欧州関連

ラファールと相互防衛協定がおまけ? フランスが破格の条件でギリシャの次期フリゲートを受注

世界一激しい受注競争に発展していたギリシャの次期フリゲートを受注することにフランスが成功、もう間もなくミツォタキス首相とマクロン大統領がパリで会談を行い正式に発表されると報じられている。

参考:Greece-France to agree on 5bn euro military procurement deal, mutual defence pact
参考:France to supply frigates, corvettes for Greek navy

ギリシャの次期フリゲートはフランスが受注、ただし当初の提案内容は原型をとどめていない

当初、米国(フリーダム級沿海域戦闘艦)とフランス(中型フリゲート)の間で争われていたギリシャ海軍のフリゲート受注は「より大きな成果」を引き出すため米仏以外の国や企業にも広く門戸が開かれた結果、7ヶ国から9つの提案が行われ世界一激しいフリゲート受注競争に発展して注目を集めていたが、何の前触れもなく両国は政治的合意に達してフランス案採用で決着がついてしまった。

ただし発表が予定されてる内容を見ると、今回の取り引きはフリゲートの調達ではなく安全保障をフランスから取り付けるのための政治的取り引きという性格が強い。

出典:AHMED XIV / CC BY-SA 3.0 ゴーウインド級2500

そもそもギリシャの次期フリゲート調達プログラムは新型フリゲート4隻、イドラ級フリゲート4隻のアップグレード、新型フリゲート導入までのギャップを埋める艦艇2隻(新造でも中古でも可能)で構成されたパッケージ方式の取り引きを要求していたのだが、ギリシャとフランスの合意内容は中型フリゲート/FDI×3隻(+1隻の追加導入オプション付き)、ゴーウインド級コルベット×3隻、ラファールの追加導入×6機、2ヶ国間の相互防衛協定という破格さで契約総額は推定50億ユーロ/約6,500億円だと報じられている。

ギリシャが予定していたプログラムコスト(推定50億ドル/約5,600億円)を約1,000億円ほど上回るが、提案された計6隻の艦艇(フリゲートとコルベット)は全て新造艦でラファール×6機に加え2ヶ国間の相互防衛協定が付帯するなら、他の提案(米国、英国、イタリア、オランダ、ドイツ、スペイン)など「霞んで見えてしまう」というのが正直なところだ。

出典:Millî Savunma Bakanlığı

トルコと東地中海問題で深刻な対立状態にあるギリシャは「自国のEEZが侵されれば武力行使も辞さない」と強行な姿勢を示し、トルコの一方的な主張や緊張を煽る軍事行動をNATOやEUに訴えトルコ制裁を要求したが、大半の欧州諸国はシリアや北アフリカからの難民問題(最近はこれにアフガニスタンからの難民も加わることが予想されている)でトルコに首根っこを押さえられているため一方的にギリシャの主張に支持を与えるのことなく「話し合い」を提案。

トルコが主張を引っ込めるまで「話し合いには応じない」という原則を譲歩させられたギリシャは渋々トルコとの話し合いに応じているが、今のところ両国の主張は平行線を辿り何も状況は変わっていない。

米国はギリシャを支持してトルコを非難しているもののバイデン政権の関心は欧州からインド太平洋へと軸足が移っているため東地中海問題に積極関与する気はなく、ギリシャはトルコに政治的にも外交的にも振り回され後手に甘じている。

出典:public domain M1117装甲警備車

つまりフランスはギリシャの次期フリゲートを受注するために2ヶ国間の相互防衛協定=安全保障を提示することでライバルを出し抜いたと解釈することも出来るが、インド太平洋地域に関心が移ったといっても米国はギリシャの安全保障を支える重要な存在であり、米陸軍が余剰装備として保管していたM1117装甲警備車×1,200輌、M2ブラッドレー歩兵戦闘車(M2A2 ODS)×350輌、OH-58Dカイオワ×70機を無償(推定1,200億円相当/輸送費のみ負担)で譲り受けるなど依然として対米関係を蔑ろにできない。

一方でAUKUS(豪原潜導入支援の枠組み)設立への動きを察知できずプライドもアタック級潜水艦契約も粉々になってしまったマクロン大統領は、半年後に控えた大統領選挙に向けて何らかの手を打つ必要(仏防衛産業に従事する人々に別の仕事を確保+傷ついたフランスのプライドを癒やすだけの政治的な何か)があり、米国や英国も何らかの形でフランスの怒りを鎮める必要に迫られてた。

要するに欧州の盟主を自認するフランスのプライドを回復させるためバイデン大統領は「2ヶ国間の相互防衛協定を結んでもギリシャと米国の関係は悪化しない」と約束することで政治的な成果を、ギリシャの次期フリゲート艦需要をフランスに譲る=アタック級潜水艦契約を失った仏防衛産業に仕事を回すことでマクロン大統領の格好がつくようにしたのではないだろうか?

出典:GEN Konstantinos Floros

当然、ギリシャにしてみれば米国とフランスの諍いを鎮めるための政治的取り引きに利用され面白くないかもしれないが相互防衛協定はトルコに対する政治的カードとして利用でき、もはやおまけとも言えるラファールまで付けてくれるのだからギリシャにとっても悪い話ではないだろう。

これは管理人も想像なので本当に水面下で合意や取り引きがあったのかは定かではないが、最近の安全保障に関する動きはダイナミックなので何があったとしても不思議ではないと思っている。

果たして今回の取り引きについてフランスメディアはどのように反応するのか非常に楽しみだ。

関連記事:世界一激しいギリシャ海軍のフリゲート艦受注競争、米英仏独伊蘭の提案が生き残る
関連記事:弱みを握られたEU、リビア停戦合意の裏でトルコは戦略的要衝を確保
関連記事:米国とトルコの対立で利益を得るギリシャ、装甲車もヘリも無償で獲得
関連記事:エーゲ海上空の航空優位は誰の手に? ギリシャ空軍がラファールの初号機を受け取る
関連記事:米トルコ制裁が裏目、EUによる対トルコ武器禁輸にドイツが反対
関連記事:トルコとの戦争も辞さないギリシャ、来週中にも領海拡張法案の採決を実施

 

アイキャッチ画像の出典:Naval Group フランスがギリシャに提案する予定のフリゲート艦

米国、スクラムジェットを使用した極超音速巡航ミサイル「HAWC」の試射に初成功前のページ

フランス、ギリシャがNATO加盟国から攻撃を受けても即座に軍事支援を行うことを約束次のページ

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    結んだ瞬間にギリシャがトルコに防衛のためとして宣戦布告したら笑う。

    3
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      あくまで包括的軍事同盟ではなく、あくまで相互「防衛」協定だよ

      8
        • 匿名
        • 2021年 9月 28日

        言葉が足りなかった。
        トルコのちょっかいに攻撃で対応したら、って意味。

        2
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    フランスにとってそんな美味しい案件じゃないと思うけどなぁ…
    つーかギリシャとの相互防衛協定でトルコが攻撃してきたら
    フランス側の味方になれよってアメリカに水面下で要求し、
    アメリカも原子力潜水艦の件で負い目があるから、
    協力に合意したんじゃないの?

    7
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      負い目というよりも、取引したんでしょうね、オセアニアはアメリカ、ギリシャはフランスで。
      この後はアジアの分け前を裏取引するのかも

      2
        • 匿名
        • 2021年 9月 28日

        アタック級等々を韓国に売ったりしてなー

        1
          • 匿名
          • 2021年 9月 28日

          それやったら、「北朝鮮で国家存亡の危機」でNPT脱退だな

          2
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    >一方でAUKUS(豪原潜導入支援の枠組み)設立への動きを察知できずプライドもアタック級潜水艦契約も粉々になってしまったマクロン大統領

    韓国に原潜技術を渡すかも?

    12
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      そうなったら有事の際の戦時作戦統制権の分離が無期限延期になってアメリカの手ごまが増えるだけだろうな

      3
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    >中型フリゲート/FDI×3隻(+1隻の追加導入オプション付き)、ゴーウインド級コルベット×3隻、ラファールの追加導入×6機、2ヶ国間の相互防衛協定という破格さで契約総額は推定50億ユーロ/約6,500億円だと報じられている

    フランスも大盤振る舞いをやった感があるけど、やり過ぎてフリゲートとコルベット計6隻の建造費が水子になった豪・アタック級みたいに暴騰しない事を祈るわ

    13
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      ユーロ購入なら二重価格印象操作も、為替や人件費の変動反映もないはず

      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      FDIはフランスでも調達する手堅いフリゲートだし大丈夫でしょ

      3
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      ゴーウインド級でぐぐったら去年ルーマニアが4隻14億ドルで契約というニュースが出てきた
      どんぶり勘定でよくわからないけどそんな高い船でもないのでは
      (後から値上げするし・・)

    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    韓国ではインパクトが弱い。
    カナダに原潜を売るってのが、意趣返しとしてはいい。
    オーストラリアも原発アレルギーあったんだから、カナダだってイケる!
    …オーストラリアの国民が納得してるんだろうか?

    4
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      インドネシアに原潜を売る方がもっとインパクトがありそう
      ラファールとフリゲートと原潜の三点セットで

      4
        • 匿名
        • 2021年 9月 28日

        支払いはバナナとココナッツ?

        8
          • 匿名
          • 2021年 9月 28日

          椰子殻燃料なら有りかも。

          1
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      むしろ、ケベック独立派に突然大量の資金の方が

      6
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      アメリカに潰された過去の原潜計画に再び火がつくかも
      北極海航路とロシアの復活という変化がカナダを揺り起こすかどうかだ

      3
        • 匿名
        • 2021年 9月 28日

        カナダも中国にかなり浸透されてるし、原潜より繋ぎ止めだろ。NZなんてどうでもいい国と違って、カナダの米英側参戦は至上命題だぞ。

        3
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    収支は合うのかなぁ。
    内心、やらかしたって思ってそう。

    2
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      収支は考えてないかも
      フランスはトルコと殴り合うための仲間を得られるし国内の軍事産業の振興にもつながる

      3
      • 匿名
      • 2021年 9月 28日

      イギリスからギリシャ奪ってやった!が本音かも

      1
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    単純に軍艦としては米「フリーダム」より仏「アミラル・ロナルク」の方が使い勝手が良いような…

    2
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    最上型やこれみたいに
    今後は丁髷スタイルのマストが主流になりそうだな

    1
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    メディアによってフランスに対するeuの反応の書き方が違ってるね。

    この記事ではトルコと対話を促すだったが、他ではeu各国は共通してフランスの武器販売方法に不満を持ってるからフランスの抗議や仲介に協力はしないか、もしくはシカト的な書き方してる所もある。

    2
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    すべて新造!
    とはいえ、フリゲートがコルベットになってたり、数も減ってるけど、そんなんでいいのか?

    1,000億円超過してようが、今ならラファールもセットでお得?

    何時納入されるのよ

    1
      • 匿名
      • 2021年 9月 29日

      過去記事を読めば分かるけど中間ソリューションで提案されていたのは中古艦だかりだから、元々新造艦の導入予定4隻だけ

      これが最大7隻の新造艦になるから大盤振る舞いというのは正しいと思うよ

      5
    • 匿名
    • 2021年 9月 28日

    これってフランスに得あるの?
    欧州の大国としてアピール出来たことを何かに利用できるのか?

      • 匿名
      • 2021年 9月 29日

      面子は金より大事なんだろう
      管理人も言ってるが欧州の盟主を自認してるからな
      英仏独なんて同じ陣営にいるのが不思議なくらい過去からやり合ってるし

      5
    • 匿名
    • 2021年 9月 29日

    悲哀トルコ。
    今まで西欧諸国からEU加盟を餌に散々内政干渉されてきて、経済改革も宗教規制もクルド問題の譲歩も難民受け入れまでしたのに、結局非白人の非キリスト教徒だからって理由で突っぱねられる。その癖経済どん底で観光以外めぼしい産業もないギリシアとかいう荒れ地の国はヨーロッパ文明の祖(俗説。ほぼつながりなし)という理由で最初から加盟が決まっているし、国力差が歴然かつ歴史的にトルコ優位の国境紛争ではトルコと無関係の理由でギリシア側にどんどん有利な条件が加わっていく。

    2
      • 匿名
      • 2021年 9月 29日

      欧米に贔屓されるギリシャも、正教繋がりで親露、金繋がりで親中だったりするから面白い。

      3
      • 匿名
      • 2021年 9月 29日

      国力をつけたトルコが、EUに入れないのにNATO残留する矛盾に不満を溜めてるのは想像できる
      ケマル以来の脱亜入欧政策に現政権が固執するとは思えない

      4
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