ウクライナ戦況

米軍のものより優れたウクライナ軍の砲兵システム、PzH2000への統合が完了

イタリア陸軍で勤務経験をもつトーマス・タイナー氏は5日、ドイツとオランダがウクライナに提供するPzH2000は特別仕様だと明かして注目を集めている。

PzH2000はGISArtaに統合されたことで運用効率が上がり、戦場に投入されればロシア軍にとって恐ろしい存在になる

ロシア軍との戦いに不可欠な自走砲をウクライナを送るためドイツととオランダは計12輌(ドイツ7輌+オランダ5輌)のPzH2000を提供する予定だが、イタリア陸軍で勤務経験をもつトーマス・タイナー氏は5日「ドイツとオランダがウクライナに提供するPzH2000は特別仕様だ」と明かして注目を集めている。

ドイツ軍関係者へのインタビューを行ったタイナー氏は「ウクライナ軍、オランダ軍、ドイツ軍のIT技術者、ウクライナ人翻訳家、自走砲を製造したKMWの技術者が集結してPzH2000のソフトウェアをウクライナ語にローカライズしただけでなく、GISArtaと呼ばれるウクライナ軍の砲兵管理システムも統合した」と言及している点が非常に興味深い。

ウクライナでの地上戦は両陣営とも無人機や市販のドローンを大量に投入して戦場認識力を拡張しており、戦場の霧に紛れることが難しくなった地上部隊は分散運用が基本だ。

出典:Italian Army / CC BY 2.5 155mm榴弾砲「FH70」

この戦いで主役を務めているのは戦車や歩兵戦闘車ではなく射程の長い榴弾砲や多連装ロケットシステムで、ウクライナ人が開発した砲兵管理システム「GISArta」は無人機やドローンがもたらす敵の位置情報を元に「戦場の分散した砲兵部隊の中から目標に攻撃するのに誰が最適なのか?」を素早く判断して射撃情報を送信、兵士は送られてくる指示通りに砲撃を行えば分散した砲兵部隊の火力を集中運用することができ、位置や武器が異なる砲兵部隊による同着攻撃もGISArtaを使用すれば数秒で準備が整うらしい。

米国の国防関係者もウクライナ軍が使用するGISArtaについて「目標の特定から砲撃開始まで最短でも1分かかる米軍のシステムより優れている」と述べており、圧倒的な砲兵戦力を誇るロシア軍に相手に「数で劣るウクライナ軍」が善戦しているのは砲兵戦力の運用効率に秘密があるのだろう。

出典:Bundeswehr / CC BY 2.0

つまりドイツとオランダが提供するPzH2000は「米軍のシステムより優れている」と評価されるGISArtaに統合されたことで運用効率が上がり、戦場に投入されればロシア軍にとって恐ろしい存在になるという意味だ。

関連記事:オランダ国防省、ウクライナへのPzH2000提供を正式に発表
関連記事:ドイツ政府、ウクライナに陸軍保有分から7輌のPzH2000提供を決定

 

※アイキャッチ画像の出典:Ministerie van Defensie

お知らせ:記事化に追いつかない話題のTwitter(@grandfleet_info)発信を再開しました。

ウクライナ、ベルギーが民間企業に払い下げたM109A4の入手に成功前のページ

反撃が続くセベロドネツクの戦い、ウクライナ軍が市内の約80%を支配か次のページ

関連記事

  1. ウクライナ戦況

    ロシア軍が前進を見せるバフムートの戦い、ウクライナ軍にとって厳しい戦い

    両軍が激しく交戦するバフムート周辺の戦いはロシア軍がウクライナ軍の防衛…

  2. ウクライナ戦況

    ゼレンスキー大統領、降伏を考えるロシア人へ3つの約束を発表

    ゼレンスキー大統領は24日、降伏を考えているロシア軍兵士に対して人道的…

  3. ウクライナ戦況

    前進を見せるウクライナ軍の反撃、ポーランドも12輌以上のKRABも出荷

    ヘルソン州におけるウクライナ軍の反撃は確実に前進を見せており、特にクリ…

  4. ウクライナ戦況

    ドイツ国防相、ウクライナに提供を約束したM270を8月初めまで引き渡す

    ドイツのランブレヒト国防相は「ウクライナに提供を約束した多連装ロケット…

  5. ウクライナ戦況

    ロシアは東部戦線で着実に前進、ウクライナは反攻が遅れる可能性を示唆

    ゼレンスキー大統領は占領地の解放=本格的な反攻について「急がない」と明…

  6. ウクライナ戦況

    ポーランド、NATO規格対応の自走砲KRAB×18輌をウクライナに提供

    ポーランドの国営ラジオ(Polskie Radio/PR)は29日、陸…

コメント

    • たかさん
    • 2022年 6月 06日

    近くに段着したら一目散に車輛を棄てて逃げていく動画もあったけどそういう事情があるのかも

    5
      • すっとこどっこい
      • 2022年 6月 06日

      その点、写真のFH70は牽引榴弾砲だけどM777と違って「自走」出来るので逃げ足だけは早そうすね。。

      10
    • 2022年 6月 06日

    問題は肝心のウクライナ軍自身は砲弾が枯渇してるっぽいってとこなんだよな…
    6/3日から今日までのここ数日の全戦線においての砲撃件数報告でもロシア:ウクライナは205:13件しか砲撃できてなくて
    明らかにウクライナ側が弾薬枯渇のために撤退してるケースがいくつも見受けられるんだよな
    砲撃プラットフォームの供与は重要だけど砲弾の供与はもっと増やした方がいいのでは…

    16
      • きっど
      • 2022年 6月 06日

      そういったところで、現時点でもウクライナ砲兵の主力を占めているであろう東側規格の弾薬の融通は最早限界を迎えているでしょう
      かといって西側規格の砲や弾薬は、空路では一度に運べる数に限りが有り、陸路では時間が掛かる上にインフラ破壊の影響が有り、黒海経由の海路は閉鎖されていますから
      そもそも西側も兵器や弾薬にその製造ラインは冷戦終結と対テロ戦争への移行で削減されており、最近になって漸く正規戦への回帰で強化し始めたところですし

      10
      • すっとこどっこい
      • 2022年 6月 06日

      >ここ数日の全戦線においての砲撃件数報告でもロシア:ウクライナは205:13件しか砲撃できてなくて
      ロシアは一斉砲撃による面制圧が基本だけど、ウクライナはどうもピンポイント攻撃に特化してるような気がするのでこの比率でもけっこうやっていけるのではと思う。
      たしかに砲弾はあればあるほど戦術の応用範囲が広がるので「供与は迅速に」ですね

      14
        • 2022年 6月 06日

        やってけてないから一部の戦線では後退してるよ
        リマンで撤退してたウクライナ軍が反転して追撃しに来たロシア軍に対して迎撃して一時は追い返してみたものの砲火力で押し切られて結局はまた後退する羽目になってるし

        8
        • 匿名
        • 2022年 6月 06日

        ジャーナリストの取材に対して宇軍指揮官が
        「精度ではこちらが勝っているが、相手は1発撃つ度に10~15発は撃ち返してくる」って語ったなんて話も聞くし
        枯渇しているのか、あるいは反攻作戦に向けて温存してるのかもしれないが現段階で使える砲弾の数にかなり制限がかかってる可能性が高いのは否定できない
        精度が高いのも砲弾の数が限定されてる裏返しで、極力目標を限定して、かつ無駄弾を減らす努力を徹底せざるをえない状況にあるとも考えられる
        ただ、本当に砲弾が枯渇してるなら完全に守勢に回らざるを得ない筈だけど、セベロドネツク以外は各戦線ともに一進一退って感じなんだよなあ
        砲撃数の情報が民間レベルの報告に依存してるなら、派手にバカスカ撃ってるロシア軍の砲撃のほうが単純に観測され易いってことは考えられない?

        1
          • 四凶
          • 2022年 6月 07日

           何と言うか全体的に均等に補給がされているなら単純比較出来るが、戦線によって出番も違うし補給のし易さや後方判断で供給調整しているのもあるだろう。そう言うのを考慮しないと実情見えてこないんじゃないかな。

          1
      • zerotester
      • 2022年 6月 06日

      米軍がグローブマスターにウクライナ向けに弾薬を積んでいる映像を公開していました。湾岸戦争で空輸で物資を大量輸送した米軍にしてみればその気になればいくらでも送れるでしょう。誘導弾の数は限りがあるかもしれませんが。

      あと都市を更地にする勢いで砲撃しているロシアとは砲兵の運用法が違うし、市街戦に移行して砲撃の必要性が下がったこともあるので砲撃が減ったから枯渇しているとも言えないでしょう。

      6
        • minerva
        • 2022年 6月 06日

        枯渇の可能性は高いよ
        122mmはともかく152mmはダナの引退で既に西側に砲弾製造能力がない
        かといって砲弾が供給されている西側の155mm砲もそこまで数があるわけでもなく、既に損耗も出ている
        ウクライナ国内で規格違いによる榴弾砲と砲弾の数量ミスマッチが起きてる可能性がある

        8
      • show the flag
      • 2022年 6月 06日

      砲撃件数について興味があります。
      number of bombardmentsなどで検索を掛けてみましたが該当の資料に辿り着けませんでした。
      ご存じの方がいればソースをお教えいただけないでしょうか。

      4
        • 2022年 6月 06日

        砲撃数ではなく爆発数で検索したほうがいいですね
        日本人で24時間ごとに集計してる方もいますが

        3
          • show the flag
          • 2022年 6月 06日

          ありがとうございます。
          当初の砲撃件数報告を提示された方ですね。
          ご案内に沿ってnumber of explosions in ukraine や Explosion tally of the Ukrainian war でgoogle検索を掛けてみましたが、該当する結果には行き当たりませんでした。
          念のためduckduckgoでも同じく試みましたが、死傷者や個別のミサイル被害の記事が多く該当する反面で砲撃の件数を集計したものはともに上位100件ほどに見当たりませんでした。
          恐縮ですが今少し具体的にお教えいただけないでしょうか。

          1
            • Minerva
            • 2022年 6月 06日

            おそらくTwitterの犬の飯さんのツイート
            あの人は自分で人工衛星の情報を買ってOSINTをやっているはず

            4
        • show the flag
        • 2022年 6月 06日

        戦争当事国の公式な情報は見当たらず、その他例えばNASAのFIRMSからではロシア/ウクライナで約16倍ほど砲撃件数の差は読み取れませんし、今のところ報道でもそれらしい記事を見出すことができていません。

        FIRMSについて言えばロシアの砲撃による市街地火災は検出に足る一方でウクライナの砲撃は先日の渡河作戦の撃滅ほどの規模ならともかく、例えば一昨日セベロドネツクの戦闘においてLuhansk regional employment centerでBMP-1が2台撃破された熱源程度では検出されなかったので、これを基に両国の砲撃件数を述べるには足りないと考えています。

        Minervaさんのご提示はありがたいのですが、もしも”ぬ”さんのソースも個人が提示する情報ということなら、そうとお示しいただければ結構です。

        2
    • 折口
    • 2022年 6月 06日

    野戦のネットワーク化といえば、陸自も機甲科や普通科は熱心に接続していますが特科や航空科は無線通信頼りの部分が未だに多いそうです。陸自といえばナゴルノ・カラバフ戦争後のアゼルに武官を送って調査させてたくらいですから将来戦モデルに感心がないとは思わないですが、今まで金がなくて切り込んでなかった部分に挑戦していく弾みがつくといいですね。

    15
      • 匿名
      • 2022年 6月 06日

      いちおう数年前に10NWの他にもFCCSでもUAVとの連接試験はしてるらしい(wiki調べ)

      8
        • ネコ歩き
        • 2022年 6月 06日

        今年の富士総火演後段の中で、UAVからの取得データもFCCSで自動処理される旨解説されてましたね。
        また、16MCVがUAV他からの取得データを10MBTに転送なんてのもやってたようです。

        5
      • 匿名
      • 2022年 6月 06日

      この動画で見える限り特科もネットワーク化されてる気もする
      リンク

      6
      • NATTO
      • 2022年 6月 06日

      ドローンの活用をタネに自衛隊の批判記事を書く人は全く調べずに書いてるのが判る。

      4
      • REX
      • 2022年 6月 06日

      え?嘘でしょ?
      うちの部隊、コータム(広域帯域無線なんたら)全然繋がらないからスマホで通話してんだけど。
      繋がっても、耳につけるイヤホン外れやすすぎるから面倒でやっぱ最後はスマホ使ってんだけど。

      一般普通科は無線も通信もゴミ。何とかしてくれ、、(悲)

        • 2022年 6月 06日

        本当に貴方が自衛隊員なら、軽々に装備についてネットに書き込むべきじゃない。

        4
        • 匿名
        • 2022年 6月 06日

        まぁ帯域に関してなら防衛省より総務省に文句を言うべきやがな

        5
        • 四凶
        • 2022年 6月 07日

         コータム繋がらないなら車両に積んだやつでネットワークなんて無理だな。つか、コータム以外の衛星通信とかでネットワーク維持してんのか?

    • や、やめろー
    • 2022年 6月 06日

    ウクライナもすごいもの開発したな。でも砲弾が心配だな。足りるかどうか。

    4
      • 2022年 6月 06日

      ウクライナはあのADブロックを開発した国だぞ?

      3
        • 名無し三等兵
        • 2022年 6月 06日

        腐ってもIT大国と呼ばれた国ですからね

        2
    • zerotester
    • 2022年 6月 06日

    UAVと精密誘導砲弾の組み合わせは強力ですが、気になるのはロシアの電子戦機材によってUAVの活動が阻害されているとウクライナ軍が言ってることでですね。それも欺瞞情報の可能性もあるけど、以前のようにUAVで偵察し放題にはなっていない可能性があります。UAVにもいろいろあり、民生用は妨害に弱いがTB2や米軍から提供されたものなどはある程度耐えると思えますが。

    • jiro.siwaku
    • 2022年 6月 06日

    アメリカ軍より優れる──ウクライナ内製ソフトで砲撃20倍迅速に
    5/26(木) ニューズウィーク日本版
    リンク

    異なる種類の火力が同時に着弾するような時間計算も得意としており、これにより3秒以内の誤差で目標に着弾させ、敵陣を弾幕で包むこともできる。TOT(タイム・オン・ターゲット、同時弾着射撃)と呼ばれる手法だ。

    「米軍は指令から発射まで、第二次大戦では5分、ベトナム戦争では15分、現在では1時間を要している」「いや、書き間違いではない」

    アメリカでは友軍に対する誤射防止などのため、上層部への確認手続きに時間を要するようになっているのだという。対するGIS Artaはこの常識を覆し、常に自軍の位置を追跡しておくことで、元々20分だった工程を最短30秒にまで短縮した。ウクライナのシステムは、「意思決定」と「引き金を引く」のあいだに存在した冗長な時間を、IT化で省いた

    当初こそ砲撃計画システムの立ち位置に留まったGIS Artaだが、いまではより広範な戦術システムとしてウクライナの指揮官たちを補佐している。指揮官たちは軍司令部からシステムを参照して射撃命令を出すほか、兵站や通信のサポートなど幅広い業務をGIS Artaを活用

    「レーダーと連携していれば、敵の所在を知るだけでなく、ミサイルの射出時にそれを検知し、着弾予想地点とそこに自軍の部隊があるか否かを自動的に検出します」
    「ロケットがまだ空中にある段階で、自軍に退避を促すことができるのです」

    4
      • ネコ歩き
      • 2022年 6月 06日

      C4Iシステムのレベルが、クリミア併合以降NATOの全面的協力を得たウクライナと旧態然としたロシアでは段違いという話も聞きますね。
      NATOは武器供与支援だけではなく、E-3によるウクライナ領空外からの空域監視バックアップ等、ウクライナ軍との常態的データ共有を確立してるらしいです。ロシア空軍機が国境線から侵入したがらない理由かと。

      結果的に、ロシア軍が戦力差で力押しできる戦線では一定程度優位に立てるが、ウクライナ軍は効率的に戦力投入を行うことで持久したり押し返すことが出来ているてことなのでしょう。
      積極的反攻戦を実施できるだけの装備や訓練された兵員が揃えば、失地回復する自信がある根拠要因なのかもしれません。

      2
    • 四凶
    • 2022年 6月 07日

     これだけネットワークに依存したシステムに痛い目合わされているのにロシア側の対応がな。完璧な妨害したらウクライナ側の効率がた落ちだろうに。

     ある意味システムが優秀すぎて通常だと見逃されたりするケースも対応出来て滞空時間が長くセンサーがある程度優秀なUAV情報あるから砲兵の出番が増えすぎて、リスク回避で通常なら歩兵携行兵器で済ませるケースですら重迫や榴弾砲使ってんじゃないかな。それなら砲弾の枯渇ってのも不思議じゃない気がする。

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  2. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  3. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  4. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  5. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
PAGE TOP