欧州関連

フランスが仏艦艇にレーダー照射を行ったトルコを糾弾、NATOに対応を要求

NATOを舞台にしたフランスとトルコの非難合戦が過熱しており、フランスはNATOに「トルコ問題」に対応することを要求した。

参考:France calls out NATO over ‘Turkey problem’ as alliance meets

NATOにトルコ問題で動けと要求するフランス、国連やNATOの決議に反しているのはフランスだと反論するトルコ

フランスとトルコが対立しているのはリビア問題で、フランスはトルコのリビア支援が度を過ぎていると批判しているのだ。

特にフランスが激怒しているのはトルコ海軍のフリゲート艦によるフランス海軍艦艇へのレーダー照射で、国連の対リビア武器禁輸措置を監視するNATO主導の作戦に参加していたフランス海軍の艦艇がリビアへ向かうトルコの輸送船を発見、武器などの積み荷がないか調べるため輸送船に通信を試みるも無視して航行を続けようとしたため追尾しようとした際、近海を航行していたトルコ海軍のフリゲート艦からのミサイル攻撃を意味するレーダー照射(火器管制レーダーによる電波の照射のこと)が3回行われたことを問題視しているのだ。

出典:public domain トルコ海軍のフリゲート艦「ゲリボル」

フランスは「NATO加盟国がNATO指揮下の艦隊に対して、このような攻撃的な振る舞い(レーダー照射のこと)を行うことは到底容認できない」とトルコを非難したが、トルコは「そのような事実はない」と説明すると同時に「これはフランスがリビアの反政府組織「リビア国民軍」と繋がっている新たな証拠」だと逆に糾弾している。

トルコは国連決議の枠組みで国際社会から認められたリビア政府から要請を受けて支援しているのであり、フランスは国連やNATOの決議に反して「政変を企てた非合法な人物(リビア国民軍の指導者のこと)」と組みしているとフランスの違法性を強調した。

そもそも国連の対リビア武器禁輸措置は2011年のカダフィ政権と反体制派の紛争中に決議されたもので、当事者が新たに樹立されたリビア政府と反政府組織に分かれた現在の内戦に適用されるのか意見が分けれ事実上、死文化している。さらにフランスは反政府組織「リビア国民軍」の支配地域にある油田の利権を持っているため影でリビア国民軍を支援しており、フランス軍が米国から購入した対戦車ミサイル「FGM-148ジャベリン」がリビア国民軍の基地で昨年発見されるなど規模に違いはあってもトルコとやってることは同じだ。

出典:public domain 米国製の対戦車ミサイル「FGM-148ジャベリン」

一応、フランスは発見された対戦車ミサイルはフランス軍特殊部隊がリビアで作戦中に持ち込んだもので「壊れていた」ため同地で破棄されたものだと説明しているが、そもそもフランスは独自の対戦車ミサイルを開発して採用してるため、なぜフランス軍特殊部隊が米国製の対戦車ミサイル「FGM-148ジャベリン」をリビアに持ち込んだのか謎で、シンプルに考えればフランス製の対戦車ミサイルをリビア国民軍に供給すれば足がつくのでわざわざ米国製を購入して供給したと考えるのが妥当だろう。

果たしてフランスの要請を受けてNATOがトルコに対して何らかの措置を講じるのかは不明だが、NATO加盟国もリビアに対する姿勢は一枚岩ではないので恐らく動かない可能性が高い。

例えばイタリアはリビアの旧宗主国で、リビア政府の支配地域にある油田の利権をもっているためトルコと同じくリビア政府との関係を重視しており、トルコの積極的なリビア軍事介入を糾弾しても得られる利益がないのでフランスの提案に賛同しないだろう。

逆にギリシャはトルコと国境問題や排他的経済水域の問題で一触即発の状態で、ポーランドも自国の安全保障に直結するNATOの新しい防衛計画の障害(※)となってるトルコを疎ましく思っているのでフランスの提案に賛同するはずだ。

補足:トルコはNATOの新しい防衛計画を受けれる代わりにPYD(民主統一党)/PKK(クルド民主統一党)をテロ組織として認定するよう求めており、これを認めない限りトルコは新しい防衛計画を拒否すると言われている。

更に言えばフランスはNATOに「トルコ問題」に対応することを要求しているが、具体的に何を要求しているのか謎だ。ロシア系メディアはフランスがNATOからトルコ追放を要求していると見ており、NATOの内輪もめでロシアが利益を得るためどう振る舞えば良いかを色々と指南している。

昨日と今日の2日間、NATOは防衛大臣会議を開催中なので、もしかすると何か大きな動きが起こる「かも」しれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 6月 18日

    トルコを避難しつつ、EU内部で代理戦争のようだ。
    イタリアはコロナで疲弊してる分、残った権益保護のため死力で戦うだろう。
    災害で一致団結とか夢想だった。

    • 匿名
    • 2020年 6月 18日

    挑発するフランスと根深い対立、それはオスマントルコ時代からか

      • 匿名
      • 2020年 6月 18日

      英仏の中東介入とオスマントルコ消滅は有名だ

      まして、フランスはギリシャを独立させて、公用語フランス語のIOCを作る
      そして、欧州の起源は古代ギリシャと言わんばかりに、オスマンのまえで第一回のオリンピックをギリシャで行うという
      でも、ギリシャが今でもEUのお荷物、いやらしいフランスと欧州・・・

      • 匿名
      • 2020年 6月 18日

      そのフランスも、近代では国が無くなったんだが、何故か一応復活したが煙たい存在・
       フランスの第二の故郷レバノンは、フランスの流れか現在は消滅の危機という(笑)

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 18日

    最近、ほとんど話題にする人がいないが、どこぞかの半島国家が我が国の哨戒機に、とんでもないものを浴びせてくれたが、まあ敵国でしかないよな。あちらさんは我が国を仮想(半分公然)敵国としてはばからんわけだし。

    3
    • 匿名
    • 2020年 6月 18日

    さて海自哨戒機にFCレーダー照射した挙げ句言い訳が二転三転して最後には日本が悪い1!!した国がありましたねぇ
    この記事の問題はどこまで行くのでしょうか、日本にとっても指標になりますね

    3
    • 匿名
    • 2020年 6月 18日

    リビアの石油は、質がいいらしい
    そりゃ・・・フランスは必死さ

    1
      • 匿名
      • 2020年 6月 18日

      むかしむかし、あるフランスという国にサルコジという大統領がおりました。それはそれは、リビアに肩入れして、リビアのカダフィー大佐の支援も受けてました。

      ところが、そのサルコジ大統領は、何故かリビアを裏切りアメリカのヒラリーオバマ政権側に付き、カダフィー大佐とその政権を打倒しましたとさ。さらに同時に、リビアの隣国チェニジアの反政府行動がアラブの春と賞賛されて、ノーベル平和賞を取る大事件でしたとさ。それは、歴史に残るアラブの春という一コマであり、現在の内紛状態の起源だそうです。えっ・

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 18日

    レーダー照射…うっ頭が

      • 匿名
      • 2020年 6月 18日

      どこかで聞いた話ですね…北…せどり…うっ頭が

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 18日

    トルコが悪いのかと思いきやフランスがいつものフランスだったという話か…

    1
      • 匿名
      • 2020年 6月 19日

      いつも、優れてた西欧文明。現代の自由主義、ミンス主義は西欧文明のおかげ?

      フランスは現代の警察というリーダであり、現代における西欧白人の十字軍遠征なのでした。
      十字軍とは、異教征伐の遠征と文明指導の戦争であり、昔も近場で異教の富豪を襲いカネを巻き上げ、大成功。

      フランスのブルジョア市民が起こした革命は、なんと自由な平等の権利の行使、そして爆弾も落とす博愛。えっ

      1
    • 匿名
    • 2020年 6月 18日

    ジャベリン持ってるのは単純にフランス軍がフランス製を信用してないって理由もある。
    FA-MASもなくなる予定。
    ルクレールやラファールも微妙な出来栄えで、セールスも上手く行ってるとも言い難い。
    特殊部隊の様な実力主義的組織はなおさらプライドや愛国心に拘らず選ぶ傾向がある。

    • 匿名
    • 2020年 6月 19日

    トルコ君敵作りすぎやろw

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 19日

    >そもそも国連の対リビア武器禁輸措置は2011年のカダフィ政権と反体制派の紛争中に決議されたもので、当事者が新たに樹立されたリビア政府と反政府組織に分かれた現在の内戦に適用されるのか意見が分けれ事実上、死文化している。

    フランス、トルコが行った行動の正当性の根拠が現状を反映していないとは皮肉である。
    第二次大戦の日本に対する敵国条項に同類であり、国連の活動に疑問を感じる事柄の一つである。

    1
    • 匿名
    • 2020年 6月 19日

    地方の暴力団抗争でそれぞれの組織の背後に全国組織の大暴力団が付いていて代理戦争になっているのと全く同じ構図。

    ジャベリンじゃ無くてコピーRPGならバレなかったのだろうか?

    • 匿名
    • 2020年 6月 19日

    フランスに非があるのなら堂々と言えばいい
    レーダー照射など一線を越えている
    レーダー照射する国はすべてイカレテル

    • 匿名
    • 2020年 6月 19日

    まああああ、油田もつフランスだが、ガソリンが200円以上する異常な政治
    金係るんですね、油田を持つと

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