ウクライナ戦況

ドイツ国防省、ウクライナに陸軍在庫からPzH2000×4輌を追加提供

ドイツ国防省は「ウクライナに陸軍在庫からPzH2000×4輌を追加提供する」と19日に発表、これでウクライナ軍が受け取るPzH2000の総数は22輌になる。

参考:Ukraine erhält vier weitere Panzerhaubitzen 2000
参考:Predsednik vlade dr. Robert Golob v telefonskem pogovoru z nemškim kanclerjem Olafom Scholzem o aktualnih zadevah

VULCANO弾の供給量に左右されるが、PzH2000はHIMARSに次ぐ遠距離攻撃の手段としてロシア軍を苦しめるだろう

ウクライナ軍はドイツやオランダが提供したPzH2000の能力を高く評価していると言われており、PzH2000で使用する射程延長弾=VULCANO弾(最大射程70kmでHIMARSに次ぐ遠距離攻撃が可能)の提供にも踏み切っているため、西側諸国が提供した自走砲の中でもPzH2000の価値は非常に高い。

出典:7th Army Training Command from Grafenwoehr, Germany / CC BY 2.0

ウクライナは独自にPzH2000×100輌(17億ユーロ)とRCH155×18輌(2.1億ユーロ)を独KMWから直接購入する予定だが、これらは新規に製造する必要があるため2024年以降にならないと手に入らず、ドイツ国防省も「これ以上は自国の安全保障やNATOの任務に影響が出るので不可能だ=NATO即応部隊やバルト三国に派遣する部隊に支障がでるという意味」と主張して陸軍在庫からのウクライナ支援を拒否していた。

しかしドイツ国防省はランブレヒト国防相の声明を引用して「ウクライナに陸軍在庫からPzH2000を4輌追加で提供する」と19日に発表、これでウクライナ軍が受け取るPzH2000の総数は22輌(ドイツ14輌+オランダ8輌)になり、VULCANO弾の供給量(現時点の供給予定数は255発)に左右されるもののPzH2000はHIMARSに次ぐ遠距離攻撃の手段としてロシア軍を苦しめることになるはずだ。

出典:Leonardo VULCANO 155

因みにランブレヒト国防相は2輌のM270MLRS(MARS-II)追加提供、50輌の歩兵機動車(ディンゴ)提供も言及しており、提供が決まっている防空システム「IRIS-T SLM」も11月頃には引き渡せるらしい。

提供機材がM-55Sに変更されているためM-84提供は合意に至らなかったのだろう

スロベニアとドイツの装備交換交渉がまとまり、ゴロブ首相は「ウクライナにM-55S×28輌を提供する見返りとして、ドイツから8×8軍用輸送車輌×35輌と給水車×5輌を受け取る」と公式に発表している。

出典:AndrejS.K/CC BY-SA 4.0 M-55S

ウクライナへの提供が決まったM-55Sはスロベニアとイスラエルの企業によってアップグレードされた旧ソ連製のT-55で、主砲の100mm砲はサーマルスリーブ付きの105mm砲(NATO規格)に換装、エンジンも改良することで520馬力から600馬力へと出力が向上、爆発反応装甲を取り付けることで防御力も高められているが、既にスロベニア陸軍からは退役済みで保管状態にあった。

スロベニアとドイツの装備交換交渉は当初、より近代的なM-84(T-72の派生型)を提供してマルダー歩兵戦闘車とフクス装甲兵員輸送車を受け取る方向だったが、提供機材がM-55Sに変更されているためM-84提供は合意に至らなかったのだろう。

関連記事:ドイツがウクライナのRCH155購入を承認、ただし納品は早くても30ヶ月後
関連記事:ドイツがPzH2000×100輌のウクライナ売却を承認、売却額は17億ユーロ
関連記事:ドイツがウクライナに新型砲弾を提供、PzH2000の最大射程は70kmへ
関連記事:ドイツ、M-84をウクライナ提供するためスロベニアに代替装備を提供

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

    • 2022年 9月 20日

    M-84は虎の子だし流石に無理だったんじゃないかな…
    ドイツはなんだかんだで直射しない武器なら供与するんだな
    やっぱりその辺に自主規制のボーダーがあるのかな?

    17
      • けい2020
      • 2022年 9月 20日

      そもそもの話として
      ドイツに、まともな稼働状態の
      >マルダー歩兵戦闘車とフクス装甲兵員輸送車
      ってほんと国外派遣用最低限しかなった記憶があるし、それが2-3年前だから劇的に改善は難しいのでは
      3年後に提供という約束を、ドイツ政府と結ぶのはドイツの信用がなさすぎるし

      5
    • 感謝します
    • 2022年 9月 20日

    いくらアップグレードしたと言っても元がT-55だとなあ…いつになったら西側MBTを提供するのか?
    ウクライナとしてはあればあるだけいいのかもしれないけど…..

    2
      • RED
      • 2022年 9月 20日

      こんな旧式でも対戦車火器のない歩兵からすれば死神ゾ?
      MBT以外の装甲車両にとっても、直撃されれば一撃でお陀仏になる火力を備えた相手はかなり怖いぞ。
      戦車が出てきたという心理的プレッシャーは中々無視し難いものがある。

      18
        • 戦略眼
        • 2022年 9月 20日

        L7砲用の最新型砲弾が撃てれば、火力としては頼りになる。
        無いよりは、大分マシだろう。

        8
          • 戦略眼
          • 2022年 9月 20日

          次いでに言えば、レオパルド1A5に増加装甲付けるとか、同C2 MEXASとかでも良くないか?

          3
            • RED
            • 2022年 9月 20日

            ところでアメリカくん。
            そこに海兵隊から退役したてのM1A1があるじゃろ?

            5
              • 匿名
              • 2022年 9月 21日

              主機がガスタービン機関なM1系は、余りに大喰らいが過ぎて余程太い兵站を持つ組織じゃないとマトモに扱いきれないのがなぁ…🙄

              3
            • tsr
            • 2022年 9月 20日

            一時期レオパルド1の供与が取り沙汰されて、105mm砲弾をレオパルド1のためだけに用意するのは供給網が混乱するので悪手ではないか?という指摘もありましたが、M-55Sの供与でまとまった数が見込めるのなら見通しが良くなるかもしれませんね。

            3
      • 月虹
      • 2022年 9月 20日

      M-55S1は主砲がL7系列の105mmライフル砲に換装されイスラエル製のAPFSDS弾を使用できる様になっている。FCSはレーザー測遠機・パッシブ式暗視装置・弾道計算機などを統合したスロベニアのフォトナ社製FCSに換装され、さらにイスラエル製の「スーパーブレイザー」爆発反応装甲や赤外線警報装置と連動した発煙弾発射機を搭載しており、攻守の分部はT-55に比べると大幅に近代化されている。

      走の部分もエンジン換装(スロベニア製のV12・600馬力ディーゼルエンジン)と履帯と転輪をT-72のものに交換(新規に支持転輪も追加)することで走行性能を高めている。足回りがT-72の部品を使用しているので小破などで足回りが無傷なロシア軍のT-72を再利用することができるのでウクライナ軍にとっては都合の良い部分だろう。

      ウクライナ軍の戦車ドクトリンとして平地での戦車戦というよりはUAV等で事前偵察を行って茂みや建物など地の利を生かした待ち伏せ攻撃を行う駆逐戦車の様な運用もしているのでM-55でも勝機を見いだせる局面は少なからずあると思います。

      22
      • ナイトアウル
      • 2022年 9月 20日

       最近クレバ外相が戦車供与しないドイツを批判してベルリンに兵器の壁とか言っていたけどな。T-55みたいな古い戦車は仰角が大きいから市街戦なり、ウクライナが大好きな間接射撃に大いに役立ってくれるから有り難いのでは?

    • AAA
    • 2022年 9月 20日

    西側自走砲はOKだが西側戦車はNGってなんなんだ?
    機種転換訓練なら自走砲だってそうだし
    ロシアに与える脅威にしても同じようなものではないのか

    1
      • luca
      • 2022年 9月 20日

      敵に破壊もしくは鹵獲されるの恐れているんじゃ無いかな、トルコのレオ2がやられた時も結構話題になったしロシアの戦車に撃破されて評価が下がるのが嫌とかかも。攻撃受けたら基本爆散の自走砲と違って戦車は防御や生存性も重要だから

      9
    • たなか
    • 2022年 9月 20日

    T-55でも対戦車戦が余り起きていない今回の戦争においては役に立ちそう

    7
    • BC
    • 2022年 9月 20日

    >>西側西側自走砲はOKだが西側戦車はNG

    ロシア軍に鹵獲されるリスクを恐れているのだろうか
    (今回露軍実戦配備された中では最新のT-90Ⅿが鹵獲されたように)
    戦車は機甲突破の要で最前線で使用する一方

    自走りゅう弾砲やHIMARS等の長距離自走ロケット砲は
    自陣陣地内奥から間接射撃するのがメインだし

    10
    • L
    • 2022年 9月 20日

    WoTやってたからT-55の東ドイツっぽい見た目興奮する

    3
    • AAA
    • 2022年 9月 20日

    CNNからアメリカが戦車供与する可能性あるってさ
    一応西側戦車を供与しようという動きはあるみたいだな

    米、将来的にはウクライナに戦車供与の可能性も
    リンク

    3
    • 名無志野
    • 2022年 9月 20日

    たまげた
    すごい中古だ
    あきれた
    T-55改リアクティブアーマー付き戦死確実だ

    という冗談はともかくASU-85が目撃されていたりもしますしいい加減西側は腹を括って戦車も供与しないと
    さすがに鹵獲分だけでは需要を満たせませんし

    5
    • zerotester
    • 2022年 9月 20日

    東部攻勢の主力部隊は一番良い装備を与えられていたはずですが、PzH2000も随伴している映像がいくつかありました。進軍速度が速いので自走砲は重要だし、高性能なので活躍したことでしょう。当初は故障が多いと言われていましたが、今では高評価のようなので克服されたのでしょうね。

    enocomist紙によればゲパルトも活躍したようだし、ドイツ人は鼻が高いのではないでしょうか。さんざん支援が弱いと煽られていたので。あとはレオパルドを供給してくれるとよいのですが。

    20
      • える
      • 2022年 9月 20日

      故障はウクライナが酷使したせいだからなあ
      多分当時は砲の数が少なくてウクライナ軍は駄目だとわかってても限界超えるまで酷使せざる得なかったんだろう
      モノ自体は酷使させて壊すほど使い勝手が良かったという事

      6
      • 戦略眼
      • 2022年 9月 20日

      ゲパルトの話を教えてください。

      2
        • zerotester
        • 2022年 9月 20日

        ソースは economistの Ukraine seizes the initiative in the east という記事ですね。有料記事で全部は見ていないのですが、Ukrainian military intelligence source が「成功の秘訣はHARMと地対空システムのおかげだ」と語り、特にゲパルトの名前を挙げていたということです。

        歩兵の支援とかじゃなく対空兵器として役に立ったんだ?と意外性はありますね。

        7
      • 2022年 9月 20日

      ゲパルトも活躍って、何処でなにを標的にお仕事したの?

      2
    • 58式素人
    • 2022年 9月 20日

    以前に、チェコとドイツの間で戦車の交換比率が問題になっていたけれども。
    今回は8×8軍用輸送車輌×35輌と給水車×5輌との交換だそうだから、
    M84(T72)は出せないのだろうと思います。
    レオ2との交換なら、スロベニアも考えたのではないでしょうか。

    4
    • ナイトアウル
    • 2022年 9月 21日

     HIMARSのM30/M31無ければ2S35 Koalitsiya-SVをガンガン使う状況あったかもなぁ。カタログスペック上ではPzH2000に充分対抗出来る性能はあるしRAP弾のさいだいしゃ

    1
      • ナイトアウル
      • 2022年 9月 21日

       RAP弾の最大射程80kmある筈だからウクライナもそれなりに損害受けたと思うが。

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