ドイツ空軍総監のインゴ・ゲアハルツ中将は欧州で開発が進められている2つの次世代戦闘機システム群(第6世代戦闘機や無人機などで構成されたファミリーシステムのこと)について「最終的に統合されるべきだと」と主張して注目を集めている。
参考:Will the FCAS and Tempest jet programs merge? Germany’s top Air Force officer hopes so.
最終的にドイツはプログラム参加国の自由な改造を認めるテンペストプログラムに参加していても不思議ではない
欧州では現在、第6世代戦闘機と目される有人戦闘機(NGF)、エア・チーミング可能な無人戦闘機や使い捨ての無人機、同機が搭載する新しい兵器等で構成されたファミリーシステムをフランス、ドイツ、スペインと英国が競うように開発を進めているのだが、ドイツ空軍総監のインゴ・ゲアハルツ中将は「このまま行けば相互運用性の問題に直面したタイフーンやラファールの二の舞になる」と指摘して両プログラムは最終的に統合されるべきだと語った。
かつて欧州のNATO加盟国は戦闘機を共同開発することで完全な相互運用性の実現を夢見たが要求要件の食い違いからフランスが離脱、さらに残された国で開発したタイフーンも各開発国が独自の構成やシステムを開発して採用したため完全な相互運用性という理想からはかけ離れたものになっている。
その代表例がタイフーンのアップグレード向けに開発されたAESAレーダー「Captor-E」だ。
タイフーン向けのレーダーの開発はブルーヴィクセン・レーダー(シーハリアーFA.2向けに研究されていた技術)をベースにした英国案と米国製のAN/APG-65をベースにした西ドイツ案が対立、イタリアやスペインが英国案支持に回って決着したかに見えたが、この結果はブルーヴィクセン・レーダーの開発元が介入した結果だとAN/APG-65の開発元であるヒューズ(現レイセオン)が訴えて訴訟問題に発展、さらに欧州では同時期にレーダー等の電子機器を開発する企業の合併が進み最終的にイタリアのレオナルドに吸収されてしまう。
一応、タイフーン向けのレーダーはユーロレーダーを中心に開発を進める体裁をとっているものの実際はレオナルドが中心的な役割を果たしており、同社が新たに開発したCaptor-E(現在はCaptor-E/MK.0)を各国が採用すればNATOのタイフーンは一定の相互運用性は確保できるのだがイタリアはCaptor-Eへのアップグレード計画がなく、ドイツとスペインは独自機能を盛り込んだ「Captor-E/MK.1」を英国に至ってはMK.0に実装されていない高度な電子攻撃能力と安全なデータリンクモードを備えた「Captor-E/MK.2」を開発中だ。
補足:Captor-E/MK.0、MK.1、MK.2という名称は正式なものではなく欧州メディアが各国のCaptor-E開発を区別するためにつけた「仮称」なので今後変更される可能性がある。
つまり各国のタイフーンは外見のみ共通性を保っているものの、ミッション遂行に重要な役割を果たすアビオニクスの特性が完全に異なるためNATOによる統一運用が困難になるという問題に直面している。
このような失敗を踏まえてゲアハルツ中将は「2つの計画は統合すべきでシステムの付加価値を高めるためには共通性を保つことが重要だ」と説いており、同氏は英国側の担当者にプログラム統合への働きかけを実際に行っていると明かして注目を集めているのだが、FCASプログラムを主導する立場のエアバスも昨年「あのサイズのシステムを英国と欧州が競い合うように開発しても市場規模が小さく十分な量を販売することも購入することも不可能で、ユーロファイター、ラファール、グリペンを並行開発した過去の過ちは繰り返してはならない」と主張。
テンペストプログラムに参加しているイタリアも今年1月「欧州間で無駄な競争を避け世界市場で高い競争力を備えた次世代戦闘機を開発するためFCASとテンペストが統合さるれ方が望ましい」と公式文書の中で表明するなど「両プログラムの統合に向けた期待感は徐々に高まってきた」と言えるのだが、ドイツはFCASプログラムの相互運用性を自ら破壊する行為に出ているのでゲアハルツ中将の主張はいまいち説得力がない。
フランス、ドイツ、スペインが開発を進めているFCASプログラムは技術に関する知的財産権の帰属問題を乗り越え2027年までにデモンストレーター(技術実証機)を開発することで合意=開発フェーズ1Bへの移行が確定したのだが、3ヶ国で均等に負担するはずの開発コストがドイツだけ多く設定されている。
これはFCASプログラムにドイツ独自の通信機能や多層センサーを統合するための開発コストで、早くもタイフーンのCaptor-Eと同じ症状が出ているという意味だ。
もしかするとゲアハルツ中将はドイツ国内の動きに釘を指すため「共通性を保つことが重要だ」と主張しているのかもしれないが、米国の市場調査会社Teal Groupは「単一の欧州戦闘機を開発する」というコンセプト自体が英国のEU離脱で過去のものになったと見ており、再びタイフーンやラファールの歴史を繰り返すのであれば最終的にドイツはプログラム参加国の自由な改造を認めるテンペストプログラムに参加していても不思議ではないと述べているのが興味深い。
関連記事:フランス、2027年までに次世代戦闘機の技術実証機開発で3ヶ国合意と正式発表
関連記事:イタリア、第6世代戦闘機「テンペスト」開発に関する3ヶ国間協定に署名
関連記事:経済的に無理、英国と欧州の次世代戦闘機プログラム統合を訴えるエアバス
関連記事:電子攻撃能力はF-35級? Captor-E MK.2に換装予定の英空軍タイフーン
関連記事:ドイツ、2023年迄に戦闘機タイフーンのレーダーを「Captor-E」に換装
関連記事:米国、積極的に同盟国の次世代戦闘機開発に協力して相互運用性を確保すべき
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※アイキャッチ画像の出典:Airbus
FCAS側で参加国一つ増えただけであれだけ揉めたのに、ここでさらに統合の流れになったら荒れに荒れて、結局別れるはめになってかえって完成が遠くなりそうでな。一部だけ協力が互いのためだろうけど。
壊し屋本人が協調を語るのか
艦載機という譲れない機能を欲するフランスはまあ仕方ないとして、むしろドイツが欧州から抜けたほうが円満に開発できるんじゃないの?
ドイツは長年EUの中でも経済的・軍事的においしい思いをしてきたから今更脱退なんてしたら他のEU加盟国がそれまでのツケ払わせようとするのが目に見えているし無理じゃね
FCASが空中分解するのは予定調和、我の強すぎる国が平等の意見を出せるわけがない。
イギリスはF-3のエンジン開発に協力するし、イギリスでは開発が困難なAESAも日本のハイパワーAESAの方が遥かに優れているしマーチンベーカーの射出酒機なども絡んでなし崩し的にテンペストがF-3に吸収され一本化する。
イギリスにとってもテンペストより確実で安く高性能な第六世代機が手に入ることになるし、ライセンス生産でFCAS計画国に販売できるかもしれない、文句の出るはずがない。
イギリスが新鋭機を持つのに独仏伊が低性能な4世代機で我慢できるはずがない、でイギリス大勝利。
アメリカも開発費が出せないからF-3以上の戦闘機は開発できずライセンス生産する可能性もある、要素技術の開発状況からみれば、以前予言した通り西側の空はF-3が支配することになるだろう。
10年後、どの国の戦闘機が空を支配してるのかが楽しみでしょうがない。
また過剰持ち上げの釣りコメしてるよ
一応確認するけど、釣りだよな
信者を装うタイプの釣りコメだよ
いつもの奴だよ
F3は単価200億以上になる見込みなのにイギリスが装備できるわけないやんけ
夢と願望に溢れててんなー
黒歴史確定だがw
書いた本人が書いてそう
イギリス側で一緒にやろうって話が一切出てないってことはFCASの方は相当うまく行ってないんだな
疫病神だな
タイフーン開発での混乱の張本人がこれを語るのか
ドイツは面の皮厚すぎるだろ
タイフーン以外でも米国とのMBT共同開発とか・・・艦載レーダーの共同開発とか・・・ドイツが絡むと大体上手く行ってない。
テンペスト参加国は日米との連携に舵を切ったからね
FCASは独自仕様に突き進むのかな?
欧州メーカーがそれぞれの分野で独自性・優越性・主導権を握ろうと競合してるんだから、その利権構造が解消されないと次世代欧州統合戦闘機の実現は夢のまた夢。
理想的最善策が非現実的な以上、それぞれに纏まる方向で動き始めたテンペストとFCAS二本立てで、双方間のデータリンクや搭載兵器共用性での相互運用性を確保するのが次善にして求めうる最善策でしょ。
個人的には開発パートナー国への技術的利益還元と選択の自由を保証したプログラム・テンペストが欧州の実情に鑑みて現実的と思う。
今になって開発計画の一翼を担うはずのドイツから根本的な異論の出るFCASは大丈夫かと。
過去の轍を踏まえたテンペストは合理的なプログラムだと感心します
しかしドイツって国は厄介ですな.
一本化もクソも、イギリスとしては
「なら(スウェーデン同様に)テンペストの成果を
部分活用して自国開発すれば?
途中参加でも金を払うなら技術や部品は供与するよ。
技術は今更要らんけど。
英のテンペストそのものにグダグダ口出してくるなら
お呼びじゃないんでお引き取り下さい」ってなもんじゃないの?
そーゆープロジェクトでしょ?
総論賛成各論反対の具体例ですね
欧州内では比較的調達数が大きくなる英独仏の声がでかくなりがちですが
この三国が絡むどんだけのプロジェクトが空中分解してどんだけのプロジェクトが炎上したっけ・・・
というか三国が全部かかわってるわけじゃないが成功したトーネードやジャギュア、ティーガーヘリが貴重な例外?
>成功したトーネードやジャギュア、ティーガーヘリが貴重な例外?
意外と多いね。
おやおや、おやおやおやおやおやおやおやおやおや
ユーロファイターの愚を繰り返さないために別開発になったのに疫病神が擦り寄ってきたようにしか見えんな
散々もめた後にドイツが抜けてFCASが空中分解、テンペストは後から引っ掻き回されて爆散とかになったら
目も当てられない…
財政・経済の統合なくして軍事面の統合もないけど、結局そこまで統合する覚悟が各国にない。
要求機能の違いもさることながら一番の問題は各国各企業の主導権争いだし
タイフーンとラファールだって艦載機の有無が原因だけど大元の原因はM88を使うか使わないかだからなあ
まさに同床異夢
と言うかNATOやEUが呉越同舟なのが根本的原因か
まーたユーロファイターの愚を繰り返すのって彼らは5年前の事は覚えてられないほど記憶力がないのだから仕方ない。
無駄な統合解散に係る費用で大切な予算が消えていく。
ん、それが狙いか?やるな!
まあ選挙ある度に各国毎のメンツが変わるからしゃーない
過去の知識や決定の継承なんて絵に描いた餅でしかない
FCASが空中分解、3カ国それぞれがテンペストにシレッと合流。
研究が終了し、イザ生産という段階でまた揉めだす。
連合というものは、圧倒的なボスがいないと機能しないらしい。
主導権争いに時間と労力を浪費するから。
おぉ!王道展開やな。
ハハハッ
ドイツはFCASなんてやめて、F-35でも買っとけばとは思う
冗談抜きでそれが一番だろ
開発が成功するかどうかはプロジェクトの仕組云々より、優秀なチーム・開発陣が開発をコントロールできるかどうかが決定的だと思う。
仮にラファールの開発陣がタイフーンの開発を担当していたら、各国の要求仕様が違っていてもソフトの書換えだけで対応できるシステムにするとか(ラファールのアビオの様に)、ハードの変更が必要な場合でもモジュラー構造にして当該パーツだけ2時間で交換できるとか(RBE2 AAへのアップグレードの様に)、各国で違う仕様を問題なく運用できる戦闘機になっていた気がする。
その観点からは技術的に最も目が有りそうなのはドイツ脱退後のFCASだろうと思う。
膨大な予算の動く事業に、政治的思惑と経済まで含みがある話を技術者主導で進められるほど世の中は美しくありません
予算を決めるのは政治家でも、アップグレードをソフトのみで可能にするとかモジュラー構造にするとかは、技術者が構想・実現することです。限られた予算でどれだけ優れたシステムを作れるかも、技術者の才覚に掛っています。
その提案を承認するのは政治家としても、技術者が優れた提案をしなければそれを承認すること自体が不可能です。
そういう問題に収まらないという意味が判んないか(笑)困ったな
ついでに言えば、科学者も技術者も政治に無縁と言うわけではないんだな
>世の中は美しくありません
>そういう問題に収まらないという意味
>無縁と言うわけではないんだな
こういう何処まで行っても具体論書かず「こんなこと書くまでも無い」アピールに終始するコメ(しかも上から目線)は、突いたら結局ハッタリだった例をここのコメ欄だけでも何度も見てきた。正直食傷気味(笑)
ホントに分ってる人なら具体的に要点書いてるよ、思わせぶってる間に。
さて7月20日のエンジンに関する日英協議の結果が楽しみだな、エンジンの共同開発を超えて機体まで一緒に開発することになったらおもしろいんだが。
共同開発じゃなくて「相互開発協力」なら
あっても良いと思うけどね。
ただそれならテンペストに緩く参加するか、
開発支援企業にBAE選んどけって話なんだよなぁ。
ん〜、機体まで一緒だとそれこそFCASと同じ失敗を招きそう.
エンジンの技術提携や、搭載兵器の汎用性・共用性向上程度でよいのではないかな.
ホントに期待したいのは、随伴無人機の開発協力.
プログラム・テンペストへの日本参加を呼びかけてきたときは、テンペストの技術を流用して日本独自にF-Xを開発して良いよ、てな提案だったかと。開発パートナーに対しては同様の見返りが前提。
イギリスは自分の望む次世代戦闘機システムを低リスク高効率に開発したいんで、パートナー国の要求を盛り込む心算は頭から無いんですよ。
ほっといてもダッソーエアバスサフランの仏企業だけで仕上がる仏さんの大勝利
欧州域内で次期戦闘機の統合化を言うなら英独勢は仏勢に下りしかないだろ
なんつってもラフォールとタイフーンやグリペンでは性能差は歴然でしょうに
だからと言って自国の要望に合わない仕様じゃ意味がない、
故に統合化が不合理だと皆言っているのにドイツ君てばって話
フランスだけで全部揃うのは最初から変わらないのにドイツと組みたがり、スペインの合流も拒めなかったんだよなぁ。
貧乏が悪いんですなぁ、すべて
EU内のどこかの国が、中国製の戦闘機を採用する、そんな未来が透けて見えてくるな
ハンガリーは今の政権が続くなら有り得そう
JF-17が事実上の欧州統一機となる日は近いな
「共通設計の兵器を採用して、各国開発の場合に重複してしまう基本部分の開発コストを圧縮しましょう」って話は分かる。でも「欧州の主要国は全く同じ規格化された装備を使わなくてはいけない」は、さすがに非効率だろうことにいい加減気づかないのか…。
4つの海に領海を持ってるけどそのいずれでも敵には接していない国と、敵と地続きの内陸国、旧植民地に頻繁に出張っていかなきゃいけない国のいずれでもそのまま使える兵器なんて、あらゆる状況を想定した運用コストのバカ高い機体になってしまうのは目に見えている。開発コストだけ圧縮しても運用コストで足が出たら意味ないんだけど、共同開発の体裁上は納入後は各国の責任になるので目に見える部分だけ削りたくなるんだろうな。
EUの理念では地域防衛も共同作業なので、各国の軍隊が混在して任務にあたれることが理想なのは理解できるけど…