デンマークはトランプ政権からグリーンランドを併合すると脅され、同国の国防委員長は「F-35A購入を後悔している」「米国製システムは安全保障上のリスクでしかない」と述べたが、デンマーク国防省は25日「実質的なA330MRTT購入」を発表し、米国依存からの脱却を鮮明に打ち出した。
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IFPCだけは米国製や欧州製という議論以前に選んではならない未完成のシステムだ
米国製システムの象徴的存在=F-35に対する不信感が急速に広がり、ポルトガルやカナダに続きデンマークのラスムス・ヤルロフ国防委員長も「F-35A購入決定に関与した1人として私は後悔している」「安全保障上のリスクでしかない米国製システムの回避を同盟国や友好国に勧める」と述べて注目を集めたが、デンマークは今後2年間で500億クローネ=約1兆円の追加支出を決定し、2025年と2026年の国防費をGDP比3.0%以上に引き上げる予定で、ヒルドガード国防長官代理は25日「第1旅団の増強を3年~5年ほど前倒し、空中給油機2機の取得も検討している」と発表。

出典:Michigan Army National Guard Photo by Sgt. 1st Class Helen Miller
ヒルドガード国防長官代理は「デンマークは軍近代化を加速させるための基金を設立し、歩兵2個中隊、偵察小隊、戦術ドローン部隊、機械化工兵中隊、工兵能力を向上させるための新機材、全地形対応の補給トラックなどの要素を含む第1旅団の増強計画を前倒する」「さらにNATOとEUが共同運用するMultinational MRTT Fleetへの出資=空中給油のための飛行時間購入を提案する」「空中給油機2機分に相当する持ち分購入を目標にした交渉も開始する予定だ」と述べた。
Defense Newsは「デンマークはひとまず空中給油のための飛行時間購入を通じて、最終的には空中給油機2機分に相当する持ち分購入を通じてMMFのパートナーになることを予定している」「空中給油能力は欧州が部分的に米国へ依存している分野の1つで、特にトランプ政権はデンマーク自治領のグリーンランドを併合すると繰り返し脅しているため、この分野に対する依存はデンマークにとってリスクでしかない」と指摘し、ポールセン国防相も「空中給油機への投資は北極圏や北大西洋で戦闘機を運用するための前提条件になる」と説明している。

出典:public domain A330MRTT
MMFはオランダ、ルクセンブルク、ドイツ、ベルギー、チェコ、ノルウェーが共同保有するA330MRTTを運用する枠組みで、デンマークは単独で空中給油機を運用するのではなく「MMFへの出資を通じて空中給油能力を確保する」という意味だが、実質的にはデンマークのA330MRTT購入と言っても差し支えないため、Airbusにとっては新たな発注と利益を手に入れるチャンスだ。
因みにデンマーク国防調達局は26日「地上配備型防空システムの潜在的なサプライヤー=調達システムの候補」を発表し、長距離防空システムの候補にはパトリオットとSAMP/T-NG、短・中距離防空システムの候補にはNASAMS、IRIS-T SLM、VL-MICA、IFPCが含まれており、2025年後半の契約締結に向け「政治的な最終決定が下されることを期待している」と付け加えた。

出典:Michigan Army National Guard photo by Spc. Aaron Good/Released
トランプ政権が欧州防衛から手を引くのは確定的(完全撤退か部分的撤退かは不明)に見え、欧州のNATO加盟国も現体制の維持は不可能だと判断し「自立した防衛力の構築が完成するまで米軍のプレゼンス縮小を待って欲しい=5年~10年での段階的な引き継ぎ」を提案中で、デンマークが「安全保障上のリスクでしかない米国製システム=パトリオット」を選択するかどうかに注目が集まるものの、IFPCだけは米国製や欧州製という議論以前に選んではならない未完成のシステムだ。
米陸軍はパトリオットシステムの脆弱性=地平線よりも下を移動する空中目標の脅威に対処するため、Indirect Fire Protection Capabilityと呼ばれるシステムの開発を進めており、半固定式のIFPCランチャーは巡航ミサイル、無人機、ロケット弾、砲弾を迎撃可能で、Raytheonが提案したアイアンドームの米軍バージョン=SkyHunterとDyneticsが提案したAIM-9Xを使用するEnduring Shieldを比較した結果、後者の採用を決定したもののEnduring Shieldは開発途中で実用化には程遠い。

出典:Dynetics
さらに米陸軍はEnduring ShieldのIncrement2に「AIM-120Dに類似した能力が提供できるミサイルの統合」を期待しており、NASAMSに類似したシンプルで開発リスクの低いコンセプトは「専用設計の迎撃弾開発・統合」に発展する可能性が高く、Golden Dome for Americaの登場で地上配備型防空システムの計画自体に見直しや変更が加えられるかもしれないため、まだ米陸軍でさえ調達していないIFPC=Enduring Shieldを選べば痛い目にあうだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Royal Australian Air Force photo by Cpl. David Gibbs/Released
空中給油機2機を購入するということは、ようやく防衛に本気になりだしたということでしょうね。
デンマークからグリーンドの距離3000kmくらいありますから、防衛に本気だったのならば、そもそも自国保有していないのがおかしいわけです。
財政状況も極めて良好ですから、AWACSも検討していくのか少し注目しています。
>財政収支は、2017年以降黒字を継続しており、2020年にはコロナ禍で大幅に縮小したものの、2021年には1,035億デンマーク・クローネと過去最高を記録。2022年の政府債務残高(国及び地方)は、GDP比29.7%(IMF)となっている。
(令和6年12月11日 デンマーク王国 外務省)
いや、デンマークから給油機使って飛行機飛ばすのがそもそも無理でしょう。
本気で、防衛する気があるなら、常備基地が必要です。
でも、実際のところ、GIUKギャップだけが重要で、グリーンランドの土地自体にはあんまり価値を感じていないのでしょうね。
米国にとってはカナダ以上に軍事上空白地はウザい存在でちゃんと軍備していれば、トランプも購入だなんて言い出さなかったと思う。
常備基地は仰るように重要であり、昨年末の段階で対応しようとしていたわけですが、もっと早くきちんとやっておくべきだったかもしれません。
排他的経済水域も広く、北極海航路にも注目が集まってきてますから、今後も注目ですね。
>また、グリーンランドの首都ヌークにある北極圏司令部の人員増強や、グリーンランドにある三つの主要民間空港の一つを超音速戦闘機「F-35」に対応できるよう改良するための予算も含まれる。
(2024年12月25日 デンマーク、グリーンランド防衛費の拡大を発表 トランプ氏が「購入意欲」を再表明する中 BBC)
政治的な事を抜きにしても、今買うなら、トラブル続きのKC-46をわざわざ買う理由が無いですよね……
日本でもKC-46の代わりにA330MRTTをとはよく言われるけど、wikiとかでサイズ比較してみりゃ分かるがKC-46より一回りデカいから純粋に格納庫に入らないしフルスペックで使うには滑走路の距離が足らないんだわ(というかKC-46クラスでも苦労してる)
兵器でよくある表に現れないメリット・デメリットってやつだな
滑走路直すにも、そもそもの地盤が弱いし、金も時間もかかるし、ハンガーその他も作り直しになるし……困ったもんですよね。
給油機か。そんなのより欧州共同でAWACS機を開発、が出てこないと本気が見えてこないかな~と
デンマークは良い買い物をしたようですね
欧州に違約金やら何やら金だけ払わせて、浮いた機体を本邦が格安で大量買い出来ないだろうか
今まで米国についておけば少なくともロシアも中国、いわゆるあちら側も手出しをしてこなかったが、
同等の装備や戦力を備えれば同じ抑止力が働くか?というと疑問符がつきます。
米国自体があちら側になってしまいかねないので仕方ないにしても、それでも本当にこのやり方でいいのか。
欧州は本当に自力でなんとかするつもりなんでしょうね。
核を有さず地理的にも欧米から遠い日本やオーストラリアは中露とは戦えないので、遠方から核で牽制しつついざとなれば駆けつけてくれる(=展開できる)国と付き合って抑止力を効かせるしかない。そうなると選択肢は実質米国しかない。
単純にクイーンエリザベスとシャルルドゴールしかないんですから。
本当に米国から脱却しようとするなら、戦力だけではなく抑止力も含めて考えないと後々とんでもなく高くつきそうです。
英国とフランスの空母は海外領土でのフォークランド紛争レベルまでしか想定していないと思います。
デンマークにせよカナダにせよ一般論としてアメリカが信用できるできない以前に、自国領土よこせって言ってる相手から武器を買うとかおかしな話になっちゃいますな
F35の導入自体は悪いことではないが、単体で運用するのは論外だろう。日本もF-35だよりでなくユーロファイターなり自国開発なりのオプションを、性能が落ちたとしても用意しなければならない。
なんでデンマーク兵の写真が、Michigan Army National Guardの著作権なんだろう。
国外の実戦に駆り出しているのは知ってるけど、州軍をNATO演習に出すもののかな。
先のことかもしれませんが。
ルーマニア/ポーランドに設置しつつある、イージスアショアと
スタンダードSM3/6ミサイルの取り扱いはどうするのかな。
現在、ルーマニアのSPYレーダーを管理しているのは、米海軍と思いますが。