欧州関連

エストニアはHIMARSの長い納期に不満、韓国製のChunmoo購入を発表

エストニアは「HIMARSの長い納期を待つ余裕はない」「米国の回答次第で他システムに切り替える」と再三訴えていたが、エストニア国防省は23日「韓国と防衛協力協定を締結した」「この協定に基づきHIMARS部隊を補完するため韓国製のChunmooを購入する予定だ」と発表した。

参考:In addition to the US HIMARS, Estonia plans to purchase South Korean Chunmoo rocket launchers
参考:Estonia inks deal for South Korean rocket launchers, still pursues HIMARS
参考:Hanwha and Diehl Defence sign MoU

枠組み協定に向けた交渉で問題が生じないかぎりエストニアのChunmoo導入は確定的だ

西側諸国は戦場への火力投射を航空戦力に依存してきたが、ウクライナとロシアの戦争は「高度な防空システムによる接近拒否は成立する」と証明し、これが地上ベースの火力投射能力の再評価に繋がって自走砲や多連装ロケットシステムの新規・追加導入が相次いでおり、エストニアも2020年に発注したHIMARSの追加導入を検討していたものの、これを破棄して他システムに乗り換える可能性が浮上。

出典:Photo by Lance Cpl. Nicholas Guevara

エストニア国防投資センターのマグヌス・サール氏は昨年「(2020年に発注した)HIMARSの引き渡しは2025年に予定され追加導入も検討している。戦略的持続性を高める追加支出(16億ユーロ)の大部分はHIMARSに投資されるだろう」「HIMARSの追加導入は納期と価格に左右され、もし引き渡しに時間がかかるなら別のものに置き換える必要がある」「そのための協議や情報収集をワシントンで行っている」と述べ、韓国のHanwha AerospaceはK239 Chunmoo、トルコのRocketsanはKHAN、イスラエルのElbit SystemsはPULSをエストニアに売り込んでいる。

Breaking Defenseは当時「サール氏の発言はHIMARSの納期遅延を浮彫りにした」と指摘したものの、エストニアのHIMARS調達は比較的小規模(6輌+追加発注)で互換性のない弾薬を使用するシステム導入は補給を複雑化させる恐れがあり、Breaking Defenseも「バルト三国はHIMARSの共同運用で合意している」「エストニア軍はも米陸軍のHIMARS部隊と頻繁に訓練や協力を行っている」「納期問題や競合企業との協議にも関わらずエストニアの追加導入は比較的強固に見える」と楽観視していた。

しかし、ミュンヘン安全保障会議でBreaking Defenseの取材に応じたペフクル国防相は「米国政府に生産を加速させる用意があるのか、それとも引き渡しの早い生産枠を与える用意があるのか尋ねたい。納期が非常に長いHIMARSを待てるほど我々に時間がないのは明白だ」と述べ、Breaking Defenseも「政府の返答次第でエストニアは他システムに乗り換えるかもしれない」「この決定は数ヶ月内に下される」「代替システムには複数の名前が挙がっていたものの、取材に応じたペフクル国防相はChunmooにしか言及しなかった」と報じてたが、この懸念は現実のものになったしまった。

エストニア国防省は23日「ペフクル国防相と安国防部長官がソウルで防衛協力協定に署名した」「この協定に基づきエストニアはHIMARS部隊を補完するため韓国製のChunmooを購入する予定だ」「この計画はエストニア産業界に対する数千万ドルの直接投資を意味する」と発表し、ペフクル国防相はChunmoo導入に至った背景について以下のように説明している。

出典:Kaitseministeerium

“エストニアにとって長距離攻撃能力は非常に重要な能力で、我々はロケットランチャーの追加導入によりエストニア軍の能力を強化する必要がある。我々はHIMARSの導入によって長距離攻撃能力の開発に着手し、HIMARSの追加導入についても米国と合意し正確な納入日について回答を待っている。同時に長距離攻撃能力をさらに強化するため韓国製のChunmooを選択した。米国製と韓国製のロケットランチャーをベースにした長距離攻撃能力の構築はポーランドでも採用されている”

“韓国との合意で重要な点は現地化の原則を適応することだ。これによりChunmooに投資される金額の多くがエストニア産業界に向けられることになる。つまりChunmooへの投資はエストニア産業界に対する数千万ドルの直接投資となる”

出典:Kaitseministeerium

エストニアと韓国が締結した防衛協力協定は「Chunmoo導入契約」ではなく「Chunmoo導入に関する覚書」で、エストニア国防省も「Chunmoo調達に関する詳細を詰めるため両国の関係機関が協議を行う予定で、次のステップは調達に関する枠組み協定の締結だ」と説明しており、調達に関する枠組みとはChunmooの導入規模、導入スケジュール、取引に関連する詳細で合意することで、一般的には合意された枠組み内でエストニアとHanwha Aerospaceの商業契約が締結される流れだ。

どの交渉段階で「導入確定」と表現するかは各メディアによって異なるものの、Breaking Defenseは「エストニアと韓国の協力関係は導入したK9の追加導入で拡大している」と指摘して「Chunmoo導入は確定的」と見ており、恐らく枠組み協定に向けた交渉で問題が生じないかぎりエストニアのChunmoo導入が白紙に戻ることはないだろう。

出典:Hanwha Aerospace

因みにエストニア国防省はChunmoo導入に動いても「HIMARSの追加導入は継続する」と説明している。

追記:HanwhaとDiehl Defenceは23日「IRIS-T SLSやIRIS-T SLMなどの移動式防空システムにHanwha製レーダーを統合することで協力する」と発表し、Diehl Defenceは「システムのオプションにHanwha製レーダーを加えることで顧客の幅広いニーズに対応できるようになる」と述べている。

関連記事:エストニアがHIMARS追加導入を破棄する可能性、代替システムは韓国製
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関連記事:自由に値段はつけられない、エストニア国防相がK9の追加導入を示唆

 

※アイキャッチ画像の出典:Ministerstwo Obrony Narodowej

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コメント

  • コメント (12)

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    • Mr.R
    • 2025年 10月 24日

    ハイマースの納期よりChunmooの納期プラス訓練期間の方が短くすむとエストニアは判断したのでしょうね。
    平時なら付き合いも考慮できますが準有事とも言える今では悠長なことは言ってられないのは理解できます。

    37
      • 名無し
      • 2025年 10月 25日

      そもそもHIMARSの227mmロケットも使えたはずだし、入手が難しそうなATACMSも同級品があるし
      HIMARSとか関係なくこっちのほうが良くない?って感じ

      3
    • kitty
    • 2025年 10月 24日

    ウクライナ戦争の勝者は間違いなく中国ですが、韓国も十分、勝ち組に入っていますな。
    良い意味で腰が軽い。

    32
      • ponta
      • 2025年 10月 24日

      “西側の”勝ち組は、ダントツで韓国だと思います

      31
    • マネモブ
    • 2025年 10月 24日

    ハイマースの納期って度々話題になりますけど装軌のMLRSならともかくそんなに生産に手間かかる代物じゃないですよね。車体は6輪の軍用トラックでランチャーは極端な話ただの束ねた6本の筒、FCSだって間接射撃のみなんだからAFVのような多機能な代物は必要無い。MBTやIFVよりよほど簡素な兵器なのにそんなに納期かかるって大丈夫?と思えてしまう

    19
      • AH-X
      • 2025年 10月 24日

      それホントに思います。

      実際韓国はほぼ同スペックのChunmooをおそらく数か月で納品できるわけですから。
      これ一つ見てもアメリカの製造業衰退がよくわかります。

      20
      • 航空万能論GF管理人
      • 2025年 10月 24日

      HIMARSの構成部品が軍用の特注品ではなく市場で入手可能なもの、さらに柔軟な統合性によって代替品でも作動できるよう設計されていれば増産が容易かもしれませんが、HIMARSは米軍基準を満たすため軍用グレードの部品で構成され、これを供給するサプライヤーも契約上の要求を満たす数量しか製造していないため、HIMARSの納期を加速したり増産するにはサプライヤー全体で動かなければならず、仮に規模を拡大しても将来に渡って安定した受注が見込めなければ過剰な設備投資になり株主から突き上げを食らうのです。

      だからこそ注目されているが商用向けに実用化されている技術やコンポーネントの流用で、究極な性能を目指して特注品だらけにすると生産や運用・保守上の弊害が多いため、戦争勃発を前提にした現在の兵器開発は入手性のよい商用技術の流用が盛んに行われています。

      結果論ですが、ロシア製兵器の構成部品に西側製の商用部品を大量使用しているもの「Aという商用部品が入手できなくなってもBという商用部品で代替できる」という利点があり、軍用グレードの特注品で構成されたシステムより信頼性や機能で劣ったとしても供給が途絶しにくく、構成部品が市場で入手できるため増産にも対応しやすいため、ロシアのやり方は現在の安全保障環境に適しているのかもしれない。

      追記:韓国企業の武器生産は自動化比率が非常に高く、需要に応じて生産体制を柔軟に変更できるのも利点かもしれません。

      因みにハンファの工場では6台の溶接ロボットと150人以上の労働者がK9の生産を担当し、同社は最近の需要増に対応するため50人程度の増員と生産ラインの増設を予定しているものの、生産能力の拡張自体は溶接作業の70%以上を担うロボットが鍵を握っており、ロイターに対して「現在の稼働時間は1日8時間程度だが必要なら24時間の稼働も可能で、基本的にはどんな発注にも柔軟に応えることができる」と説明しています。

      45
    • Kaeru
    • 2025年 10月 24日

    韓国がうらやましいなぁ。日本も売ればいいのに。

    7
      • せい
      • 2025年 10月 24日

      そんな羨ましがることないよ
      有事が近いときにしか売れない兵器より、普段から売れる自家用車をバンバン作ってるんだから
      それに現地生産だから続かないしね
      日本は改もがみを豪州に輸出するみたいに必要に迫られた時だけでいいよ

      11
        • Miriota
        • 2025年 10月 24日

        あのう、自家用車なら韓国も現代自動車という世界3位の自動車メーカーがありましてな

        13
          • dd4
          • 2025年 10月 24日

          現代の内情を多少なりとも知っていると、そこで現代の名を出す事自体が哀しくなるんだよな…

          9
    • HEAT信奉者
    • 2025年 10月 25日

    K239とM270/M142のコンテナは”規格的には”共通性がある(らしい)という話
    互換性の確認はしてない(試験したという話はない)ので撃てるかは知らんが

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