回か書いたけどガチで現実がヤッターマンのメカ戦じみてきた

    23
    • hogehoge
    • 2022年 7月 15日

    スウォーム攻撃はステルス戦闘機が眼となり、中大型輸送機が遠距離から大量投下する方式がメインになるだろうと予測してますね。

    これは典型的な飽和戦術です。 相手の対処能力を瞬間的にでも上回るには速度×物量となります。
    陸上や船舶からの射出では部隊展開速度が問題となり、輸送機使わない場合にはUAVの大型化により数量という物量が確保できなくなる。

    というわけで、C2輸送機もっと増やしましょう。海自もC130R後継にC2採用しましょう。
    輸送機が対艦攻撃の飽和戦術主力となる時代が来るかもしれません。

    17
    • 折口
    • 2022年 7月 15日

    そういえばモスキートプログラムは見直しになったんですよね。ロウ戦争の戦訓から英空軍の将来戦闘機計画への認識が変わったことも、テンペストプログラムと日本の次期戦闘機の統合の背景になってたりするんですかね。

    1
      • 投石器
      • 2022年 7月 17日

      あるかもしれませんね
      安価小型多数のドローンによる飽和攻撃が主流になるとすれば、イギリスの敵もそうなる訳で
      テンペストのような微妙なサイズの機体よりも、F3のような武器搭載量と滞空時間に目一杯ゆとりを持たせた機体の方が対処しやすいでしょうし

    • uta
    • 2022年 7月 15日

    『武器が語る日本史』て本の200p辺りを読んでるのだけど、槍の騎馬を恐れてた銃装備の歩兵はやがて銃の性能向上により主敵は互いに銃となり、300m以内で対峙するには塹壕など遮蔽物に身を隠す以外に安全が確保出来なくなった(趣意)興味深かった。同じ兵器でも、些細な工夫でゲームチェンジャーになり得る。600m先を射撃出来る性能より、400m迄に見切って弾数を増やした方が良いなど、思考の転換が戦局を変えるんだなと、そしてそれはウ国のジャベリン戦法などにも言えるなー、と思いました。

    6
    • 暇人28万号
    • 2022年 7月 15日

    本当は、日本が無人機に一番取り組んだ方が良いのではと思うけど周回遅れ気味な感じが、、。
    何言ってるんだにわかめ!そんなことないぜって反論があれば、私としては嬉しいまである

    8
      • くれくれ
      • 2022年 7月 15日

      その分野、仮想敵の中国に勝てなさそうなのが…
      人的資源が明確に負けてる以上無人化が必須なのはわかるんだけどね

      6
    • トーリスガーリン
    • 2022年 7月 15日

    幸いというべきか陸自の防空システムはわりと充実しているので、あとは整備部品と弾薬の備蓄をもっと増やしつつ更新速度を上げればまぁまぁよさげではあるよね(それが出来ればな!

    もし海外の防空システムマーケットが拡大していくなら11式とか売り込みの余地あったりするのかな?
    結構激戦分野な気がするが

    11
    •     
    • 2022年 7月 15日

    西側と違い、ロシアはSAM制圧する能力が無いってだけだと思うけど

    西側は湾岸戦争時点で空中発射デコイを数百発も使用
    曳航式デコイを使用するようになってからは損害激減
    対レーダーミサイルも豊富
    電子戦能力も高い
    サザンウォッチ、ノーザンウォッチ作戦では百回以上攻撃されて損失ゼロ
    ジャギュアでさえ落とされていない

    実戦となれば防空システム粉砕できるでしょ

    2
      • 匿名
      • 2022年 7月 15日

      西側っつーかSEADは米空軍しかできん

      5
      • 千葉の猫
      • 2022年 7月 16日

      ロシアも彼らの言うところの特別軍事作戦の劈頭にSEADやったんだよ
      100を超える多数のミサイル他使って捜索レーダーやSAMに航空基地等々攻撃したよ
      でもロシア空軍の防空と対地支援を重視した成り立ち故かSEADが活発だったのは劈頭の短期間だけで
      ウクライナの防空網は生き残ったし西側のISR支援他もあっていまだ稼働し続けてると

      既に言われてるけど一時的なSEADだけじゃなく継続して制圧というのは
      機体とミサイル以外にもISRやその評価含めて大量のリソースが必要なので
      長期にわたって広域で実施できるのは米軍位ではなかろうかと

      5
    • 2022年 7月 16日

    中国は森林中での小型ドローンの自律スウォーム飛行に成功。
    地形の利を活かそうと、台湾軍や自衛隊が山に逃れ隠れて徹底抗戦しようにも
    超大国中華人民共和国の前では丸裸、まったくの無意味なんだね。

    • 寡聞にして”森林中での小型ドローンの自律スウォーム飛行に成功”の事例を知らなかったものでぜひとも紹介いただけないだろうか?
      当然プリプログラミングじゃないし遠隔でもないやつで且つ群体行動ね
      あと敵の識別できるのかね?
      ターミネーターの世界みたいに味方以外全部殺していきますみたいな代物だと困るよ?

      単に森林の中を障害物を自力でよけて飛行するだけなら普通にやってるので(リンク先参照)

      2
    • 投石器
    • 2022年 7月 17日

    この環境変化を目の当たりにすると、アメリカが開発にも大量配備にも巨費を投じて高性能ステルス爆撃機(F35)を揃えてきた理由も解りますね
    あれならSAMの針の筵でも相当空爆出来るでしょうから、大した先見の明です

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