欧州関連

英国の国防費不足、45型駆逐艦の後継艦開発は延期もしくは中止を検討中

英国のスターマー首相は5日「国防投資計画をNATO首脳会議前に公表する」と表明したが、国防費増額は必要額の280億ポンドではなく150億ポンドになる見込みで、Telegraphは9日「45型駆逐艦の後継艦として計画されている83型駆逐艦は開発延期か開発中止になる可能性が高い」と報じた。

参考:Starmer could scrap Navy’s new destroyers
参考:高市首相が就任後初の欧州歴訪へ…英国・イタリアで首相と会談、フランスでG7サミット出席
参考:Why are all of Britain’s attack submarines in port?

高市首相の英国訪問までに国防投資計画が公表されないと、GCAPに対するコミットメントは口先だけで終わるだろう

英国のスターマー首相は国防費をGDP比3.0%まで増額する公約、特に2025年6月の国防戦略見直し結果の受け入れに基づく国防投資計画の公表について国内外から政治的決断が迫られており、ルーク・ポラード国防即応・産業担当相は6月1日「キア・スターマー首相は7月7日のNATO首脳会議までに国防投資計画を公表する強い決意である」と述べ、スターマー首相自身も5日「私たちが生きている時代はこれまでで最も危険で不安定な時代だと言っても過言ではない」と言及し、国防投資計画を政府と軍の緊密な協議を経て7月7日のNATO首脳会議前に公表することを確認した。

出典:UK Ministry of Defence

国防投資計画は「今後10年間にどれぐらいの資金をどの分野・能力に投資するのか」を定義するもので、これを公表するということは「今後10年間の国防投資に供給する資金に財政的裏付けが確保された」と政治的に約束することになり、この公表が8カ月近くも遅れているのは国防費増額と国防投資計画の財政的裏付け=財源確保を巡って財務省との調整がついていないためで、日本視点では単一プログラムのGCAPに対する資金供給が、英国やNATO視点では包括的な防衛プログラムに対する予算配分はどうなるのかが懸念事項で、国防戦略見直し結果=英国の再軍備計画を実行に移すには最低でも280億ポンドの資金が足りない。

ヒーリー国防相は軍が受け入れられる国防費の増額範囲は最低は180億ポンドだと主張し、リーブス財務相は受け入れ可能な追加支出は120億ポンドだと譲らず、Financial Timesは「スターマー首相は間をとって150億ポンドを追加支出する妥協案を承認する見込みだ」と報じ、国防費増額が280億ポンドではなく150億ポンドで決着すると国防投資計画に含まれる核抑止など重要計画への資金供給が優先され、それ以外の部分で調達削減や資金供給の縮小が行われるのは誰の目にも明らかだ。

出典:Royal Navy

Telegraphは9日「財務省は国防投資計画に供給する資金の削減を試みており『これ以上の借入や広範囲な歳出削減を行う余裕はない』と主張しており、これまでもタイフーンの後継機開発や核兵器搭載が可能なF-35A調達が影響を受けると報じてきたが、軍関係者は我々の取材に『45型駆逐艦の後継艦として計画されている83型駆逐艦は無人機能力への投資を優先するため開発が延期されるか、完全に開発中止になる可能性が高い』と言う。もし83型駆逐艦計画に遅延が生じれば2030年代後半に予定されている45型駆逐艦の退役は先延ばしにされるだろう」と報じ、130億ポンドの資金不足分を反映する取捨選択が静かに進行しているのだろう。

Financial Timesは国防投資計画について「早ければ6月11日に発表しようとする動きもある」と報じていたものの、7日「国防費増額は増税や借入ではなく政府全体の支出削減で賄われる予定で、社会資本支出削減を巡って土壇場の折衝が続いている。そのため国防投資計画の発表は6月下旬まで遅れるかもしれない」と報じており、高市首相はフランスで開催されるG7サミット出席前の14日に英国を訪問する予定だが、それまでに国防費増額の承認や国防投資計画の公表が行われていないと「日英はGCAPを推進することで一致した」という口先だけのコミットメントで終わるはずだ。

出典:首相官邸

GCAP計画は130億ポンドの資金不足に影響を受けるのか、それとも核抑止などの重要計画に含まれて資金不足の影響から保護されるのか、その答えはいつ判明するのか誰にも分からない。

ちなみに、英海軍が運用するアステュート級原潜5隻の稼働率はメンテンス作業の問題で著しく低下しており、2026年初頭に実戦運用が可能なアステュート級は1隻のみだと報告されていたが、オーストラリアに展開していたアンソンが帰国してメンテンスに入ったものの、アスチュート、アンブッシュ、アートフル、オーディシャスはメンテンス作業が終わっていないため港に留まったままだ。

2025年9月に引き渡された6番艦アガメムノンの完全稼働は約18ヶ月かかると予想さており、英国のディフェンスメディア=UK Defence Journalは7日「現在、海上に出ている英海軍の攻撃型原潜は1隻もない」と報じている。

関連記事:英伊日の戦闘機開発作業、継続出来るかどうかは英国の国防投資計画次第
関連記事:GCAP関係者は国防投資計画に注目、英国が開発資金を十分捻出するかの見極め
関連記事:英議会がスターマー政権を叱責、国防投資計画は生半可では済まされない
関連記事:英首相が1カ月以内に国防投資計画を公表、必要な資金を誰から奪うのか
関連記事:GCAP遅延の原因、英首相は国防投資計画を公表する強い決意を表明
関連記事:英防衛企業は財政的苦境に直面、国防投資計画の遅れは理論上のリスクから実害に
関連記事:日本政府は次期戦闘機開発に新枠組み創設で調整、カナダ参加が濃厚
関連記事:日本が参加する次期戦闘機開発、資金供給への懸念とタイムリミットに直面
関連記事:英国の国防費増額発表は先送りか、7月のNATO首脳会談までずれ込む可能性
関連記事:英国のGCAP資金解放は財務省次第、イタリアは国防費増額が止まる可能性
関連記事:イタリアが最優先事項を国防からエネルギーに変更、国防支出の増額基調に陰り
関連記事:英国が国防費増額を来週承認する見込み、ただし180億ポンドでは足りない
関連記事:英国の国防費増額決定の遅れ、ついに防衛スタートアップが破綻し始める
関連記事:英スターマー政権の選挙大敗、GCAP開発資金確保に影響を及ぼす可能性
関連記事:英国の国防費増額を巡る批判の応酬、国防分野の重鎮もいい加減にしろ
関連記事:次世代戦闘機の本格開発を阻む資金不足、英国は社会保障費の大幅削減が困難
関連記事:次世代戦闘機に対する欧州の温度感、脅威に直面する時間枠や資金に異なる考え
関連記事:GCAP資金問題、英伊日は6カ国の追加パートナーを招き入れる必要に迫られる
関連記事:英伊日の戦闘機開発が初契約を締結、開発作業を6月末まで継続するつなぎ契約
関連記事:GCAP開発契約の遅延原因、英国の国防投資計画公表は最低でも5月以降
関連記事:日本はGCAPに対する英国の決意に疑念、プロジェクトの停滞もひどい状況
関連記事:ポーランドのGCAP参加、目前の脅威に間に合わないので投資するな
関連記事:空自の武藤元空将、GCAP契約遅延が試作機製造に最大1年程度の影響を及ぼす
関連記事:イタリア国防相は狂気の沙汰と批判、英国が伊日にGCAPの技術共有を拒否
関連記事:日英伊が共同開発する次期戦闘機、英国の資金不足で契約締結に遅れ
関連記事:イタリア国防相がGCAP開発コストの高騰を報告、3ヶ国の負担総額は約10兆円か

 

※アイキャッチ画像の出典:Royal Navy

デンマーク会計検査院、F-35A導入コストが大幅に増加していると報告前のページ

ロッキードがフランスに驚きの提案、HIMARSを18ヶ月で納入できる次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    英国人にとっては戦略物資、空母クイーン・エリザベスの窮地を救ったカナダ海軍の機転

    英メディアは「英空母クイーン・エリザベスはカナダ海軍のおかげで最も重要…

  2. 欧州関連

    チェコ大統領、反攻作戦は期待外れで支援国も戦争疲れを感じている

    チェコのパベル大統領は「ウクライナ軍は戦場での優位性を示しておらず、来…

  3. 欧州関連

    英国が米国のアフガニスタン対応に激怒、我々は重要な同盟国としての扱いを受けていない

    アフガニスタンからの撤退作戦における米国と英国の対立はもはや決定的で、…

  4. 欧州関連

    戦車から下着まで何もかも不足!ドイツ軍が抱える3つの問題

    ドイツ軍の兵士は、ドイツメディアに「不幸」と蔑まれるほど、まともに飛べ…

  5. 欧州関連

    爆発的に売れるUCAV、ルーマニアがTB2に続きWatchkeeperX導入を発表

    ルーマニア国防省は今年9月「トルコからTB2システムを3億ドルで3セッ…

  6. 欧州関連

    タイフーンかF/A-18か?F-35の復活か?ドイツ、2020年にトーネード後継機選定

    ドイツ国防長官のクランプ・カレンバウアー氏は、ドイツ空軍が運用中の戦闘…

コメント

  • コメント (18)

  • トラックバックは利用できません。

    • マトポック
    • 2026年 6月 10日

    やはり核ミサイル・空母・原潜の三位一体を保有しつつ通常戦力を充実させるのは厳しい。

    36
      • 名無し
      • 2026年 6月 10日

      もう日本からこんごう型後継艦の設計買ってそのまま使えば良いんじゃないの?
      建造も日本に任せれば早いし安いよ

      9
        • 他人事では無い
        • 2026年 6月 10日

        イージスシステムが高いよ。
        FFMならいいかも。

        8
      • ドゥ素人
      • 2026年 6月 11日

      優先的には空母を諦めれば、駆逐艦が多少あれでも……
      大英帝国の凋落が悲しい…

      1
    • せい
    • 2026年 6月 10日

    英国と言えばディエゴ・ガルシア島の返還でも物議になってるし、ホントにもう体力が尽きたんやな
    最低限の核戦力はともかく、空母艦隊の維持はもう無理なんじゃないかな?
    フォークランド諸島も何時まで保つか

    29
      • 他人事では無い
      • 2026年 6月 10日

      アルゼンチンも力尽きている。

      19
    • たむごん
    • 2026年 6月 10日

    イギリスさん、日本から買いませんか!

    イギリスの海外領土、大西洋・地中海・太平洋・インド洋・カリブ海などにあるんですよね。

    核戦力があるとは言っても、海軍が大幅に弱体化していってるのは、なかなか厳しいなあと感じます。

    10
    • TOW
    • 2026年 6月 10日

    トルコからのタイフーン戦闘機の発注でBAEの戦闘機製造ラインの閉鎖と熟練工の解雇をギリギリ回避出来ましたが、83型駆逐艦計画の中止となると駆逐艦を建造している会社の維持は、BAEの時とは違って軍用艦の造船所が維持できるのかどうなるのか気になりますね。

    10
    • あうあうあー
    • 2026年 6月 10日

    こんな感じで頭数は31型(性能強化型)で賄う方針でやりくりすれば、まだまだ粘れるのではないでしょうか。
    ↓
    45型の近代化改修と寿命延伸措置(83型は延期)
    26型の調達数は最大6隻に削減
    31型の対潜能力をガッツリと強化してコスパ型の対潜フリゲートとして12隻ぐらい配備

    4
    •    
    • 2026年 6月 10日

    45型駆逐艦は色んな所に出撃して結構実戦経験つんでるし(最近はフーシ派の無人機や弾道ミサイル迎撃等)
    日本の「実戦を一度も経験してない軍艦」よりはるかに使えると思うけどな?
    アデン湾に行った雨型DDなんて「レーダーが無いから迎撃できない」とか「法的根拠ガー」とか言ってビビって逃げるしかないんだから。優秀な船なんだから近代化改修して使えば良いんじゃないんですかね?
    こんごう型より新しいんだからまだ使えるでしょ?

    1
      • SB
      • 2026年 6月 11日

      45型を比較するならあめ型じゃなくて、あきづきとかあたごじゃないっすかね

      23
      • かず
      • 2026年 6月 11日

      暑くて電源落ちましたとかなってなかったですか?

      9
        • SB
        • 2026年 6月 11日

        あの欠陥は改修済み(一部改修中)のはず

        1
          • かず
          • 2026年 6月 11日

          改修したドーントレスは現在メンテ中
          ダーリング、ダイヤモンド、ディフェンダーが改修中で
          今動けるのは未改修のダンカン、ドラゴンの2隻だけみたいです

          4
    •    
    • 2026年 6月 11日

    ダサ男チャレンジ

    • YF
    • 2026年 6月 11日

    イギリスはこんな状況で国防費3.5%達成出来るんですかね。安易に約束してますけど⋯

    5
    • 名無し
    • 2026年 6月 11日

    アスターのFCSシステムだけみんなで共有、レーダーや戦闘システム部分は個別に作りましょってなってたはずだけど
    SAMPSONは更新の見込みがないとしてEMPAR陣営はどうするんだろ

    • ルイ16世
    • 2026年 6月 11日

    スターマー首相は保守党に対する批判票で政権を取っただけで熱烈な支持を受けたという訳でも無い7年間で5人目の首相でしかないので指導力を発揮するどころかこのままダウニング街10番地に残るには魔女に猫になる魔法でもかけて貰う他ないのでは?

    3

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  2. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  3. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  4. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  5. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
PAGE TOP