ドイツのピストリウス国防相は今年7月「欧州独自の長距離攻撃ミサイルは実用化に時間がかかるためタイフォンシステム購入を米国に要請した」と明かしたが、ドイツは2026年予算でタイフォンシステム×3基(2.2億ユーロ)とトマホークVb×400発(11.5億ユーロ)を調達するらしい。
参考:Germany’s new €377B military wish list
国防投資の大部分はドイツ産業に根ざしており、一部の機密性が高い任務を担うもののみ国外調達に依存している
バイデン大統領とショルツ首相は2024年のNATO首脳会議で「ドイツに長距離攻撃能力を恒久的に配備する計画の一環として多領域任務部隊の一時配備を2026年に行う」「ここにはSM-6、Tomahawk、開発中の極超音速兵器が含まれ、欧州に陸上配備されている長距離攻撃能力の射程を大幅に拡張するだろう」と言及したが、ドイツは独自の長距離攻撃能力を獲得するため複数の取り組みを推進している。

出典:Lockheed Martin
フランス、イタリア、ポーランドと共に遠距離から敵の目標を精密攻撃できる兵器システム=European Long-Range Strike Approachの共同開発、英国と共同で射程2,000kmを超える新たなDeep Precision Strike Weaponの開発(DPSWはELSAの枠組み内で開発されるため基本的には同じものかもしれない)を進めており、さらにピストリウス国防相は今年7月「欧州独自の長距離攻撃ミサイルは実用化まで7年~10年かかるため、地上発射型長距離攻撃システム=タイフォンシステム購入を米国に要請した」と発表。
Aviation Weekはドイツの動きについて「独自の長距離攻撃能力取得は時間がかかるため短期的なニーズの課題を浮き彫りにしている」「トランプ政権も欧州の安全保障から手を引く動きを見せているためバイデン大統領が約束した長距離攻撃システムの欧州配備は不透明だ」と指摘し、ピストリウス国防相も「タイフォンシステムはELSA実用化までの繋ぎだ」「これはドイツが米国製システムを好んでいるかどうかではなく入手性、相互運用性、納入スピードに関連した問題だ」「独自システムの取得にも多額の資金が投資されドイツの独立性を高める」と述べ、米国製と欧州製の並行追求は資金力を背景にしたドイツならではアプローチだ。

出典:US Army Typhon Weapon System
Defense Newsも「ポーランドのようにロシアと近い国々は『準備時間が限られている』と感じているため、長期的な欧州の自立を犠牲にしてでも『軍事力の即時増強が必要だ』と考えている。ロシアとは距離があるフランスは独自の核兵器も保有しているため、自国の防衛産業に忍耐強く『ド・ゴール主義的な投資』を行う余裕がある。資金面で遥かに余裕があるドイツは『軍事力の即時増強』と『長期的な欧州の自立』の同時追求、つまり米国製システムをライセンス生産しながら、欧州共同防衛計画にも継続的な投資を行うことができる」と指摘したことがある。
POLITICO Europeも27日「メルツ首相はドイツ軍を欧州最強の通常軍に育てると、そのために必要な資金の全てを与えると約束し、39ページに渡るリストには3,770億ユーロ相当=約67兆円もの兵器購入希望額が記載され、これは2026年度予算に計上される兵器調達の概要を示すものだ。ドイツはひとまず2026年度に320件もの新兵器開発や装備調達計画を開始する予定で、この中にはタイフォンシステム×3基(2.2億ユーロ)とトマホークVb×400発(11.5億ユーロ)を調達するための投資13.7億ユーロも含まれている」と報じた。

出典:Bundeswehr/Jana Neumann
さらに希望リストにはF-35A(15機/25億ユーロ)やP-8A(4機/18億ユーロ)の追加取得も含まれ、25件の国外調達には140億ユーロ=約2.4兆円の投資が予定されているものの、全体の投資額が見れば5%未満に過ぎず、最大の受益者は54件/総額880億ユーロの国内調達に関与するRheinmetallで、Diehl Defenceも24件/総額173億ユーロに関与し、POLITICO Europeは「国防投資の大部分はドイツ産業に根ざしており、一部の機密性が高い任務を担うもののみ国外調達に依存している格好だ」と指摘している。
恐らくドイツの発注ラッシュ=装備品の正式な商業契約締結は間もなく開始される予定で、防衛企業株への投資を検討していならRheinmetall、TKMS、MTU、Diehl Defence、Hensoldt、Helsing、STARK、まもなく上場予定のKNDSなどに注目しておくと恩恵に預かれるかもしれない。

出典:U. S. Navy photo by Petty Officer 1st Class Stephen J. Zeller, fire controlman/Released
追記:何でもかんでもウクライナ支援に結びつけたがる人がいるので予め指摘しておくと「ドイツのタイフォンシステムとトマホークの購入」はFMS経由の購入、つまりNATO加盟国がウクライナ向けに米国製武器を購入する枠組み=Prioritized Ukraine Requirements List経由の調達ではないので「ドイツがウクライナのためにタイフォンシステムとトマホークの購入している」という話ではない。
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※アイキャッチ画像の出典:Photo by Darrell Ames





















まあ何ていうか、ドイツのこういう態度見てると某大統領やアメリカ国民の気持ちも分からんでも無いんだよな
防衛予算5%(3.5%)を達成するには自国+EU内で回さないとやってられないってのは十分理解出来るんだけど、これまで散々米国に防衛丸投げしておきながら「軍拡から米国企業は排除します」「足りない分はしょうが無いから米国から買います」って態度を隠しもしない上に結局はNATO(アメリカ)前提の防衛体制ってどういう気持でやってるんだろう
思うところはあっても基本強調路線の環太平洋勢みたくもうちょいオブラートに包めないんですかね…?
現実的と言えば現実的なんですが、節操がないし信用しがたい態度でもありますね
かといってドイツが本気で1国で自国防衛をできるほどの軍備体制を整えちゃうのは、周辺国からすると潜在的な脅威でしかないのでほどほどにして欲しいという思惑もあるでしょうし難しいですね
日本目線で見ても、ドイツあまり信用できない国ですからね。
メルケル=習近平べったりで、ジャパンパッシングして中国に通いまくってましたからね。
安倍晋三回顧録にも、メルケル首相に苦言を呈して躱されながらも、粘り強く問うたと書いてました。
日本の電気代値上がりも、ドイツなどEUも関係していて、自動車・製鉄・造船なども嫌がらせを受けてきました。
一部マスコミ・芸能人みたいな教授が、『やたらとドイツを持ち上げたり』していますが、ドイツの対日感・ファクトは上記のようなのが実体なんですよね。
自国優先は国家として正しいんですけど、SBさんもおっしゃってる通り、もう少し言い方(やり方)を柔らかくはできないもんかと日本人としては思っちゃいますよね…
2回も叩かれていて、潜在的に警戒されている国なら尚更……
予算もそうだけど、人手不足が深刻な今のドイツ軍で運用や整備できるのかな。
仮に人員や予算を確保できても、トマホーク用の半導体部品が不足しているから米軍向けが優先されて、納期が大分後回しになりそうな気がしないでもない。
他山の石とはいえ、こういう情報を拾い上げていただいている管理人様には感謝しかありません。
>トマホーク用の半導体部品が不足している
GeminiとChatGPTに聞くと、どっちもトマホーク生産のボトルネックはキックモーターと、発射装置と回答しています。
ジャベリンは数が多いせいか、半導体不足の報道がありましたが、混同されていませんか?
結局今まで長距離攻撃能力を保有していなかった国が保有しようとすると、長期的には自国産で進むのが良いが短期的には揃わないので米国始め海外産を導入してまずは組織を作るってには最適解に近いんでしょうね。
そう思うと我が国の長距離攻撃能力獲得のステップも間違っていないんじゃないでしょうか。
既存システムならともかくようやく完成したかどうかのタイフォンを導入するくらいならドイツは自前のタウルスあるんだから地発型改修でもすればよかったと思うんだが…
地上型KEPDは計画だけはあったな
KEPDも開発から20年経過してて、後継機のKEPDつくるとか発表してたから
終わりつつあるミサイルの派生より新型で実現したほうがいいって思ってるのかもね
大口顧客の韓国もKAALM計画進めてるからKEPD350K2だってどれだけ生産することになるか…
いうてたったの20年、トマホークだって改修こそされてるものの特に新しい設計じゃないでしょう。
「ドイツあるいは欧州にとっての将来性」という観点で見た時、トマホーク/タイフォンに国産/欧州製と米製の差を覆すほどの先進性があるとも思えませんが…
あるモノ組み合わせてるタイフォンで5年掛かってるんですから、その時間が惜しいというか、5年掛かるなら本命の開発にカネを使う方がマシって判断だと思います。
タイフォンもSM-6の方が本命って説もあります。
本命(DPSWなりELSAなり)と完全に別に開発する必要もないでしょう。
タウルスと発射装置どっちをどうイジってもいいですが、とにかくタウルスにブースターつけて地発で爆発せずに飛ばせるようにさえすれば基礎概念からシステムやI/Fまで色々と検証はできるし、なんなら後払いながら金まで払って試験してくれる国があるんだから試す価値はあると思いますけどね。
いやまあ単に「実は試してみてうまくいかなかった」だけかもしれませんが。
世界中で兵器産業市場が大盛況になって、在庫品と新規生産品の取り合いみたいな状況になっておりますが。
トマホークの生産数は現時点では年間で二桁単位しか無いそうなので、
「ドイツ一国」に400発を供給出来るのは果たして何年後になるんでしょうね?
先日のグリペンEの話なども含めて、待ち続けてようやく手に入った時点で、もう不要になっているかも?というのは有るかもしれません。
>「ドイツ一国」に400発を供給出来るのは果たして何年後になるんでしょうね?
トマホークは日本の他、オーストラリア等も発注しているので、生産キャパシティが心配ですね。
完納がいつになるやら…
他の方も指摘しているけど、今アメリカに発注しても届くのに、とてつもなく時間がかかるよね。
金だけ払って来るのは10年後、技術的にも陳腐化 とかならないのだろうか?
まぁ、うちの国(F35関連)も人のことは言えんが。
今年度に12SSM能改が2個中隊分配備らしいので
2×4両×6発+予備弾で48発から96発か
弾薬運搬車は発射機と1:1対応だっけ?
1両4発搭載でない?
ドイツという寝た子を起こしてしまったプーチンとトランプは後世の評価に震えた方がよさそう
ヨーロッパの南北によってもちがいますが、
・ドイツより東: 締切優先で「すぐ調達できる装備」
・ドイツ: 締切と予算に余裕あるので「すぐ調達できる装備をライセンス生産」「自国装備開発」の両方を選択
・フランス: 自国開発優先
フランスより西: 差し迫った脅威はないので様子見
という感じでしょうか。
ロシアに近い地域ほど時間という最大の制約に対して厳しくなるのが可視化されてますね。