欧州関連

英国のナイトフォール計画、正体はウクライナ支援用の新型戦術弾道ミサイル

英国防省は2025年8月にナイトフォール計画に関する情報提供依頼書を発行して「新型戦術弾道ミサイル」を要求していたが、11日「これはウクライナ支援用の新型戦術弾道ミサイル(射程500km以上)で、開発に向けたコンペティションを開始した」と発表した。

参考:UK to develop new deep strike ballistic missile for Ukraine

RFI発行時よりも調達コストの上限がアップしているものの「約1.5億円」という数字は戦術弾道ミサイルとして非常に安価

英国防省は2025年8月にナイトフォール計画に関する情報提供依頼書(RFI)を発行し、移動式プラットフォームから発射可能で「基本的な弾道軌道」に加え「ある程度の機動性」を備えた射程600km以上の戦術弾道ミサイルを要求して注目を集めたことがある。

出典:Photo by John Hamilton

他にも移動式プラットフォームに2発搭載できること、GPS信号が劣化する環境下で作動可能なナビゲーションシステムを備えていること、約300kgの弾頭を運搬できること、将来の契約締結に備えて最低でも月10発の生産が可能なこと、必要に応じて生産量を拡張できること、調達コストが1発あたり50万ポンド(弾頭・発射装置・開発費用を除く)に収まること、テスト用ユニット5発を9ヶ月~12ヶ月以内に準備できること、海外技術への依存を最小限にすること、理想的には外国政府からの制限を一切受けないアップグレード可能な設計=ITAR Freeであることを要求。

M270、HIMARS、Chunmooを運用するNATO加盟国の一部はATACMSやCTM-290を導入しているため、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)の規制に引っかからない射程300km以下の戦術弾道ミサイルを保有しているものの、英国はM270向けにATACMSを導入しておらず、ATACMSの後継として開発されたPrSMを導入する見込みで、英国がナイトフォール計画を通じて独自の戦術弾道ミサイルを取得すれば「移動式の防空システムや弾道ミサイルなど『一刻を争う目標』への攻撃に適した兵器が充実することになる」と思われたが、どうやらナイトフォール計画はウクライナ向けらしい。

出典:Lockheed Martin

英国防省は11日「英国はプーチンの武力から自国を守るウクライナの火力を強化するため、新型の戦術弾道ミサイルを開発する」「英国はナイトフォール計画の下で射程500km以上の地上発射型弾道ミサイルの迅速な開発に向けたコンペティションを開始した」「強力な電磁干渉が想定されるハイリスク環境下の戦場での運用を前提に設計されている」と発表。

英国防省は新型の戦術弾道ミサイルを「ナイトフォールミサイル」と呼んでおり、他にも「多様な車両からの発射能力、短時間での連続射撃によるシュート・アンド・スクート能力、200kgの通常弾頭を搭載、月10発の生産体制、調達コストが1発あたり最大80万ポンド=約1.5億円、ITARの制約を最小化を実現する」「3つの産業チームに各900万ポンドの開発契約を授与し、12ヶ月以内にテスト用のミサイル3発を設計・開発・納入させる計画だ」「これはウクライナ支援を目的にしたものだがナイトフォール計画で得られた知見は英国軍の長距離攻撃能力計画にも反映される」と述べている。

出典:Hanwha Aerospace

ナイトフォール計画の契約締結は2026年3月を予定しているため、計画通りに開発が進んでも実用化やウクライナへの供給は2027年になる見込みで、ITARの制約を最小化することを要求しているのは「ナイトフォールミサイルは英国独自の判断でウクライナへの供与や使用許可を決定できる」と強く示唆しており、RFI発行時よりも調達コストの上限がアップしているものの「約1.5億円(恐らく弾頭や発射装置を含むコスト)」という数字は戦術弾道ミサイルとして非常に安価だ。

因みに英国が産業界にナイトフォール計画の詳細を共有したのは2025年12月19日なので、ロシアのオレシュニク使用に慌ててナイトフォール計画を発動したわけではない。

関連記事:英国、主権が確保された射程600km以上の戦術弾道ミサイル取得を検討
関連記事:英国、射程2,000kmを超える長距離攻撃兵器の共同開発を発表
関連記事:英仏の新型対地/対艦ミサイル、紆余曲折を経て本格開発へ移行

 

※アイキャッチ画像の出典:Ministry of Defence

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コメント

  • コメント (22)

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    • HEAT信奉者
    • 2026年 1月 12日

    大体玄武-iiiC相当のミサイルってことっすかね

    2
      • ため息
      • 2026年 1月 12日

      あれは巡航ミサイルでは
      コストも高い

      3
        • HEAT信奉者
        • 2026年 1月 12日

        間違えた玄武-iiC

        3
    • MK
    • 2026年 1月 12日

    ウクライナ支援のコスト圧縮と新型ミサイル開発、実践経験、色々と一気にやれるしたたかな計画ですね。戦闘がここまで長期に渡るとは思って無かったから古いの渡して既存の新しい物買えば良い位だった計画が狂ってしまった感じでしょうか。

    16
    • トーリスガーリン
    • 2026年 1月 12日

    >>強力な電磁干渉が想定されるハイリスク環境下の戦場での運用を前提
    機能的に廉価にするわけじゃないんですね
    それで発射装置込み1.5億なら確かに安いか

    12
      • nachteule
      • 2026年 1月 12日

       恐らくの話ではあるが今のATACMSとかイスカンデルMで3〜4億円越えのレンジなので発射機込みでそれだとかなりの破格だと思うからイギリスでそんな価格実現出来るか眉唾もの。

      26
    • バーナーキング
    • 2026年 1月 12日

    CEP等精度に関する言及がないなぁ(数字どころか高いとも良いとも言ってない)。
    そしてこの価格で「強力な電磁干渉が想定されるハイリスク環境下の戦場での運用を前提」と言われると、「強力な電磁干渉に対抗できる」んじゃなくて「電磁干渉の影響を受ける様な航法/誘導システムを使用してない」と考えちゃいますね。
    まあアポジまでの間カーナビレベルの民生GPSで測位だけして、以降これもカーナビレベルのジャイロでINS…とかでもウクライナでの泥試合(物理)には十分な精度は出そうですが。

    11
    • >Accuracy: CEP50 of 5m, including in GPS-denied environments

      …え?
      それで50万ポンドはとんでもねぇな…

      8
        • SB
        • 2026年 1月 12日

        ぶっちゃけATACMSを開発した頃と違って今のGPSやセンサ類は安価で小型で高性能なので別段驚くような数値ではないです
        コストについては弾頭や開発費が含まれない数値なので、例えば日本の島嶼防衛用高速滑空弾(初期型)を参考に開発費がざっと1000億円、生産数を1000発とするなら単純計算で+1億円になるのでそこまでお安いわけじゃないかと(実際はランチャー分も含まれるのでそこまでは増えないでしょうが)

        2
          • バーナーキング
          • 2026年 1月 13日

          それは「 in GPS-denied environments 」しかも文字通り日進月歩の妨害環境下で、ですか?
          元コメに書いた様な民生機器でならコストは達成できるでしょうが「CEP50 of 5m 」は200km以上INSのみでは(何ならGPSが有効でも+αがないと)なかなかハードルが高いと思いますが…

          • バーナーキング
          • 2026年 1月 13日

          >ATACMSを開発した頃と違って今のGPSやセンサ類は安価で小型で高性能なので別段驚くような数値ではないです

          それは日進月歩の「GPS-denied environments」に対応した最新の物が、ですか?

          1
    • nton
    • 2026年 1月 12日

    見た限りの印象だと、大体イスカンデルMでは?

    3
    • ラボーチキン
    • 2026年 1月 12日

    BlackbirdgroupってOSINTサイトにウクライナの戦況地図と塹壕線の位置が載ってるけど、ヨーロッパがちんたらやってるうちに
    ・ディミトロフは当たり前のように包囲殲滅を食らって陥落
    ・ザポリージャ戦線のフィリアポレも1ヶ月持たず陥落
    ・コンスタンチノフカはロシア軍に南から踏み込まれて国道南側の市街地区画を失陥
    ・ロシア軍を西岸から追い返してキャッキャしてたクピャンスクは、結局再侵攻を食らって市街地の東岸側が陥落。このため川東岸に広がるウクライナ軍支配領域は結局半包囲状態に
    ・リマンは両翼を抜かれて兵站線を断たれかけており、ドネツ川北岸で孤立寸前。スラビャンスクからの補給は橋も道路も使えないのでボートと人力で行われてる状態
    ・窪地に位置するシベルスクはとっくに落ちて、都市西側の丘陵陣地も占領されて西へ西へ後退中
    ・唯一ポクロウシクのみ、都市以西の侵攻を食い止め続けている

    って状態で、もうウクライナ詰みかけてるんだけど大丈夫そうですかね?

    43
      • アンゴラ
      • 2026年 1月 12日

      来週のダボス会議でアメリカが120兆円の支援をウクライナにするらしいので、ウクライナはまだまだ戦える(ということになっています)

      6
      • aki
      • 2026年 1月 12日

      去年の12月にはもう報じられていたのに今更何を書き込んでいるんだ…

      10
    • pow
    • 2026年 1月 12日

    開発期間の短さや予定調達価格から考察しますと現在の英国の軍事産業でも対応できるという判断なのでしょうね。
    ここによく掲載されている近年アメリカ式の新興企業でも開発時間が短ければ取り敢えずはOKという事が、保守的なお国柄だけに無いかなととも想像できます。
    wikiを見ると戦術弾道ミサイルは射程300km未満との事ですので、ウクライナ輸出先以外の選定は慎重になるでしょうが売れそうですね。
    ウクライナ自体国家予算の調達が綱渡り状態ですので完成して引き渡せる状態になった時、民主主義国家のウクライナが存在していると良いのですが。

    6
      • ラボーチキン
      • 2026年 1月 13日

      安心してください。既に民主主義国家ではありません()

      19
        • Whiskey Dick
        • 2026年 1月 13日

        少し古い統計だが、2024年における民主主義指数ランキングではウクライナは混合政治体制(民主主義とも独裁とも言えない)となっている。同年のロシアは独裁体制、アメリカは欠陥民主主義の評価だ。
        現状、強引な徴兵、政権上層部による深刻な汚職、独立系メディアの規制といった(どの社会でも)戦争中に見られがちな現象によって、ウクライナの民主主義は後退する傾向にある。そして西半球覇権を目論むトランプ政権のアメリカも著しく民主主義が損なわれている。

        4
        • kitty
        • 2026年 1月 13日

        FRB議長への別件捜査みたいなの見ると、今の米国も民主主義国家やめた状態だよなあ。
        ナチスが民主的に政権を取ったみたいな。

        15
          • アンゴラ
          • 2026年 1月 13日

          ナチスよりも悪い気がします
          ナチスは少なくとも既得権益層をぶっ壊して一時的にでもドイツ国民に希望を与えたけど、トランプ政権は独裁政治の割には一番裕福な既得権益層には媚びへつらい、弱い者いじめばかりしている

          3
      • NIVEA万能論
      • 2026年 1月 13日

      民主主義国家というより単に西側寄りの国家としてのウクライナが残っているかどうかという話ですね。

      3
    •  
    • 2026年 1月 13日

    日本的には対空母級用途の弾道ミサイルをそれこそ太平洋側の島にでも配置しておきたい今日この頃。兵器の性質やらそもそもの開発、維持全てに問題があるけども。タンカーの必要や行動半径に制限が出るとは言え、本土から日本に空軍が出張ってくるの自体は無理じゃないからコスパがいいとは言えないけれども、人的リソースが一番渋い自衛隊として艦隊戦や航空戦で空母を相手にするのもあまり旨味もないだろうし。

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