欧州関連

EUが歴史的合意を発表、備蓄分から155mm砲弾100万発をウクライナに供給

EU加盟国の外相は20日「今後12ヶ月間で155mm砲弾100万発の供給に関する政治的合意」を発表、EU外務・安全保障政策上級代表のボレル氏は今回の合意について「歴史的な決定」と呼んでおり、この砲弾は各国の備蓄分から供給される。

参考:Eine Million Geschosse für die Ukraine
参考:Eine Million Granaten für die Ukraine – Dieser Plan ist eine Zäsur für die EU

今は「100万発の砲弾提供」で目先の問題が解消されたことを素直に喜ぶべきだろう

レズニコフ国防相はEU加盟国に宛てた書簡の中で「利用可能な砲弾の数に制限がなければウクライナ軍の砲兵部隊は1ヶ月間に56.4万発の砲弾を使用できる。我々の計算では戦闘任務を成功させるのに最低でも月36.6万発の砲弾を必要としているが、供給不足のため砲兵部隊は発射可能な砲弾量の20%分しか使用しておらず、これはロシア軍が使用する量の1/4だ」と訴えて月25万発の砲弾供給を要求。

出典:Сухопутні війська ЗС України

1ヶ月間に56.4万発の砲弾を使用できるという言及は「ウクライナ軍が保有する各種榴弾砲・自走砲の発射可能なキャパシティ(1ヶ月間)」を示唆しており、レズニコフ国防相は「月平均で11万発の155mm砲弾をウクライナ軍は消耗している」とも明かしているため、砲兵部隊は発射可能な砲弾量の20%分=11万2,800発分しか使用していないという言及は「155mm砲弾」のことを指し、ロシア軍は月平均45万発もの152mm砲弾を撃っていることになる。

つまり戦場で優位性を獲得するには「米国が供給する155mm砲弾(3月20日時点で累計150万発以上を提供=月平均11万発以上)」とは別に「月25万発の155mm砲弾」が必要で、エストニアはEUに「155mm砲弾を年内に100万発を提供するべきだ」と2月に提案、これを検討していたEU加盟国は「今後12ヶ月間で100万発の155mm砲弾を供給する」という政治的合意を20日に発表。

今回の合意は「砲弾の即時納入」「納入した砲弾を埋め戻すための共同購入」「砲弾生産の増強」の3つで構成されており、特筆すべきは「今後12ヶ月間で供給する100万発の砲弾がEU加盟国の備蓄分から供給される」という点で、約1年の戦いで余剰備蓄を使い果たしているEU加盟国は「自国の安全保障に必要と理由で拒否してきた備蓄分解放に同意した」と意味だ。

EUは欧州平和ファシリティ(EPF)から計20億ユーロを拠出し、砲弾提供にかかる費用を各国に払い戻し、各国の備蓄分を埋め戻すため共同購入に資金を供給する予定で、既に「100万発の砲弾を埋め戻すのにどれだか時間がかかるのか=欧州全体の生産量は年間30万発前後」「誰が100万発の契約を受注するのか=EPFの資金による雇用創出の恩恵」といった問題が浮上しているものの、ウクライナは155mm砲弾不足を(短期的に)解消することが出来る。

出典:U.S. Army Photo by Dori Whipple, Joint Munitions Command

因みに「月25万発なら12ヶ月間で300万発(概算値に過ぎない)必要じゃないか」とか「欧米の砲弾増産が軌道に乗るのは2025年(米国/月9万発+欧州/月17万発以上)以降」とか、、、難癖をつけようと思えば幾らでも出来るが、今は「100万発の砲弾提供」で目先の問題が解消されたことを素直に喜ぶべきだろう。

正直、管理人は「備蓄分から100万発の提供にEU加盟国が応じるのは難しい」と思っていたので、今回の合意はボレル氏が述べている通り「歴史的な決定」と言える。

出典:U.S. Army photo by Staff Sgt. Matthew Johnson, Operations Group, National Training Center.

追記:米国も20日に34回目となる大統領権限経由のウクライナ支援を発表、HIMARS、155mm砲弾、AGM-88HARMなどの弾薬(3.5億ドル相当)を米軍備蓄から引き出してウクライナに提供する。

※250万発→300万発に修正

関連記事:年内に砲弾100万発をウクライナに供給可能か? 西側諸国の倉庫は空っぽ
関連記事:砲弾の増産に必要な原材料は十分過ぎるほどある、問題は工作機械の入手性
関連記事:EU代表、ウクライナに砲弾を送るためには備蓄分を解放するしかない
関連記事:実現が難しいアイデア、EUの155mm砲弾共同購入に非加盟国も参加可?

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Sgt. Victor Everhart, Jr.

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コメント

    • 横田
    • 2023年 3月 21日

    つまり少なくとも夏頃までは砲弾状況が一時的に改善すると…
    本来なら300万発は必要だし今の状況にいたるまでドイツ筆頭に欧州に軍備を削減し続けてきたのは大いに批判に値しますが
    自分の安全保障を犠牲にして支援を固めた事自体は評価するべきでしょう

    50
    • れんちゃ
    • 2023年 3月 21日

    月25万発を12ヶ月続けたら300万発なのでは…まあ、実際の所、ウクライナ側が言っている数字はブレが大きい
    なので、155mm榴弾だけで月8-9万発程を暫く撃てれば御の字であろうし、10万や20万発以上ガンガン撃つ月もあれば、
    あまり撃たない月があるかも知れないので…砲には命数もあるし、射程内にある砲でしか撃てないので、可能推定数はあまり意味ないのかも

    8
      • 7743
      • 2023年 3月 21日

      >1ヶ月間に56.4万発の砲弾を使用できる

      ウクライナ側はこう主張しておりますが、実際にそのペースで撃ったら砲塔が持たないでしょう。
      以前にも破裂したM777の画像と共に「西側が想定している以上のペースで撃ち続けている」と指摘されていました。
      100万発というのは、現在のウクライナの砲兵戦力から見て、相応の量だと思いますよ。

      13
    • まつ
    • 2023年 3月 21日

    これも本来は爆撃機で投下すべきものをしていない結果である。

    6
      • 幽霊
      • 2023年 3月 21日

      ウクライナ空軍は爆撃機を所有していないのでは?
      攻撃機ならともかく。
      まあ爆撃機を保有していても前線に出した段階でロシアの戦闘機や地上からの攻撃で全滅するでしょうけど。

      27
      • 名無し
      • 2023年 3月 21日

      爆撃機があっても何ともならない定期

      6
      • メルク
      • 2023年 3月 21日

      ロシアの爆撃機も巡行ミサイルを打つだけで前線には近づいていないようなので、現代戦での近接爆撃は自殺行為なのでしょうね。

      28
    • 人参は飲み物
    • 2023年 3月 21日

    前の記事で欧州を叩いたけど手のひら返しする羽目になるとは…EUもやるね!見直したよ

    13
    • pon
    • 2023年 3月 21日

    NATO諸国向け新規の砲弾製造工場の建設は朗報ですが、政治的思惑が当然かかると思いますがスムーズに決まると良いですね。
    既存の工場は株主様のご意向もあり砲弾の増産に合わせた施設の増築は難しいいでしょうから。
    あとは以前の記事で掲載された中国産の綿の問題もクリアできると良いのですが・・・

    9
    • XYZ
    • 2023年 3月 21日

    NATOの仮想敵国であるロシアがウクライナで損耗している状況ですから、倉庫をカラにしても問題無い勘定になります。

    しかし、実際にカラにするのは覚悟が必要です。
    軍縮しまくったのは問題ですが、これが実現するとは思いませんでしたね。

    恐ろしいのは西側諸国が掻き集めないと調達できない数をロシア一国で揃えている点です。

    30
      • STIH
      • 2023年 3月 21日

      そりゃ無理してんですよ。戦時体制にしろ平時にしろ、兵器産業の維持に一定の予算を使い続けて来たんですから。
      短期的にはロシアが強くても、戦争に金を使いすぎたら普通は国が立ち行かなくなるはずだが、どうすんだか。

      24
        • 2023年 3月 21日

        仮にウクライナに完全勝利したとしても、ウクライナをあわせても戦前よりパイが少なくなるかも。
        まだその状態ではないと思いますが、戦争終結に複数年かかると言われてます。
        経済制裁は解除されないから、何度も言われてますが経済合理性は無いですね。

        13
    • 匿名
    • 2023年 3月 21日

    ヨーロッパが砲弾工場増設する時間稼げればよいし、ロシアの疲弊ぶりから、ウクライナ戦争で限界であと数年間はヨーロッパと全面戦争して侵略するほどの余力はないと見切っただろうな。
    ロシア軍事大国いわれていたから、ウクライナ戦争しながら、ヨーロッパと全面戦争する余力を疑っていただろうしな。

    15
    • らっく
    • 2023年 3月 21日

     これ、裏返せばもう砲弾のおかわりはできないことを意味しておるわけで、エストニア大統領の言う通り、本当に次の攻勢が乾坤一擲になるということではなかろうか?
     攻勢は防衛とは比較にならない消耗をしいられることを考慮すると、攻勢が実行後に頓挫した場合、防衛の手当のあてはあるのだろうか?

    14
    • lang
    • 2023年 3月 21日

    国や企業というのは発表が大事であり、実際に現場が必要なものを入手できるか?というのは上層部にとって重要ではありません

    この間もウクライナが受け取った砲弾は約束されてた数分の一だというニュースがありましたよね

    1
    • れんちゃ
    • 2023年 3月 21日

    欧米側はウクライナと違って長距離攻撃手段を大量に持っているよね。
    そこらで制限をされてるウクライナと違って、ここまであからさまな榴弾砲打ち合いにはならないだろう。
    だからといって、榴弾ストック数を回復させなくて良いって話にはならないが。
    現在の消耗したロシア相手ならばなんとかなるだろうから、当面はウクライナを優先出来るって話かな?
    あと、ウクライナは明日のポーランドやバルト三国、フィンランドだという見方もされてきている。
    他人事ではなくなってきてもいる訳だね。だから、自国を防衛するくらいの気持ちになってるグループもいる訳だ。

    9
    • 2023年 3月 21日

    韓国防衛産業にとっては特需になるだろう。

      • けい2020
      • 2023年 3月 22日

      たぶん韓国防衛産業にそんな砲弾生産能力ないでしょう
      いままで砲弾輸出しまくってるわけでも無いし、訓練で毎年何十万発も使ってないし
      よくて月1万発ぐらいじゃないかな

      2
    • 匿名
    • 2023年 3月 22日

    自国の備蓄をさらに削るということはもっとペースを上げて生産するのは必須になったということで、
    その覚悟が固まったということでは

    まあ西側もいざとなったら公的資金注入で信じられないほどペースアップして、
    数年かかるはずだった施設を大幅短縮で作ったとしても不思議はないと思うけど
    去年ドイツがガス調達するときにLNG関連施設を信じられないスピードで作ってたし

    1
      • ヤゾフ
      • 2023年 3月 22日

      LNG受ける港の建設ですね
      決定から1.5で稼働させてるから短縮させまくったんだなと見てます
      西側の方が生産力は高いので軌道に乗っていけばと。

      1
    • 黒足袋
    • 2023年 3月 24日

    政治的な話し合いでは、これまでも景気の良い支援策が合意されて来たけれど、いざそれぞれのお国に帰って軍部に指示を出したら「そんなことできません!」とか反論されて実施段階ではショボくなる。頼りになるのはポーランドとバルト3国、フィンランド辺りかな。

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