ウクライナ戦況

英国防相、粛清を避けるためロシア軍は責任のなすり合いに必死

フィンランドでの演習中を視察した英国のウォレス国防相は5日、ロシア軍参謀本部の責任者たちはプーチンが始めた戦争の責任を押し付けられることを恐れており「互いに非難しあいプーチンの粛清対象にならないよう必死だ」と明かして注目を集めている。

参考:Russian generals turning on each other to avoid Putin’s purge, says Ben Wallace
参考:Ukraine war could turn into Russia’s Vietnam, says Ben Wallace

キーウ方面のように攻勢が崩壊すればあっという間に泥沼から敗走に切り替わり、ロシア軍全体が崩壊する可能性もある

ロシア軍参謀総長のゲラシモフ上級大将がウクライナの最前線に赴いたもの「自分達が陥っている問題=停滞した作戦の打開」を解決するためだと言われており、ウォレス国防相も「連中は前線の指揮官を怒鳴り上げることで尻を叩こうとしたが、このような手法は最良の結果を得られないことが多い。ロシア軍参謀本部の将軍たちは全員プーチンの粛清対象に挙げられており、個人的な感情や政治的な判断に支配され軍事的な理論を無視した侵攻作戦の失敗をゲラシモフや他の将軍に求めるのは愚の骨頂だ」と明かした。

出典:Mil.ru / CC BY 4.0

さらにウォレス国防相は「側近の中でプーチンにウクライナ占領計画を中止するよう進言したものは誰もいない。どのような戦闘部隊でも攻勢限界は何れやってくる問題で、キーウ方面のように攻勢が崩壊すればあっという間に泥沼から敗走に切り替わり、ロシア軍全体が崩壊する可能性もある」と付け加えているのが興味深い。

3月末~4月上旬にロシア軍はウクライナ北部地域から撤退、再編成を終えた戦術大隊をウクライナ東部や南部戦線に移動させドンバス解放に戦力を集中させたが、装備的にも人員的にも被害を被った部隊を再編するには時間が短すぎたため結果的に戦力の逐次投入に陥り、第二段階作戦を始めた当初ロシア軍の砲兵戦力がウクライナ軍を上回っていたので前進が見られたものの西側諸国が供給する榴弾砲や旧ソ連規格の弾薬が東部戦線に到着、ロシア領内や占領地域の弾薬庫や燃料貯蔵施設が破壊されはじめると前進が停滞。

出典:GoogleMap 大まかなイジューム方面の状況/管理人加工

この方面のウクライナ軍はドネツ川を軸にした防衛ライン=川を挟んでの砲兵戦力による削り合いに持ち込むつもりだろうと推定されるが、イジュームの突出部だけはドネツ川を越えているためココだけは何とかする必要がある。

ウクライナ軍のザルジュニー総司令官は5日「ハルキウ方面とイジューム方面で反撃を開始した」と発表しており、恐らくイジュームの突出部に対する何らかの作戦が行われている可能性が高いが、もしここを潰せればロシア軍が狙っているウクライナ軍統合部隊(JFO)の包囲殲滅は頓挫するためキーウ方面と同じ膠着状態に入るだろう。

そうなればウォレス国防相の指摘通りロシア軍は攻勢限界に達して、ある日突然「敗走」が始まるのかもしれない。

まぁウクライナ軍の情報によればロシア軍は被害を被った部隊を後方に下げて再編、新しい部隊と入れ替えているようなので前回ほど極端な敗走は無いと思われるが、、、

関連記事:マリウポリの戦いは現在も継続中、ウクライナ軍は東部方面で反撃を宣言
関連記事:8人目のロシア軍将官が戦死した可能性、参謀総長はモスクワに帰国か

 

※アイキャッチ画像の出典:ВМС ЗС України

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コメント

    • 2022年 5月 06日

    東部はそれでいいかもしれんが南部はどうするんだ…
    クリミアと東部を打通されてしまってるしこれを奪還するにはウクライナは兵力不足では?

    10
    • おわふ
    • 2022年 5月 06日

    クレムリンに転進してプーチン大統領狙った方が確実に生き残れるかもよ。

    31
    • や、やめろー
    • 2022年 5月 06日

    いつの時代に見た光景だったかな?確かどこぞのスターリン、ゲフンゲフン
    とりま、プーチンさえいなくなれば、一旦落ち着く

    11
    • K(大文字)
    • 2022年 5月 06日

    限界を越えて突如壊走するにせよ交代再編成をしながら徐々に損耗して行くにせよ、結果は同じこと。
    強大なロシア軍の再建は二度と叶わない。
    アメリカ政府高官が明言している通り、ロシアが決定的に弱体化するまで経済制裁は終わらない。ロシアは海外製品が枯渇し国内産業が壊滅した状態のまま、ウクライナ戦線で人材・装備の軍事アセットをすり潰し続ける。
    ロシア軍が経済的にしろ純軍事的にしろ継戦力を失えば、それで終わり。ウクライナ領内からロシア軍は駆逐されるだろう。
    後は経済制裁解除の条件としてロシアに“非ナチ化(レジームチェンジ)”と“非軍事化(外征能力の放棄)”を受け入れさせればいい。
    ロシアの高級軍人に「賢く戦線を畳める」奴が居なくて良かったよ。自己保身で貴重な戦力を失い続けてくれるのだから。
    まぁ後はトチ狂って核使用に走らない事を願うばかり。

    74
      • h4
      • 2022年 5月 06日

      噂レベルでは下(現場)のほうからは「どうにか勝ったことにして戦線を畳む」提案は出ているらしいが、プーチンが受け入れるんだかどうだか。

      最大の問題はプーチンその人であって、粛清を繰り返してきたことによりイエスマンしか残らず、あまりにも甘い見込みに突っ込みを入れる部下も、ハイリスクな賭けが失敗した時のダメコンを提案する部下も残らなかった。国内を思い通りに支配する体制を完成させたことは、思い通りにならない対外政策での致命的な失敗に繋がった。それが独裁国家の宿命なんだろう。ユギオIIの「できないでは良心がない」の描写の鋭さよ。

      17
    •       
    • 2022年 5月 06日

    30%も損失被って残り10万強で攻勢を維持しようなんて最初から無理筋だったんだよ
    各方面に戦力割かれてんだから攻勢に抽出できる戦力もたかが知れている
    いずれ破綻するのは必然だね
    戦術や質や士気が劣り、損失を減らす事が出来ないんだからどうしようもないね

    ロシア軍が弱すぎるってのも問題だな
    勝利を喧伝出来なくて落とし所が見いだせない、引きどころがつくれない雑魚

    30
    • けい2020
    • 2022年 5月 06日

    ゲームみたいに後方に下げれば部隊再編が出来たりしないし、
    ロシア式の部隊再編って、書類上は整ってるってだけなのでは

    そもそも無い整備補給能力が1ヶ月で湧いてくるわけでもないから、装備関係の再編も非現実的な気が

    27
    • らすぷーちん
    • 2022年 5月 06日

    プーチンも暗殺やクーデター恐れてるんだろ?

    10
      • 匿名
      • 2022年 5月 06日

      そう、それだ。
      第一次大戦の最中に将兵が反乱を起こして皇帝を亡命させたドイツ革命という前例がある。

      今のロシア軍も将兵が反乱を起こして、プーチンを排除するクーデターや革命が起こるかもしれない。

      ロシア軍の将兵が「敵とは誰だ? 俺たち前線の将兵を酷い苦境に追い込んだプーチンこそが敵ではないか?」と考え始めたら、プーチン政権は崩壊するかもな。

      24
    • だいぶ溜まってんじゃん
    • 2022年 5月 06日

    まぁ普通に考えて、1ヶ月余りで作戦方針・部隊配置・組織再編・指揮系統統一を全部完璧にこなす方が無理な話よね、

    ロシアは5/9の戦勝記念日を契機に大動員をかけてあちこちから部隊引っこ抜いて力業で押しきるっていうのが一番とり得る選択でしかね?

    ロシア軍だって負ける時わぁ崩壊するんだよ

    26
      • 野戦先輩
      • 2022年 5月 06日

      超大国ソ連の末裔たるロシアがこの体たらくとは悲しいなぁ…(諸行無常)

      あのドイツまでロシアにもう許さねぇからなぁ?(豹変) と表明せざるを得ない四面楚歌な状況だから、大動員で東部制圧が出来たところで、多大な犠牲を払った上で傷口の開き具合が多少変わるかどうかって結果にしかならないよね。

      当初目論んだキエフの開戦数日での攻略に失敗した段階で戦略的敗北が決していたのだから、その時点でさっさと停戦してれば軍の崩壊も起こさなかっただろうに。

      13
    • AAA
    • 2022年 5月 06日

    2ヶ月戦争しただけで5年ぐらい全面戦争してる国のような末期感出てきたな
    まあロシア側に末期感出てくるのは良いことだが

    38
      • けい2020
      • 2022年 5月 06日

      国内中から見境なしに武器弾薬をかき集めてるとか、完全な末期戦よな
      旧式新型すら全部投入して溶かしてるし、しかも再生産能力すら無いという

      32
    • トゥハチェフスキー
    • 2022年 5月 06日

    ゲラシモフが危険を承知で最前線に赴いたのは、スターリンに粛清されたトゥハチェフスキーの二の舞になりたくないからだろう。
    両者とも理論家であり、一役脚光を浴びているところも似ている。
    トゥハチェフスキー 縦深戦術理論、当時の赤軍の機械化
    ゲラシモフ 大隊戦術群、ハイブリッド戦争

    15
    • samo
    • 2022年 5月 06日

    イジュームの突出部だけはドネツ川を越えているためココだけは何とかする必要がある

    管理人さんはそう思ってるようですが、自分としては違うと考えています。
    イジューム南部は丘陵地帯ですので、見通し距離が短く、稜線を盾にした砲兵戦力による撃ち合いがメインとなる戦場です。
    イジュームで防戦するより、むしろ、イジュームを抜かせて丘陵地帯で戦ったほうが効率的でしょう。
    砲兵の補充が約束されたのなら尚更
    しかも、西側規格のほうが砲兵の射程は長いと言われてますからね。より有利な戦場になります

    9
    • 鳥刺
    • 2022年 5月 06日

    ただでさえセルジュコフ改革(将校大量リストラ)の負の影響で上級司令部スタッフの
    不足に悩んでいるというロシア軍なのに、ここで更に参謀本部で大量粛清なんてしたら
    それこそ組織として運営不能になりませんかね。

    それにしても、現在の戦場になっている地域はどこに行っても乱流するドネツ川に。
    南北に流れる何本もの支流はどれもダム湖になっていて進攻方向を限定していますし、
    4月に一般に考えられていたよりも、意外と地形的障害が多い印象ですね。

    1
    • 2022年 5月 06日

    独裁国家の様式美。

    5
    • 匿名
    • 2022年 5月 07日

    粛清リストの人たちがお土産もって西側に亡命してこないかな

    2
      • 無無
      • 2022年 5月 07日

      ソ連時代にそういう実例がけっこうあってるけど、ロシアはそういう裏切り者をいつまでも追いかけるから怖いぞ

      2
    • ぽっぽぽ
    • 2022年 5月 07日

    3月の中旬くらいからずっと思ってたことだけど、これだけ兵士も兵器も弾も壊滅的な損害出してるロシア軍って、ウクライナ侵攻が始まる前の状態まで軍事力を回復させるのにどれだけ時間がかかるんだろう…。

    5年じゃ無理、10年位かかるんじゃ…。って思ってたけど、これもう侵攻以前の軍事力世界第二位のあの頃の超大国に戻るのはもう無理だよな。ホント何もかも失った。残ってるのは核と生物兵器と数えるほどしか残ってない極々一部の最新兵器だけ。

    アメリカは長期戦になるよう誘導して徹底的にロシアは消耗させて自滅を狙ってるみたいだけど、最後の最後は技術も資源も吸い上げられて、マジで中国の属国になるんじゃねぇか…?

    4
      • 匿名
      • 2022年 5月 07日

      「面積が広いだけの北朝鮮」になりそうですね…
      「海外同胞」の組織が西側で暗躍してる分、北の方がまだマシかも

      5
    • makumaku
    • 2022年 5月 08日

    今回のウクライナ戦争でロシア軍が動員した総兵力は19万人前後なので、現時点でロシア
    軍将兵の死傷者数を5~6万人と推定すると、すでに総兵力の2~3割を喪失していることに。
    この現状に対して、ロシア軍側のワーグネルが ”この戦争でウクライナを倒すには、
    60~80万人(の兵士)が必要だ” と言っているそうです。
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