欧州関連

崩壊が止まらないドイツ軍、最低飛行訓練時間すら満たせないパイロット続出

英国のThe Daily Telegraphによれば、ドイツ空軍は昨年、NATOが定めたパイロットの「最低訓練時間」すらクリアーできなかったと報じている。

参考:German air force unable to train pilots because of shortage of planes

ドイツ政府の役人や政治家の頭の中は「空っぽ」なのかもしれない

ドイツ空軍のパイロットは、NATOが定めた年間最低訓練時間(180時間)をクリアする必要があるが、昨年、875人のパイロットの内、363人がこの基準をクリア出来ていないことをドイツ政府が認めた。

訓練時間の不足の原因は、訓練を行うための航空機が不足しているためだ。

今年2月に提出された報告書によれば、昨年、ドイツ空軍のタイフーンは128機のうち39機、トーネードは93機のうち26機しか運用が出来ない状態で、残りの機体は地上から離れることが出来ず、これは主にスペアパーツの供給不足が原因らしい。

この数字は昨年の平均稼働率を示す数字で、ドイツ空軍のタイフーンとトーネードの平均稼働率は約30%ということになり、米軍で稼働率が低いと問題になっているF-35ですら、60%から70%の稼働率を確保しているのと比べると、どれだけドイツ空軍の戦闘機稼働率が低いのかよく分かる。

出典:Public Domain ドイツ空軍のトーネード IDS

詳しい資料が見つからないため断言は出来ないが、平均稼働率約30%という数字は、恐らくフルミッション(全ての任務に対応可能状態)ではないと思われ、ドイツ空軍機のフルミッション達成率はもっと低い可能性がありそうだ。

ドイツ議会が独自に設置した軍の監視機関の報告によれば、昨年、ドイツ軍全体でスペアパーツ不足は深刻なレベルであり、そのためドイツ軍がNATOの義務を果たすことは出来ないだろうと警告している。

この問題を解決するためには、ドイツ軍の構造的な問題の解決も必要だが、もっとも手っ取り早いのは予算を増額してしまえばいいのだが、現実はそれとは真逆の方向に進んでいる。

補足:ドイツ軍の構造的な問題とは、とにかく非効率な管理体制が最大の問題で「全てについて時間がかかり過ぎ、そうして時間を浪費している内に費用が上昇して予算を圧迫し、また書類を書き直すところから始めなければならない」らしく、冷戦終結後に行ったドイツ軍の縮小と、最近の人手不足の問題により、2万1500個もの士官ポストを埋める人材が不足し、ドイツ軍は組織として機能不全を起こしている。

メリケル首相の後継者と目される、アンネグレット・クランプカレンバウアー氏はドイツの国防費の増額(GDP比2.0%)を主張しているにも関わらず、2017年以降、連立政権を組むキリスト教民主・社会同盟と、ドイツ社会民主党は最近、現在の国防費(GDP比1.3%)を増やすのではなく、減らす後方にシフトしGDP比「1.24%」という国防費を設定した。

ドイツの政治家達は、ドイツ軍の悲惨な状況を知っているにも関わらず国防費を削減するというのだ。

結局、予算不足でスペアパーツ不足や、装備品の調達に苦労しているドイツ軍の状況は、今後改善するのではなく、ますます状況が悪化していく事が予想される。

ドイツ空軍のパイロットは、訓練することが出来ない状況に不満を抱いており、昨年、少なくない数のパイロットが軍を去っていった。

スペアパーツ不足に苦しむのは空軍だけではなく、陸軍も海軍も状況は一緒だ。

ドイツ海軍のある士官は「艦が故障し、修理に持っていっても、倉庫にスペアパーツなどなく、もちろん補充されることもないので、常に空っぽだ」とこの状況を嘆いている。

もしかしたらドイツ政府の役人や政治家の頭の中も「空っぽ」なのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 8月 07日

    平和は備え警戒してこそ享受できるもの
    ドイツも日本もいずれひどい目に合う

    1
    • 匿名
    • 2019年 8月 07日

    まともに運営する気がないというか…これも平和ボケの症例なのでしょう。しかしながら現代で軍事技術が最先端技術の重要な牽引役の1つを担っているのは間違いありませんから、このままドイツが軍事離れを進めるのなら、工業国の国力そのものが弱まるでしょう。

    1
      • 匿名
      • 2019年 8月 07日

      ロシアの驚異ははるか東に去り、経済は好調、おまけにEUのせいで為替も高くならない。ついでに内需で食ってる防衛産業もなし。
      確かに国防に金を回す気にはならないかも。

      政治家としては変に投資して周囲の国から顰蹙を買うよりは減税して選挙に買った方がいいんでしょうね。
      日本とは環境が違いすぎて羨ましい限りです。

      1
    • 匿名
    • 2019年 8月 07日

    ドイツは3年連続で経常黒字世界1位、2018年度は2位日本の1.6倍の黒字なのに。
    再三EUが内需喚起に黒字分を割り当てるように勧告しても、殆ど福祉と減税に差し向けている様子。
    クソ儲かってる割に聞こえてくるのはドイツ銀行危機や軍の体たらく、移民の狼藉など暗い話ばかり。
    一体どうなってるのやら。

    1
      • 匿名
      • 2019年 8月 09日

      >再三EUが内需喚起に黒字分を割り当てるように勧告しても、殆ど福祉と減税に差し向けている様子。

      国として政治家として至極当然の行為だと思いますが?
      「内需拡大」なる甘言で大企業だけに税金垂れ流すより、直接庶民の負担を減らす事の方が万倍も大事。

      ましてや「いい年したガキのオモチャ遊び」の為に軍事費増額とか、以ての外!

      1
    • 匿名
    • 2019年 8月 07日

    ドイツも日本も、敗戦国として分割されたり占領されたり、そこで敗戦国としての教育をされたりした結果、敗戦国であることを良いように解釈してる節があるのよな
    ナチスは悪い、日帝は悪い、だから僕たちは軍事力持ちませーん、アメリカ様守ってー、と。それでよかった時代はもう終わってるのに未だにそう思ってる
    他の国が軍備に差し向けていたものを別のとこに充てて発展したのだから、今となっては先進国として国民と国土を自ら守るべきなのに

    2
      • 匿名
      • 2019年 8月 09日

      だったらアナタが率先して志願兵になったら?
      自分はキツい汚い命に関わる兵士なんてやりたくない癖に、上から目線で尤もらしい事ばかり言うのは正直みっともないですよ。

        • トイプー
        • 2019年 10月 09日

        あなたは何者?偉そうに。
        上の方は間違ってはいない。
        なんでも自分は正しい様な、
        上から目線はあなたでは?
        誰も戦争賛美なんかしていません。
        でも近くのお国はこちらを敵視してますよ。
        子供達に半日教育してますよ。

        1
        • 匿名
        • 2020年 5月 06日

        人それぞれ役割分担というものがあり、自分に適した仕事をすればいいのです。

        国防は、全国民の課題なのだから納税者として口を出す権利はある。

        「素人は引っ込んでろ」というのはおかしい。

        1
    •  
    • 2019年 8月 07日

    ドイツの軍事費は別に減っては無く、日本と同じ様に横ばいである
    そして2018年500億ドルと、日本とほぼ同じ水準である
    しかも兵員は18万人と自衛隊の22.5万人より少ない
    どこかにボトルネックがあるのだろうが、一体どこなんだろうねえ

    • 匿名
    • 2019年 8月 08日

    ドイツ軍は人件費が高すぎなんです。
    おのずと装備にお金を掛けれなくパーツさえも買えない状態なので予算を増やさないと益々機能しなくなるでしょうね
    装備や訓練に回す為に兵のリストラが始まるのではないでしょうか?
    どっちにしろドイツ軍はお先真っ暗

    1
    • 匿名
    • 2019年 8月 09日

    「最低訓練時間をクリア出来ない」という事は、自国兵士を無闇に危険な戦地へ送られる可能性が無くなると言う事。
    日本もドイツを見習って軍事費をもっと減らし、行きたくもない海外派兵を防ぐべきだわ
    ぶっちゃけ訓練なんかゼロで良いし自衛隊員もゼロで良い

      •  
      • 2019年 8月 09日

      ゼロはお前の存在と頭の容量

      3
    • 匿名
    • 2019年 8月 15日

    ドイツの政権を日本におきかえると福島瑞穂が長期政権を取るとこうなるという感じだな

    2
    • 匿名
    • 2019年 9月 18日

    EUが今後100年安泰なら軍は解体しても良さそうだけどそうでも無さそうだからなー

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