英国のスターマー政権は国防戦略の見直しを2日に発表する予定で、Telegraphは30日「英国は新たな砲弾・弾薬工場に15億ポンドを投資して戦争準備を整える」「弾薬供給体制を『常時稼働』に切り替える」「長距離攻撃兵器の7,000発購入も約束する」と報じた。
参考:Britain to be ‘war-ready’ with £1.5bn for new bomb factories
参考:UK to build weapons factories and buy thousands of missiles in £1.5bn push to rearm
追加の国防支出は大半が国内に投資されるため英国人に良い雇用をもたらす
英国のスターマー政権は国防戦略の見直しを2日に発表する予定で、Timesは先月21日国防戦略の見直しでは『20-40-40』と呼ばれる新しい戦闘教義が提示され、これは兵士の死傷者を減らすことを目的にしている」と報じた。

出典:British Army
“無人化技術を取り入れた新しい概念の下で戦車など重装備が提供する能力は全体の20%に過ぎず、この能力は戦闘の後半まで最前線から離れた場所に配置される。精密誘導兵器、自爆型無人機、徘徊型弾薬、ドローン、砲弾など使い捨てシステムが提供する能力が40%、残りの40%はMQ-9など使い捨てシステムよりも高価だが消耗も可能=再利用可能な偵察もしくは攻撃可能な無人機が提供する能力だ。チャレンジ3に乗り込む兵士も自爆型無人機を運用する”
“この大胆な改革はウクライナとロシアの戦いから得られた教訓に基づいており、国防省によればロシア軍はウクライナ軍がドローン攻撃で効率的に装備を破壊するため、戦場で重装備ではなくバイクを使用するようになったと言う。さらにウクライナのザゴロドニュク元国防相はNew York Timesの取材に「最近の前線は10km~30kmの深さを双方がドローンによって制御している」「この深さの霧は完全に晴れている」と語っており、国防戦略の見直しはドローン、自律性、AIに焦点を当てて従来の戦力を強化することが目的だ”

出典:Ministry of Defence UK
Timesが言及した「敵と交戦する能力の80%を無人戦力が提供する」という内容は見直しの一部に過ぎず、Telegraphも30日「ヒーリー国防相が砲弾・爆薬の生産に15億ポンド=約2,900億円を投資する計画を月曜日に発表する」「長距離攻撃兵器の7,000発購入も約束する」「国防戦略の見直しにおける主要な対策の1つには弾薬供給体制を『常時稼働』に切り替えることが挙げられる」「戦争勃発に備えて生産能力を大幅に拡張できる兵器工場を少なくとも6つ建設する予定だ」と報じている。
要するに「生産能力の拡張を前提にした6つの新工場を常時稼働させ、もし戦争が勃発すれば生産能力を拡張させてニーズを満たせるよう準備する」という意味で、スターマー政権は2月「2027年4月までに国防支出を現在の2.26%から2.5%に引き上げる」と、先週には「次の選挙で労働党が勝利すれば国防支出は2034年までに3.0%へ引き上げられる」と言及、これらの増額分は対外援助の削減(年間60億ポンド=約1.1兆円)と財務省がもつ予備資金(約768.7億ポンド=約15兆円)から賄われる計画だ。

出典:Number 10/OGL 3
リーブス財務相は2027年までに2.5%を達成するため追加支出=年64億ポンドについて「資金の大半が国内に投資されるため英国人に良い雇用をもたらす」「強力な経済には強力な防衛力が必要で武器の投資と国内雇用は密接に関連している」「熟練労働者の雇用を創設することで経済も活性化される」と説明しているが、次の10年間=2034年までに3.0%を達成するには年173億ポンド=約3.3兆円の追加支出が費用で、6月末のNATO首脳会議では総額5.0%(国防支出3.5%+軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%)基準が採用される可能性が高い。
恐らく国防戦略の見直しは国防支出3.5%に対応していない可能性が高く、軍事インフラとしても活用できる分野への投資と合わせて政治的議論が必要になるだろう。

出典:NATO
因みにTelegraphは「若者の入隊を促すため学校で英軍の価値観を教えること、発電所や空港など重要インフラを攻撃から保護するため第二次大戦時のようなHome Guard=民兵組織の創設も国防戦略の見直しの中で提案されている」と言及している。
追記:Sky Newsは長距離攻撃兵器の7,000発購入の中身について「具体的に何を購入するか明かされていないが、この数字は長距離ミサイル、ロケット弾、ドローンなど含めたものだと思われる」と報じている。
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※アイキャッチ画像の出典:MBDA
イギリス(島国)が、近辺の隣国に大きな脅威がないのに、民兵組織を構想しているのは非常に興味深く感じます。
日本は、日本海側だけでも複数の原子力発電所・空港があるわけですから、欧米を見習えであれば議論は必要かもしれませんね。
前線歩兵は必ず必要になるわけで、ドローンの交戦距離10km~30km・戦場の霧が晴れたということは、前線歩兵の環境が本当に過酷になったなと…
本気で国防考えるなら国内サプライチェーン構築は絶対条件だよなぁ
GCAPにCCAでこれからガッツリ関わるし、その他ミサイル開発でも既に協力したことのある日英ですから弾薬生産分野でも一緒にできると良いんですけどね
島嶼防衛用高速滑空弾とか生産数増やすためにも売り込めないものか…
英国はMBDA.UKのミサイル開発能力に投資しているので、この資金に手を出すなら三菱重工業が英国法人を立ち上げて英国人労働者を雇用し、英国のこの分野への投資が自国の雇用と経済に寄与するというアプローチを取らないと無理でしょうね。
因みに英国はCCAについて独自の計画と開発を進めていて、この分野の協力相手は日本やイタリアではなくドイツです。
うぉ、返信ありがとうございます。
いつも記事読ませていただいています。
そもそもが戦時の弾薬供給を国内で補えるようにする為の施策なわけで、他国が参入しようとするならば現地に根付いて取り組むしかないですからね…。
CCAについては個別案件でという前提を忘れておりました(;・∀・)
BAEに吸収されちゃったロイヤル・オードナンス復活するんです?
戦車など重装備は全体の20%程度か。「ロシアとウクライナの戦争ではそうだった。だが今は違う!」みたいな未来にならんといいが。