欧州関連

英国の国防予算を巡ってF-35BとGCAPが競合、どちらが利益をもたらすか

Lockheed Martinは英国の限られた予算枠の中で「F-35BとGCAPは両立しない」と懸念してロビー活動を強化、F-35が英国経済にもたらす利益(約450億ポンド=8.8兆円)を強調して投資継続を訴えたが、GCAP側もPwCが経済効果をまとめて反撃を行うらしい。

参考:Lockheed Martin Lobbies For Larger UK F-35 Buy

どちらに投資する方が「地域経済や納税者にとって恩恵が大きいのか」中々興味深いテーマだ

F-35計画におけるレベル1パートナーの地位をもつ英国は「F-35Bを138機購入する」と約束しているものの正式契約は48機に留まり、Lockheed Martinと二次契約(26機)に関する交渉を進めているが、残り64機を約束通り発注するかどうかは非常に流動的で、スターマー新政権も保守党時代に策定された国防政策や調達プログラムをそのまま引き継ぐ気はなく「国防政策の徹底的な見直し」を指示しており、Lockheed Martinは「限られた予算枠の中でF-35BとGCAPは両立しない」と懸念してロビー活動を強化。

Lockheed Martin UKは28日に開催した業界向けのイベントで「F-35は生産が終了する2046年までに約450億ポンドの利益を英国経済にもたらすだろう」「顧客が購入量を増やせば増やすほど英産業界と納税者は追加の恩恵を受けられる」とアピールし、同社のポール・リビングストン最高経営責任者も「国防支出が限られているなら資金を賢く使わなければならない」と述べ、AviationWeekも「Lockheed Martinは英国にGCAPを推進するのではなくF-35Bへの投資継続=138機購入の実行を呼びかけている」と報じたが、F-35Bのリスクは経済的恩恵とは別のところに潜んでいる。

F-35Block4の開発は信じられないほど遅れており、英国が要求しているMeteorとSPEAR3の統合も2030年末まで実現する見込みがなく、英空軍のF-35Bはスタンドオフ兵器を持たないまま高度な地上配備型防空システムと向き合わなければならない。一時的な解決策としてStormBreakerの名前が上がっているものの、英国が保有するF-35シミュレーターはStormBreakerの訓練に対応しておらず、保守党政権時代からF-35Bは不満の対象だった。

出典:Tempest: Innovation for UK security and prosperity

英国が約束通りF-35Bを138機購入するかどうかは「国防政策の見直し結果」に左右されるものの、Lockheed Martinの動きにGCAP側も反撃を行う見込みで、AviationWeekは「PwC/プライス・ウォーター・ハウス・クーパースがGCAPの経済効果をまとめたレポートでLockheed Martinに反撃する」と報じており、どちらに投資する方が「地域経済や納税者にとって恩恵が大きいのか」中々興味深いテーマだ。

因みにPwCはBAEの依頼で「Tempestプログラムが英国経済にもたらす影響の評価」を行い「約30年間に推定262億ポンドの波及効果をもたらして年間平均2.1万人分の雇用を生み出す」と発表したことがある。

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※アイキャッチ画像の出典:Royal Air Force

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コメント

    • そら
    • 2024年 11月 01日

    B型でスタンドオフ兵器が使えないのは痛すぎるな
    哨戒機代わりにするんなら良いが、実践力として新鋭機なのに不安が残るのはいただけない
    とは言えGCAP始まったばかりだし、ここで躓いた悪影響は今後エラい事になるだろうから欲張った方針で行って欲しいな

    15
      • 戦略眼
      • 2024年 11月 01日

      ロッキード・マーティンは、真面目に仕事をしてから言えということね。
      F-35Bで、防空網制圧が出来ないと言う事かな。

      11
    • 無印
    • 2024年 11月 01日

    F-35が強力な機体であるのは認める所ですが、「何もかも全てがアメリカ次第」
    そこが頼もしい反面、そこにリスクを感じるのも事実なわけで

    35
    • アンゴラ
    • 2024年 11月 01日

    なぜアメリカの戦闘機をイギリスが採用すると、イギリスの経済に好影響を齎すのでしょうか? 素人目には理解できません。
    ロッキード社の工場がイギリス国内にあるということですか?

    1
    • 58式素人
    • 2024年 11月 01日

    どうなのでしょう。
    英国は日本/イタリアと違い、F35Aは買ってないのでは。
    GCAPがF35Aの替わり?とも思えます。
    F35Aは周知の騒動?の渦中にありますし。

    3
      • ななしのよっしん
      • 2024年 11月 03日

      F-35の開発にはBEAシステムズ筆頭に多数の英国企業が関わってるので下請けとして相当な経済的効果があるのでは

      1
        • 58式素人
        • 2024年 11月 03日

        F35Aの生産に伴い、利益はあるものと思います。
        同時に、F35Aの抱える問題についても、
        かなり理解してるのでは、と想像します。
        実際、英国は35Bしか発注していないのですから。

        1
    • hogehoge
    • 2024年 11月 01日

    そもそもF35の各種ミサイル統合が遅れる理由が米ミサイル生産企業辺りとの政治的都合・談合以外では意味分からんのよね
    イスラエルのアドオン方式で一部コンピュータのスペース解放して、ミサイルの生産国・使用国の方で進めて貰えばいいのに
    OSの方に直接組み込みしようってのがイマイチ理解できない
    最終的にOSに組み込むにせよ、先にアドオンでの導入を否定する理由にもならないしな

    29
      • バーナーキング
      • 2024年 11月 01日

      そうなんですよね。
      F-35のTier1パートナーで主要製造パートナーのBAEを擁する英国が望んでる統合になんでそんなに時間が掛かるのか。
      これが共同開発に参加してない日本がAAM-4Bの統合を望んでLMが口約束で了承した、とかならアホみたいに時間が掛かった挙句に結局キャンセル、とかなってもまあ「せやろな」で終わる話なんだけど。

      28
      • kasugi
      • 2024年 11月 01日

      そうするとトラブルが起こった時にその原因がF-35自体にあるのか、それとも独自仕様部分にあるのかというのをいちいち検証しなければなりません

      検証が終わるまで全世界のF-35が飛べなくなります

      3タイプあるだけでもてんてこまいになってるのに、使用国の分だけ仕様が増えたりしたらとんでもないことです

      イスラエルだけが独自回収を許されてるのは、いつもの〇〇〇贔屓です

      5
    • 戦闘機
    • 2024年 11月 01日

    F-35も色々と問題が発生したり、元々拡張性をいっぱいに使った機体なのに限界を超えた機能を盛り込んでるので余裕を持った機体の開発は必要ではないでしょうか?
    B型は特にエンジンの関係で使える任務も限られますし。

    7
      • かぼ
      • 2024年 11月 01日

      F-35は稼働率低めだったり維持費の高さや整備の大変さがあるみたいですが今後これらは解消していくんでしょうかね?
      なんか、どんどん高価になっていく一方な感じだけど
      いざ、戦争とかになって高頻度運用とかになったら早々に部品不足とかになって飛べなくなったりしないのか少し不安

      6
    • さめ
    • 2024年 11月 01日

    PwCか、、

    • ユーリ
    • 2024年 11月 01日

    イギリスのGCAP導入が100機程度とすると対ロシアの危機が現実化する中
    F-35B138機と両方の予算確保すべき状況とも思えるんですが

    2
      • 2024年 11月 01日

      まさに無い袖は振れない
      すでに英国は相当額の増税に踏み切っていますが、それでも社会保険の支出増をまかないきれないのです
      もちろん、社会保険を削って軍事費にという選択肢はありますが、そんなことをすれば政権がもちません

      22
    • 匿名
    • 2024年 11月 01日

    やい日本、開発費もっと出せ!?

    2
      • バーナーキング
      • 2024年 11月 01日

      「もうーしょーがないなぁジョンブル君は…、おやこんなところにGCAPの声明が?
      何々?『作業分担を各国の財政的・技術的貢献度合いに応じたものとすること』…ふむふむ?
      で、開発費はウチがどれくらい出せばいいかな?5割?6割?」

      12
    •  
    • 2024年 11月 01日

    F-35が西側の標準ステルス戦闘機として、普及することは問題ないけど、問題はステルス機に適合したエンジンやらレーダーやらミサイルやらの開発が同時並行で進まなくなることで、現時点で未だに西側開発の各種ミサイルの殆どを搭載できないのに、今後開発完了する多種多様なウイングマンがすぐ適合されるのだろうか?

    8
    • DEEPBLUE
    • 2024年 11月 01日

    降りたいなら降りて貰って結構なんですよ口ばかりのイギリス

    2
      • 特盛
      • 2024年 11月 01日

      いやそれは困るでしょ

      12
        • 匿名希望係
        • 2024年 11月 02日

        技術面で困る部分が存在しないかな

        3
          • バーナーキング
          • 2024年 11月 02日

          なかったら最初からLMやBAEの開発支援なんて求めてないでしょう。
          他ならぬ防衛装備庁が2020年の時点で少なくとも「ステルス性を有する無人機を含む固定翼航空機を設計する技術」と「レーダー、赤外線センサー、電子戦器材、データリンク装置を含む航空機搭載ミッシ ョンシステムのインテグレーション技術」については外国企業の支援が必要と判断した訳で。

          7
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2024年 11月 01日

    GCAPそのものがまだ絵に描いた餅状態なのでF-35と比較されてもって感じはありますが、F-35が全体的にgdgd過ぎる状態になってしまっているのでGCAPと比較せざるをえなくなるというのも笑えない

    10
    • 折口
    • 2024年 11月 01日

    英国の国防予算が逼迫してる根本の原因は戦闘機より潜水艦隊です。戦略原潜によるイギリス独自の核抑止のためのSSGNと、SSGNを護衛したり英領海に侵入してきた敵の原潜を追跡して撃破可能な攻撃型原潜を揃えなきゃいけない現行ドクトリンを続ける限り、イギリス軍は未来永劫金欠のままです。フランスと違って英国の核はNATO防衛に対して使われることはない(英国政府が拒絶している)ので、ソ連が崩壊しロシアの海洋進出リスクも低調なまま推移する時代にあって必要性は相応に低下しています。もちろんロシアと欧米の対立で核抑止の重要性自体は増しているのですが、ロシアが使いたがっているのはあくまで戦術級の核兵器群であって戦略核そのものを英国単体で保持しておく理由も昔ほどはないんですよね。英国が国策としてEUよりアジアとの関係を強化しようとしている中で、空母の艦載機を削って原潜の頭数を揃えるのは賢い投資ではありません。

    6
    • バーナーキング
    • 2024年 11月 01日

    毎度の事だけど外野の雑音を伝えてるだけの記事で「GCAPはもう終わりだ」と騒ぐ人が少なくないのは何なのだろうか(とXをながめつつ)。
    特に今回は「競合相手がロビー活動してますよ」という記事でしかないのに。

    11
    • daishi
    • 2024年 11月 01日

    PwCは本社がロンドンでコンサルティング部門はIBMに売却したと思ってたらコンサルティング屋の「ベリングポイント」「ブーズ・アンド・カンパニー」を買収してコンサルティングもやってるんですね。
    BAEとしては地元ロンドンのPwCにコンサル資料作らせて説得したいのは自然ですし、実際F-35シリーズ全体の状況を見ればLMの言い分には疑問だらけなのでGCAPに軸足を移したいのは事実でしょう。

    1
    • 匿名希望係
    • 2024年 11月 02日

    ぬけた方が多分双方にとってWIN-WINになりそうなのがな

    2
    • Quit
    • 2024年 11月 04日

    ぶっちゃけ英国は金に関してはあんまり気にしてないらしい(日本が何とかするって言ってる)
    それよりもスケジュールが厳しいとか

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