欧州関連

フランス提案のアトランティックIIリースを蹴ったドイツ海軍、米国からP-8A導入がほぼ確定

P-3Cの早期退役に伴うドイツ海軍の対潜哨戒機調達はフランス提案のアトランティックIIリースを退けたため、事実上P-8Aの新規導入が確定したと報じられている。

参考:Germany Seemingly Selects P-8A Poseidon Over ATL2 As ‘Interim’ Replacement For P-3C MPA
参考:German defense ministry dismisses French offer of pre-loved submarine hunters

事実上のP-8A勝利宣言でフランスと共同開発を予定していた新型海上哨戒機(MAWS)の行方は一層不透明に

ドイツは欧州海洋部隊主導のアタランタ作戦(ソマリア沖の海賊対策)やバルト海や北欧海域に出没するロシア海軍の艦艇や潜水艦を監視・追跡するためオランダから購入した中古P-3Cを使用しているのだが、同機の近代化改修に事実上失敗(※)したため予定よりも10年早い2025年に退役することが決定した。

出典:MilborneOne / CC BY-SA 3.0 ドイツ海軍のP-3C

しかしドイツはP-3Cを2035年頃まで運用する前提で新型海上哨戒機(MAWS)の開発をフランスと共同で行うことを約束しており、この10年のギャップをどの様に埋めるのか=つまりP-3C退役からMAWS導入までの繋として何を導入するのかに注目が集まっている。

ドイツ海軍は2025年までに調達可能なP-3Cの後継機として複数の候補を議会に通知したがドイツ国防省の関係者によれば「機体が小さいC-295MPAやRAS72では海軍が要求している対潜能力を満たすことが出来ない」と指摘、安全保障問題を扱うセバスチャン・ブランズ博士は「バルト海や北欧海域に出没するロシア海軍の潜水艦は能力が高く欧州の国々は日常的に彼らを見失っており、この海域で使用する哨戒機は海上監視よりも大量のソノブイを携行できて魚雷を発射できる能力が重要になる」と主張して事実上ボーイングのP-8Aが唯一の候補だと見られていた。

出典:bertknot / CC BY-SA 2.0 アトランティックII

米国もドイツの要請を受けて対潜哨戒機P-8Aを最大で5機売却(17億7,000万ドル)に関する対外有償軍事援助(FMS)を発表したが、これにフランスが反応して対潜哨戒機アトランティックIIのリース案してドイツ側に提案、事実上P-3Cの後継機選定は米国(P-8A)とフランス(アトランティックIIリース+MAWS共同開発)の代理戦争だと言っても過言ではない。

アトランティックIIの後継機を必要とするフランスはドイツと共同で開発するMAWSを必要としており、欧州各国にMAWSを売り込むことも計画していたのでドイツがP-8Aを導入するのを到底容認できないだろう。逆に米国としてドイツにP-8Aをねじ込みさえすればMAWS開発計画が空中分解して欧州の大型哨戒機需要を独占することが出来るためドイツの下す判断に注目が集まっていたが、どうやらドイツはP-8Aを導入するつもりだと一斉に報じらている。

出典:U.S. Navy Photo by Cmdr. Joseph Parsons/Released

現地メディアや海外メディアの報道を要約するとドイツ国防省は「フランスの提案(アトランティックII×4機のリース)は将来予想される要件や海軍の需要を満たすことはできない」と議会に文書で通知したため事実上のP-8A勝利宣言だと解釈されているという意味で、ドイツ政府も議会の質問に対して「P-3Cの兵器システムや知識をそのまま引き継ぎ可能なP-8Aのみが2025年までのシームレスな移行を保証している」と述べているためP-8Aの勝利はほぼ確定的と言っていい。

今のところドイツはフランスと共同開発を行うMAWSの取り扱いについて何も言及していないが、一般的に考えて2025年頃にP-8Aを導入して2035年頃にMAWSへ更新する意義がないのでMAWS開発から手を引く可能性が高くフランスにとっては大きな痛手になるだろう。

米国としてはギリシャやエジプトの戦闘機需要をフランスに奪われていたので今回の結果は歓迎すべきものであり、ボーイングにとってもP-8Aに競合する機種の開発計画が頓挫することが予想されるので小躍りしているはずだ。

関連記事:フランス、ドイツのP-8A導入を阻止するためアトランティックIIを提供か
関連記事:フランスと新型海上哨戒機の共同開発を約束していたドイツ、米国からP-8Aを導入か

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※アイキャッチ画像の出典:U.S Navy photo by Personnel Specialist 1st Class Anthony Petry

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    核積めるFA-18や提案者を左遷してまでF-35を導入しなかったドイツがP-8を最有力にするとはね、それだけ危機感を募らせてるのかな、最近はロシアの圧力が強いし、にしても今までなら共同開発を視野に入れた仏案の方が有力だと思ってたのに米国案かぁ

    21
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    将来的な拡張性を考えるとP-8選ぶのが無難だな

    19
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    となると、フランスはMAWSを作るだろうし、裏切ったのはドイツエアバスではないにしろ、ドイツエアバスのために、A-320ミリタリーを新造してタレスの対潜設備を積む必要もないのか。

    ダッソーのビジネスジェットも小さすぎるし、再びP-1の機体だけ説がww

    18
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    これ地味に日本にも関係ある話なんだよな
    独仏共同開発のMAWSにP-1を売り込んでいたが、事実上失敗したと言えるだろう
    また日本製兵器の輸出は失敗した様だ
    お隣の韓国製兵器との差はあまりに大きい

    8
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      確かに。
      日本は輸出前提の開発でないので良かったです。
      韓国のように輸出前提なら、計画そのものが失敗で会社に大損害ですものね。
      税金で補填する事で会社を存続させるゾンビ企業が造る韓国製兵器と健全性の差はあまりに大きい。

      43
        • 匿名
        • 2021年 5月 05日

        日本は世界でも数少ない対潜ガチ勢だから、海自単独が運用する哨戒機でも纏まった数が出るからね

        41
        • 匿名
        • 2021年 5月 05日

        >>税金で補填する事で会社を存続させるゾンビ企業が造る

        それ日本製兵器じゃねえか
        韓国製兵器は努力して輸出市場に果敢に挑戦し、結果を出し続けている
        自衛隊だけが顧客のクズを高額で納入し続ける日本の「子供部屋おじさん」防衛産業とは大違い

        18
          • 匿名
          • 2021年 5月 05日

          そうだね
          そうやって二流品を作り続けてくれれば良いよ
          その方が日本的に助かるし

          37
            • 匿名
            • 2021年 5月 05日

            いい加減認めれば?
            二流なんて日本も同じだろ?

            14
          • 匿名
          • 2021年 5月 05日

          米英との共同開発がちらほら出ているし、
          自衛隊限定からは少しずつ脱却しているみたい。
          プロ市民とかうるさい出合いにも事欠かないので、一足飛びではなく漸進で良いと思います。
          派手なだけでは続かないから。

          13
          • 匿名
          • 2021年 5月 05日

          所謂F-3に関しては、産業政策的な視点と必要な戦力確保のバランスをとりながらやる、と防衛省サイドは述べています。

          2
          • 匿名
          • 2021年 5月 06日

          >日本の「子供部屋おじさん」防衛産業

          これは言い得て妙w
          防衛省やミリヲタがどう思おうと営利企業は国産開発維持より利益を選ぶからね
          どうしても作って貰いたければ高額な税金で養っていくしかない

          こんな寄生虫を未来永劫飼って行くより中露の安価で優秀な兵器を採用した方が日本の国益になるんだが、頭の硬い奴は一向に認めようとしない

          頼りの欧米兵器も価格だけは矢鱈に高いが失敗続きの上に、いざ実戦となると使用や調達に開発国から様々な政治的制約(&圧力)が掛かるから採用しても今後の行き先は暗い

          日本はもうオシマイやね

          1
          • 匿名
          • 2021年 5月 06日

          税金でも補填できてないから日本企業は軍需から撤退していってるんじゃないですかね。
          一般通過ニュースすら碌に見られない池沼おじさんはこの程度のことも理解できないのか。

        • 匿名
        • 2021年 5月 07日

        ?エアバスやらダッソーを退けるのは相当難しいって下馬評だったから寧ろワンチャン可能性出て来たのでは。フランス一国じゃ開発大変だろうし。

        2
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      そうだよな、韓国が修理した潜水艦は沈むしジェット機は落ちまくる。
      韓国製の兵器に乗るのは命令とはいえ命がかかった罰ゲームでしかない。
      亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。

      29
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      韓国に関していうと採用国のカスタマイズを大幅に認めたり、中古をさらに安売りしたりしているので導入する側はニンマリだが、韓国側は大損しているんだよね。

      21
        • 匿名
        • 2021年 5月 05日

        カスタマイズする拡張性あんの?
        あと他国の技術が多いけど。

        2
          • 匿名
          • 2021年 5月 05日

          >カスタマイズ

          ポーランドだっけ?
          皮は使うけど、中身はユーザー側が他国から調達な形態。

          5
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      まあ、自走砲関連のハンファはすごいよ。輸出もすごいし。ヒュンダイ造船は国税によるドーピングとダンピングで、世界最大だけど来年あるかは不明。K2ライフルを作ってたとこは消滅して、最終的に別会社に工場が移ったけど、韓国軍のライフル新規調達は、今、ドイツのライセンス生産をしてるアラブ銃のライセンス生産を新規の会社にDSAR-15Pとして依頼したし、K2復活は危ぶまれる。

      ちなみに、明日はFNによるminimiの後継発表。アメリカは、次期ライフルはM4とminimiを統一した感じの6.8mmとしてるが、どっちの国かライセンス生産するかな。

      18
        • 匿名
        • 2021年 5月 06日

        K2小銃に関しては、国防規格を満たしていればどの企業でも応募できる入札方式だから、大宇(S&T Motiv)から別の企業が生産しているからと言っても何の問題もない
        それとDSAR-15Pの採用は韓国特殊部隊の話であるから、一般の部隊の調達には関係ない話(というか今K2C1調達してる最中だろ)

        2
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      ここも妙なのが沸くようになったな…

      47
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      と言うか、海上哨戒機に関してはNATOスタンダードに拘る限りP-8Aしか選択肢が無いのでなあ…それに今回は日本のP-1だけで無くもっと本命の筈だったフランスの提案も蹴られているので日本の一人負けじゃないし、むしろドイツの選定過程がヤクザみたいな状況だし
      後、韓国製品を持ち上げるなら兵器の前に自動車を日本市場で売りまくってトヨタを倒してから言って欲しい
      現在WRCでヒュンダイがi20クーペでトヨタのヤリスとガチ勝負しているだろ、あれを売ってくれたら日本でも買う奴いると思うぞ(迫真)

      16
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      日本には関係あるかもしれんが哨戒機を作ってすらいない韓国には全く関係のない話だよね
      なので輸出云々でマウントを取りに来てるのがそもそも間違ってると思うけど

      38
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    本筋関係ないけどP-8ってエアステアついてるんだ
    ボーディングブリッジが当たり前になった今となっては民間じゃ珍しい装備
    軍用機ならではだね

    5
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      B737ベースのビジネスジェットなら、今でもエアステアは標準装備だよ。
      もちろんエアラインで運行するB737でもオプションで設置は可能。
      ライアンエアが設置しているのは割と有名。

      4
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    ドイツ議会が必ずいらん事するはず
    俺は大型装備品の輸入案件についてはドイツ議会に全幅の信頼(?)を置いている

    25
      • 匿名
      • 2021年 5月 06日

      ニュークリアシェアリングを無視しても、タイフーンを選んだ実績!
      信じているぜドイツ議会。
      ヘタれるなよ?
      潜水艦はどうなった?

      2
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    SPDなら・・・!
    きっといつものように覆してくれる・・・・!

    4
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    P-8Aは導入しても共同開発はやるんじゃないか
    新型機が就役したらP-8Aは売却したりリースしたりするだろ
    独仏の共同開発ということはまた「もっと権利よこせ」「いやダメだ」みたいな不毛なやり取りが始まって
    結局P-8Aが定年まで無事お勤めする結果になるかもしれんが・・・

    7
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    セットでMQ-4Cを運用している国もありますが、ドイツはオプション無しなのでしょうね

    2
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      ドイツは2025年からトライトンを入れる予定だったと思うので普通に考えたら連携させるのじゃないかなと
      まぁトライトンとセットで運用してる国がそもそも米国以外だと現状オーストラリアだけなのでね

      4
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      2021.03.19
      6億ユーロ以上を無駄にしたドイツのユーロホーク、売却処分に失敗して博物館送りに

      の記事によると、トライトンもキャンセルみたいですね。

      2
      • 匿名
      • 2021年 5月 05日

      ロシアと全面戦争にでもならない限りP-8単体で十分な気もするな

      1
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    ドイツ海軍の要求能力がどうこう言ってるけど
    これ実際には明らかにフランス側が好き勝手やってるFCAS計画に対するドイツ側の意趣返し目的だよね
    フランス主導のFCAS計画が変更されていく事によるドイツ企業の損失分をフランス企業にも損失してもらうからねwという意味の

    その上でドイツ的には、わずか10機未満のP-8の購入によって独米関係をアピールできて
    さらにFCAS導入までの間のつなぎの戦闘機選定でアメリカ製戦闘機の導入を蹴っ飛ばせる口実にもなるという

    2
    • 匿名
    • 2021年 5月 05日

    どうせ殆ど飛ばないだろうし何導入しても一緒だろ

    4
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