欧州関連

フランスがHIMARSの代替品を開発中、2026年までに試射を行う予定

ドイツはMLRSの後継に米国製ではなくイスラエル製のPULSを選択、KNDSとElbitはPULSの欧州生産バージョン=EuroPULSを発表しているため、フランスもMLRSの後継にPULSを選択すると思われたが、独自の多連装ロケットシステムを開発しているらしい。

参考:France plans to test homemade HIMARS alternative by mid-2026

独自性を追求しすぎて孤立したエコシステムになると維持に苦労するかもしれない

欧州諸国は地上発射型の長距離火力導入(増強)を進めており、主な選択肢はロシアとの戦争で高い評価を獲得したLockheed Martin製のHIMARS、HIMARSと同じように誘導式ロケット弾や弾道ミサイルが発射可能なElbit systems製のPULS、Hanwha Aerospace製のChunmooなどがあり、数年前までなら「米軍との相互運用性を確保する」という大義名分の下でHIMARS選択を正当化できたが、現在ではHIMARSの欠点が浮彫りになっている。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. William Chockey

HIMARSの欠点は「C-130輸送に対応する関係でロケット弾装填ポッドの数がサイズが制限されている点」「発注から納品まで時間がかかりすぎる点」「Lockheed Martinが他社製ロケット弾統合を拒否している点」「トランプ政権の方針転換で使用が制限されるかもしれない点」で、1つの目の欠点はHIMARSの技術を流用したGMARS開発で解消可能だが、弾薬統合の自由や納期を重要視したデンマーク、ドイツ、オランダ、スペインはPULSを、ポーランドはHIMARSとロケット弾のライセンス生産が可能なChunmooの並行調達を選択。

さらにKNDSとElbitはPULSの欧州生産バージョン=EuroPULSを発表、Kongsberg製のNSMやMBDA製のJFSM統合が予定されており、フランスもMLRSの後継に仏企業が関与するEuroPULSを選択すると思われたが、仏装備総局は2026年までにフランス独自の多連装ロケットシステムをテストするらしい。

出典:Elbit Systems

SafranとThaleはEurosatory 2024で「フランス軍の需要に応えるため独自の多連装ロケットシステムを開発している」と明かしていたが、どうやら仏装備総局は独自技術で構成された多連装ロケットシステム(射程数百kmの極超音速ミサイルも統合可能)の予備開発契約をSafranとMBDAのコンソーシアム、ThaleとArianのコンソーシアムに与えており、SafranとMBDAのコンソーシアムが開発しているシステムの名称は「Thundart」でロケット弾の誘導システムはAASMのものに近いらしい。

ThaleとArianのコンソーシアムが開発しているシステムの詳細は不明だが、予備開発が完了した時点で両コンソーシアムは正式な提案書類を提出し、政府は他の選択肢を含む様々なソリューションからMLRSの後継を選ぶ予定で、非常に興味深いのは仏装備総局が両コンソーシアムに対し「500km~1,000kmの攻撃能力を統合するための費用と実現の可能性を検討してほしい」と要請している点だ。

出典:MBDA JFSM

果たしてフランスは独自性を貫き通すのだろうか? それとも仏企業が関与するEuroPULSを選択するのだろうか?

見ている分には兵器の多様化は楽しいが、独自性を追求しすぎて孤立したエコシステムになると維持に苦労するかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:Photo by Lance Cpl. Nicholas Guevara

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コメント

  • コメント (13)

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    • 赤狐
    • 2025年 4月 11日

    最近の欧州のこの手の新兵器開発についての話題をつらつら読んでいると
    (トランプが言っていた通り本当にただ乗りしていただけなのでは……?)
    としか思えないのですが。
    これらの記事の内容が本当だったら、トランプの言っていた通り米国にただ乗りしていただけとなり、
    これらは何時もの見栄を張っているだけで実はどれもすぐにものにならないものばかりなら、もう何時もの欧州仕草でしかないとなる。
    どっちになっても地獄みたいな感じなので、どっちであっても酷いなあとなります。

    15
      • 幽霊
      • 2025年 4月 11日

      アメリカの安全保障にただ乗りさせていたからアメリカはヨーロッパで絶大な影響力を発揮出来てたと思うんですけどね
      ヨーロッパが自国や同盟国間で兵器開発や軍備増強を進めればアメリカの影響力は落ちていく事になるでしょう。

      45
        • 赤狐
        • 2025年 4月 11日

        米国が発言していた事が本当に米国という国家や政府が望んだ事だったのか。
        単にそれは「西側同盟国」の誘導に則って自分ではそれを米国の考えだと思っていただけとか。
        そこまであると思いますよ。
        特にウクライナ戦争においては米国は拠出しすぎました。
        そして米国はウクライナだけ見ている訳にはいかず、最低でもイスラエルがある中東と台頭してきた中国がある極東アジアは見ないといけない。だから、ウクライナの方面くらいはEUがやってよは別におかしくも無いんです。でも、欧州はそれを拒否して猛然と噛み付いてきたって話でもあるから。
        実は自前でも開発生産出来たなら確かに欧州諸国やロシアにちょっかいをかけるのをやめられない英国がやるべき事なんです。

        17
      • たら
      • 2025年 4月 11日

      米国による欧州関与の程度については第一次・第二次世界大戦までの経緯によって一旦結論が出ているはずなんですけどね。

      1
    • 無印
    • 2025年 4月 11日

    いかにもフランスらしい動き
    ただフランス製で売れてる陸戦兵器はカエサルぐらいしかないので、売れ線の多連装ロケットを作ろうぜってのは当然かもしれない
    せめてどこかと弾薬互換性が無いと、サッパリで終わってしまう気もしないではないでですが

    20
    • たむごん
    • 2025年 4月 11日

    ソ連製・ロシア製は分かりやすいのですが、橋梁・鉄道の幅や荷重を考慮したり、河川を渡河することなどを考えて装甲車両の設計を行っていましたね。

    フランスが設計するとして、弾薬の規格・生産・備蓄はどうするのでしょうね?

    韓国は朝鮮戦争に備えていたり、米軍は世界展開に備えているわけですが、フランスは何に備えてどのくらいの弾薬生産体制を用意できるのかなあと。

    8
    • ブルーピーコック
    • 2025年 4月 11日

    地上発射で最大1000kmとか極超音速ミサイルに言及してるってことは、フランスによる核プレゼンスに対応する事を考えてるのかしらん。

    5
      • 名無し
      • 2025年 4月 11日

      基本はジャッキアップ機能がついたロケット花火を打ち出すレール付き車両というだけなので、せっかく載るなら載せたいってだけでしょ
      爆炎に耐えるための措置をするから、少数用途少数生産に留まるようだとコスト高いし

    • かず
    • 2025年 4月 11日

    >独自性を追求しすぎて孤立したエコシステム

    これのみで長年やってきた自衛隊にしたら、どうってことないですよなのか止めとけなのか

    6
      • 戦車
      • 2025年 4月 11日

      よく考えてみても、地、艦、空対地、艦、空ミサイルと魚雷、巡航、弾道技術全て一国で持ってる国はほとんどないですからねー。

      13
    • 58式素人
    • 2025年 4月 11日

    上で少し書いていおられる方もいますが。
    ひょっとして、昔あった、203mm級の核砲弾の復活かな、と思ったり。
    あまり嬉しくない話ですが、戦術核として。ロシアの核威嚇に対抗するために。
    昔の米国のW33(203mm)は、0.5〜40ktの威力でした。
    仏が現在持っている核は、戦略用途でしょうから。

    4
      • ブルーピーコック
      • 2025年 4月 11日

      自分が考えたのはドイツやベルギー、イタリアなどに配備・展開されていた短距離弾道ミサイルのMGM-52ランスの代替ですね。核弾頭とクラスター爆弾を搭載できましたが、冷戦終了してすぐに退役しました。

      6
    • AAA
    • 2025年 4月 11日

    イスラエルもアメリカとズブズブで
    輸入したイスラエル兵器を通して
    何らかの間接的圧力受ける可能性ゼロではない以上
    国産化に舵切るのは安全保障上の自立を目指すなら必然であるな

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