Defense Newsは6日「ドイツ議会がEuroPULSの初期調達を承認した」「ドイツ軍の次期多連装ロケットシステムを巡る熾烈な戦いが決着した」と報じ、RheinmetallとLockheed Martinが提案していたGMARSは採用に至らず、フランスもドイツの決定に合流して弾薬統合の自由を手にいれるだろう。
参考:German army gets nod to buy Israeli PULS rocket launchers
Lockheed Martinは『もしPULSを選択すれば米国製弾薬にはアクセスできなくなる』と主張
欧州ではロシア軍によるウクライナ侵攻を受けて「大規模な地上戦が再び欧州で発生する可能性」と「高度な防空システムの普及で接近拒否が成立する可能性」を認識、そのため航空戦力に依存した火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しいるものの、榴弾砲、自走砲、多連装ロケットシステムの調達には「武器システムの主権」と「雇用」が絡んでくるため、中々面白いことになっている。
ドイツ、フランス、スウェーデン、ポーランド、ノルウェー、スロバキア、セルビアは独自の砲兵システムに投資しているため、欧州諸国はEU域内から調達できる自走砲の選択肢が多彩だが、米国製のM270に依存してきた多連装ロケットシステムには欧州独自のシステムが存在せず、導入候補に米国製のHIMARS、イスラエル製のPULS、韓国製のChunmooが浮上。
米軍との共通性を重視したポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、イタリア、クロアチアはHIMARSを、M270並な投射火力と短納期を重視したデンマーク、ドイツ、オランダ、スペインはPULSを選択、ポーランドはHIMARSと同時並行でライセンス生産が可能なChunmooの取得も進めているが、ドイツが取得したPULSはウクライナ提供分の穴埋め分に過ぎず、フランスは欧州諸国に多連装ロケットシステムをEU域内で調達すべきだと主張。
そこでRheinmetallとLockheed Martinは「HIMARSの技術を流用し、ロケット弾装填ポッドを2基搭載し、GMLRS、ER-GMLRS、ATACMS、PrSMを使用可能なGMARS」の欧州生産、KNDSとElbitは「PULSの技術の流用し、イスラエル製のロケット弾に加えてKongsberg製のNSM、MBDA製のJFSMなどを統合できるEuroPULS」の欧州生産を提案していたが、Defense Newsは6日「ドイツ議会がEuroPULSの初期調達を承認した」「ドイツ軍の次期多連装ロケットシステムを巡る熾烈な戦いが決着した」と報じて注目を集めている。
Defense Newsの取材に応じたドイツ国防省の報道官は「評価可能なGMLRSのプロトタイプを入手できなかった」「PULSを選択したオランダ軍はドイツ軍に深く統合されている」「同一システムを採用することで両軍の協力関係を強化できる」「PULSの運用国は射撃管制システムと使用する弾薬を独自に選択可能だ」と述べ、Defense Newsは「PULSに統合可能な弾薬にM270で使用していたGMLRSが含まれるかどうかは未解決な問題だ。ドイツ国防省の報道官も『米国側と緊密に協力している』と説明したが、Lockheed Martinは『もしPULSを選択すれば米国製弾薬にはアクセスできなくなる』と主張している」と指摘。
この拒絶は政治的もしくは商業的な側面に起因している可能性が高く、海外市場ではプラットホーム、弾薬、保守、サービスの全てを支配するやり方は不人気で、だからこそ武器システムの主権確保が調達時の重要なポイントになっているのだろう。
ドイツはGMLRSの在庫を処分することになってもEuroPULSを選択するだろうし、フランスもドイツの決定に合流して弾薬統合の自由を手にいれるだろう。
関連記事:外交に及ぼす防衛産業の影響力は軍事力と同じ、持続可能な生産規模が重要
関連記事:欧州が取り組む武器システムの主権回復、ITAR Freeがトレンドに浮上
関連記事:BAE Australia、ブッシュマスター搭載の自律型戦闘車輌を発表
関連記事:英国、ASRAAMの最新バージョン「Block6」が間もなくデビュー
関連記事:クロアチアはHIMARSを選択、ノルウェーはPULSやChunmooも検討
関連記事:Eurosatory 2024、RheinmetallとLockheed MartinがGMARSを公開
関連記事:砲兵戦力に回帰する欧州、エルビットとKNDSがEuroPULS生産で合意
関連記事:米独がHIMARSと共通性をもつGMARSを開発、火力面で競合と対等に
関連記事:ラインメタル、ドイツ版HIMARSの開発でロッキード・マーティンと合意
関連記事:スペイン陸軍が調達を検討中のMLRS、イスラエル、韓国、ブラジルが競合
関連記事:MBDA、HIMARSやM270で使用可能な巡航ミサイルJFS-Mを発表
※アイキャッチ画像の出典:KNDS
トランプのアメリカファーストという姿勢も決定に影響したのかな?
いざと言うときに弾薬・部品を出さないとか、使用制限などつけられたらお手上げだ。日本もバカ高い米国製品を押し付けられて使うべき時に使えないなどという事がないように気を付けなければならない。主権は大事だ生殺与奪を米国に握られているような状態からは早く脱していくべきだ。
問題は、「ではその代わりにどこから何を?」なのだけど
いうまでもなく中露は論外
韓国も論外(性能や信頼性はともかく、左派が政権を取った場合確実に補充できなくなる)
イスラエル…ガザのあれこれを見てるとためらいが
欧州…都合が悪くなるとすぐルールを変えてくるように、向こうの政治的都合で調達できなくなる可能性大
国産…採算取れそうにないからダメってパターン多そう
アメリカ以外の選択肢って言われても、なぁ
この手の多連装ロケット兵器はウクライナで活躍しつつも限界を露呈した兵器でもありますね
つまり結節点の破壊という任務において有効で敵に高度な分散を強いられるものの、目標選定の能力には限界があり、かつ対策されれば効果を失いやすく、旧来型の歩兵の支援に使うには費用対効果が悪い、といったところです
ロシア軍もこの問題を重く受け止めており、タルナードをFAB-250の投射母機とすべくUMPBを開発したりしています
理論的にはGLSDBも同じ発想なのですが、炸薬20キロ程度では全く心もとない
HIMARSはMLRSと同じポッドを使い回すために兵器として大きな制限がかかっている状態で現代の戦場のニーズから外れているように思います
イスラエルの工業力でなんでそんな短納期と思ったけど、弾体は欧州のラ国なんでしょうね。
こうミサイルシステム一つ取っても様々な思惑が透けて見えるのはミリタリー趣味の醍醐味だなぁ
MLRSもやがて時代遅れの兵器扱いになるのだろうか?
ドローン万能論的な話が出てきているけど、現状では投射火力の絶対量ではMLRSの優位は揺らがないと思う…が、射程距離・運用などを考えるとドローンに駆逐される可能性も無きにしろあらず
ハイマースの様な自走ロケット砲は大砲より射程が長く準備・撤収が素早くできるので、今回の戦争でも大した数は破壊されていない。潤沢な航空戦力を持つアメリカ軍でも弾道ミサイル運搬車を破壊するのは難しいらしい。ドローンで精密攻撃が可能になっても面制圧が必要な場面はあるだろうし、今後も重宝するだろう。
逆に戦車や歩兵戦闘車のような鈍重大型な直接照準兵器はドローンの格好の餌食になりやすく、対抗手段(APSや対空センサー、ジャマ―など)を装備すれば複雑かつ高価になる。前線で歩兵支援火力が必要ならMRAPの様な軽装甲車にRWSと重迫撃砲を搭載したものが有効かもしれない。小型で安価、隠蔽と機動性で優れるのでドローン攻撃を回避でき、直接及び間接照準のどちらにも対応できる。ドローンに発見された時のリスク分散のためにも車両に乗せる人数は少ない方が良いだろう。
面制圧から、低コストのGPSミサイル発射装置に役割が変化していくのではないのですかね。
たとえ面制圧での仕様でもドローンはマルチプライヤーになると思います。
もうドローン万能論とか辞めませんかね。そもそもドローンって明確な定義ありますか?MLRSで運用するミサイルやロケットと明確に区別出来てこそ駆逐出来る出来無いと初めて議論出来るんですよ。
ウクライナのペクロとかドローン型巡航ミサイルとか言ってますが、それ安価な巡航ミサイル扱いじゃダメなのか問い詰めたいぐらいです。ミサイルなのかドローンなのか境界が曖昧だと、それはどちらも当てはまるよねで議論するのに面倒な事この上ない。
現時点でひとつだけ言える事は弾道ミサイルを運用したいのならドローンでは不可能。
陸軍が現在運用する兵器の有効性を大雑把に分類すると、
一定地域を面的に制圧したいなら、クラスター弾頭弾等ロケット弾或いは多連装ロケット弾又は榴弾砲が有効。
陣地等固定目標を撃破したいなら、攻撃型ドローン或いは誘導ロケット弾又は誘導砲弾若しくはAHが有効。
移動目標を撃破したいなら、ATM等誘導兵器或いは攻撃型ドローン若しくはAHが有効。
というところでは。
今後、有効な対ドローン兵器の開発と普及は強力に推進されるはずで、相応の対応進化が無ければドローンの方が駆逐されるかもです。それはMLRS等他の兵器系統にも言えることかと。
(追記)
管理人さんに気を使うわけではありませんが、○○万能論は良いと思うんです。併せて安易な他種兵器不要論を展開するのでなければ。