英空軍参謀総長を務めるマイク・ウィグストン大将は米メディア「Defense News」の取材に応じて、今年3月に発表された安全保障体制の抜本的な見直しや軍の再編計画が空軍に与える影響や今後の見通しについて中々興味深い内容を語っている。
参考:Britain’s Royal Air Force chief talks F-35 tally and divesting equipment
無人化技術は量と質のトレードオフに支配された戦力構造を変化させ「量と質の両立」が可能になる
予定よりも数ヶ月遅れて発表された英軍の再編計画は「ハイエンドの能力獲得」に重点が置かれ既存の戦力やプログラムは削減傾向が強く「量よりも質を追求した内容」と言えるのだが、ウィグストン大将は「量と質を追求した内容」だと主張している。
これまで戦力の量と質はトレードオフの関係に支配されていたが「この関係はデジタル技術の発展によって転換期にある」とウィグストン大将は語っており、この「デジタル技術の発展」とは無人化技術のことを指していて戦力自体の計算方法も変化する必要があるらしい。
例えば今日の戦術ユニット単位であるタイフーン×8機に相当する戦力は将来的に有人機のタイフーン×2機、無人で自律的に作動する戦闘機×10機、群制御に対応した小型ドローン×100機に置き換えることが可能で、発展した無人化技術のおかげで空軍は戦力の量と質の同時追求が可能になったという意味なのだが、これは戦力構成に限った話ではなくパイロットの訓練方法、基地の警備や運営、航空機の整備に至る全ての業務に高度な自動化システムの導入が進行中だとウィグストン大将は語っており、これは民間企業や商業部門全体で見られる技術革命の恩恵で空軍にも適用可能だと言っているのだ。
つまり英空軍はプラットフォームは勿論、パイロットや基地で働く労働力も無人化技術の飛躍的な進歩に素早く対応させていくことで「量と質のトレードオフ」に支配され減少し続けた戦力規模が「質を維持したまま増加に転じる」と言いたいのだろう。
英国の無人戦闘機はテンペストと同様に国際的なパートナーを受け入れる
ウィグストン大将は開発を進めているテンペストについて「2030年後半に登場予定だが自律的に作動する無人戦闘機(技術検証の無人機モスキートは2023年までに開発を終える予定)については10年以内の実戦投入=つまりF-35Bやタイフーンとのエア・チーミング完成を開発チームに目標として課している」と語っていて、興味深いのはテンペストと同様に無人戦闘機も国際的なパートナーを受け入れると主張している点だ。
無人戦闘機の技術検証機を開発する「Project Mosquito/プロジェクト・モスキート」には同盟国や潜在的なパートナー国候補から多くの関心が寄せられているが、無人戦闘機の開発は我々だけではなく米国(スカイボーグ)やオーストラリア(ロイヤル・ウィングマン)でも進められているので「英国は一刻も早く無人戦闘機を実用化しなければならない」とウィグストン大将は言及しており、英国が西側陣営の無人戦闘機需要を狙っているのは確実で少なくともF-35とエア・チーミングが可能で輸出可能な無人戦闘機が2種類になったと言える。
恐らく管理人が知る限りでは英国が無人戦闘機の開発パートナーや輸出に言及したのは今回が初めて、米空軍が開発中のスカイボーグは同盟国への輸出に関して今のところ何も言及していない。
F-35ジョイント・プログラム・オフィス(JPO)のメンバーではない日本は独自の無人戦闘機を開発しても空自のF-35に統合することが基本的に出来ないため、輸入可能でF-35とのエア・チーミングが出来る無人戦闘機の選択肢が増えるのは歓迎すべきことだろう。
F-35Bの調達削減について明言は避けたものの戦力構造の変化は確実なので同機の削減もほぼ確定か
あと日本にも影響があるかもしれない英空軍のF-35B調達問題だが、はやりウィグストン大将は現時点でF-35Bを当初予定の138機調達するのか削減するのかについては明言を避けている。
英空軍はF-35Bの調達についてロッキード・マーティンと協議を重ねており、2隻のクイーン・エリザベス級空母を運用するためには最低でも4個飛行隊分(訓練飛行隊を含む)のF-35Bが必要になると言っているので60~72機程度の調達は行なわれる見通しだが、約束していた138機を調達するのかF-35BをF-35Aに変更して調達を継続するのかについては「後任の参謀総長が決定を下すだろう」と語ったが、テンペストの開発資金を捻出するためF-35Bの調達を削るというのは間違った認識らしい。
ウィグストン大将曰く「テンペストへの投資は独立したもので他のプログラムとトレードオフの関係にはない」と明言しているので、やはりF-35Bの調達削減は戦力構造の変化=つまり無人化技術の発展で戦力自体の計算方法に変化に由来しているのだろう。
以上が英空軍参謀総長の語った主要要素で個人的には「戦力の量と質」についての主張が非常に興味深いと感じており、成功するのか失敗するのかは別にしても今後の見通しを自身の言葉で雄弁に語れるトップというのは格好良く見えてしまうから不思議だ。
関連記事:英空軍はテンペストと無人戦闘機を優先、F-35Bの調達規模は60機~72機程度?
関連記事:英国防省、無人戦闘機の技術実証機「モスキート」を2023年までに開発
関連記事:電子攻撃能力はF-35級? Captor-E MK.2に換装予定の英空軍タイフーン
関連記事:ノースロップ・グラマン、英国初の無人戦闘機開発にパートナーとして参加
告知:軍事関係や安全保障に関するニュースが急増して記事化できないものはTwitterの方で情報を発信します。興味のある方は@grandfleet_infoをフォローしてチェックしてみてください。
※アイキャッチ画像の出典:BAE Systems テンペスト
有人機8機と有人+無人機合計112機の戦力が同じなら、まだ有人機使った方がコスパいいような…
英空軍「人材が少ないんだよ!!」
とまあネタは置いといて米軍でも遺族に払う金で予算を結構取られてると過去の記事にもあったし、人材の件と合わせての判断かもな
パイロット費用はその通りなのかもしれんが整備予算はどうなるんだ…?
8機の有人機と100機無人機とだと後者の方が整備人員が必要だろ
安価で小さい無人機のメリットを活かして、
予備機・予備部品を十分に用意し、軽整備以外は部品単位か丸ごと後送してメーカー整備、にすれば現場は有人機に専念できるのでは?
>無人で自律的に作動する戦闘機×10機
はプロジェクト・モスキートからの随伴戦闘機を指すと思われますが
>群制御に対応した小型ドローン×100機
は使い捨て兵器でミサイル等と同様のメンテ基準になるんじゃないでしょうか。
前者のライフサイクルコストが有人機のそれやパイロットの育成等予算75%減で十分にお釣りがくるなら成立する話だと思います。
同じなのは予算で、戦力を拡充できるって話では。
これってメンテ費用入っているのかね?
導入コストだけで言ってそう・・・
どういう想定で戦力比を算出しているのか分らんが、とりあえず対地攻撃想定での雑な考察というか数合わせが思い浮かんだので書いとく
8機のタイフーンに、それぞれ12発づつブリムストーン or SPEAR3を搭載(計96発)した状態を、
2機のタイフーンを指令機として、10機の無人戦闘機が100機のカミカゼドローンを運ぶ状態へと置き換える、というような想定だろうか?
とはいえ、いくらAI技術が進歩しようが直近10年程度では、1人の人間が10機100機の無人機をコントロールなんてムリゲーではと
1人の人間が1機の最新戦闘機を操縦する現状でも、既に手足が足らない状態だとというのに。ガチでニュータイプが必要になるだろうと
アメリカや中国で行われてるドローンライトショーなんかでは地上のPC1台で数百〜千機以上の民生用小型ドローンを群制御して物体を形作るとこまでいってるから、別に不可能ではないでしょ
地上攻撃のアルゴリズムを組み込んだソフトウェアが開発されれば
まぁ戦闘機随伴の場合はどういう形での制御になるのかよくわからないので何とも言えませんね。臨機応変の対応が必要な戦場での制御の難しさは、ショーでの制御とは次元が違いますから。
そんなのやりようは何とでもあるでしょう。
簡単にできそうなとこでは、100機のドローンは「【滞】空地雷(兼鳴子)」として指定空域高高度に待機してるだけ、
各5機の無人戦闘機は主にセンサー機として親機の周囲に文字通り「機械的」に随伴するだけ、
攻撃は親機から指示があった時のみ、なら
何ら難しい制御でないし、その程度でも戦力として十分足しにはなるし、
100機のファンネルを有人機パイロットがサイコミュで操作してオールレンジ攻撃させるよりは現実的でしょう。
当然、プロが真面目に考えれば現状の技術でも、もっと実用的かつ実戦的な運用をいくらでも考案できるかと。
F-35Bにチーミング可能な無人機ってどんな機体になるんだろう?
打ち上げてパラシュート回収?
親機と同等の巡航速度と戦闘行動半径がないと使い勝手が悪いだろうな。
そこそこの大きさになりそうなので滑走路発着じゃない?
>無人戦闘機も国際的なパートナーを受け入れる
この計画にSUBARUを参加させて、その後独自の無人機を作るのがベストかもしれないな。
>興味深いのはテンペストと同様に無人戦闘機も国際的なパートナーを受け入れると主張している点だ。
他所が開発したものを金を払って使うだけというのは面白くないから日本はここに合流したらいいのに
日本は独自開発したってF-35に統合できないんだし、F-35と統合できる随伴戦闘機に唾をつけれる最後のチャンスに思える
自衛隊は欧米と比較して相対的に無人化技術の活用が遅れているから英国の取り組みが成功すると困る事になるので否定したい気持ちは分かるけど、明確ビジョンの元にテクノロジーの進化を積極的に取り入れようと努力する姿勢は素晴らしいと思うよ。
どんなに否定しても無人化技術は軍事的にも商業的にもパラダイムシフトになる可能性が高いんだから自衛隊も無人機だけじゃ無くて組織の効率化にも無人化技術を積極的に取り入れる事を検討した方がいんじゃないの?
というか普通に取り入れるでしょ。
F3はともかくF35の連携無人機については購入でもいいんじゃない?
普通に取り入れるって具体的に無人機以外にどんな無人化技術を取り入れて組織の効率化を図ってるの?
そしてF-3と同時期に随伴戦闘機も投入して導入・運用コストがさらに右肩上がりに現場の手間も煩雑になる未来が見える
じゃあやめる?
2人のパイロットで無人機10機、ドローン100台の管制なんて無理じゃないか?
だったら大型機で強力なレーダと電子機器を積んでやった方がいいんじゃない?
当然目標の指示だけで自律制御で作動するんだろ
確かに役割は早期警戒管制機でいいよな
早期警戒機はロシアや中国の射程が長い空対空ミサイルに狙われるから無人機にセンサーを搭載して分散化させる方向にシフトしてるよ
無人戦闘機は「自律的に作動」小型ドローンは「群制御に対応」と言ってるので
前者は事前の行動命令に対し搭載AIでの自律制御、後者は基準機の行動に群として自動対応する制御じゃないですかね。
無人機の管制員を乗せた複座型ステルス戦闘機なんてのは出てくるんでしょうかね
F-35よりは大型になりそうな感じですけど
戦場のネットワーク化が実現すれば有人機が無人機を管制する必要性すら無くなるけどね
日本ではほとんどやってないけど海外のドローンショー見てると数台のパソコンで千機のドローンを制御できるところまで技術が進歩してるからな
まぁショーレベルだし正直技術の進歩?という気がするが。レベル的には全然違う話だよ。
なんか悟った様なことを言ってるけど…それを各国が研究して実現しようとしてるんでしょうよ。
ずっと指を咥えて見てれば?W
無人機は技能維持のための訓練がいらないからいいね
自衛隊パイロットの年間飛行時間がどのくらいかは知らないけど一人当たり数億/年はかかってるだろう
機体の消耗も抑えられるしいいことづくめ
ただ完全な無人機の編隊ってのはまだまだ先の話だろう
指揮する人間は必要だ