ウクライナ戦況

英国防相、ウクライナへの戦闘機提供はポーランドの決断に懸かっている

ウクライナにポーランドのMiG-29提供というアイデアはロシアやベラルーシからの攻撃を招く可能性が高く、英国のウォレス国防相は「これはポーランド自身が決める問題で他の誰かが口を挟む事はできない」と明かした。

参考:Poland could suffer ‘blowback’ for supplying Ukraine with jets, says Ben Wallace

代償を引き受けるのはポーランドに住む人々なのでドゥダ大統領はNATO加盟国からの要請とウクライナの窮状の間で思い悩んでいるに違いない

英国のウォレス国防相は8日、ポーランドのMiG-29をウクライナに提供するというアイデアについてBBCやスカイニュースに対し「このアイデアを実行に移せばロシアやベラルーシはポーランドを直接攻撃する可能性が高く、この選択の代償はポーランド国民に跳ね返ってくるためポーランドの大統領や国防相の肩にのしかかる責任は重大だ。これはポーランド自身が決める問題で他の誰かが口を挟む事はできない。しかし私は同じNATO加盟国としてポーランドを支持する」と述べて注目を集めている。

出典:Tim Felce / CC BY-SA 2.0

つまりポーランドのMiG-29をウクライナに提供するというアイデアが行き詰まっているのは「代替戦闘機の提供」にまつわるロジスティクスの問題に加え、このアイデアを実行した場合の「代償」をポーランド国民が引き受けなければならないという問題に集約されており、他のNATO加盟国はポーランドに戦闘機供給を強制することは出来ないという意味だ。

ウォレス国防相はNATO加盟国の運用する西側製戦闘機をウクライナに提供する場合「最低でもパイロットの訓練に2ヶ月以上かかる」と述べており、ポーランド、ブルガリア、スロバキアが保有する旧ソ連製のMiG-29やSu-24を提供する以外に解決方法がなく、その代償して提供国の国民が死傷することを考えると「提供しない」と決断に至っても第三者がこれを非難することは到底できないだろう。

出典:AndrzejHrechorowicz / CC BY-SA 4.0

勿論、論理的にポーランドへの攻撃はNATOの集団的自衛権の発動対象になるため加盟国が駆けつける=ポーランドだけでロシアやベラルーシと戦うことにはらないが、代償を引き受けるのはポーランドに住む人々なのでドゥダ大統領はNATO加盟国からの要請とウクライナの窮状の間で思い悩んでいるに違いない。

追記:米国の諜報機関はロシア軍の戦死者数について「2,000人~4,000人」と明かしたが、この数字について「自信がない」と述べている。

関連記事:ウクライナへの戦闘機提供、ポーランドがMiG-29を手放さない理由
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※アイキャッチ画像の出典:Julian Herzog / CC BY 4.0

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コメント

    • 名無し
    • 2022年 3月 09日

    同盟国があるとはいえ文字通りの最前線になる恐怖はそりゃあるよなあ。

    32
      • 戦略眼
      • 2022年 3月 09日

      まずは、NATO各国の兵力増強だな。
      毅然とした姿勢を速やかに示さないと!
      我が国はどうする?

      8
      • 無無
      • 2022年 3月 09日

      英国人の手口
      自分は手を汚さない、他人にやらせる、あとで問題になってもそれはポーランドのせい

      紳士とはそつの無い人間、つまりうまく立ち回り

      7
        • 2022年 3月 09日

        今回に関してはイギリスは既に十分すぎるほど仕事してる
        ゼレンスキー大統領の周辺を固めてるのはイギリスのSASだし情報分析面でもイギリスは常に警告を発し続けてた
        イギリスを責めるのはお門違いだぞ

        64
          • 無無
          • 2022年 3月 09日

          今回はたまたま英国がホワイトの立場だが、歴史を見ればロシアかそれ以上のブラックだよ

          4
            • tofu
            • 2022年 3月 09日

            横からゴメンだけど
            だから
            >今回に限っては
            って断り入れてるんじゃ?

            15
              • 戦略眼
              • 2022年 3月 09日

              アメリカも大概無責任。
              泥被れよ。

              1
    • 無能
    • 2022年 3月 09日

    ロシア相手にここまで外交的にこじれて旧ソ連兵器の部品を手に入れられるんか?
    提供拒否しても維持できなくて結局手放す事になりそうな

    2
      • てつ
      • 2022年 3月 09日

      ウクライナが生き残ることができたら、自国生産できる戦車等を除いて基本的に導入先を西側に変えざるを得ないでしょう。
      ポーランドやブルガリアが既にやっていますし、NATO加盟を望むなら必然に近いのでは?
      機種転換に2か月以上かかるなら、旧ソ連機の手配と並行してウクライナのパイロット候補生達を欧米に連れ出して、F-16への転換訓練を受けさせられればいいんですが。

      5
      • 野戦先輩
      • 2022年 3月 09日

      ロシアがエンジン等の供給を止める可能性はあるけど、そうなればいよいよ東欧諸国はNATO間の連携と供給元が敵国という事も踏まえて、各種装備の西側シフトを行う可能性が高い。
      現状でも欧州のロシア兵器市場は今回のウクライナ侵攻で死にかけてるけど、部品供給停止は死にかけた市場へトドメを刺す行為になるから、結局トルコ以外の欧州市場を完全に失って損をするのはロシアになるね。

      MIG-29等の航空機がロシアへの大きな脅威となる以上、当然部品の供給停止は選択肢に入っているはずだけど、こうなると何をやっても針のむしろにしかならないだろうな。

      8
        • STIH
        • 2022年 3月 09日

        しかもそのトルコのほうが立場が上だという。今回だってTB2の供給継続、海峡封鎖による新規艦船の黒海侵入妨害といった、ロシアに対するサボタージュ活動を行ってるわけだから、実質的には敵対に近い。それでも上客だから兵器を売りざる得ないという。

        5
    • 名無し
    • 2022年 3月 09日

    MiG-29運用国一覧を見たけれど売却しててくれそうなのは、後継機種問題でロシアから横柄な扱いを受けて西側の機材に切り替えを検討してるとされるバングラディッシュの物位かも

    2
    • 炎のコサックダンサー
    • 2022年 3月 09日

    ロイター報では、ポーランド政府が戦闘機の譲渡を遂に決断したとしてますね。はてさて…。

    飛行訓練・アグレッサー代行業務をやってる民間軍事会社や大富豪の個人でMiG-29持ってるところもあったかと記憶してますが、買い上げられないもんですかね。

    9
      • てつ
      • 2022年 3月 09日

      各社が同様の内容を伝えていますから、少なくとも発表があったのは確実のようですね。
      要約すると、
      ・ポーランドから直接送らず、一度ドイツのラムシュタイン基地に空輸して米軍管理下に置く。
      ・代替の戦闘機の供与、同型機を有する他のNATO国も足並みを揃える事、NATO全体で取り組む事が条件。
      でしょうか。
      という

      2
      • くらうん
      • 2022年 3月 09日

      CNNも追い記事出しましたね。
      ようやく希望のグリーンランプが灯ったのか・・?

      2
      • 幽霊
      • 2022年 3月 09日

      だけどどうやってウクライナ国内で運用するんでしょうね?
      戦闘機がウクライナ国内に配備されたらロシアはそこを集中的にミサイル攻撃してきそうなもんですが。
      別の基地に移動してもまたそこをミサイル攻撃してくるでしょうし。

      3
        • きっど
        • 2022年 3月 09日

        この期に及んでもウクライナ空軍は生き残っていますので、緒戦でARMを含む精密誘導兵器は撃ち尽くして在庫切れなんでしょう
        実際に、無誘導爆弾を抱いたロシア機が撃墜されていますしね
        今から生産して補充しようにも、経済制裁で西側の半導体は手に入らないし、ロシアの半導体生産能力は貧弱ですから……

    • DR
    • 2022年 3月 09日

    WikiによるとMig-29Nを14機保有している。
    半数が稼働しているとしても7期ほど調達してもらえると助かる。
    近く日本の元総理が外遊に行かれるそうなので、ぜひお願いしたい。

    • 匿名
    • 2022年 3月 09日

    結局なとこ米国でないと無理な事ってあるし米空登場しか道もないだろなと
    砲兵戦力の戦力不均衡の解消でATACMS供与するの選択できるかだが何もせんと露軍砲兵に市民殺戮されまくるの明確でそれは要するにウクライナの敗北だし
    仮にミグを20機か工面してもそんなんで足るか?という根本的問題もある

    3
      • 2022年 3月 09日

      戦闘機よりも防空システムの残弾が心配なんだよな…
      鹵獲した車両から拝借してると言っても限りがあるし
      特にS-300とかの中距離防空システムはなかなか補充できないだろ…

      6
    • 台湾大好き
    • 2022年 3月 09日

    戦闘機と整備チーム、補給品一式、なぜか補給先のコネクションまで揃えた民主主義志願軍をポーランドに編成してもらうというのはどうでしょうか。民主主義とウクライナ愛の発露ですからこれをダメとするわけにはいきますまい。
    ポーランドの防衛? NATOの訓練が6か月間ほど偶然ポーランドで実施されるのではどうですかね?

    3
      • 匿名
      • 2022年 3月 09日

      反撃するわけでなしに演習装う必要ないしポ防衛は米軍が何でもやるぞ
      それこそロシア倒せちゃう状況で静観続けるほうが逆に難しいのでは

      1
    • くらうん
    • 2022年 3月 09日

    もう西側の戦闘機パイロットをウクライナに帰化させてF-16やタイフーン送った方が早そうだな。

    2
    • えぞ
    • 2022年 3月 09日

    今度はアメリカが「いや、うち経由で渡すのは無理ですね、現実的はないですね(キリッ」って及び腰になっているという話が
    みんな戦闘機は援助したいけど、自分が引き渡し役するのは避けたいという……

    昔、自衛隊が海外派遣される際に小銃は持って行ってもいいけど機関銃はダメじゃないか? じゃあ手りゅう弾はどうなんだ、迫撃砲はどうなんだとかグダグダの議論がありましたけど、他の国も似たようなものなんですね

    6
      • 2022年 3月 09日

      武器を渡すのはいいとして機密はどうすんだよって話なので一緒くたにする意味はないぞ
      特に通信プロトコル関係は最重要機密と言ってもいい

      5
    • ダヴー
    • 2022年 3月 09日

    どこぞにダミー会社作って、そこを経由してというような体裁が必要そう。
    もう少し時間かかりそうね。

    • おわふ
    • 2022年 3月 09日

    とりあえず米軍基地に送るのは決定したみたいですね。
    その後はウクライナへ送る可能性が高し。
    ポーランド>米軍>ウクライナと経由して、直接渡していない体裁作り。

    2
      • 幽霊
      • 2022年 3月 09日

      ニュースでは米軍は拒否したとありますよ?

      7
        • qaswde
        • 2022年 3月 09日

        MiG-29供与周辺はまだまだ昨日から情報が錯綜中
        『Aが了承した』『Bが拒否した』は現段階ではどれも信用できません。待ちましょう

        2
          • ああああああ
          • 2022年 3月 10日

          報道ではだれか拒否して行き詰ってるけど、
          どういうわけかウクライナの空を飛んでいたりする面の皮の厚さを発揮してほしい

          2
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