欧州関連

ドイツ政府、ウクライナからKEPD350提供に関する要請を受け取る

英国はウクライナの要請に応えてストーム・シャドウの提供に踏み切ったが、Spiegel誌は26日「ウクライナが正式にKEPD350(ストーム・シャドウに相当する巡航ミサイル)の提供をドイツ政府に要請してきた」と報じている。

参考:Ukraine will Taurus-Marschflugkörper von Deutschland

ピストリウス国防相は慎重な立場を崩しておらず、ウクライナの正式要請に応じるのかなどは不明

西側諸国はウクライナの要求に応えて155mm榴弾砲・自走砲を提供、さらに遠くの目標を精密攻撃可能なHIMARS(最大射程80km前後)の提供にも応じて戦いの流れを変えることに成功したが、ロシア軍も兵站を再構築(大規模な物資集積拠点や司令部などを後方に移動)してきたためHIMARSの影響力は相対的に低下、さらにHIMARSによる精密攻撃はロシア軍のGPS妨害によって効果も低下(対応が続いているので無力化されたという意味ではない)しており、ウクライナ側は戦場環境の変化に伴い敵兵站への有効打を失いつつある。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. William Chockey

そのためウクライナは「さらに遠くの目標を攻撃可能な長距離攻撃兵器を提供してほしい」と要請してきたが、これ以上の射程をもつ兵器は「クリミアに直接届く」という理由で長らく実現してこなったものの、英国がストーム・シャドウ(推定射程560km/輸出バージョンは300km)提供に踏み切り、すでにルハンシクの兵站攻撃に使用されているのが確認され、フランスのマクロン大統領も「ウクライナがロシアに抵抗できる射程のミサイルを送る」と述べた。

ただマクロン大統領は「SCALP-EG(ストーム・シャドウの仏バージョン)を送る」とは明言しておらず、仏政府も「まだロシアに抵抗できる射程のミサイル提供は决定されていない」と説明し、フランスがSCALP-EGの提供に踏み切ったのかは不明だが、今度は「ウクライナが正式にKEPD350(ストーム・シャドウに相当する巡航ミサイル)の提供をドイツ政府に要請してきた」と独メディアが報じている。

出典:Public Domain

ドイツ国内では野党が「KEPD350のウクライナ提供」を支持しているものの、ピストリウス国防相は慎重な立場を崩しておらず、ウクライナの正式要請に応じるのかなどは不明だが、この手の兵器は備蓄量も生産量も限られているため、フランスとドイツも長距離攻撃兵器の供給(実際には備蓄の取り崩し)に加わる方が望ましい。

因みに英国はストーム・シャドウを推定800発~1,000発、フランスはSCALP-EGは500発ほど保有していると推定され、Spiegel誌も「10年前にドイツ軍は約600発のKEPD350を調達して内150発が現在でも運用されている」と指摘、長距離攻撃兵器の供給に加わっていない米国のATACMSも備蓄量は決して多くはない。

出典:Photo by John Hamilton

ATACMSの総生産数は推定4,000発程度で、この数字には同盟国やパートナー国への販売(トルコ、ギリシャ、韓国、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、ポーランド)も含まれ、米軍は湾岸戦争とイラク戦争で約600発のATACMSを消耗し、年間の調達数も100発前後だ。

ストーム・シャドウ/SCALP-EGやKEPD350の製造能力がどの程度なのかは不明だが、この手の兵器は数が少なく直ぐに生産できるものでもないため「提供できる国」の分母が多いことに越したことはない。

関連記事:露メディア、ウクライナ軍はSu-24でストーム・シャドウを運搬している
関連記事:ロシア軍にとって安全地帯のルハンシクで爆発、現場でADM-160の残骸が見つかる
関連記事:英国防相、ロシア人の行動がストーム・シャドウのウクライナ提供を招いた

 

※アイキャッチ画像の出典:Philipp Hayer/CC BY-SA 3.0

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コメント

    • ミリオタの猫
    • 2023年 5月 27日

    これはドイツに対する一種の踏み絵なんでしょうね
    それと各種長距離攻撃兵器の備蓄数を考えると米国やNATO諸国もそろそろ戦時体制への移行を考慮すべきなのでは?
    このままでは史上初めて「米国が補給で敵国に負ける」事になるので、平時体制のままでロシアに勝とう等と思うべきでは無いでしょう(ロシアの戦時体制を考えると、仮にウクライナが負ければ次はバルト三国かポーランドへの御礼参りをプーチンがやる可能性が高い)

    14
      • 2023年 5月 27日

      個人的にはウクライナの防空エリアの縮小に伴うロシア空軍の活動範囲(AAM有効範囲)の拡大に対抗するため、内地から対地攻撃せざるを得ない事情の方が大きそうに思えますね。

      戦時体制に移行と簡単に言いますが、精密兵器に戦時体制の移行プランは構築されてないのではないでしょうか。半導体など簡単に増産出来ませんし…。

      8
        • ミリオタの猫
        • 2023年 5月 27日

        そうなると巡航ミサイルの配備だけでは駄目で(結局ロシア側のSAMに迎撃され得る)、今話題になっているF-16等の戦闘機の供与でロシア空軍にプレッシャーを与え続ける必要も出て来ます
        それとウクライナは欧米からの兵器供給が困難になると詰みますから、精密誘導兵器であっても戦時生産体制への移行を考えなければ話にならなくなります
        要は欧米もロシアを舐めていたツケを今払っているように感じますね

        18
          • 2023年 5月 27日

          防衛サイドが精密兵器を保有する意図は相手の侵略コストを跳ね上げさせて費用対効果から侵略を抑止する事だと判断するに平時の保有数がこそが肝要で戦時体制の考えは無いように思えます
          今回ロシアはコスト度外視で向かってるので生産側が対応出来てないのも仕方ないでしょう

        • 戦略眼
        • 2023年 5月 27日

        どんな半導体を使っているかにもよる。
        特に一般用の半導体でシステムを組んでいると、流通を止められない。

        2
      • あばばばば
      • 2023年 5月 27日

      >>史上初めて「米国が補給で敵国に負ける」
      国共内戦……
      ベトナム戦争……
      アフガニスタン(?)

      5
        • 牛丼チーズ
        • 2023年 5月 27日

        それは「補給で」負けた例ではないのでは?

        12
        • いんむめ
        • 2023年 5月 27日

        ベトナム戦争はアメリカ国内の反戦の世論で国共内戦とアフガニスタンは両国の国防意識の低さからくるものだから違うと思う

        2
      • nachteule
      • 2023年 5月 27日

       流石に最後の話は飛躍しすぎでは?むしろここからウクライナの国土の大半を失いロシアが他国にケンカ売るほどの戦力の確保をどうやるのか道筋が全く見えないんだけど?仮に出来るとしたら中国と北朝鮮が手厚いサポート提供する位しか無いけどその可能性まで含めての話なのか。

       ウクライナが負けるシナリオが有ったとしても個人的には朝鮮半島みたいな介入で緩衝地帯作って休戦させる可能性の方が高いと思う。ウクライナを見捨てたとして貴方が言うシナリオだとNATOを相手にするって話になるけど、ウクライナほど武器制限が無い欧州の国々を相手にする国民が納得する理由は何?
       自分達を苦しめたお礼参りするから、より酷い国の存亡掛けた戦争に付き合えとか無茶振りも良い所だろう。ロシア本土の武器製造工場・石油やガス施設・化学プラント・港湾施設や滑走路や道路を狙わない理由なんて無いし悲惨な未来しかないと思うんだけど。

       ウクライナとの戦争が始まってメジャーな所が取り上げない幾つか新兵器のお披露目は有ったけど、所詮は後追いなりゲームチェンジャーみたいな物じゃ無いし、2年前だったかコストダウンしたT-14の生産が開始とかあったけどそこまでの戦力になるとは思えないしNATOと正面切って戦うにしては性能やコスパに優れた有効な手駒が無いし、兵士の質という点においては最悪の状況。とてもじゃないが数年で侵攻出来るレベルにするには不可能としか。

      4
    • 58式素人
    • 2023年 5月 27日

    半ば思いつきで言いますが。
    古いSSMで使えるものがストックされていないでしょうか。
    ソ連製のSSN-2スティックスや同SSN-3シャドック、フランスの
    エグゾセのようなもの。
    機体が問題なければ、最終のAR誘導をレーザー誘導に換えて。
    レーザー誘導爆弾の弾頭が転用できないでしょうか。
    誘導レーザー照射のために現地に担当者がいないとですが。

    2
    • gepard
    • 2023年 5月 27日

    誘導弾の在庫が尽きればお終いではお粗末すぎるので、少な過ぎる軍需生産の課題を解決しなければならないのだが相変わらず欧州の動きは鈍い印象だ。

    記事とは直接関係ないがザルジニーがギュルザ-M級ボート「ブチャ」の進水式に出席した。
    一連の失踪の理由は不明だが生存が確認された。

    リンク

    7
      • 匿名
      • 2023年 5月 27日

      どうせ、メーカからすれば今の兵器不足が解消され次第また生産ライン縮小の圧を掛けられるに決まってますしね
      それよりも品不足煽って長期に目一杯稼ぐ方が利口でしょうし

    • 戦略眼
    • 2023年 5月 27日

    自衛隊の対艦ミサイルを送っても射程がね。

      • 匿名
      • 2023年 5月 27日

      公開スペックに合わせた射程制限とか必要になるだそうし、まあむずい

    • あばばばば
    • 2023年 5月 27日

    近代兵器の生産能力はかなり高度なものなので、兵器一個を生産するのには機材だけではなく高度な技術を持った人材(旋盤やスライサー、コンピュータを使うにしてもソフトウェアを使う技能を持った人)が不可欠だろう。そういった高度人材は育てるにもお金とコストがかかるものなので、増やせるものではないのではないだろうし、平時の生産体制に見えるが、もうすでに戦時体制の生産なのではないだろうか。

    つまり、どんなに急いでも急には供給数は増やせないし、ウクライナに供給するほうも自分たちの弾薬は最低限確保しなくてはならないので、ウクライナがおねだりしても枯れたスポンジを絞っているようなものではないかと

    6
    • general
    • 2023年 5月 27日

    どこの国も懐事情が厳しいねえ

    4
    • nachteule
    • 2023年 5月 27日

     仮にKEPD350手に入れたとしてどうやって運用するつもりなのかね。イギリス並みのアフターサポート無しに現状手元にあるか手に入る航空機への統合なんて出来るのか。統合されている機体にF-16は無いし、グリペンやユーロファイター提供は望み薄の感じはするんだけど。
     そうなるとタダでさえ消耗しているSu-24に統合するのか将来的にプラスになるとF-16への統合をおねだりするのか2択しかないように思うが、将来的なグリペンかユーロファイター提供の可能性を示してプレッシャーでも掛けているつもりなのか。

    1
      • バーナーキング
      • 2023年 5月 27日

      HARM撃てるMiG-29からなら事前に決めた目標に撃つ事自体はそれほど苦労ないのでは。
      積んで飛んで撃って物理的に大丈夫か、はまた別問題だけどそこはまあ戦時中だし自己責任で頑張れ、としか。

      1
    • 鼻毛
    • 2023年 5月 27日

    >SCALP-EG
    生え際戦線の後退を阻止できそうな名前ですね

    14
      • Whiskey Dick
      • 2023年 5月 29日

      紫電改っていう名前の毛生え薬も存在するよ。

      3
    •  
    • 2023年 5月 30日

    ドイツは何だかんだで提供には応じてきましたからね。国内の検討が終わったら現実的な範囲で提供するんじゃないですかね。ポーランドの大軍拡もあって自国の防衛に対して少しは楽観的になれるのかも。

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