欧州関連

トルコ、第5世代戦闘機「TF-X」完成までF-16のアップグレードで凌げるか?

トルコは第5世代戦闘機F-35Aの調達が不可能になっためF-16Cの機体寿命を8,000飛行時間から12,000飛行時間まで延長するプログラムを開始した。

参考:Turkish military to modernize F-16s for prolonged use

停滞したTF-X開発や更新用戦闘機の導入で政治的博打=ロシアとの取引を決断する可能性もあるトルコ

トルコ空軍はライセンス生産中のF-16C Block30/40/50を計245機(2021年1月時点)保有中で2016年までに保有する全ての機体にアップグレードを施してBlock52+相当に性能が統一されており、これとは別にトルコ空軍は訓練用のF-16Dを多数保有しているため同国は計300機以上のF-16C/Dを保有していることになる。

問題は機体寿命に達しようとしているF-16C Block30を更新するため発注していたF-35Aがロシア製防空システム「S-400」導入の影響で入手できなくなり、開発中の第5世代戦闘機「TF-X」も開発が遅れているためBlock30の更新には間に合いそうにない点だ。

そこでトルコはBlock30の機体寿命を8,000飛行時間から12,000飛行時間まで延長してTF-X開発に必要な時間を稼ぐことをにしたと報じられている。

出典:Turkish Aerospace Industries

トルコの第5世代戦闘機「TF-X」は機体の開発をBAEシステムズとエンジンの開発をロールス・ロイスと共同で行う予定だったのだが、トルコが共同開発したエンジンに関する全ての権利が「トルコ側に属する」と言い始めたためロールス・ロイスが共同開発から撤退、代わりを探してはみたものの「全ての権利がトルコ側に属する」という条件を受け入れる西側企業が現れずロシアが「エンジンを含むTF-X開発全般に協力できる」とアピールしたがトルコは手を引いたロールス・ロイスとの交渉再開を希望した。

しかしロールス・ロイスとの交渉再開に関する続報がないので、恐らくエンジン開発はトルコ単独のまま進んでいる可能性が高い。

補足:国産エンジンが間に合わないのでTF-Xのプロトタイプは国内でライセンス生産しているGE製エンジン「F110」を使用する予定

もしトルコ単独で開発が進めば国産エンジンのプロトタイプ出荷は2023年以降、エンジンテストは2026年以降、国産エンジンによるTF-Xの初飛行は2029年以降になると言われており、ギリギリF-16C Block40の大量退役(100機以上)が始まる2030年代に間に合う計算だが問題の国産エンジン開発に遅れが生じればBlock40の機体寿命延長も視野に入ってくるのだが、トルコが軍事的に対立しているギリシャはラファールやF-35A導入に動いており航空戦力の数はともかく質の面でトルコは追い詰められることになるだろう。

出典:U.S. Air Force photo/Tech. Sgt. Brandon Shapiro

そのためトルコは国産のAESAレーダーや独自の電子戦装置をF-16Cに統合する計画も進めているが、やはりF-35Aをギリシャが導入すればアップグレードしたF-16Cで対抗するのは難しいかもしれない。

現地メディアもトルコ空軍の近代化が停滞したままギリシャ空軍の近代化が進めば、エーゲ海上空の軍事バランスはトルコ不利へと傾きギリシャの「領海12海里化」を宣言する阻止しする軍事力が失われてしまうと警告しており、エルドアン大統領の「S-400導入」という政治的決断は軍事力低下を招いただけでキプロスを含む東地中海の軍事的天秤を逆転させてしまう=トルコの損失はギリシャの利益にしかならないと嘆いている。

ただエルドアン大統領は欲しい軍事技術は持ち前の政治力で獲得してきた実績があるため、停滞したTF-X開発や更新用戦闘機の導入で政治的博打=ロシアとの取引を決断する可能性もあるので注意が必要だ。

関連記事:トルコの失策、ギリシャのF-35Aはエーゲ海上空のゲームチェンジャー
関連記事:開発が進むトルコの第5世代戦闘機TF-X、試作機は米国製「F110」搭載
関連記事:東地中海の対立構造に新たな火種、ギリシャ議会が領海拡張法案を承認

 

※アイキャッチ画像の出典:Jerry Gunner / CC BY 2.0 トルコ空軍F-16C

失敗が許されないボーイング、米空軍向けに製造したF-15EXの初飛行に成功前のページ

米国がインド制裁に言及、英国が参加を示唆したクアッドは崩壊の危機次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    イタリア、レオパルト2A8の新規調達とアリエテのアップグレードを実施

    ウクライナ侵攻を受けて伝統的な地上戦力の再評価に注目が集まり、イタリア…

  2. 欧州関連

    ドイツ国防相の残念な新年挨拶、花火と爆竹が鳴り響く中で戦争に言及

    ドイツのランブレヒト国防相が投稿した新年挨拶の動画が物議を醸しており、…

  3. 欧州関連

    英メディア、欧米はウクライナを守るためノルド・ストリーム事件で沈黙を選択

    Times紙は8日「欧米の諜報機関はノルド・ストリーム事件の黒幕が誰な…

  4. 欧州関連

    英国防省、無人戦闘機の技術実証機「モスキート」製造をキャンセル

    英国防省は24日、初飛行が2023年に予定されていた無人戦闘機の技術実…

  5. 欧州関連

    再掲載|英海軍の闇、原潜用原子炉の欠陥と退役済み原潜の処分費用

    英海軍のヴァンガード級原子力潜水艦は核燃料交換が不要な原子炉「PWR2…

  6. 欧州関連

    原潜のニコイチ? フランスが火災で廃艦寸前の原潜「ペルル」修理を発表

    フランスのパルリ国防相は22日、火災で大きく損傷した攻撃型原潜「ペルル…

コメント

    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    技術的に完全自前のTF-Xメインとかロマンはあると思いますね。F-35捨てた価値がロマンにあるかは知らない。

    14
    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    内政はあれだけど外交手腕はマジで化け物だな…
    狂犬ではあるが

    17
      • 匿名
      • 2021年 2月 03日

      典型的なブラック企業のワンマン社長だよな
      最後は国を倒産させるんやろうか?

      15
        • 匿名
        • 2021年 2月 03日

        五分五分ですかねえ。
        まるでギャンブルだ。

        4
      • 匿名
      • 2021年 2月 03日

      外交手腕ねぇ…
      本当にこれで国が豊かになるんですかね

      5
        • 匿名
        • 2021年 2月 04日

        一方の言いなりになるよりか主体性を持った方がいいと思うよ
        特に地政学的な立地はかなり強みのある場所だ。

        9
      • 匿名
      • 2021年 2月 04日

      地球の反対側の話だから持ち上げていられるが、やってる事自体は中露や北朝鮮と恫喝外交と変わらん。

      3
    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    ロシアが気前よくエンジン開発に援助してくれるかと言われたら微妙なラインだからなぁ。去年の紛争でロシアの顔に泥を塗った形になるし、武器を売るならともかく、味方になるとは限らない、むしろ噛みついてくる可能性もある国に協力するとはとてもね。

    12
      • 匿名
      • 2021年 2月 04日

      S-400の件はあくまで警告でしかありません。これ以上ロシアや中国に傾くなら、西側からは完全に切り捨てられて経済的に終わります。だからこそロシアとは手を組めないというだけです。

      3
    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    中国とやればいいじゃんかお互い最近ブイブイ言わせてる同士気が合うでしょう

    8
      • 匿名
      • 2021年 2月 04日

      そういや、米バイデン政権から中国と連名で敵国認定されてたなw

      1
    • ソソソナス
    • 2021年 2月 03日

    ロシア製の戦闘機を購入すればいいのでは?

    1
      • 匿名
      • 2021年 2月 03日

      日本が中共から戦闘機を輸入するようなもんだぞ。

      6
        • 匿名
        • 2021年 2月 04日

        S400は買ったのだから毒をくらわば皿までということもある

        4
    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    S-400でゴタゴタする以前のトルコの強みは、NATOの東側最前線でかつ黒海〜地中海間のボスポラス海峡を掌握していた。けれどエーゲ海をギリシャ領海化が認められれば、ボスポラス海峡掌握している意味が低下する。
    もし更にキプロス共和国がNATO加盟すれば、NATOにとってトルコは用済みになりそう。

    5
      • 匿名
      • 2021年 2月 03日

      トルコこそNATOは用済みと思ってないか?
      欧州は揃いも揃って碌な軍備もないし

      8
        • 匿名
        • 2021年 2月 04日

        経済力がまるで違うんですよ。トルコには金が無い。軍事力で国は豊かにならないのは北朝鮮を見れば明らかです。

        3
    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    エンジン開発はおいそれと出来ないからなー
    エルドアンは知恵の絞りどころやね。

    5
    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    アメリカはトルコにF-35は売らないけどF-16のアップデートは許可するという事なんだろうか?
    それともトルコはアメリカの許可なしに勝手にF-16のアップデートをするつもり、その技術力もあるという事なんだろうか?

    8
    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    確かトルコってアルタイ戦車のパワーパックも交渉決裂で自主開発になったんだろ
    忙しいなおい

    6
    • 新・にわかミリオタ
    • 2021年 2月 03日

    「全ての権利がトルコ側に属する」
    いつ見ても傲慢な条件だな

    11
      • 匿名
      • 2021年 2月 04日

      お隣の半島国ほど厚かましい国は無いと思ってたけど
      上には上がいるもんだな

      2
        • 匿名
        • 2021年 2月 04日

        日本とは関係も長いし、仲良くしたいとは思うんだけど、この自己中心的な考え方は目に余るよね。

        4
          • 匿名
          • 2021年 2月 04日

          おそらく近くにいたら仲良くはなれてないでしょう。結局のところ日本からすればトルコは他人事の部分が大きい。

          6
            • 匿名
            • 2021年 2月 04日

            ここ数年の狂犬だかゴロツキ国家ぶりでトルコは親日どうたらって声がすっかり消えたな。

            5
    • 匿名
    • 2021年 2月 03日

    エンジンが手に入ろうがF-35の前じゃ大して変わらないだろうけどね…

    3
    • 匿名
    • 2021年 2月 04日

    当面はロシアに土下座してSu-57でお茶を濁しつつ
    ウクライナあたりとエンジンを共同研究か開発して
    ステルスはスウェーデンに金払って予算不足で苦しんでるフリューグシステーム2020をなんとか…
    これで何とかするくらいしか思い付かねえ…

    1
      • 匿名
      • 2021年 2月 04日

      スウェーデンは軍事関連輸出の基準が厳しい
      過去からアルメニアやらクルド、シリア関連に黒の多いトルコ相手にテクノロジーは出さないね

    • HY
    • 2021年 2月 04日

     独自にエンジンを作れるか否かでこんなにも違うものだ。

    5
    • 匿名
    • 2021年 2月 04日

    トルコが取得したF-16は複座型含め270機なので現有の245も複座型含めた総数っぽい

      • 匿名
      • 2021年 2月 04日

      英字のwikipediaだとWorld Air Forces2021の数字をもとにトルコ空軍のF-16は245+63と表記してるから、300機以上で間違ってないよ。

        • 匿名
        • 2021年 2月 04日

        英wikipediaに限ってもトルコ空軍、F-16などの項で出典が相互矛盾してるんで断言はできないが、
        308はトルコにおける生産数でエジプト空軍向けに46生産した等を含んでるんじゃないかと思う
        輸入が8、トルコでの生産が245+63、エジプト向け-46で270機になる

        リンク

    • 匿名
    • 2021年 2月 04日

    米国とS400で揉めてるのにF-16Cに勝手に国産AESAや電子戦システムを載せる事が出来るのか
    ライセンス生産しているF-110も米国と敵対したら搭載実験の許可も降りなさそう

      • 匿名
      • 2021年 2月 04日

      トルコは米国からソースコードを貰ってるから国産品を自由にF-16へ統合できるよ。

      3
        • 匿名
        • 2021年 2月 04日

        アメリカ「じゃ、打ち切りでw」

    • 匿名
    • 2021年 2月 04日

    日本とドイツから技術を取り寄せて、それを自国産としていまや世界に輸出してる中華鉄道と同じ手口をトルコが真似てもなw
    プライドは中華並みでも、力量が違うから相手にされんわ

    1
      • 匿名
      • 2021年 2月 04日

      乗りたいのか?
      トルコ製のエンジンの戦闘機と中国製高速鉄道に

    • 匿名
    • 2021年 2月 04日

    (記事より引用)
    エンジン開発はトルコ単独のまま進んでいる可能性が高い。
    もしトルコ単独で開発が進めば国産エンジンのプロトタイプ出荷は2023年以降、エンジンテストは2026年以降、国産エンジンによるTF-Xの初飛行は2029年以降になると言われており、ギリギリF-16C Block40の大量退役(100機以上)が始まる2030年代に間に合う計算

    そもそもエンジン開発できるんだろうか
    もし失敗したら大惨事じゃないか

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  2. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  3. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  4. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  5. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
PAGE TOP