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英国のヒーリー国防相が辞任、国防投資計画の合意案は受け入れられない

英国のスターマー首相は5日「国防投資計画をNATO首脳会議前に公表する」と表明したが、ヒーリー国防相は11日「首相が提示した国防投資計画の合意案は受け入れられない」と述べて辞任してしまい、スターマー首相が提示した国防費増額は額面135億ポンド(実質100億ポンド)しかなかったらしい。

参考:Healey says PM and Treasury not giving military the money it needs
参考:‘Good on Healey. Shame on them,’ says Reform’s Robert Jenrick
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参考:Another crisis for the prime minister
参考:Healey sixth minister to resign in less than a month
参考:This raises stark questions about Starmer’s authority
参考:Armed Forces Minister Al Carns resigns
参考:The exasperation is clear

もうGCAPがどうとか言っている場合でなく、スターマー政権自体が国防投資計画の発表前に崩壊してしまうかもしれない

英国のスターマー首相は国防費をGDP比3.0%まで増額する公約、特に2025年6月の国防戦略見直し結果の受け入れに基づく国防投資計画の公表について国内外から政治的決断が迫られており、ルーク・ポラード国防即応・産業担当相は6月1日「キア・スターマー首相は7月7日のNATO首脳会議までに国防投資計画を公表する強い決意である」と述べ、スターマー首相自身も5日「私たちが生きている時代はこれまでで最も危険で不安定な時代だと言っても過言ではない」と言及し、国防投資計画を政府と軍の緊密な協議を経て7月7日のNATO首脳会議前に公表することを確認した。

出典:UK Ministry of Defence

国防投資計画は「今後10年間にどれぐらいの資金をどの分野・能力に投資するのか」を定義するもので、これを公表するということは「今後10年間の国防投資に供給する資金に財政的裏付けが確保された」と政治的に約束することになり、この公表が8カ月近くも遅れているのは国防費増額と国防投資計画の財政的裏付け=財源確保を巡って財務省との調整がついていないためで、日本視点では単一プログラムのGCAPに対する資金供給が、英国やNATO視点では包括的な防衛プログラムに対する予算配分はどうなるのかが懸念事項で、国防戦略の見直し結果=英国の再軍備計画を実行に移すには最低でも280億ポンドの資金が足りない。

ヒーリー国防相は軍が受け入れられる国防費の増額範囲は最低は180億ポンドだと主張し、リーブス財務相は受け入れ可能な追加支出は120億ポンドだと譲らず、Financial Timesは「スターマー首相は間をとって150億ポンドを追加支出する妥協案を承認する見込みだ」と報じ、国防費増額が280億ポンドではなく150億ポンドで決着すると国防投資計画に含まれる核抑止など重要計画への資金供給が優先され、それ以外の部分で調達削減や資金供給の縮小が行われるのは誰の目にも明らかだ。

出典:UK Prime Minister

Financial Timesは国防投資計画について「早ければ6月11日に発表しようとする動きもある」と報じ、7日には「国防費増額は増税や借入ではなく政府全体の支出削減で賄われる予定で、社会資本支出削減を巡って土壇場の折衝が続いている。そのため国防投資計画の発表は6月下旬まで遅れるかもしれない」と報じていたが、ヒーリー国防相は11日「スターマー首相は脅威が高まっているにも関わらず国防費を削減している」「首相には国防投資計画の合意案は受け入れられないと主張した上で残される選択肢は国防相の辞任だけだ」と批判して辞任してしまった。

“私たちは「英国が新たな脅威の時代に直面している」と認識した上で政権に就いた。私たちが共同で指示した国防戦略の見直しは軍を変革し、同盟関係を強化し、戦争のあり方を変えつつあるテクノロジーに投資し、防衛を成長の原動力とするために産業界を後押しするという10年間のビジョンを設定した。そのため軍は国防投資計画を通じたさらなる投資を必要としていた。今年1月に政府を挙げて取り組んだ検証作業により、私たちが直面する課題の大きさと国防に対する要求の高まりが浮き彫りになったが、首相は国を守るのに必要な財源を確約することができず、財務省もその意思を示していない”

“首相が同盟国に対して約束された通り、英国の責務が拡大し国防への要求はさらに高まり続けている。英国は中東での紛争を受けてホルムズ海峡のミッションも主導しており、極北の安全保障におけるNATOミッションも指揮している。さらに英国やNATO諸国に対するロシアの活動が活発化し、パリ協定によって停戦後のウクライナに英軍を派遣することも確定した”

“私たちは2つの目的を果たす国防投資計画の確保に取り組んできた。第一に現在の国防に対する作戦上の要求増大に対処し、増大する脅威に対応するために国防戦略の見直しの取り組みを強化すること、第二に次回の歳出見直しを通じ、首相がNATO首脳会議で同意した「2035年までにGDPの3.5%を国防支出する」というコミットメントを満たすため明確な道筋をつけることだ。私たちが定期的に議論してきたように「2030年に国防費をGDP比3%にする」という目標期限こそ、英国が設定しなければならないものであると私は確信している”

出典:UK Prime Minister

“私はここまで来るのに首相がどれほど尽力されたか承知している。首相が国防投資計画の資金調達において国防支出への振り替えを求めたこと、他省庁の同僚たちに重い負担をかけることになることは十分に認識している。これを支持してくれた同僚たちに深く感謝するとともに、彼らにとっていかに苦渋の決断であったかも理解している。しかしながら、私が月曜日の午後に首相から受け取った国防投資計画の合意案は、この危険な時期において国防と国が必要としているものには遠く及ばない”

“作戦上のプレッシャーや即応体制の迅速化の必要性が最初の2年間に集中しているにもかかわらず、追加支援は後半に後回しにされている。しかも2026年にGDP比2.6%に達する国防費は2030年になっても2.68%までしか上昇しない。首相は先週「我が国の情報機関、他のNATO加盟国の評価によれば早ければ『ロシアによるNATOへの攻撃』は2030年に起きる可能性がある」と明言した。首相は国防に何が必要かご存知のはずだ。今年2月のミュンヘン安全保障会議でもそのことを力強く主張していた”

“このような時代に対応した国防投資計画がなければ、私は我が軍の即応性を低下させ、作戦任務に就く人員へのリスクを高め、結果として国を危険にさらし兼ねない決断を下さざるを得ない。私には「必要な財源を与えない国防投資計画の合意案を受け入れることはできない」と主張した上で残される選択肢は国防相の辞任だけだ”

国防投資計画の発表を間近に控えた時期にヒーリー国防相が辞任したこと国内外に衝撃を与えており、公共放送局のBBCも「ヒーリー国防相の辞任はスターマー政権に対する痛烈な批判だ」「首相は今後4年間で135億ポンドの国防費増額を提示したが、国防関係筋によれば135億ポンドの実際は『100億ポンドの増額』と『財務省の巧妙な手口』を組み合わせたものになるという」と報じ、ヒーリー国防相に続きアル・カーンズ国軍担当閣外相(国防副大臣相当)の辞任を表明した。

出典:GlobalCombatAir

要するに「150億ポンドで決着すると思われた国防費増額は135億ポンドに減額された」「しかも実質の増額は100億ポンドしかない」「この追加資金が手に入るのも3年目以降の話」「2027年から2030年までの4年間に増額させる国防費はGDP比0.08%に過ぎない」という意味で、ヒーリー国防相は「これでは国の国防に責任を持てない」「これに抗議する手段が辞任以外になくなった」と言ったのだ。

流石に280億ポンドの増額要求に対して「実質100億ポンドの増額」というのは酷すぎるし、もはや国防戦略の見直し結果を反映した国防投資計画は骨抜き状態で、スターマー政権はアル・カーンズ国軍担当閣外相の辞任で地方選挙の大敗北から7人もの閣僚が辞任したことになり、もうGCAPがどうとか言っている場合でなく「スターマー政権自体が国防投資計画の発表前に崩壊する恐れ」があり、この政権と何を約束したとしても空手形に過ぎない。

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※アイキャッチ画像の出典:UK Prime Minister

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コメント

  • コメント (20)

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    • ドゥ素人
    • 2026年 6月 12日

    議会制民主主義国家は社会保障を削るのは難しいですが、安全保障をケチると最悪主権そのものを失いますので頑張らないといけないのですが……
    日本の場合は社会保障に加えて特別会計やらの無駄や怪しいもの削減をしていかないといけませんが、昔の民主党でも今の高市さんでも出来ていないので、難しいですね。

    27
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2026年 6月 12日

    >早ければ『ロシアによるNATOへの攻撃』は2030年に起きる可能性がある
    ここが一番胡散臭いんですけどね
    備えるのは必要だけど、あまりにも脅威を煽りすぎてるように思えます

    22
      • NIVEA万能論
      • 2026年 6月 12日

      仰る通り、一方でウクライナ戦争による疲弊が喧伝されているのに突然復活するのかという話ですし、どういう理由でNATOに戦争を仕掛けるのかも不明です。
      西欧にとって得体の知れない物に対する不安感や不信感が根強く、そのために両極端な主張がなされているように見受けられますね。

      11
        • 航空万能論GF管理人
        • 2026年 6月 12日

        ロシアがNATO加盟国に仕掛ける戦争とは「突如としてロシアが全面侵攻する」という類の戦争ではありません。

        過去にも取り上げましたが、欧米当局者の懸念=ロシアがNATO加盟国を攻撃してくるかもしれないという恐怖は「ロシアが欧州諸国に侵攻して領土を拡張する」という話ではなく、NATOの基盤=第5条の有効性を試すという脈略で語られることが多く、ロシア人系住民の保護など曖昧な問題で特定地域の対立を煽り、判断や立場が分かれそうな小規模な衝突からエスカレーションを誘い、西欧と東欧の危機感の違いを突いて加盟国間を分断し「第5条が役に立たない」と証明すること。

        もっと分かりやすく言えば「曖昧で判断や立場が分かれそうな部分を攻撃して団結されると厄介なNATOをバラバラする」「単一の欧州をロシアへの危機感が異なるグループ毎に安全保障体制を再編させる」「再編されたNATOよりも小さなグループは相対的に戦力と能力の規模が小さくなる」「結果的にロシアの影響が強くなり干渉しやすくなる世界が出来上がる」という意味です。

        結局のところロシアがリスクを犯してまでNATO加盟国に仕掛けると予想しているのは「第5条の有効性=集団的な軍事的能力が机上の空論で実際に機能しない」と認識しているからで、ロシアを軍事的に抑止するためには「集団的な軍事的能力が機能する」と認識させる必要があり、冷戦終結後の軍縮で「見せかけの軍事的能力になってしまった加盟国を再軍備で実際に機能する組織と規模に再構築することが必要」という意味です。

        >どういう理由でNATOに戦争を仕掛けるのかも不明です。西欧にとって得体の知れない物に対する不安感や不信感が根強く、そのために両極端な主張がなされているように見受けられますね。

        疑問に思うなら、少しはご自分でも調べてみれば「どういう理由でNATOに戦争を仕掛けるのか」について理解が深まるかと思いますよ。

        45
          • ルイ16世
          • 2026年 6月 12日

          どう言う理由でですか?逆にあり過ぎて困りますね。なにせ欧州の金でモスクワとサンクトペテルブルクがドローンによる戦略爆撃を受けているので

          6
            • kitty
            • 2026年 6月 13日

            「タタールの軛」でいいんんじゃね。

            2
            • ブルーピーコック
            • 2026年 6月 13日

            今まで第5条の適用範囲でなかった民間インフラである海底ケーブルや通信衛星アセットへの攻撃も5条適用の対象とするか否かの議論です。
            ロシアや中国の船が錨で海底ケーブルを損傷させてたり、ジャミングで衛星の機能を妨害してきたらどうするか、日本も他人事ではないです。

            4
            • 特盛
            • 2026年 6月 15日

            まるでロシアが被害者かのように書いているが、そもそもロシアがウクライナに軍事侵攻してドローンやミサイルで戦略爆撃していたことをお忘れで?

            3
      • T.T
      • 2026年 6月 12日

      イギリスも大変だね。
      伝統的な戦略に基づいて無事ドイツとロシアを分裂させたけど、それ以上に自国がボロボロでござった。余計な事するからですよ。

      6
    • 58式素人
    • 2026年 6月 12日

    どうなのでしょうね。
    瀬戸際内閣では後の責任を伴う決定はできないのでしょうね。
    公債を出すとか。
    仮にHMSプリンス・オブ・ウェールズを売却したら、おいくらかな?。
    多分、後継の政権が誰になっても、緊縮の対象になりそうに思えます。
    建造費は30億ポンド程度とされているようだけれど。

    4
    • Mr.R
    • 2026年 6月 12日

    アルスターの王党派とIRAが手を組んで移民の排斥を行うとかいう嘘みたいな話も出てますしこれ本当に政権が吹き飛ぶのでは?

    7
      • 奈々氏
      • 2026年 6月 12日

      実質的には政権は吹き飛んでいる状態であり、英国の政治経済状況は日本以上に激変している状況です。
      政治的には経済的にはコロナ前のブレグジットとその後で成長率の鈍化と物価の急上昇(前年比で10%以上を超える上昇)やしており、とんでもなく物価が高いです…
      また、政治的にも足元の労働党でもマンチェスター市長のバーナム氏が支持を広げており次の選挙の顔として期待されています。保守派もブレグジットを煽ったリフォームUKが勢力を一気に増している状況です。
      このような激変の中でスターマー首相は指導力を発揮できるわけがないので、管理人さんが指摘してる通りスターマー政権の発言は空手形でしかないですし、それへの備え(日本からの開発支援として英国不足分の貸し出しや長距離ミサイル攻撃能力の拡充etc)は進めるしかないのかなと思います。

      11
      • あばばばば
      • 2026年 6月 12日

      政権が吹き飛ぶだけならまだいい方だと思うし、北アイルランドが独立するのもまだいい方だけど、王室自体が飛ぶ可能性もある。
      じゃあ状態を改善する方法は政府が打てないし、イギリス軍は国民の反乱に勝てるほど力が残っているだろうか

      6
    • L
    • 2026年 6月 12日

    国防は重要だし日本にいる俺としてはしかるべき予算を出せと思っているが、国防より難民をなんとかしたほうがいいと思うぜ。外敵ではなく内部から腐ってますよ

    16
      • せい
      • 2026年 6月 12日

      難民より難民を受け入れようとする勢力が問題なんだろうね
      そのあたりはリフォームUKがもっと力を付ければ変わるかも知れない
      結局スターマー政権も党派の理念に縛られて国民からそっぽ向かれた以上、もう何も出来んのだろうな
      FCASは、何とか日伊で尻叩いて進められたら御の字なのかなぁ

      6
        • 奈々氏
        • 2026年 6月 12日

        >難民より難民を受け入れようとする勢力が問題なんだろうね
        多分、EU・非EUの移民より難民を~という文脈かと思われます。
        リフォームUKはブレグジットを煽った結果としての経済的な苦境に対して明確な回答がないですし、党首のナイジェルファラージ氏も英国版トランプなので、約束の履行には面倒そうです(選挙は強いのでリフォームUKが大躍進しそうですが)
        とは言え、国際的な開発枠組みや日本の戦略環境としてGCAPを遅らせるわけにはいかないので、死んでも英国には開発資金を出させるように尻を叩くべきですが。

        11
          • せい
          • 2026年 6月 12日

          失礼、FCASじゃなくてGCAPでしたな
          意を汲んでくれてありがとう

          3
    • YF
    • 2026年 6月 12日

    産経新聞の記事だと「高市首相、英国に次期戦闘機の資金拠出働きかけへ」となってますがイギリス訪問しても色よい返事は貰えそうにないですね。

    11
      • 負け惜しみは誰だ
      • 2026年 6月 12日

      高市首相の国内の推進派に対するアリバイ作りでしょう。

      ダメ元でイギリスに働きかけているんだと思いますよ。

      (日本は、Bプランを考えていれば良いですけどね。)

      7
    • リンゴ
    • 2026年 6月 13日

    >この政権と何を約束したとしても空手形に過ぎない。
    なら発行し放題だな!(白目)

    1

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