欧州関連

デンマークがSAMP/Tを選択、中長距離防空システムに総額1.3兆円を投資

デンマークは長距離防空システムに関する決定を間もなく下すと予告していたが、12日「SAMP/Tを選択した」「中長距離防空システムに過去最大となる580億デンマーク・クローネ=約1.3兆円の投資を誇りに思う」と発表し、提案されていたパトリオットシステムを拒否した。

参考:Forsvarsforligskredsen enige om historisk investering i jordbaserede luft- og missilforsvarssystemer
参考:Franskmændene kalder det ‘Mamba’ – her er Danmarks nye luftforsvarssystem
参考:Denmark picks French-Italian SAMP/T air defense system over Patriot

恐らくデンマークは米防衛産業と完全に手を切るのが不可能なので依存リスクを下げる方向でSAMP/Tを選択したのだろう

デンマークは冷戦集結後の安全保障環境=テロとの戦いや海外作戦に対応するため戦力構造の再編を行い、この過程で地上配備型防空システム=Hawk PhaseIIを廃止してしまったが、ウクライナ侵攻が勃発して安全保障環境が急変し、デンマーク国防省は6月10日「本格的な地上配備型防空システムを取得するまでの短期的な解決策としてIRIS-TとVL-MICAを購入する」と、7月4日「本格的な地上配備型防空システムを取得するまでの暫定的な能力としてNASAMSをリース契約で取得する」と発表。

出典:Lockheed Martin

デンマーク国防省が検討している地上配備型防空システムには長距離防空システムも含まれており、Defense Newsの取材に「2025年秋までに米国製のパトリオットシステムと欧州製のSAMP/T-NGのどちらかを選択する」「地上配備型防空システムの全契約を年末までに締結する予定だ」「この分野への投資額は250億デンマーク・クローネ=34億ドルを越える」と明かし、米国務省は8月末「デンマークに統合戦闘指揮システムに対応するパトリオットシステム及び関連機器の売却を承認した」と発表していたが、デンマークはパトリオットシステムではなくSAMP/Tを選択した。

デンマーク国防省は12日「長距離防空システムにSAMP/Tを選択した」「中長距離防空システム(SAMP/T、NASAMS、IRIS-T、VL-MICA)を計8セット調達する」と発表し、ポールセン国防相も「デンマーク軍の戦闘力を強化し、国民の安全を確保するには大胆かつ勇気ある決断が必要だ。だからこそデンマーク全土に配備される地上防空システムに過去最大となる580億デンマーク・クローネ=約1.3兆円の投資を誇りに思う」と述べ、現地メディアのTV2にも「この金額は以前発表していた投資(250億デンマーク・クローネ)の2倍以上となる」「計8セット導入する中長距離防空システムの内2セットはSAMP/Tになる」と報じている。

Defense Newsも「デンマークはパトリオットシステムではなく欧州製の代替品=SAMP/Tを選択した」「この決定によりSAMP/Tは欧州域内初の輸出に成功した」と報じ、捉え方によっては「トランプ政権と複雑な関係にあるデンマークが米国製を拒否した」とも解釈できるため非常に興味深い。

デンマークはグリーンランド問題でトランプ政権と折り合いが悪い上、F-35Aの選定に関与したラスムス・ヤルロフ国防委員長も「デンマークのF-35A購入決定に関与した1人として私は後悔している」「可能な限り米国製システムを避けなければならない」と発言して注目を集めたことがある。

“F-35にキルスイッチがあるかどうかは知らないが、これを否定するLockheed Martinの言葉も信じることができない。デンマークのF-35A購入決定に関与した1人として私は後悔している。米国はスペアパーツの供給を止めるだけで間違いなくF-35Aを無力化できる。彼らはロシアを強化し欧州を弱体化させたいと考えており、そのためならカナダのような平和的で忠実な同盟国に多大な損害を与えることも厭わない”

“米国はデンマークにグリーンランドを要求し、これを拒否すれば「米国製システムを使用できなくしてロシアに攻撃させる」と脅してくる状況は容易に想像できる。従って「米国製システムの購入」は安全保障上のリスクでしかない。我々は今後数年間、戦闘機、防空、大砲などの武器システムに莫大な投資を行うことになるが、その中で可能な限り米国製システムを避けなければならない。同盟国や友好国も我々と同じことを行うよう勧める”

出典:Lockheed Martin

ポールセン国防相もSAMP/Tを選択した理由について「米国を拒否したのではなくデンマークにとって最善の解決策を選択しただけ」「政治的理由ではなく運用面、経済面、戦略面の総合的な評価に基づいて選定した結果である」と強調したが、Defense Newsは今回の結果について「トランプ政権が欧州からの米軍撤退をチラつかせ、NATO加盟国のデンマークやカナダを脅迫したため米防衛産業に依存するリスクが高まっている」と指摘しており、恐らくデンマークは米防衛産業と完全に手を切るのが不可能なので依存リスクを下げる方向でSAMP/Tを選択したのだろう。

因みにデンマークは中長距離防空システムへの投資(580億デンマーク・クローネ)の一環として「100億デンマーク・クローネを超える相殺契約」を要求しており、SAMP/T、NASAMS、IRIS-T、VL-MICAを供給する企業は「デンマーク企業から防衛装備品を直接購入するか」「装備やシステムの開発にデンマーク企業に参入=提携させるか」を選択しなければならない。

関連記事:欧州で防空分野への投資が急増、デンマークも年内に長距離防空システムを選択
関連記事:デンマークが防空システムを再取得、IRIS-T、VL-MICA、NASAMS導入を発表
関連記事:デンマークがF-35A導入を後悔、米国製システムは安全保障上のリスクでしかない

 

※アイキャッチ画像の出典:MBDA

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コメント

  • コメント (12)

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    • たむごん
    • 2025年 9月 13日

    武器は値段が高騰していますから、デンマークのような小国でも、とんでもない契約金額になりますね。

    日本はパトリオットを採用してるわけですが、シーカー足りなくて増産できないみたいな話しがあったため、サプライチェーン貧弱だなと感じたのを思い出しました。

    32
      • nachteule
      • 2025年 9月 14日

       個人的に中長距離システムとしてのSAMP/Tと比較するならパトリオットPAC-2と比較すべきで、現状でパトリオットのシーカー問題はPAC-3に留まっている感じで恐らくRTXが製造して居るであろうシーカーの供給不足は顕在化しておらず単純に貧弱と言って良い物なのか。

       それにSAMP/Tだって現状で年間250発位の生産量で来年から数十発増えるだけかもしれないみたいな状態、オマケにこのミサイルは艦載用と陸上用二つあるのでどっちの需要を優先するのかすらあると言う。単純にパトリオットの供給が問題だと言えるほどの供給が出来るかは疑問です。

      2
        • たむごん
        • 2025年 9月 15日

        特にPAC3との比較で問題ないかなと。

        英語圏なども見返しましたが、デンマークがPAC3買うんじゃないかという、近々に先走ったような言及も見かけますね。

        パトリオットは現状、ウクライナ・イスラエル・中東駐留米軍基地のように、最前線で急に消耗したり大量配備が必要になっているんですよね。

        1
    • 野良猫
    • 2025年 9月 13日

    グリーンランドに関する言動見ると技術的に独立どころか敵国とすら認定できますからねアメリカ
    本当要らん事言い過ぎ

    39
    • 神田明(仮名)
    • 2025年 9月 14日

    アメリカ製の防空システムには、もう一つ問題点があります。
    どうして海軍と陸軍で同じミサイルを採用出来なかったのでしょうか?
    陸軍向けは車載化しなくてはならないので、レーダーは別個にならざるを得ないのはわかりますが、ミサイルそのものは共通化出来たと思います
    ヨーロッパなら共通化していたと思ったのは私だけなのてをしょうか?

    5
      • 中村
      • 2025年 9月 14日

       スタンダードは有人神風対策の3Tミサイルとランチャー共用(なので標準型)でしたし、パトリオットも60年代開発開始です。

       セミアクティブシーカーで同時多目標を実現する為に複雑なシステムが必要だった訳です。特に海軍側は1t以上のミサイルが撃てるんだから相応の性能を求めてしまいます。

       欧州側はその後の開発でしたから、アクティブシーカーで単純な解決が取れます。

      11
    • Mr.R
    • 2025年 9月 14日

    デンマーク「ウチにとってベストな選択しただけだから! たまたまアメリカ製じゃないだけやで。今後もアメリカ製を選ぶかは知らんけど」

    3
      • SB
      • 2025年 9月 14日

      これは割とマジであると思うんだよね
      パトリオットって米軍とその同盟国の航空優勢+米国のシステムの統合前提の防空システムだから、レーダー何かの柔軟性が低い(その代わりコンパクト)だし、その他の武器システムが無いと全力を発揮できない

      国民相手の説明としてはごちゃごちゃ性能を説明するよりも「アメリカが不安だから」で通るなら自分も選定理由として使うと思うわ

    •  
    • 2025年 9月 14日

    2セットのSAMP/Tって本国とグリーンランド?本国は間に合うにしても、グリーンランドが1基で持つか?人間は少ないから防護する範囲は狭いんだろうけど。

    •  
    • 2025年 9月 14日

    アメリカへの恐怖症が露骨だな…。アメリカは大陸欧州と北極海での対ロシア戦への関与を減らして、欧州とカナダのウェイトを増やしたいだけだろう。米産兵器ではないのは不満だろうが、各国が勝手に重武装しようがどうでも良いと思うが。
    米兵器を使えなくしてロシアに便宜って、大事なエネルギー供給をロシアに頼る予定だった国が言うと冗句にしかならないでしょうよ…
    そもそもグリーンランド、カナダ併合を企む国が予算を減らして軍縮するかよ。ウクライナや台湾の併合目指して真面目に軍拡してる皆さんと同じに見えるなら重症だ。

    7
      • kitty
      • 2025年 9月 15日

      米国の納期への恐怖は持ち続けていた方がいいでしょう。
      できらあって受注して、間に合いませんでしたでは誠意がない。

      3
    • nachteule
    • 2025年 9月 15日

    >「中長距離防空システム(SAMP/T、NASAMS、IRIS-T、VL-MICA)を計8セット調達する」
     SAMP/Tは長距離だと思うし中距離防空ならNASAMSとIRIS-T SLMの二つでVL-MICAはレンジが10kmとの話もあるのでそれだと短距離防空で本当に中距離と素直に言えるのは2機種しかない感じがする。
     NASAMSで運用するミサイルは米国が深く関わっているので米国リスク回避するならそこまでの依存は避けたい所だが、緊急に中距離防空整備する為に効率よりリスク回避でコスト高になっても構わない風にも見えてNASAMSで潜在的に米国リスクを内包すると言う複雑な防空体系、ややこしい。

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