欧州諸国は砲兵システムの再取得や増強に乗り出しており、スロベニア国防省も「スロベニアとフランスはCaesar調達に関する意向書に署名した」と発表した。欧州諸国の自走砲調達はKNDSとHanwha Aerospaceに集中し、多連装ロケットシステムの調達も本格化しようとしている。
欧州諸国が調達予定の多連装ロケットシステムは米独のGMARS、仏独のEuroPULS、韓国のChunmooが競合
ウクライナとロシアの戦争は「依然として国家同士の大規模な総力戦が起こり得る」「膨大な破壊と死傷者を伴う地上戦が起こり得る」「防空システムによって航空戦力の接近拒否が成立する」と実証、この結果を目の当たりにした欧州諸国では「航空戦力が支配的になる以前の戦場を誰が支配していたのか」を思い出し、欧州諸国は伝統的な陸上装備=砲兵システムの再取得や増強に乗り出しているが、その取得先は欧州のKNDS(Nexter/KMW)、韓国のHanwha Aerospace、イスラエルのElbit Systemsに分かれている。
2022年以降、Nexterはフランス、リトニア、エストニア、チェコ、ベルギー、ウクライナ、アルメニア、クロアチアからCaesarの受注を185輌以上獲得、KMWはPzH2000に加えRCH155にも本格的な受注が舞い込んでおり、RCH155はドイツ、英国、ウクライナ向けに200輌以上の受注が確実視され、KNDS全体=Caesar、PzH2000、RCH155で見れば400輌以上の受注を獲得している格好だ。
Hanwha Aerospaceはポーランドと648輌以上のK9調達に関する枠組みで合意して298輌分の契約を締結、ルーマニアもPzH2000ではなくK9を選択して54輌調達を発表、K9を導入済のノルウェー、フィンランド、エストニアも追加導入を決めため計406輌の受注を獲得しているが、英国需要はKMWのRCH155に奪われている。それでもポーランドとの枠組みによって350輌分の受注見込みを確保しているため、欧州におけるHanwha Aerospaceの受注は700輌以上まで伸びる可能性が高い。
Elbit Systemsはデンマークから19輌のATMOSを受注したが、NexterやHanwha Aerospaceと比べると欧州からの受注量は細やかだ。但し、南米では競合したCaesarを破ってブラジル、アルゼンチン、コロンビア(この契約や履行されるかは微妙)からの受注を獲得しているため「世界的に見れば成功を収めている」と言えるだろう。
さらに興味深いのは欧州諸国が調達に乗り出している多連装ロケットシステムの調達先で、この分野はLockheed MartinのHIMARS、Hanwha AerospaceのChunmoo、Elbit SystemsのPULSが競合し、ウクライナでの活躍もあってポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、イタリアから547輌、Hanwha Aerospaceもポーランドから290輌、Elbit Systemsもデンマーク、ドイツ、オランダ、スペインから49輌を受注したものの、ドイツのPULSはウクライナに提供したMARSIIの埋め戻し分に過ぎず、欧州諸国(ポーランドを除く)の多連装ロケットシステム調達が本格化するのはこれからだ。
欧州の主要国はMLRSに劣るHIMARSの投射火力(ロケットポッドの携行数)に不満で、さらに多連装ロケットシステムへの投資は「システム本体」よりも「使用するロケット弾(ミサイル)」に流れ込む金額の方が大きいため、欧州域内に生産基盤をもつシステムの方が都合が良く、Lockheed MartinとRheinmetallはロケットポッドの携行数をMLRSと同じ2基にしたGMARSを開発、KNDSとElbit Systemsも欧州に生産基盤をもつEuroPULSを開発。
GMARSではLockheed Martin製のGMLRS、ER-GMLRS、ATACMS、PrSMに加えて独自のロケット弾やミサイルを統合するこもでき、EuroPULSにはElbit製のACCULAR、EXTRA、PREDATOR HAWK、SkyStikerに加えてKongsberg製のNSM、MBDA製のJFSMなどが統合される予定だ。
Hanwha AerospaceのChunmooは元からMLRSと同じ投射火力を備えており、自社製の130mmロケット弾、239mmミサイル、400mm弾道ミサイル、600mm弾道ミサイルが統合されているため、攻撃手段の多彩さや射程において競合と大きな違いはなく、ポーランドは技術移転を受けて使用するロケット弾、ミサイル、弾道ミサイルの国産化を行う。
つまり「欧州諸国が調達予定の多連装ロケットシステムは米独のGMARS、仏独のEuroPULS、韓国のChunmooが競合する」という意味で、単独で欧州市場に挑戦するように見えるChunmooにはポーランドという協力者と生産拠点があるため、この3者はそれぞれ一定の受注を確保するかもしれない。
因みに米陸軍は2025年度予算案の中で「拡大射程砲(Extended Range Cannon Artillery=ERCA)に関する取り組みを停止した」と明かし、ブッシュ陸軍次官補は「(ERCAの代わりに)市場を通じて入手可能な自走砲をテストして購入する」と述べたが、まだ通常火力戦略が発表されていないためERCAの代わりに調達するプラットホームが「M109の更新用なのか」「M777の更新用なのか」「M109やM777とは異なる位置づけなのか」は不明だ。
もしM109の更新用に装軌式を望むならPzH2000とK9の二択、M777の更新用に装輪式を望むならCaesar、RCH155、ATMOSなどが候補になり、KNDS、Hanwha Aerospace、Elbit Systemsにとってしのぎを削る戦いになるだろう。
関連記事:ドイツが砲兵戦力の増強に乗り出す、RCH155の100輌調達を計画
関連記事:スペイン陸軍が砲兵戦力の更新を計画中、自走砲などを200輌以上調達か
関連記事:英陸軍の次期自走砲、スナク首相がベルリンでRCH155調達を発表
関連記事:ルーマニア陸軍がK9導入を決定、競合したPZH2000やT-155を破る
関連記事:米陸軍がERCA開発を中止、市場で入手可能な自走砲導入に方針を転換
関連記事:欧州の多連装ロケットシステム調達、GMARS、EuroPULS、Chunmooが競合
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Spc. Zakia Gray
カエサルといえば初代ローマ帝国皇帝オクタヴィアヌス!アヌス!
今のアメリカ陸軍には、「既存の自走砲のテスト」と「マルチドメイン砲」の二つの計画があるって事でしょうか?
結局M109の車体に新砲塔を積んで終わりになりそう。
やっぱ6連装じゃ不安よな…
てかTOS-1/2みたいなやつってどこも作らないんだろうか
射程が6kmしかないから、ドローンに見つかりやすく、損失が多そうだからじゃない?
ウクライナではOSINT調べで20両破壊されてるし。
ロシアはWikipediaによると最大45両のTOS-1を持ってるらしいけど、半分近くは破壊されている計算になる。
その後の生産で追加はされている模様
西側でTOSのような地雷原毎陣地を粉砕する兵器が必要な国って韓国ぐらいでしょうね。38度線〜平壌まで地雷だらけの縦深防禦陣なので北進するならばTOSのような兵器は必須だと思います
92式地雷原処理車ってどういう出番を想定しているのでしょうね。
日本も地雷処理用という名目でサーモバリック弾を撃てる車両を調達すればいいのに。
韓国は、たまたま北朝鮮との関係があったのもあり、西側では、砲兵戦力重視で、K9という存在が際立っていますね。
ロシアの 2S19 ムスタ-S の自国配備が推定786輌で、韓国のK9の自国配備は1300輌だからなあ。
凄い数ですよね。陸軍も強そうです。
用廃予定の自衛隊のMLRS、装軌式車両で流行遅れとはいえ、即利用可能なプラットフォームだし、物持ちの良いので定評のある自衛隊の中古だから、売りに出すと売れるんじゃ無かろうか。
つい先日出てきた情報だとMLRSも島嶼防衛の一翼を担うみたいな感じになってましたが、結局何がどうなったんでしょうね
MLRS部隊を滑空弾部隊へ改編するのかと思いきやどうもMLRS、滑空弾、地対艦ミサイルそれぞれが並列するっぽいような感じで…
2028年位までは使うので当然一定期間は併用する
一気に全部隊へ配備する事は出来ない
てか、南西方面のMLRS部隊は湯布院の301多連装しか居ないんだから、一発入れ替え
記事がおかしい
具体的に調べれば、ある程度真実に近づける
対ロシアを、東欧諸国が想定するとすればですが。
NATO諸国から、同武器支援・ロジスティクス支援を受けやすい兵器体系が必要になります。
自走砲は、独仏、NATO外なら韓国、この辺りの国が有力になっている印象を受けます。
戦場に神が復活なされた
日本だと上陸阻止が砲兵になるのか?
帝国陸軍の砲兵は精鋭だったが
日本は海で囲まれており、列島四島に本格的に上陸できるのは(通常兵器のみでは)アメリカに限られる。太平洋戦争において、本州上陸は多大な被害が想定されたため、結局ソ連を参戦させることになった。
日本で本格的な陸戦があるとすれば南西諸島に限られ、敵も重火器を持ち込むとは考えにくいため(機材の上陸は可能でも補給が困難)、大砲より迫撃砲の方が使いやすいとのこと。そもそも上陸させなければ良いのだから、長射程の対船舶ミサイルや除去の難しい機雷をまずは使うべきです。
いや、だから日本は世界有数のSSM大国になっているわけで、、、
選択肢が複数ある市場ですと今回のような非常事態での大量受注に対応できて良いですよね。
いつ納品されるかわからないレオパルド2系か再生品のM1か欧州での採用実績がないK2しか選択肢のない戦車と比べると…
無かったことに
KNDS全体=Caesar、PzH2000、RCH155
上手い棲み分けだが、方やラインメタルはエルビットと共同でシグマを作ってる。シグマの砲塔を何らかの装軌か装輪の装甲車体に統合化されるとK9A3と同等能力になるはず。
そもそもあのシグマは牽引砲後継の枠にある車載榴弾砲と既存の自走榴弾砲とどっちが近いのか。MLRSがハイマーズに切り替わったにほぼ同じだろう。しかし射撃性能は逆に向上してる。パラディンとシグマで撃ち合って果たしてパラディンは勝てるのか?
そう考えると路面機動を度外視で作戦計画なんて考えようもない今の時代に装軌自走砲、っていうのはよほどの理由がないと必要とされないのではないか。それが超長射程化や防空砲化ではないのか。しかしながらERCAはお陀仏になった。防空砲であるなら結局は誘導砲弾を使うので装輪でもアウトリガ装備なら違いは無い。
では非砲塔式の車載榴弾砲(つまりカエサル的なので)で将来的に防空砲運用は可能なのか?という部分が出てくる。もしやそれが無理なら投資するだけ将来的に無駄になるのではないか?
思うのですが。
155mm榴弾砲で、前進砲形式のものは出来ないかな。
105mmの物ならば、かつて日本で105GSRとして試作されているし、現在、米軍で、
2-CTホークアイという105mm榴弾砲を試作してウクライナで試験しているようです。
原理は後座状態で砲身を一時固定し、装弾を装填後に固定を解除し、複座の途中で撃発
させることにより複座の力と発砲による後座力を一部相殺し、結果として砲架に掛かる
衝撃を緩和させようとする物です。
記事を読んでいると、自走砲の重さが問題なようなので、こうした方法もあるのでは?。
欠点として、砲身が動いている状態で発砲するので、精度が下がることでしょうか。
105GSRはこれが嫌われたみたいです。これは、砲弾側で解決できれば良いのかも。