欧州関連

ドイツのトーネード後継機問題が決着、戦闘機F/A-18E/F購入を米国政府に伝達

ドイツのデア・シュピーゲル誌は19日、クランプ・カレンバウアー国防相は米国政府に対しF/A-18E/Fを30機購入する意思を正式に伝えたと報じている。

参考:Kramp-Karrenbauer sagt Washington Kauf von US-Kampfjets zu

遂に戦闘機トーネード後継機問題が決着、勝者は誰?

デア・シュピーゲル誌によればドイツのクランプ・カレンバウアー国防相は16日、米国のマーク・エスパー国防長官に戦闘機トーネードの更新用としてボーイング製の戦闘機F/A-18E/Fを30機購入する旨を電子メールで伝えたと報じた。さらに電子戦闘機EA-18Gも15機購入したとカレンバウアー国防相は考えいるため計45機のF-18を米国から購入することになる。

出典:public domain EA-18Gグロウラー

簡単にこれまでの経緯をまとめるとドイツは老朽化の激しい戦闘機トーネードを更新する必要に迫られており、米企業2社とエアバスからF-35A、F/A-18E/F、タイフーンの3機種が提案されたが欧州特有の事情によってF-35Aが候補から外され後継機はF/A-18E/Fとタイフーンの2機種に絞られていた。

しかし核兵器運搬能力のNATO認証問題で戦闘機トーネード退役までに調達が間に合うのはF/A-18E/Fだけなので後継機問題は決着したかに見えたが、タイフーンの開発・製造を担当しているエアバス傘下のユーロファイター社はドイツに拠点があるため政治的にも経済的にも無視することが出来ず話は複雑化していく。

要するに戦闘機トーネード更新のための費用が米国に吸い取られることを良しとしない国内勢力(主にドイツ社会民主党)の反対や、海外市場でタイフーンと競合しているF/A-18E/Fをドイツが選択すればのタイフーンの販売に悪影響を与えると危惧する欧州防衛産業界の要請で、事実上F/A-18E/F採用にストップがかかったという意味だ。

出典:pixabay

運用者のドイツ空軍からしてみれば、戦闘機トーネード退役までに調達可能でNATOが認証した核兵器運搬能力と敵防空網制圧任務を担当していた電子戦闘偵察型のトーネードECRの代わりを務められるのはF-35Aしかなかったのに、政治的な問題でF-35Aは候補から外され、期限に間に合い核兵器運搬能力を備えたF/A-18E/Fは駄目だと言われ、タイフーン選択しか許されない状況が当事者抜きで形成されて行くのだから正に悲劇としか言いようがない。

結局全ての利害を調整した結果、生まれたのが「分割調達案」だ。

ドイツ最大の経済新聞「ハンデルスブラット」は戦闘機トーネード退役までに調達可能で核兵器運搬能力を満たす戦闘機F/A-18E/Fを30機、トーネードECRが担っていた敵防空網制圧任務を引き継ぐため電子戦闘機EA-18Gを15機、国内や欧州に配慮するため戦闘機タイフーンを90機導入することなるだろうと2月に報じていたが、今回のF/A-18E/F購入意思の伝達で分割調達案は現実になってしまった。

戦闘機タイフーンの90機導入は欧州防衛産業界やユーロファイター社を抱える国内経済にとって喜ばしい決定だろうが、同機のコストは1機1億ドル(約107億円)を超えると言われているのに対しF/A-18E/FとEA-18Gは7,000万ドル~8,000万ドル程度だ。

すでに最終決定は下された後なので今更だが、真っ先に候補から外したF-35Aの価格は8,000万ドルを下回る(ロット13以降)ことが確定している。

本当に今回の決定は正しかったのだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Jackson Ricker/Released

 

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

    また左巻きの人が「ドイツは欠陥戦闘機F35を採用しなかった 日本も見習え」とかいいそう

    2
      • 匿名
      • 2020年 4月 20日

      半分の田んぼの人か田んぼの岡の人ですか?

      清いバレーの人はF-35Aの方を推しそう。

      2
    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

    タイフーンはF/A-18E以下のゴミやん

      • 匿名
      • 2020年 4月 22日

      タイフーンの問題点を挙げてない貴殿がゴミ

      1
    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

    何年かしたら、やっぱF35下さいと言い出すと思う。

    その場しのぎがまる見えだし。

    それはともかく、タイフーンの魔改造はどうなっているのかな?
    強烈なの希望。

    2
      • 匿名
      • 2020年 4月 20日

      将官の首取ってまでF-35排除した以上引っ込みはつかないだろうな

      1
    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

    何をもって「正しい」とするかですね。
    念のための装備だし、納税者が納得すればいいようにも思えますが。

    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

    F-35のほうが安いなんて言う言葉を聞くときが来るとはなぁ(しみじみ

    1
    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

    F-35の方が安い
    その頃には発展型になりますがこれはF-3にも呪縛となりますね

      • 匿名
      • 2020年 4月 20日

      性能がまるで及ばないのにクソ高いってんならどうしようもないけど
      それなりの性能もってるなら多少高くても国産の方がいいのは普通の人なら同意してくれるでしょ
      ユーロファイターだってトラ3作られてて宣伝通りの性能を持ち欠陥が無いなら
      このドイツの選択だってそこまで悪いもんじゃないと思うんだが現実は……
      F-3がそんな事にならないように祈ってるよ

    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

    政治的理由以外でF-35Aを忌避するのって単発機である事位では?

    スパホだとボーイング救済になるからアメリカとしてはF-35Aより嬉しいと思う。

    1
      • 匿名
      • 2020年 4月 20日

      短距離離着陸性能とか、離陸即格闘のような状況にはそぐわないとか、整備を他国に委ねる(=稼働率が下がる)とか、使用状況がアメ筒抜けとか。。。まぁそれなりに忌避する理由はあると思いますよ。短所の無い装備なんか無い。

      1
    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

    模擬戦闘のデータとかならあるかもしれないけど、端的に言ってタイフーンとスパホだとどっちが空戦で強いんやろ?

      • 匿名
      • 2020年 4月 20日

      今回の話は空戦任務関係ないんですけど

      1
        • 匿名
        • 2020年 4月 21日

        今回の30機はニュークリア・シェアリング絡みの購入だけど、そもそもスパホがタイフーンよりマルチロール機として完成されているならタイフーン購入も有耶無耶になるような気がして……

        1
      • 匿名
      • 2020年 4月 20日

      もちろん条件にもよるんでしょうが、、

      方や、艦載機という制約はあっても実績十分の4.5世代機、もう一方は欠陥だらけで未だAESAレーダーに更新されない永遠の4.4世代機ですからね。。

      1
        • 匿名
        • 2020年 4月 22日

        判ってる風に言ってるけど…艦載機の制約とは?
        陸上運用だと何も問題はなく、逆に発着艦で剛性が高い為に採用してる国も多いんだけどね!

        タイフーンにしても…当初問題あったイタリア及びスペイン製部品は修正されて、構造設計通りの剛性や性能も確立して、カタールとクェート採用分には新型のアクティブレーダー搭載型なんだけどね〜中途半端な確かで語ると恥をかくよ。

        平和な日本と違って、他国は交戦の可能性が高いから性能と賄賂はセットなんだよ〜まあ、唯一違うのは韓国だけどね!笑

      • 匿名
      • 2020年 4月 21日

      レーダーの能力差でスパホの方が強いのではと
      カナードでレーダーの容積を制限されない分
      あと、最大離陸重量でもスパホの方が上よね

      1
    • 匿名
    • 2020年 4月 20日

     政治的、国内・経済(国防産業)的、かつ、現時点での判断としては正しいのかもねえ。
     10年後、(約束されてであろう)FACS計画の遅延が明確になった場合には糾弾されるでしょうけど。

    1
    • 匿名
    • 2020年 4月 21日

    1枚目の写真はF/A-18E/Fではない。インテーク形状が違う。

    1
      • 匿名
      • 2020年 4月 21日

      FA-18C/D(か、CF-18/CF-118、FA-18A/B)みたいね

      1
        • 匿名
        • 2020年 4月 22日

        すげぃな君ら。

        1
          • 匿名
          • 2020年 4月 22日

          スパホとレガホなんてザクとグフくらい違うやろ。

    • 匿名
    • 2020年 4月 21日

    そもそもタイフーンが高いっと言ってドイツが”買わない”とごねて、安くするのにスペックダウンを余儀なくされて、それを取り戻そうと改修するのが手遅れにして、結論はこうなるわな。
    90年代に計画されたフルスペックで導入していればこうもならなかったかもな。

    1
    • 匿名
    • 2020年 4月 22日

    リンク
    ドイツ空軍、後継戦闘機にユーロファイターとF18調達へ
    2020年4月22日 4:01 
    【4月22日 AFP】ドイツ国防省は21日、老朽化した戦闘機の後継機としてユーロファイター(Eurofighters)93機と米航空宇宙機器大手ボーイング(Boeing)のF18を45機調達する方針を示した。F18について、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に課す要件を満たしていると強調した。

    • 匿名
    • 2020年 4月 22日

    原型機が同じ年の機体で後継になるのは釈然としないものがある
    (トーネードIDS もYF-17も1974年)

      • 匿名
      • 2020年 4月 22日

      判らずにコメントしてるの?ご自身の知見が疑われますよ!
      C/DとE/Fは1割しか互換性がなく、機体構造は完全な新設計で試験飛行は95年で配備は2001年です。

      • 匿名
      • 2020年 4月 23日

      米海軍はA-6攻撃機の後継となるA-12ステルス攻撃機の開発頓挫から新型機を開発する必要に迫られました。
      完全新型機だとA-12の二の舞になることを懸念した米国議会にF/A-18C/Dのマイナーチェンジ機として説明しつつ、共通部のほとんどない新型機を開発した、という事情があります。

      最終的にF-14、A-6、S-3、EA-6BをF/A-18E/FとEA-18Gで置き換えたので大成功ではあるのですが

      1
    • 匿名
    • 2020年 4月 23日

    当事者抜きでの決定のせいでドイツはEU一人勝ちと言われようともずーっとがめついままなのでは?

    1
    • 匿名
    • 2020年 4月 23日

    現時点ではF-35に搭載可能な核兵器は存在しませんが、2020年代中盤にはF-35ブロック4とB61 mod 12核爆弾の組み合わせで核シェアリングに必要なF-35環境が整います。
    なので、2030年予定のトーネード退役には間に合います。

    結局、ドイツがロシア、旧ソビエトとの最前線で無くなったために軍縮して機材更新の遅れ、稼働率や士気がタダ下がり、ドイツが核シェアリングに消極的になったのが今回の中途半端な決定になった、ということでしょう

    2
      • 匿名
      • 2020年 4月 27日

      ポーランド空軍が2030年までにF-35Aブロック4を32機導入するのとに比べて
      危機感が薄いのでしょうね。

      1
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