英国のスターマー首相は5日「国防投資計画を7月7日のNATO首脳会議前に公表する」と表明し、公共会計委員会のブラウン委員長は7日「政府は官僚主義的な怠慢が国民、英国の同盟国、敵対国にどのようなメッセージを送ったのかを自問して謝罪すべきだ」と声明を発表した。
参考:Drift at the MoD: Defence plan delays undermine UK credibility with allies and industry
ブラウン委員長の強烈な皮肉、これだけ国中を巻き込んで待たせたのだから、まさか中途半端な予算削減案なんか出してこないだろうな?
英国のスターマー首相は国防費をGDP比3.0%まで増額する公約、特に2025年6月の国防戦略見直し結果の受け入れに基づく国防投資計画の公表について国内外から政治的決断が迫られており、ルーク・ポラード国防即応・産業担当相は6月1日「キア・スターマー首相は7月7日のNATO首脳会議までに国防投資計画を公表する強い決意である」と述べ、スターマー首相自身も5日「私たちが生きている時代はこれまでで最も危険で不安定な時代だと言っても過言ではない」と言及し、国防投資計画を政府と軍の緊密な協議を経て7月7日のNATO首脳会議前に公表することを確認した。

出典:UK Ministry of Defence
国防投資計画は「今後10年間にどれぐらいの資金をどの分野・能力に投資するのか」を定義するもので、これを公表するということは「今後10年間の国防投資に供給する資金に財政的裏付けが確保された」と政治的に約束することになり、この公表が8カ月近くも遅れているのは国防費増額と国防投資計画の財政的裏付け=財源確保を巡って財務省との調整がついていないためで、日本視点では単一プログラムのGCAPに対する資金供給が、英国やNATO視点は包括的な防衛プログラムに対する予算配分はどうなるのかが懸念事項で、国防戦略見直し結果=英国の再軍備計画を実行に移すには最低でも280億ポンドの資金が足りない。
Financial Timesは「国防戦略の見直し結果を反映した国防投資計画には280億ポンドの追加支出が必要で、ヒーリー国防相は軍が受け入れられる最低額は180億ポンドだと主張し、リーブス財務相は受け入れ可能な追加支出は120億ポンドだと譲らず、スターマー首相は間をとって150億ポンドを追加支出する妥協案を承認する見込みだ。これにはGCAP向けに最大60億ポンドの資金が含まれる」「早ければ6月11日に国防投資計画を発表しようとする動きもある」と報じ、国防費増額が150億ポンドで決着すれば国防投資計画に含まれる複数の計画が大幅削減されるだろうとも指摘している。

出典:UK Prime Minister
スターマー政権が国防投資計画のためにどれだけの財源を確保できたのかは不明だが、下院の公共会計委員会(PAC)で委員長を務めるジェフリー・クリフトン・ブラウン議員は7日「政府の閣僚らは国防投資計画の遅延について言い逃れをするのではなく、ここ数ヶ月の官僚主義的な怠慢が国民、英国の同盟国、敵対国にどのようなメッセージを送ったのかを自問して率直に謝罪すべきだ」と声明を発表した。
“最近、国防投資計画が何ヶ月も遅延していることについて多くの議論が交わされている。しかし、英国は実際のところ何年も軍事能力に関して信頼できる計画を欠いた状態が続いている。責任者たちは国防投資計画が未だに提出されないのには正当な理由があると言うかもしれないが、公共会計委員会の報告書は「詳細に細部を詰めるために時間をかけている」といった類の言い訳が全く通用しないことを明確に示している”

出典:British Army
“最終的に発表される国防投資計画の内容がどのようなものであれ、それが発表されなかったことによる損害はすでに生じており、国家の信用、安全保障、軍、防衛産業基盤全体における確実性に損害を与えているのだ。政府の閣僚らは国防投資計画の遅延について言い逃れをするのではなく、ここ数ヶ月の官僚主義的な怠慢が国民、英国の同盟国、敵対国にどのようなメッセージを送ったのかを自問して率直に謝罪すべきだ”
“政府が国防投資計画で何を達成しようとしているにせよ、この文書は私の全政治キャリアの中で「最も待ち望まれている文書」という不栄誉な称号を獲得したことだけは確かだ。これを執筆している時点でも国防投資計画は発表されていないが、英国全体の国防利益を代弁して言わせてもらうと、これは本当に生半可な内容では済まされない”

出典:Edgewing
日本人にとって英国の国防投資計画は「GCAPへの資金供給が確保されるのかどうか」の一点のみが懸念事項だが、国防投資計画の資金供給は単一プログラムに対する政治的コミットメントの確保ではなく「包括的な防衛プログラムへの予算配分」に直結しているため、英国人にとっては安全保障政策全体に対する懸念事項で、国防戦略見直し結果を反映した国防投資計画に必要な280億ポンドを確保できていない可能性が高く、これを発表した後は何が削減されたのか、何が中止されたのか、計画のタイムラインがどれだけ遅延するのかで大騒ぎすることになるだろう。
関連記事:英首相が1カ月以内に国防投資計画を公表、必要な資金を誰から奪うのか
関連記事:GCAP遅延の原因、英首相は国防投資計画を公表する強い決意を表明
関連記事:英防衛企業は財政的苦境に直面、国防投資計画の遅れは理論上のリスクから実害に
関連記事:日本政府は次期戦闘機開発に新枠組み創設で調整、カナダ参加が濃厚
関連記事:日本が参加する次期戦闘機開発、資金供給への懸念とタイムリミットに直面
関連記事:英国の国防費増額発表は先送りか、7月のNATO首脳会談までずれ込む可能性
関連記事:英国のGCAP資金解放は財務省次第、イタリアは国防費増額が止まる可能性
関連記事:イタリアが最優先事項を国防からエネルギーに変更、国防支出の増額基調に陰り
関連記事:英国が国防費増額を来週承認する見込み、ただし180億ポンドでは足りない
関連記事:英国の国防費増額決定の遅れ、ついに防衛スタートアップが破綻し始める
関連記事:英スターマー政権の選挙大敗、GCAP開発資金確保に影響を及ぼす可能性
関連記事:英国の国防費増額を巡る批判の応酬、国防分野の重鎮もいい加減にしろ
関連記事:次世代戦闘機の本格開発を阻む資金不足、英国は社会保障費の大幅削減が困難
関連記事:次世代戦闘機に対する欧州の温度感、脅威に直面する時間枠や資金に異なる考え
関連記事:GCAP資金問題、英伊日は6カ国の追加パートナーを招き入れる必要に迫られる
関連記事:英伊日の戦闘機開発が初契約を締結、開発作業を6月末まで継続するつなぎ契約
関連記事:GCAP開発契約の遅延原因、英国の国防投資計画公表は最低でも5月以降
関連記事:日本はGCAPに対する英国の決意に疑念、プロジェクトの停滞もひどい状況
関連記事:ポーランドのGCAP参加、目前の脅威に間に合わないので投資するな
関連記事:空自の武藤元空将、GCAP契約遅延が試作機製造に最大1年程度の影響を及ぼす
関連記事:イタリア国防相は狂気の沙汰と批判、英国が伊日にGCAPの技術共有を拒否
関連記事:日英伊が共同開発する次期戦闘機、英国の資金不足で契約締結に遅れ
関連記事:イタリア国防相がGCAP開発コストの高騰を報告、3ヶ国の負担総額は約10兆円か
※アイキャッチ画像の出典:British Army





















ジョンソン→トラス→スナク→スターマー政権と、ずっと国防計画の見直しやり続けてたわけだから全てをスターマー首相におっ被せるのもなって感じはするけどね
どうせ次の首相、政権になっても今と同じ事言ってんじゃないの
スターマーが始めたわけじゃないのはそうなんだけど
一国の宰相としてその決めなきゃいけない時にその座にいたわけで
アフガン撤退が第1次のトランプ政権で決めた事でもその後に大統領就任したバイデン政権で実際に実施することになって大批判浴びたようなものよね
スターマー政権、あんなに国政選挙圧勝して発足したのに、影も形もなくなってますからね。
支持率が下がりすぎて地方選挙負けて、政権内部・党内基盤も弱体化しまくって、まともに何か決める事も難しくなってるんだろうなあと。
イギリスの構造的な問題もあり、スターマー首相だけが悪いわけでもないでしょうし、次の国政選挙後は多党乱立しそうですからもっと混乱してる可能性が高いんですよね…。
そもそも保守党がガタ落ちしただけで労働党はあまり伸びなかったんですよねぇ
仰る通りですね。
二大政党制といっても、政権の不満を受け皿に政権交代してきたわけですが…。
既存政党への不満=新しい政党の台頭、SNSの台頭=オールドメディアの衰退などにより、変化がでてきたのかなと個人的に感じています。
議会からは国防投資計画で、国民からは例の冤罪事件で怒られ続けてるのに、碌な対処もしないスターマーのメンタルがどうなってんのか逆に気になってきた
侃々諤々って感じか
いや、政権側は何も言うてないから、叱られてるだけかな?
7月に明確な表明が来ればいいけど、今のままなら日伊で5世代機でも作るか、カナダやドイツ入れることを考えて、枠組みの整備に時間使うかしないといけないな
英国式民主主義の殴り合いを見ていると、少なくとも彼らの問題に対する言論空間の熱さは良いものだなと思う。良くも悪くも非常に長い議論だが、政治的決断に対するある種の誠実さには敬意すらある。それはそれとして早よ金出して?
おお、もう……