欧州関連

センサーとシューターの分離が進む欧州、UAVを活用して対戦車ミサイルを視界外の目標に発射

欧州のミサイル開発・製造企業「MBDA」は21日、マイクロドローンで収集したデータを使用して対戦車ミサイルを敵戦車に命中させるテストに成功したと発表した。

参考:SUCCESSFUL MMP FIRING WITH TARGET DESIGNATION MADE BY A NOVADEM DRONE

欧州は無人航空機と対戦車ミサイルを使用してセンサーとシューターの分離を実証

フランス、ベルギー、キプロスの3ヶ国は「センサーとシューターの分離」を実現して視界外の交戦能力を備えた次世代の地対地/空対地ミサイルを開発することを目的にしたプログラム「EU BEYOND LINE OF SIGHT LAND BATTLEFIELD MISSILE SYSTEMS(EU BLOS)」を進めており、このプログラム実現に必要な技術要素の一つ「無人航空機及び無人車両との連携」を実証するため「LynkEUsプロジェクト」が2018年に立ち上げられた。

このプロジェクトは無人航空機や無人車両を活用してミサイルを視界外の目標に向けて発射・命中させることを技術的に実証することが目的で、南フランスの陸軍試験場で行われた実証試験に使用されたのがMBDA製の対戦車ミサイル「MMP」とNovadem製のマイクロドローン「NX70」だ。

要するにマイクロドローン「NX70」は対戦車ミサイルを操作する兵士の視界外に潜んでいた敵戦車を発見して座標データをMMPの発射装置に直接転送、兵士は敵戦車を一度も視認することなく指示された目標方向に対戦車ミサイルを発射、MMPのシーカーから送られてくる映像を確認しながらNX70が発見した敵戦車に対戦車ミサイルをロックして命中させることに成功したという話なのだが、この様な「センサーとシューターの分離」は米国や中国でも盛んに研究や実証試験が行われている。

米陸軍は「アドバンスバトル・マネージメントシステム(Advanced Battle Management System:ABMS)」に統合されたセンサーと自走砲「M109A6」を活用して巡航ミサイルの飛行コースをシミュレートした標的機「BQM-167」を撃ち落とすことに成功、中国人民解放軍は無人航空機を活用して攻撃ヘリから発射されたミサイルの誘導することに成功しているが、これらの成果は飽くまでセンサーとシューターの分離が可能かどうかを実証するためのものなので、直ぐに何かが実用化されると言う類のものではない。

出典:Public Domain M109A6 パラディン

しかし今後の兵器開発に「センサーとシューターの分離」という概念は確実に採用されてくるので戦場認識力の拡張技術=つまり視界外で移動する目標をリアルタイムで監視する手段の構築が戦争の勝敗を左右することになるという意味で、この分野への投資を怠れば戦う前から勝敗が決してしまうだろう。

関連記事:センサーとシューターの分離が進む米陸軍、自走砲で巡航ミサイル迎撃に成功
関連記事:センサーとシューターの分離が進む中国、UAVによるミサイル誘導に成功

 

※アイキャッチ画像の出典:MBDA

ウクライナのスタートアップ企業、敵ドローンを迎撃ドローンで破壊する技術を開発前のページ

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    次はこれの対抗手段を考えないといけないから大変だな

    2
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      敵の探知ネットワークを破壊する、電子戦の領域だね
      攻殻機動隊的な戦闘に移行しつつあるのか

      8
        • 匿名
        • 2021年 1月 23日

        攻性防壁の実用化が望まれます

        5
    • ゆう
    • 2021年 1月 23日

    レーダー・情報処理能力の高い機体を飛ばし、その情報を利用して攻撃する、なら、現在もAWACS等で実現していると思う。
    今回重要なのは、UAVがAWACSの代わりとなるか、だと思う。
    絶対能力だと間違いなく負けるが、運用しやすさや総コストを勘案すれば、十分モノになる気がする。
    陸上でなく、洋上で早期警戒機の代わりにした方がよいと思う。
    軽空母でも離着陸可能だろうし、レーダーだけ吊るして情報処理は母艦に任せるにすれば、良いものができそうな気がする。

    3
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      「UAVがAWACSの代わりとなるか」じゃなくて
      「UAVをもたせた歩兵がAWACSの代わりになった」じゃない?

      要は本部が出張らないといけない案件(戦車などの破壊)が現場(歩兵部隊)で回せるようになってるってことだから

      10
    • ゆう
    • 2021年 1月 23日

    レーダー・情報処理能力の高い機体を飛ばし、その情報を利用して攻撃する、なら、現在もAWACS等で実現していると思う。
    今回重要なのは、UAVがAWACSの代わりとなるか、だと思う。
    絶対能力だと間違いなく負けるが、運用しやすさや総コストを勘案すれば、十分モノになる気がする。
    陸上でなく、洋上で早期警戒機の代わりにした方がよいと思う。
    軽空母でも離着陸可能だろうし、レーダーだけ吊るして情報処理は母艦に任せるにすれば、良いものができそうな気がする。

    1
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      いうて大砲だってある程度射程が伸びてからは観測主というセンサーありきだった訳で基本的な構図は同じですけどね。
      物理的な分離と情報連携の密度が上がっただけで。

      16
    • ソソソナス
    • 2021年 1月 23日

    自衛隊同士間での共同光線能力は長い間研究してきたと思うのですが、この事とは別の話なんでしょうか?

    2
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      ウルトラダブルフラッシャーとかクロスパーフェクションとかですかね?

      1
        • 匿名
        • 2021年 1月 23日

        あまりいじめるなよ
        あからさまな間違いには寛容にな

        9
          • 匿名
          • 2021年 1月 24日

          ギャグにしていじってるんだからブログ主の「ドーロン」に草を生やし修正した事にまた草を生やす様な連中よりははるかに寛容なつもりなんだけどな。

      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      センサの無人化が肝だからなのでは。
      自衛隊は(少なくとも従来は)暗黙的に有人重視。

      3
    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    航空優勢ならぬドローン優勢が地上戦の勝敗を分けるのか

    1
    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    センサーとシューターの分離だと、LOALも含めて本邦のMMPMで似たような事は実現してたような?
    汎用なUAVをセンサー役に出来る事はメリットなのだろうけど。

    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    前提としての制空権の確保、記事よりさらに拡大された戦場の情報ネットワーク構築、そして汎用性の高いドローンに、
    相手からのドローン攻撃に対抗する様々な射程の対空火器、電子的妨害策、煙幕や目潰し的なレーザーも要るだろう、もちろん爆弾もミサイルもちゃんと頭上に落ちてくる
    その上で古典的なw兵士と戦闘車両が前進するわけだ
    戦場が変わる手前に、まず戦場の重層化という現象が必然になるね、
    大砲の援護射撃の下に戦車を並べればいいという話に固執できる段階ではない

    4
    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    先端技術を用いた戦法となると、かなり考えが保守的で手堅い手段を好む自衛隊だと苦手そうだから心配になる。

    4
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      いままでの軍隊にありがちな思考法は、なんにも考えなくていいから命令に従えwどちらかといえば旧日本軍の硬直体質、敗けた組織の論理
      今は現場の判断で最適の選択を優先しないと全滅の恐れすらある、それゆえに上下での情報伝達の確実性とスピードが最優先になる
      そのためのネットワーク構築なんだけど、ちゃんと自衛隊が目的と理由を理解しているのか

      1
        • 匿名
        • 2021年 1月 23日

        「独断専行」は昔からある概念ですよ

        1
          • 匿名
          • 2021年 1月 23日

          それがうまくない、例え現場が勝手な判断で攻撃したり退却しても、それを司令部がリアルタイムで把握してないと戦局の全体像に響くから
          結果オーライだから行動の是非そのものでなく、時間的な問題ね

          1
            • 匿名
            • 2021年 1月 24日

            それは技術的な問題で、硬直体質云々とは別の話しですね

            2
    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    マルチロール化へ向かった有人機と対照的に、
    無人機は任務ごとに専用の機体を用意する流れになるのかな?

    3
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      そもそもエンジンが非力だから一機で何でもってなんらないのかもね。逆に安価に馬力のあるエンジンを搭載できたら有人機と同じ進化を辿るのでは?

      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      マルチロール化するとデカくて高価になりますからね
      無人機のメリットを相殺してしまう

      2
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      まだまだ過渡期ですからね
      無人でも、戦闘機と輸送機とヘリコプター程度の区別は残ると思いますよ

      1
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      安価で大量に用意できて使い捨て出来ることが今の長所だからね
      でもそれを迎撃できるUAVが開発されてそれに対抗する装備を開発してとイタチごっこが続くと
      どんどんマルチ化していくと思うよ
      F-16だって初期は全天候能力すら無かったんだからさ

      1
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      有人機の歴史も砲弾の着弾観測がお仕事の観測機から、

      偵察(観測)したついでに爆弾も落として帰ろう→爆撃機
      偵察機が来たぞ!情報を取られる前に追い払え→戦闘機

      だからね

      3
      • 匿名
      • 2021年 1月 24日

      戦闘機がマルチロール化、統合化していったのは主に「高価だから」ですからね。そのせいでますます高価になった訳ですが。
      UAVは基本的に消耗前提ですからアビオニクスの汎用化くらいは起こるかもしれませんが、マルチロール化・多機種統合の方向にはいかないでしょう。
      おそらく共同開発路線にも行かず、あるとしてもせいぜい「既存機の自国向け小規模カスタム版の開発」くらいになるのではないでしょうか。

      3
    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    真っ当な使い方だね。こういう「偵察」こそUAV、ドローンの本領。
    特にドローンなら航空優勢の有無を気にせず使えるから、人間の観測兵が不要になるのは大きい。
    当然ながらジャミングとの戦いになるわけで、この辺のネットワークの高度化と冗長性こそが今後の地上戦の鍵となるんじゃあないかと思うなぁ。

    操作員の隠蔽が必要と言う兵装の性質を鑑みると、中波しか使えないというところで、どういった形で通信の冗長性を確保するか。
    各国の腕の見せ所なんだろうなぁ。

    2
    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    この記事のセンサードローンが戦場を飛んでると
    一つ前の記事の迎撃ドローンが飛んできて撃墜されるわけですわ
    となるとドローン護衛ドローンが必要になって永久にいたちごっこするはめに

    3
      • 匿名
      • 2021年 1月 23日

      それは飛行機でも同じことでは?
      常に戦場はいたちごっこの繰り返しで、手の内の尽きたほうが敗ける

      4
      • 匿名
      • 2021年 1月 24日

      ドローンの場合消耗前提なので、
      迎撃ドローンが来る→「じゃあ数を増やして飽和観測だ」「デコイのドローンを出して迎撃ドローンを撹乱だ」になるかもです。
      まあ道は違えどイタチごっこなのは変わらん訳ですが。

      3
    • 匿名
    • 2021年 1月 23日

    センサーが小型化無人化が進むということは事前に侵入した工作員が猛威を振るうことになるんだろう。数百グラムの手のひらサイズのドローンが事前に潜んでミサイルが来るとここ撃てワンワンという信号を打つわけだ。事前に探して見つかるかどうかわからないし時期が来るまで電波は出さないしやりづらいことこの上ない。カラスにでも化けられたら見分けることはほぼ不可能だろう。
    そうでなくてもアパートの一室がドローン発射システムと化すだけでも被害は甚大だ。

    3
      • 匿名
      • 2021年 1月 24日

      問題はそのドローンをどうやって作戦地域に事前展開するか、だね。
      小型でも工作員がドローンをいくつも運んでいたら怪しまれるだろうし、ドローン自体に目的地まで自律飛行させても、途中で落とされるかもしれない。

      1
        • 匿名
        • 2021年 1月 24日

        日本を当事者とした想定で考えるとこの場合、わざわざ工作員が持ち運ぶ必要もないんだよな

        ネットで注文すれば翌日には運送会社が自宅まで届けてくれるんだもの
        そして小型ドローンの航続距離的にわざわざ事前展開する必要もない
        必要なタイミングで自宅から飛ばして目的地に届く範囲に自宅(拠点)を用意しておくだけの話だし
        飛ばした後は必要があればパソコンかスマホのネット経由で操作もできる

        ネットを含めた日本の社会インフラをそのまま利用できてしまう恐るべき低コスト戦術になるのがポイントで
        自爆であれミサイル誘導であれ、これほど低コストで目的地に着いたらその場で使い捨てにする前提のドローンであれば、9割方落とされたところで攻撃側は痛くも痒くもない

        しかも一方で、この戦術を妨害するためには日本の社会インフラを日本が自分で麻痺させるリスクとコストを負う事になり、それだけで結構な嫌がらせになる

        2
          • 匿名
          • 2021年 1月 24日

          そしてその作戦に必要な基地等の重要施設周辺の土地や施設を
          現実として既に中国人がバンバン買ってるんですよね。
          どうして「日本は島国だからドローンの脅威とは無縁」等と
          呑気にしていられるのか不思議。

          1
            • 匿名
            • 2021年 1月 25日

            テロの話しなら、軍事上で対UAVの装備が完備していても、隙を付かれて殺られるだけだろうし、
            公安さんとかに頑張って貰うしか無いだろうね。
            で、行き着く先は監視社会かな?

        • 匿名
        • 2021年 1月 24日

        怪しまれるけど、取っ捕まえれるのかな?
        法的に…

          • 匿名
          • 2021年 1月 24日

          警察にはいくらでも別件逮捕の手口がありますから
          憲兵みたいなのは微妙すぎて、自衛隊が直接どうこうてのはね。
          戦争中は山と呼ばれた特務機関が裁判無しでスパイを処刑していた噂があるが、すでに記録なき歴史の闇にされてます

    • 匿名
    • 2021年 1月 24日

    アメリカ海軍はNIFC-CAでセンサーとシューターの柔軟性を確保してますが、センサーに使用する機材が高価なものばかりなのでそれなりの目標にしか使えないですからね。
    これがUAVベースになれば今回のように対戦車ミサイルなどより安価な兵器にも使えるようになるので、戦術レベルで変わってきますね

    1
      • 匿名
      • 2021年 1月 25日

      対戦車能力を有した自爆ドローンだと、
      同クラスな威力の対戦車ミサイルに比べると、
      ドローンの機能が付与される分、より高価になると思います。

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