欧州関連

爆発的に売れるUCAV、ルーマニアがTB2に続きWatchkeeperX導入を発表

ルーマニア国防省は今年9月「トルコからTB2システムを3億ドルで3セット(1つのシステムは6機で構成されているためTB2の導入数は計18機)導入する」と明かしていたが、今度は「ElbitからWatchkeeperXを導入する」と発表した。

参考:Romania to buy Watchkeeper X surveillance systems from Elbit Systems
参考:The framework agreement for the provision of the “Second class UAS tactical-operative System” has been signed

イスラエルもトルコも技術移転とセットで輸出しているため、今後自国でUAV/UCAVを生産する国は増えてくるだろう

英陸軍はアフガニスタンで使用する情報収集、監視、目標捕捉、偵察(ISTAR)用途のUAVを要求、この契約を受注するためイスラエルのElbitとフランスのThalesUKは合弁企業「UAV Tactical Systems Limited=U-TacS(出資比率はElbitが51%)」を設立してHermes450にSARレーダーとMTIレーダーを追加したモデルを提案、Northrop Grumman案とBAE案を退けて英陸軍の採用を勝ち取ったのがWatchkeeper450で、ルーマニア軍が採用するWK450ベースのWatchkeeperXはUCAV化(対戦車ミサイルを計4発搭載)しているのが興味深い。

出典:Amit Agronov/CC BY-SA 3.0 Watchkeeper450のベースとなったHermes450

ルーマニア国防省は「今回の契約(約4.1億ドル/7機分)に基づきElbitはルーマニア企業の(恐らくU-TacSと生産協定を締結しているAerosta)にWKXの技術移転を実施、3機目以降の製造と保守業務を同社が担当する」と明かしており、このような形態を選択したのは「安全保障上の利益を守るため=有事に保守サービスが途絶することを回避したいという意味」と説明している。

トルコはTB2の技術移転をウクライナ(UAE、サウジアラビア、パキスタンなどでも現地生産の話が出ている)にしか認めていないが、他のUAV/UCAV(Karayel-SU、Akinci、Ankaなど)は技術移転とセットで輸出を行っているので、今後自国でUAV/UCAVを生産する国は増えてくるだろう。

出典:Baykar TB2

因みにTB2は昨年時点で14ヶ国に売れて仏新聞が「飛ぶように売れる」と表現していたが、つい先日にNATO加盟国のアルバニアがTB2の導入を発表したため「導入国は27ヶ国になった」と報じられており、NATOの高官も「ウクライナの戦いでトルコ製無人機=TB2が大きな役割を果たしている」と評価しているため、今後もTB2を求める国は増え続けるはずだ。

日本ではTB2のようなUCAVを対地攻撃能力のみで評価=ウクライナ軍のTB2によるロシア軍への攻撃シーンが登場しないため「役に立たない」と解釈する傾向が強いが、UCAVはISR任務に特化したUAVよりも機体が比較的大型なので高性能なEO/IRセンサーを搭載しており、TB2に搭載されたMX-15Dは最大75km先の車輌を認識、組み込まれたレーザー距離計は最大20km先にある目標の位置を測定することができ、UCAVのハードポイントにはSIGINT機材、ジャミング装置、戦術通信の中継機などを搭載することも可能なので多用途性や柔軟性は高く、対地攻撃能力ばかり強調されるTB2もISR任務に投入されることが多い。

出典:Головнокомандувач ЗС України

勿論、TB2は精密誘導兵器を携行すればISR任務で発見した目標を破壊することもできるが、TB2が認識できる範囲に対する攻撃手段(ミサイル、徘徊型弾薬、榴弾砲、自走砲、多連装ロケットシステムなど)は他にもあるため、軍全体から見ると「敵防空システムに撃墜される可能性が高い空域」にTB2をわざわざ侵入させて地上の標的を叩く必要性は低く、ポーランドのブラスザック国防相も「TB2は単独で作動するのではなく他の軍事資産と連携して相乗効果を発揮することが重要」と述べている。

ポーランドはNATO加盟国として初めてTB2を2021年に発注したが、この取引は野党に「有人機の戦闘機と比較して機体性能が劣るTB2が正規軍相手に役に立つはずない」「TB2による対地攻撃ミッションなど高度な防空システム相手に撃墜されるだけ」「政府は金をトルコに無駄に流出させている」などと散々批判されてきたため、ブラスザック国防相はTB2の式典で「ウクライナでの結果を見れば偵察にも攻撃にも使用できるTB2の有効性は明らかだ。もはやUAVを保有しない近代的な軍隊は存在しない」と断言した。

出典:Poland MOD

米陸軍参謀総長のマコンヴィル大将もウクライナ軍のTB2が活躍し続ける理由について「高度な防空システムを隙間のない壁のようにイメージして『脅威はこれをすり抜けることが出来ない』と考えるかもしれないが、実際にはこれを回避する方法もあるし突破する戦術もある」と述べており、米ディフェンスメディアも「防空システムはあらゆる高度を飛行する目標を確実に検出できる訳ではない。全ての空域を完全にカバーすることは不可能で、24時間以上も戦場をうろつくことができる無人機は脆弱な部分から侵入してインパクトを十分残せる」と主張。

米空軍も「中国との戦いにレガシーな無人機は役に立たない」と考えてMQ-9の早期退役を主張していたが、TB2が対地攻撃だけでなくISR任務や戦場の通信セルとして効果的だったことを受けて「非ステルス」のMQ-9に対する評価が見直されており、もしTB2がウクライナで役に立っていなのなら軍事関係者がこんなに評価を口にするはずがなく、ここまで多くの国がUCAVを欲しがるはずがない。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Haley Stevens

TB2もMQ-9も高度な有人機の役割を肩代わりする存在ではなく、有人機と同じように防空システムが機能している空域に侵入すれば容易に撃墜される脆弱な存在で、小型UAVや商用ドローンのように使い捨て感覚で使用できるほど安くもなく補充性も良くないが、管理人は「TB2やMQ-9といったUCAVは有人機には出来ない・向かない任務に対応できるプラットフォームとして今後も活躍の場を広げていく」と思っている。

関連記事:どこまで売れるのか? 新たなTB2輸出契約が成立して運用国は計14ヶ国に
関連記事:TB2導入理由を語るポーランド国防相、実戦での実力を疑問視する声にも反論
関連記事:ウクライナはアフガニスタンではない、MQ-1Cの対地攻撃は通用しない
関連記事:ポーランド国防相、もはやUAVを保有しない近代的な軍隊は存在しない

 

※アイキャッチ画像の出典:Peter Russell LBIPP/OGL v1.0

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コメント

    • Sjwijana110
    • 2022年 12月 24日

    またも世界から遅れ、取り残されるニッポン

    7
      • ミリ飯食べたい
      • 2022年 12月 24日

      90年代から基盤技術はあったのに、発展させることができなかったのは悔やまれますね。
      もっとも明確な展望があったわけではなく、米軍がやっているからといった潮流に乗り遅れないために、開発したといった側面を感じます。
      2010年代からの急速な発展に取り残されたのは間違いないので、日本は技術的にも戦術的にも大人しく後進国であることを自覚して、0からスタートをするくらいの意気込みじゃないと駄目ではないかと最近は思います。
      それこそトルコに頭を下げてTB2を生産させてもらうくらいのことしないと、スタートラインにも立てない…

      19
        • Sjwijana110
        • 2022年 12月 24日

        本当にその通り
        技術もノウハウもない日本が巻き返しを図るには、トルコやイスラエルに頭を下げ、技術移転して貰う他ない

        6
        • ミリオタの猫
        • 2022年 12月 24日

        その件ですが、政府が23日に閣議決定した防衛省の2023年度当初予算案に関連し、防衛省が来年度に試験導入を考えている無人機の機種の中にMQ9リーパーと並んでバイラクタルTB2の名前が出ましたよ
        テスト運用した上で、有用なら5年以内に実戦配備するとも表明した為、今後のテスト次第では本当にトルコへ頭を下げてTB2のライセンス生産権を取得する可能性も有ると思います
        リンク

        9
          • ネコ歩き
          • 2022年 12月 25日

          頭を下げなくとも交渉次第でライセンス生産ぐらいは出来るでしょう。
          日土関係は良好なほうですし、日本側の防衛技術移転等現状では対応できない見返りを求められない限り普通の取引で問題無いと思います。

          4
            • ミリオタの猫
            • 2022年 12月 25日

            その通りなのですが、一番上の書き込みの相手が露骨と言える煽りをやったので、ついカマしてしまいました(苦笑)

            4
      • 匿名
      • 2022年 12月 24日

      あんまりにも露骨過ぎてあれですが、日本は昔から無人機の研究もしているし、
      TB2も大層な技術を使っているわけではないので、そこまで悲観的な事になりますかねぇ。
      予算の問題も解消されつつありますし。

      26
        • .
        • 2022年 12月 24日

        技術的な問題より、運用上のノウハウの構築だよね。
        そこはどの国もまだまだ手探りなので、ウクライナでの戦訓参考にしつつ
        予算つけて研究してけばね。

        29
        • ネコ歩き
        • 2022年 12月 24日

        無人装備については、前防衛大綱でも「重視すべき機能・能力」の中で広域の常続監視に活用する旨が述べられているだけでした。根拠となる防衛大綱がこうでしたから「広域の常続監視」目的外の無人装備には研究開発予算が通り難い状況だったと思われます。
        先見の明に欠けていたと言われればそれまでですが、特に攻撃型無人機について慎重な姿勢だったのは確かです。

        国家防衛戦略では「無人アセット防衛能力」で「ゲーム・チェンジャーとなり得る」装備との認識を明確に示し、今後10年を目処に無人アセットを用いた戦い方を更に具体化し本格運用を拡大すると述べています。これを根拠とし海外からの導入や研究開発予算も拡大確保されるでしょう。

        7
        • 無印
        • 2022年 12月 24日

        露骨と言うかSjwijana110って韓国上げ日本下げの煽りをしては、毎回管理人に瞬殺されてる荒らしだ

        12
    • G
    • 2022年 12月 24日

    >ルーマニア国防省は今年9月「トルコからTB2システムを3億ドルで3セット(1つのシステムは6機で構成されているためTB2の導入数は計18機)導入する」と明かし
    >TB2に搭載されたMX-15Dは最大75km先の車輌を認識、組み込まれたレーザー距離計は最大20km先にある目標の位置を測定することができ

    性能は車両<TB2<航空機や水上艦なので、陸自の装備<TB2<空自や海自あたりの位置でしょうか
    陸戦主体の国にとっては優れた兵器であることは疑いようがありません

    ただ値段が安ければ陸自に組み込む案が出たかもしれませんが、陸自の装備としては高価すぎ(他の装備予算を大幅に圧迫)、空自や海自の装備としては性能不足と、残念ながらやはり日本には向いていない兵器に思えますね
    開発中のTB3の性能や値段に期待したいところ

    8
    • 名無し
    • 2022年 12月 24日

    分かりやすいスペックの物差しでしか兵器を見ないような人からしたらEO/IRセンサーとかレーザー距離計で何キロ以上を識別できるとかっていう解説はいまいち理解できないかもしれんね

    2
    • 名無し2
    • 2022年 12月 24日

    あーあ。幹部がUCAV導入しろしろうるせえから、一応導入してみるか・・うちの島嶼が着上陸なんかされるわけねえよな!異常ねえや!

    6
      • 匿名
      • 2022年 12月 24日

      警察が作ったテロ対策啓蒙ビデオで交番が爆破される奴ですねw

      • FF-X7
      • 2022年 12月 25日

      なんか見慣れない船が航行しているけどヨシ!
      なんか見慣れない箱が置いてあるけどヨシ!
      なんか見慣れないヤツがウロウロしてるけどヨシ!

      まさに現場猫…。

    • 2022年 12月 24日

    こんなこと未だに言ってるのはもはや某アルファベット三文字くらいじゃ・・・

    >ウクライナ軍のTB2によるロシア軍への攻撃シーンが登場しないため「役に立たない」と解釈する傾向が強いが

    6
      • 名前
      • 2022年 12月 24日

      独自の情報網を持ち、各国から情報を共有してもらえるNATO加盟国の担当者が、オープンソースからしか語れない軍事ブロガーやらツイッタラーやらに情報面で劣るはずないんですけどねぇ。
      TB2が大活躍してなきゃ、こんなに売れないだろうと思います。

      5
    • もり
    • 2022年 12月 24日

    わーくにには古くからFFOS、改良型のFFRSと言うUAVがあるから…
    なお、軍研で元将官が嘆く程のドチャクソ欠陥品な模様

    5
      • Natto
      • 2022年 12月 25日

      あれ、田んぼに農薬を散布する無人ヘリの改造みたいに見えるから飛ばす分には問題が無さそう。

    • 58式素人
    • 2022年 12月 24日

    中高度の偵察UAVは、沢山記事に上がるのだけども。
    高高度のそれについては滅多に上がりませんね。
    そもそも、品物が少ないのでしょうか。よく知られているのはグロホですね。
    中高度のUAVは、防空組織が機能していれば脆弱であるのは、明らかだと思います。
    落とされ難くするのは、ステルス化するか、ジャミングに頼るか、あと一つ
    高空に上がることではないでしょうか。
    かつて、米国でD-21と言う無人偵察機が運用されていたそうですが、
    これは、運用高度29,000m、速度M3.5、航続距離5,550kmでした。
    大きさは、同時期のSR-71に比べ、長さ・幅とも約1/3です。
    こういった機体が復活するのではないでしょうか。
    それとも、偵察衛星になってしまうのでしょうか。

    • どーせ
    • 2022年 12月 24日

    どーせ10年以内に日本自治区になるんだから何してもムダだよ。

    3
      • ミリオタの猫
      • 2022年 12月 25日

      じゃあ、来年の統一地方選には野党に票を入れなさいよ(投げやり)

        • もり
        • 2022年 12月 25日

        言うて岸田自民に入れるか?

          •  
          • 2022年 12月 25日

          できれば岸田派以外の自民党員、無理ならそれしか選択肢ないので
          なにせその岸田政権と比べてさえ、今の野党や公明党を選んで生活や国防が悪化することはあってもマシになるとは思えない……

          3
        • 名前
        • 2022年 12月 25日

        地方は地方の事情で選挙するんで国防の観点関係ないなって
        まあ、壺基準で投票するわ

    • 名無し2
    • 2022年 12月 25日

    「TB2やMQ-9といったUCAVは有人機には出来ない・向かない任務に対応できるプラットフォーム 」中国との戦いで予想される大規模な海上戦において非ステルスUAVを投入するなら敵艦船の射程範囲外の後方の海域でソノブイ撒いてパトロールしたりじゃないだろうか。侵入してくるであろう大量のドローンを駆逐する任務に特化したUCAVなどがあっても良いだろう。

    1
    • 半蔵
    • 2022年 12月 26日

    TB-2の衛星通信か上空待機リンク機によるエクステンドバージョン的なUAVすぐできそうだけどなあ
    沖縄とか下地島とかにテストで飛ばしてみたらいいのに
    サイトーエンジンとペットボトルの燃料タンクなロシアのオルラン10でさえ成立してるんだし
    IHIは4サイクルFG40みたいな低燃費低コスト低振動なレシプロエンジン造らないかな なんならテスト機も造ってみては ラジコンの世界に日本のプロでチャンピオンけっこうたくさんいて日本人は向いてると思うんだよね

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