欧州関連

ドイツ海軍、北大西洋でF125フリゲートからの弾道ミサイル試射に成功

ドイツ海軍総監のヤン・クリスチャン・カーク中将は9月2日「北大西洋海域で弾道ミサイルの発射に成功した」と、イスラエル航空宇宙産業も「ドイツ海軍がLORA艦艇発射バージョン=Naval LORAの試射に成功した」と発表し、少なくとも2発の弾道ミサイルをF125フリゲートから発射した。

参考:Deutsche Marine
参考:The German Navy Completed a Successful Firing Trial with IAI’s LORA Ballistic Weapon System
参考:LORA –Deutschen Marine verschießt erstmals ballistische Raketen von der F125
参考:German navy successfully tests Israeli Lora missile system

現時点でドイツ海軍がNaval LORAを取得して水上艦艇に本格配備するのかどうかは不明

イスラエル航空宇宙産業(IAI)が開発した精密攻撃戦術ミサイル=LORA(Long Range Artillery/ローラ)は最大430km離れた地上目標を攻撃できる短距離弾道ミサイルで、アゼルバイジャン軍が2020年のナゴルノ・カラバフ戦争でアルメニアとナゴルノ・カラバフ地域を結ぶ橋を攻撃するのに使用し、2023年2月にはインドのバーラト・エレクトロニクスとLORAの現地製造・供給に関する覚書を締結(LORAの現地生産に向けた正式契約には至っていない)、2024年6月のベルリン国際航空宇宙ショーで空中発射バージョンのAIR LORAを公開して注目を集めた。

一般的に巡航ミサイルは射程と命中精度に優れ、レーダーの死角=低空を這うように飛行するため「検出されにくい」という特性を持っているが、飛行速度が亜音速なので目標に命中するまで時間がかかり「敵側も時間余裕をもって対処できる」というのが欠点で、逆に弾道ミサイルは巡航ミサイルよりも射程と命中精度に劣り、弾道コースで飛翔してくるためレーダーによる検出自体は容易だが、目標に命中するまで飛翔・落下速度が非常に早いため敵側にとっても対処時間が極端に短く、さらに弾道弾迎撃に対応した防空システムでしか対処できない。

ロシアも空中発射方式の極超音速ミサイルとして喧伝してきたキンジャール(実質的にはイスカンデルMの空中発射バージョン)を対ウクライナ戦で使用し、TWZも「高度な地上配備型防空システムは破壊すべき目標に接近しようとする戦闘機をどんどん遠ざけており、そのため各国は空中発射型の長距離兵器に投資を増やしている。そのような環境下でAIR LORAは有効な選択肢の1つになるだろう」「AIR LORAの最終速度は極超音速域に近く、必要な時間内に目標の座標が確定できれば移動式の防空システムや弾道ミサイルなど『一刻を争う目標』の攻撃に適した兵器で航空機の生存性を劇的に向上させる」と評価していた。

出典:kremlin.ru / CC BY 4.0

ただし、ウクライナ軍はキンジャールの有効性について「とにかく目標に命中したのを思い出すのが難しいほど命中精度が悪い」「効果的なミサイルであれば目標からの偏差は5m〜7mを超えてはならないのにキンジャールの場合は30m以上だ」と証言しており、ウクライナ国防省情報総局の見解ではキンジャールの生産は2026年4月に停止され、その資材や資金は弾道ミサイルや他のミサイル生産に再配分されたらしい。

AIR LORAも注目度の割に導入しようという明確な動きは観測されていないが、地上発射バージョンのLORAについてはギリシャが導入の動きを見せており、9月2日には唐突にドイツ海軍総監のヤン・クリスチャン・カーク中将が「昨夜、北大西洋海域で弾道ミサイルの発射に成功して我々は海軍史に新たな一ページを刻んだ。この成果に私は大変満足している。本システムは我々の部隊から確実に運用が可能であり、その射程はこれまでの我々の常識を凌駕するものだ。今回の試験は洋上における抑止力と防衛態勢の新たな時代の幕開けになるものだ」と発表した。

出典:Deutsche Marine

イスラエル航空宇宙産業も2日「ドイツ海軍は運用実験(OPEX)の一環としてLORA艦艇発射バージョン=Naval LORAの試射に成功した」「ミサイルは指揮トレーラーと発射装置を備えたドイツ海軍の艦艇から発射され、いずれのシナリオにおいてもミサイルは所定の軌道に発射され、目標に向かって飛翔し、極めて高い精度で命中した」と発表し、ドイツのディフェンスメディア=hartpunktも「ドイツ海軍が北大西洋でF125フリゲートから少なくとも2発の弾道ミサイルを発射した」と報じている。

Naval LORAは海上を移動する艦艇を攻撃可能な対艦弾道ミサイルではなく「海上を移動するプラットホームから地上の静止目標を攻撃する弾道ミサイル」で、ドイツ海軍がNaval LORAを取得して水上艦艇に本格配備するのかどうかは不明だが、ドイツは長距離攻撃能力の取得(タイフォンシステムとトマホークの取得、欧州諸国と共同でトマホークに匹敵する巡航ミサイルの開発、英国と共同でステルス巡航ミサイルの開発、タウルス KEPD-350の近代化、射程を拡張したタウルスNEOの開発、低コスト巡航ミサイルや自爆型無人機の取得など)に大規模な投資を開始しているため、ここに短距離弾道ミサイルが加わっても不思議ではない。

関連記事:ロシアは主要ミサイルの生産を増強、弾道ミサイルの備蓄は増加に転じる
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関連記事:米ミサイル防衛局、現在の弾道ミサイルは速球ではなくスライダーやカーブだ
関連記事:アゼル軍、弾道ミサイルを使用した戦略目標に対する攻撃を本格化

 

※アイキャッチ画像の出典:Israel Aerospace Industries

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コメント

  • コメント (6)

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    • 無印
    • 2026年 9月 03日

    砲と機銃とRAMとハープーンしか積んでないバーデン・ヴュルテンベルク級に、弾道ミサイル発射能力を追加するのは、軽武装過ぎてイマイチ使い勝手が悪いバーデン・ヴュルテンベルク級に、使い道を与えるには良いと思う

    13
    • たむごん
    • 2026年 9月 03日

    弾道ミサイルがあるというだけで、仮想敵国に防衛負担を強いることができます。

    日本=北朝鮮を考えれば分かりやすいですが、日本のミサイル防衛は多大な予算をかけてきましたね。

    最近の日本を見ても、防空兵器だけでは生産・コストの限界がありますから、仮想敵国への攻撃能力は不可欠だと感じています。

    10
    • 名無し
    • 2026年 9月 03日

    陸から弾道ミサイルと船から弾道ミサイルに技術的にどんな差があるのかよくわからんのだけど…
    揺れによる経路の不安定化くらいは飛行中に補正するだろうし揺れても安全に射出できるとかってこと?

    2
    • ブルーピーコック
    • 2026年 9月 03日

    弾道ミサイルは当たらない?ならクラスター禁止条約から抜ければいいのに(悪魔の囁き)

    5
    • YF
    • 2026年 9月 03日

    有事において散発の弾道ミサイル攻撃が効果が薄いのはウクライナ戦争で証明されてて貴重なVLS枠を一定数割くのはどうなんでしょうね。
    ただ平時においてはフリゲート艦が弾道ミサイル搭載出来るというのは、ある種の戦略兵器としての価値を付与するようなものなので、フリゲート艦だけで砲艦外交出来る可能性も考えればその効果は絶大だと思います。

    1
    • nednir
    • 2026年 9月 04日

    距離的にはバスチオンと同等そうですが、ヒットアンドアウェイに徹すれば実質的にアウトレンジできるのかな。対艦ミサイルの射程外から前線の弾薬庫などを攻撃する海上HIMARS的な役割ができそうだとすれば、ロシアに対してはかなり効果的に感じますね。ロシアも対艦ミサイルの長射程化と衛星システムの強化でいずれは対抗するのでしょうけど、当面はそんな余裕ないはずなのでタイミングとしては良さそう。

    戦略的な効果はわからないというか、モスクワが戦略爆撃されてるのに今更ロシアが通常弾頭の弾道ミサイルを気にするかなあという気はします。

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