欧州関連

戦車から下着まで何もかも不足!ドイツ軍が抱える3つの問題

ドイツ軍の兵士は、ドイツメディアに「不幸」と蔑まれるほど、まともに飛べない航空機やヘリコプター、まともに航行できない艦艇や潜水艦、さらに弾薬から下着まで全ての物資が不足している。

そんな状況にまで、ドイツ軍は、なぜ追い込まれたのか?ドイツメディアの記事を幾つか読んでみると、3つの問題点が見てきた。

自ら歴史問題を理由に国防費増額を否定するドイツ

1つ目は、ドイツ国内における政治的な問題だ。

ドイツの政権与党のドイツキリスト教民主同盟は、国防費を、NATOが掲げるGDP比2%とまでは行かなくても、現状の1.2%台を2024年までに1.5%まで引き上げる事を主張しているが、最大野党の社会民主党は、GDP比2%はもちろん、1.5%引き上げですら断固反対の立場だ。

社会民主党は、そもそもGDP比2%も国防費に費やすこと自体が間違っていると主張し、この数値は、米国のトランプ大統領が無理矢理、NATO加盟国に押し付けた目標であって、誰も望んでいないと言っている。

しかも、ドイツがGDP比2%もの国防費を支出すれば、年間約800億ユーロ(約9兆8000億円)規模になり、欧州で最大の国防予算を持つことになる。

Attribution: Weinrother, Carl / CC BY-SA 3.0 DE 第二次大戦中のベルリンの戦い

これはドイツの歴史、特に2つの世界大戦の結果を考慮すると問題で、さらに国防予算の増加は、眠っている軍国主義者や、帝国主義者の再び目覚めさせることに繋がるというのが社会民主党の主張だ。

このような主張を後押しするのが、ドイツ世論だ。

ドイツの世論調査の結果、ドイツは国際的な問題や紛争への関与から手を引くべきといういう意見に、回答者の52%が賛成している。同じく、国防費の増加に賛成は32%にとどまり、現状維持、もしくは国防費の削減に、回答者の64%が賛成している。

2014年に、ロシアによるクリミア併合が発生し、ドイツを除く、欧州全体が新生ロシアの脅威に怯え、国防費を増加させているにもかかわらず、ドイツは、必ずしも問題の解決手段が軍事対応ではないと考え、目の前の事態を他人事として事態を捉えているふしがある。

領土防衛という概念自体が消えて無くなるほど平和ボケのドイツ

2つ目は、ドイツ人の安保に対する考え方の問題だ。

冷戦時代とは異なり、ロシア(冷戦時代はソ連)の脅威を直接受けるのは、ドイツから遠く離れたウクライナや、ポーランド、バルト三国であって、ドイツ自体はロシア、もしくはロシア勢力下の国と隣接していない。

そのため領土防衛という概念自体が、10年ぶりに刊行した2016年国防白書にようやく復活したほど、安保意識が低い。

出典:Public Domain

例え、領土防衛という概念が復活しても、上記のように潜在的な敵国と接している訳ではないので、これまで通り、NATOを中心とした集団防衛が主な活動になる。

再統一後にドイツは1994年、湾岸戦争への人的参加を見送り、国際的に大きな批判を受けたことがトラウマになっているせいか、NATOやEUを通じた、国連平和維持活動への参加にだけは積極的だ。

2018年7月時点の数値だが、約1200人のドイツ軍兵士がアフガニスタンへ派遣され、約1000人以上がマリへ派遣されている。

ドイツ人が考える安保とは、乱暴に言ってしまえば、過去の歴史を理由に必要最小限の国防費で、NATOという集団防衛システムに参加し国を維持することを意味する。

出典:Public Domain ドイツ空軍のトーネード IDS

ドイツはNATOを通じて、ロシアの脅威を受ける欧州の最前線へ、NATOの一員として不完全なドイツ軍地上部隊を派遣し、NATO加盟国としてニュークリア・シェアリングの義務を果たすため、トルネードを何とか維持し、海軍は、もはや不要と言わんばかりに組織の縮小し、国防費を可能な限り削減し、国内政策や、失業保険の財源へ予算を回すことしか頭にない。

ニュークリア・シェアリングとは:
核兵器の共有という北大西洋条約機構(NATO)の核抑止における政策上の概念である。NATOが核兵器を行使する際、独自の核兵器をもたない加盟国が計画に参加すること、および、特に、加盟国が自国内において核兵器を使用するために自国の軍隊を提供することが含まれている。

もはや、ドイツ軍は国際的な立場を守るためのPKO派遣要員であり、またNATO加盟を維持する最低限の能力しか持っていない組織で、万が一の危機=戦争に、まともに備えているとは言い難い。

トランプ大統領は「ドイツが真剣にNATOの一員として、欧州の安全保障を考えているのか疑問」と言っているのは、このようなドイツの姿勢のためだ。

アレも、コレもない、ないない尽くしのドイツ軍

3つ目は、非効率すぎる組織の機能不全問題だ。

まともに飛べない航空機やヘリコプター、まともに航行できない艦艇や潜水艦、さらに弾薬から下着まで全ての物資が不足しているドイツ軍の兵士は「不幸」とまで、ドイツメディアに言われている。

ドイツの国防費は452億ドル(兵員約20万人)で、日本の440億ドル(兵員約31万人)と比べても遜色がない。

それなのに、何故ここまで状況が酷いのか?

出典:Public Domain

あくまでも、ドイツの報道で言っている事を、そのまま書くと、とにかく非効率な管理体制が最大の問題で、「全てについて時間がかかり過ぎ、そうして時間を浪費している内に費用が上昇して予算を圧迫し、また書類を書き直すところから始めなければならない」らしい。

抽象的な表現なので、当事者でない日本人にとって理解しにくい部分もあるが、恐らく、冷戦が終結し、当時のソ連の脅威が目前から遠ざかったため、軍に危機感がなくなり、何もかもがお役所仕事になっている可能性がある。さらに冷戦終結後に行ったドイツ軍の縮小と、最近の人手不足問題で、2万1500もの士官ポストを埋める人材が不足し、組織として機能不全を起こしている。

その機能不全を起こしているドイツ軍を、さらに窮地へ追い込んでいるのが、国際的な立場を守るため、積極的に行っているPKO派遣だ。

出典:Public Domain ボスニアヘルツェゴビナへ派遣されたドイツ軍

予算も装備も人員も足りないのに、去年時点で、2000人を超える実戦部隊を海外へ派遣しているため、そのしわ寄せは、国内に残留している部隊へ襲いかかる。当然、海外へ送る部隊なので、足りていない人員から装備、物資を、他の部隊が保有する分を奪ってでも、かかき集めて持っていくだろう。

そうなれば、国内の部隊は、さらに人員や装備、物資が不足する。

国内部隊の悲惨さは過去の記事でも取り上げたが、NATO即応部隊(NRF:NATO Response Force)の一部で、即応部隊の先導的役割を果たすため、2014年に設立されたVJTF(高高度即応統合任務部隊:Very High Readiness Joint Task Force)の基盤戦力である、ドイツ陸軍第1装甲師団隷下の第9装甲教導旅団(2700人)は、最高の準備状態を維持しているはずだが実際には最低の状態だ。

第9装甲教導旅団に44輌配備されるはずの「レオパルド2」戦車が、たったの9輌しかなく、14輌配備されるはずのマルダー歩兵戦闘車が、たったの3輌しか配備されていない。

さらに第9装甲教導旅団には、戦闘車両を維持するためのスペアパーツが欠如し、暗視装置や擲弾発射器などの戦闘装備、防寒服や防護ベストなどの基本装備すら欠けている。

恐らく、下着も足りていないのではないか?(皮肉)

歴史の殻に閉じ籠もって出てこない、ニート化したドイツ

ここまで来ると、ドイツ軍の問題は、金さえあれば解決する問題ではないような気がする。

安保を何十年も集団防衛体制のNATOに預けてきた=考えることを止めたため、国民も、軍も、国も、みな平和ボケしたのだろう。

出典:pixabay ブランデンブルク門

さらに国民を平和ボケに突き落とした最大の決定打は、2011年の徴兵制廃止だ。

徴兵制の廃止は、国に対する危機の可能性が低下したことを、最大級に印象づけてしまう。その上、国自体が国防・安保に真剣に取り組んでいないのだから、徴兵制廃止後の一般志願に人が集まるわけがない。

現在のドイツ軍は人手不足で、2018年に加わった新兵の数は、ドイツ連邦軍始まって以来、史上最低の数字だった。

そのため、ドイツ在住のポーランド人、ルーマニア人、イタリア人の新兵採用を検討しているらしい。

ドイツの目は一体、いつになれば覚めるのか?

それとも過去の歴史という殻に閉じこもって、一生出てこないつもりなのか?

 

※アイキャッチ画像の出典:pixabay アフガニスタンへ派遣されたドイツ軍

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 5月 20日

    仮に安全保障予算を大幅増額したとしても、揃えられるのは物品であり、運用する人間の育成には途方もない時間と労力がかかる。
    そう考えると、ドイツ軍の抱えている問題は深刻なんて言葉では、生ぬるいのかもしれない。

    3
    • 匿名
    • 2019年 5月 20日

    3つ目の問題が一番大きいのでは? って思います。
    ドイツって防衛以外でも大型プロジェクトの失敗が連続してる、巨視的な、大所から見るって事が出来てないようにも見える。
     ドイツの中国問題への対応も独特、政府としてはフェーアウェイの採用を禁止しないみたい。確かにドイツは中国へのIP輸出も盛んだけど・・・

    4つ目の問題
    教条主義(こうあらねばならないって考え方、ドイツ人の性格、あるいは国民性と言っても良いかな?)

    3
      • 匿名
      • 2019年 5月 20日

      オランダでファーウェイのデバイスからバックドアが発見された、EUは尻に火が付く状態になる。

      1
    • とくめい
    • 2019年 5月 20日

    左翼政権に国政を任せたらどうなるか。
    韓国はいいシミュレーションになってたけど、ドイツも実験場になってたとは。
    現代のドイツは韓国以上に日本の安全保障に関係薄いから興味深く見てられる。

    2
    • 匿名
    • 2019年 5月 20日

    このような事態になっても、クーデターすら起きない。
    そこに、この国の病の深刻さがうかがえる。

    2
      • a
      • 2019年 5月 20日

      ドイツの国軍兵士がガウク前大統領ら暗殺計画か 極右思想の3人逮捕、難民政策に反発
      rink
      憂国の士みたいなのは居たりする
      本格的に景気が悪くなればもっと荒れるだろうね

      3
    • 匿名
    • 2019年 5月 21日

    みんな勘違いしてるけど、平和的国家の姿勢としてはドイツの方針は正しい
    日本もいい加減防衛費なんて無くして社会福祉の為に血税を使うべきだわ
    武器なんて買ったって子供部屋おじさんのミリヲタが喜ぶだけ

    1
      • 匿名
      • 2019年 5月 21日

      よしドイツを見習って、

      ・国防費をGDP比1.5%に増やそう
      ・自衛隊なんて偽善的な名称は止めて国防軍にしよう
      ・武器輸出を大々的に行おう
      ・海外派兵もどんどんやろう

      何とかの一つ覚えの連中の小さい脳ミソじゃ、
      とにかくドイツを見習えば良いんだろ?

      5
      • 匿名
      • 2019年 5月 21日

      徴税などに依存することなく通貨発行や信用創造で簡単に日本円を生み出すことが出来る日本政府は、
      ドイツとは違い政府の支出にピリピリする必要はありません。気にすべきなのは、デフレと高インフレだけです。
      そして防衛分野であろうと政府の支出は誰かの所得になりますので、
      それらを減らすということは誰かを貧しくしデフレ圧力を高めるということになります。
      そして軍事力のない国は通貨発行権や政府の予算編成の自由の維持なども難しくなります。

      3
      • 匿名
      • 2019年 7月 10日

      結局のところ政府の支出は全て人件費も何かの購入費とかもどこかの企業(その社員)の取得になるのでそのお金で個人が物を買ったりすればその金は更に誰かの取得になって…と言うふうに社会に政府の予算が回ってることになる。つまり税金をどう使おうと社会の景気を良くすることにつながるので防衛費に回そうが社会福祉費に回そうが問題ない。
      そして今の日本の安全保障環境を鑑みるに今の防衛費でも足りないくらいだと思う。
      あと、軍隊を無くすとIS等の国の軍隊ではない武装組織に国を乗っ取られる可能性が有るので、あまりにも現実的では無い。
      更に言うと軍事力はそのままプレゼンスにつながるので、軍事力が無い国はどの国にも相手にされなくなる。

      3
      • 匿名
      • 2020年 9月 21日

      おい平和ボケ。 じゃあお前はミサイルが翔んできたらどうやってこの国護るんだ? 杖と車椅子で撃ち落とすのか?

      6
    •  
    • 2019年 5月 21日

    これは記事の翻訳じゃなくて、御自分で集められた情報を元に組み立てられた文章なのでしょうか?
    日本の事情が出てきたりするので、おそらく後者なんでしょうね。
    ありのままの感想ですが、大したものですね。何か上から目線みたいな言い方になって恐縮ですが。

    1
    • 匿名
    • 2019年 9月 09日

    ドイツはもう手遅れ

    3
    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    吉幾三かな?

    服がねぇ!人がいねぇ!戦車もそれほど走ってねぇ!
    予算がねぇ!弾もねぇ!EF2000がうごがねぇ!

    ってか?

    3
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