フランス、ドイツ、スペインが共同開発するFCASの有人戦闘機部分について、ダッソーのエリック・トラピエ最高経営責任者は「エアバスが協力を拒むなら終わりだ」「フランスは2種類の機体を作るという考えを支持していない」「取り決めを守ってないのはエアバスの方だ」と述べた。
参考:Dassault CEO: FCAS jet program ‘dead’ if clash with Airbus not resolved
参考:French-German fighter program on life support as Dassault blames Airbus
参考:Airbus-Beschäftigte, Geschäftsführung und Politik fordern Neuaufstellung von FCAS
出資額を無視した強制力のあるリーダーシップを要求することの傲慢は「自分たちのやり方が一番正しい」という精神で無視している
フランス、ドイツ、スペインは将来戦闘航空システム(Future Combat Air System=FCAS)の共同開発を進めているものの、ダッソーがワークシェア配分の3ヶ国合意を無視した主導権を要求し、ドイツのメルツ首相は「このままではFCAS計画を続けられない」と、インドラのデ・ロス・モソス最高経営責任者も「我々とスペイン国防省はFCASに対する立場について完全に一致している」「計画に33%出資するのであれば33%の利益を受け取らなければならない」と述べ、フランス側にFCASのワークシェア比率を守れと要求した。

出典:AIRBUS
この問題は当初2025年末までに政治的解決策を見つける予定だったが、フランスとドイツの溝が埋まらず協議が難航し、ドイツのピストリウス国防相は先月「数日以内にFCASの将来が明らかになる」と、ドイツのディフェンスメディア=hartpunktも「政権指導部は2月末までに新たな決定を下すようだ」「ドイツは(FCASの枠組みの中で)2種類の戦闘機開発を検討している」「FCASの有人戦闘機(NGF)部分以外の要素は引き続き開発する予定だ」「業界筋によればエアバスは2030年代半ばまでに戦闘機を開発する準備を整えている」「場合によってはドイツ単独での開発も辞さない構えだ」と言及。
Breaking Defenseも「FCASのNGF共同開発はほぼ確実に崩壊に向かっている」「業界筋はエアバスとダッソーによるフェーズ2の協議が停止したと明かした」「今週中にFCASの葬儀が行われる予定はないものの、ミュンヘン安全保障会議の傍らで取材に応じた業界筋によれば『エアバスとダッソーの間で相違があるのにフェーズ2の協議をなぜ行わなければならないのか』と語った」「NGF実証機の製造と飛行が予定されていた第二フェーズの協議がまとまらなければ、4月に終了するフェーズ1BをもってNGF開発は終焉を余儀なくされるだろう」と報じていた。

出典:Machtwechsel
メルツ首相は政治ポッドキャスト=Machtwechselに出演して「フランスはNGFに『核兵器の搭載能力』と『空母での運用能力』を求めている」「それは現在のドイツ軍が必要としているものではない」「現在の問題は2つの異なる要求要件に対して『2種類の航空機を製造する力と意志があるのか』『それとも1種類に絞るのか』ということだ」「この問題が解決されないならドイツはプロジェクトを継続できない」「我々には協力する準備ができている『欧州の他の国々』が存在する」と言及。
これを受けてFCASにオブザーバー参加しているベルギーのテオ・フランケン国防相も「ドイツの首相がMachtwechselで述べた通りFCASは死んだ。独仏共同の第6世代戦闘機が実現することはない。ベルギーはプログラムのオブザーバーであったが、我々は自国の立場を再検討する」と述べ、Breaking Defenseは18日「要求要件の食い違いは新たな政治的アプローチだが、所詮はエアバスとダッソーが『NGFの主導権』を巡って争っている産業上の紛争に基づいたものに過ぎない」「ここ2週間の報道とメルツ首相の発言によってアナリストの多くがFCAS終焉を確信するようになった」と言及。
エアバスのギヨーム・フォーリ最高経営責任者も2月の決算会見で「我々は顧客からの要請があれば2機種並行開発案を支持する」「欧州の協力関係を通じて再編されたFCASにおいて主導的な役割を果たす準備はできている」と述べたが、ダッソーのエリック・トラピエ最高経営責任者は「もしエアバスがダッソーとの協力を望まないという立場を維持するのであればNGFは終わりだ」「フランスは2種類の機体を作るという考えを支持していない」「ドイツは問題ない」「FCASの最初の取り決めを尊重していないのはエアバスの方だ」「ダッソーは常に傲慢だと言われるが今日のどこが傲慢なのか?」と述べた。
トラピエ氏は「効率的であるためには特定の下請け業者が有能であるかどうかを判断する真のリーダーがいなければならないとダッソーは信じている」「誰が機体の形状を決定し、誰がそれを空に飛ばす責任を負うのかということだ」「このやり方をエアバスが好まないことは理解しているが、共同のリーダーシップには同意できない」「仏当局のトップレベルからNGFの運用要件については合意がある」とも述べ、ドイツのマンヒングにあるエアバス工場では従業員4,000人が「FCASの再編」を要求。

出典:Betriebsrat Airbus Manching
この集会はドイツ航空宇宙産業協会(BDLI)やドイツ最大の金属産業労組(IG Metall)が呼びかけたもので、エアバスのトーマス・プレッツル総労働評議会議長はメルツ首相に対し「政府はドイツの上空における航空優勢を保証しなければならない」「米国の政治の気まぐれにも、フランスの航空機メーカーの気まぐれにも左右されてはならない」「我々はそれを主権と呼ぶ」「今日はユーロファイターによって、明日はその後継機によって、それは実現される」「我々には準備ができている」と要求。
エアバス防衛部門のミヒャエル・シェルホルン最高経営責任者も「ドイツ空軍はFCASを必要としている」「しかしプロジェクトが人質に取られ、合意されたルールが一方的に疑問視され、ドイツ産業やドイツの要件が考慮されないのであれば、我々の産業上の使命を果たすことはできない」と述べ、ドイツの産業基盤と空軍の将来能力を危険に晒さない2機種の戦闘機によるソリューションを備えたFCASを要求。

出典:Dassault Aviation
BDLIのマリー=クリスティーヌ・フォン・ハーン氏も「FCASを成功裏に離陸させるための解決策は2種類の戦闘機だ」「一つはドイツの戦略的利益に資するもの、もう一つはフランスの要件に合わせたものだ」と主張し、ダッソーとエアバス(ドイツ産業界)の対立は悪化し続けている。
どちらの言い分が正しいのかは謎だが、フランスとドイツはFCASのNGF部分について「フランス=ダッソー主導」で政治的に合意していたものの、欧州の共同開発は基本的にGeo return(出資額に比例したワークシェアを保証する仕組み)が前提で、F-35プログラムの国際共同開発における米国主導とは根本的に構造が異なる。

出典:U.S. Air Force photo Senior Airman Shelimar Rivera Rosado
要するにフランスとドイツは「NGF部分のダッソー主導」で合意してもGeo returnの精神に則って出資比率は均等なため、ダッソー主導は出資比率による強制力がなく、トラピエ氏はダッソー主導とGeo returnについて過去以下のように述べた。
“協力関係を構築する上でGeo returnは不可欠だ。これはnEUROnの開発で成功したもののNGFでは機能していない。我々は単独でエアバスに立ち向かうしかなく、何を決めるにも時間がかかる交渉が必要だ。フランスは戦略的自立を追求してきた歴史的経緯があるため仏企業の一部は特定分野のトップティアだ。これを無視して公平なGeo returnを実施するのは難しい。フランスは第三国から何の制約も受けず任務を遂行可能な次世代戦闘機を望んでおり、それ以外のものは計画中止の理由になりうる”

出典:Dassault Aviation
“もし政府が戦略的自立を捨てて同盟国との相互依存を選択すれば後戻りが出来なくなるだろう。同盟国に対して何を譲歩するのか、それ自体は欧州間の協力や欧州統合への願望において当然のことかもしれないが、それは同時に互いが依存しあう関係に陥ることを意味する。(計画中止になった場合、ダッソーは単独で次世代戦闘機をフランスに供給可能かという質問に)傲慢に聞こえるかもしれないが、戦闘機を開発するのに我々以外の誰の能力が必要なのか?協力して利益を分かち合うことに反対しないが、戦闘機開発に関する技術を持っているのは我々だけだ”
結局のところ、トラピエ氏は「Geo return=出資額ではなく開発能力や技術力でワークシェアを分配すべきだ」と主張しているため「ダッソーがワークシェア配分の3ヶ国合意を無視した主導権を要求している」となり、FCASの最初の取り決めを尊重していないのはエアバスの方だというのはダッソーの傲慢に過ぎず、トラピエ氏が「ダッソーは常に傲慢だと言われるが今日のどこが傲慢なのか?」と発言した部分にダッソーの傲慢が集約されている。

出典:Tiraden/CC BY-SA 4.0
ダッソーはタイフーン計画のときと同じように「自分たちのやり方が一番正しい」と信じており、今回の発言も「自分たちは戦闘機の開発能力や技術力に忠実な主張をしているだけ」「自分たちよりも専門能力が劣るエアバスが対等なリーダーシップを要求するな」「ダッソーよりも身の丈を知らないエアバスの要求の方が傲慢だ」となり、出資額を無視した強制力のあるリーダーシップを要求することの傲慢は「自分たちのやり方が一番正しい」という精神で黙殺している格好だ。
仮にエアバスが戦闘機の開発能力や技術力でダッソーと対等であっても、フランス=ダッソーは戦略的自立を左右するような武器主権の相互依存を嫌う可能性が高く、トラピエ氏が言いたいことをシンプルにすると「出資額は均等のままで、NGF設計以外のFCAS要素(コンバット・クラウド、リモート・キャリア、エンジンなど)でドイツに譲るから、出資額を超えてFCASの中核要素=最も儲かる有人戦闘機の強制力を伴った主導権を寄越せ、それが有人戦闘機を開発する上でも(フランスにとって)一番良いんだ」となり、究極的には「有人戦闘機のコア技術をダッソーで独占したい」「NGFにタイフーン系統の技術を入れたくない」となる。
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※アイキャッチ画像の出典:Dassault Aviation





















(脳裏に浮かぶお互いに指をさしあうスパイダーマンの画像)
というミームは置いておいて、こと国防国益に直結するとはいえもう少しなんとかならないんですかねとずっと思ってます
表に出てこないだけで日英伊もバチバチにやりあってる部分とかあるんでしょうけど…
ダッソーの気持ちはものすごくわかるし、ドイツ(エアバス?)の求めてることもすごくわかる
でも両者の落としどころはわからない
こんなオッズ1.0倍のレースで何年、貴重な時間を使ったんだか。
もういっそ、フランス(ダッソー)が出資比率を上げればいいのでは?と思うのだがそうも行かないのかな。
そう思いますけどねえ。
FCASは仏が多めにMGCSは独が多めに出せばいいんじゃないの?と。
枠組みがある中で勝手に比率を上げて好きな事出来るならやりたい放題だし、仮に比率上げるにしてどこまで上げる必要あるのか。
1%でも多ければ勝ちとかだと納得は出来ないし少なくとも主導的に動くつもりなら関係国が納得の上で10%以上は差がないと駄目だと思うし。本当の最低で40:30:30、相当な無茶を通すなら50:25:25が最低ラインぐらいだろうが納得するのかね。
>「フランス=ダッソー主導」で政治的に合意していたものの、欧州の共同開発は基本的にGeo return(出資額に比例したワークシェアを保証する仕組み)が前提
ここまで決まっててなんで揉めるか不思議なんだけど。
>出資額を超えてFCASの中核要素=最も儲かる有人戦闘機の強制力を伴った主導権を寄越せ、それが有人戦闘機を開発する上でも(フランスにとって)一番良いんだ
そりゃ揉めるわ。
> ダッソーのエリック・トラピエ最高経営責任者は「フランスは2種類の機体を作るという考えを支持していない」
えええ、その出口も潰すの?
昨今の国防予算の大幅増加からダッソー(+フランス政府の一部)は単独開発に舵を切りたがっているように思える。その手段として吹っかけているのかもしれない。
もう機体の右半分はダッソー、左半分はエアバスにすればいいんじゃね・・・。
一方、日英は、要素技術だけ共同開発して、機体は別々に作ることにしたのだった。
いいですね欧州大陸国家は仮想敵のロシアが弱くて