欧州関連

インフレとドル高に苦しむドイツ、P-8など6つのプログラムを除外・削減

急激なインフレとドル高がドイツ軍の近代化計画を直撃、政府はドイツ軍特別基金から6つのプログラムを除外・削減したと報じられており、この影響が陸軍と海軍に集中しているので「空軍の一人勝ち」と言える。

参考:Verteidigungsministerin Lambrecht streicht Rüstungsprojekte

タイフーンECR/SEAD、F-35A、CH-47F、プーマ歩兵戦闘車、PzH2000の調達削減は避けられた格好

ドイツが今後4年間に支出する国防費は実質横ばいになることが想定されており、2023年度の国防費も約501億ユーロなのでNATOが掲げるGDP比2.0%の目標に届かないが、ロシアのウクライナ侵攻を受けてショルツ首相が創設したドイツ軍特別基金(1,000億ユーロ)の支出を合わせるとGDP比2.0%をクリアできるらしい。

出典:Lockheed Martin

この基金の運用は2028年までという制約があるものの国防費とは別財源で、ドイツ国防省は軍近代化のため基金の資金を自由に使うことを許されており、戦闘機、艦艇、UCAV、ミサイル防衛システム、弾薬調達などに投資する計画だが、急激なインフレとドル高の影響で予定されていた軍近代化計画を全て実行に移すと1,000億ユーロでは足りなく足りないことが判明。

現地メディアは「政府が幾つかのプロジェクトを中止もしくは調達規模の削減に動いている」と報じていたが、どうやらFuchs APC更新プログラムの一時停止、近接防空システム「NNbs」の開発資金20億ユーロを10億ユーロに削減、F-126フリゲートの調達数を6隻→4隻に削減、ブラウンシュヴァイク級コルベットの後継プログラムに割り当てられた24億ユーロを全額カット、潜水艦向けの対空防御システム「IDAS」の導入延期、P-8の調達数を12機→8機に削減するらしい。

出典:IDAS Consortium

噂されていたタイフーンECR/SEAD、F-35A、CH-47F、プーマ歩兵戦闘車、PzH2000(ウクライナ提供で減少した陸軍在庫のギャップを埋めるための発注)の調達削減は避けられた格好だが、削減の影響が陸軍と海軍に集中しているので「空軍の一人勝ち」と言える。

関連記事:インフレとドル高がドイツ軍近代化計画を直撃、政府は中止や削減を協議中

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S Navy photo by Personnel Specialist 1st Class Anthony Petry

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コメント

    • 戦略眼
    • 2022年 10月 30日

    円安でP-1がお買い得だよー。

    44
      • Abuq9qoh
      • 2022年 10月 30日

      円安だろうが、信頼性ゼロの商品は売れないだろう

      7
        • あまつ
        • 2022年 10月 30日

        脱出成功率0%のT-50が売れてるんだから関係ないよ。

        21
      • ブルーピーコック
      • 2022年 10月 30日

      円安だと高値で売るこっちが有利ですし、ついでに言うと3年前までユーロ円は140円くらいだったので、今年の2月頃はともかく今の146円だとあまりお得感が・・・

      3
      • samo
      • 2022年 10月 30日

      対ユーロだと、さほど円安になってない。
      円安というより、米ドルが突出して高くなっている超ドル高状態が認識としては正しい。

      もっとも、つまるところは米国製が超絶高騰しているのはその通りなので、
      P-8と比較してP-1にお得感が出るのはその通りだと思う

      15
    • 匿名
    • 2022年 10月 30日

    ドイツ空軍は予算を巡る暗闘で勝ったのか、
    それとも本当に現状が深刻すぎて削れもしない状態だったのか評価に悩む感じですね

    20
      • けい2020
      • 2022年 10月 30日

      トーネードとユーロファイターの稼働率を上げるには、サプライチェーンの再構築からの上に
      空軍は新型機導入は進められそうだけど、維持費について考えているのかどうか、、

      6
    • news
    • 2022年 10月 30日

    日本もあまりに釣り上がるなら計画見直したほうがいいかもそれんぞ。
    流石に円安がすぎる。
    まじで防衛費全部持ってかれる。

    43
      • samo
      • 2022年 10月 30日

      とはいっても、今のウクライナへの武器供与の重要性を鑑みると、
      国産一辺倒、米国製抜きだと有事の際一番困ったことになるのも間違いない。
      米国の工業力に頼れなくなるというのは、安全保障上問題。

      2
        • HY
        • 2022年 10月 30日

         相互運用性を確保した国産を作ればOK。

        1
        • news
        • 2022年 10月 30日

        0か100かの話ではないので、、、

        3
          • samo
          • 2022年 10月 30日

          比率の問題であるのなら、国産も含めた米国製以外の物の比率を上げる調達によって対策とするのは賛成ですね。
          ただし、一定数量は必ず米国製を導入しておいて、平時での訓練の浸透を欠かさないように。
          それであれば、万が一の有事の際の武器提供も、保守環境整備もいらなければ訓練なしに供給武器で継戦が可能になるので。

          3
    • 折口
    • 2022年 10月 30日

    欧州全体で見た時ドイツに一番求められてるのは空軍力の提供ですしね(陸海軍力を削減していいという意味ではない)。ロシアの軍事的な到達限界点がウクライナ西部にも達しないことが明らかになった以上、陸種はポーランドやバルトやアメリカに任せるのは正しい妥協の仕方だと思います。

    32
    • 千葉の猫
    • 2022年 10月 30日

    海はフィンランドとスウェーデンのNATO加入でバルト海がNATOの海になっちゃったからなぁ・・・
    ロシアはサンクトペテルブルク(かつてのレニングラード)と飛び地カリーニングラードがあるけどそこの防備だけで当面は一杯一杯だと見てるのかな

    17
    • 無無
    • 2022年 10月 30日

    ウクライナ支援にも影響は避けられまい
    ロシアによる資源輸出制限や小麦を押さえる飢餓作戦がじわじわと西側をくじくのに効果ありという結果になると、
    まだこの戦争は五分五分の段階なのだと腹を据える必要を感じる

    3
    • あさり
    • 2022年 10月 30日

    ドル高にはいつか終わりが来ると思うんですがそうなったらまた計画見直すんですかね?
    逆にユーロ高になったら調達数を増やすのだろうか

    12
    • チェンバレン
    • 2022年 10月 30日

    軍備を縮小し一時的な繁栄を謳歌したが、結局は高くついたな

    経済も国際政治も、防衛力によってのみ保証されるということ
    ファシストの言うことは信じてはいけないということ

    勉強になったかねドイツ国民の諸君?

    4
    • Abc
    • 2022年 10月 30日

    > 経済も国際政治も、防衛力によってのみ保証されるということ

    逆だと思います
    今回ロシアの軍備の立ち遅れぶりが明らかになった訳ですが、つまるところ、それはロシアの経済的、技術的立ち遅れに起因するものだと思います
    過去の軍事と石油・ガス頼みの産業構造から抜け出せなかった

    3
    • 一般人
    • 2022年 10月 31日

    まあ実際主敵であるロシアは思った以上に弱かったうえに今回の戦争でかなり消耗しましたからね。
    ドイツ軍としては急いで防衛力整備をする必要はないのでしょう

    • makumaku
    • 2022年 11月 01日

    ロシアの今後については言わずもがなだが、ドイツは中国の今後についても心配していることは疑いない。ドイツはウクライナ戦争を終結させて、1日も早く国内経済を回復させたいが、立て続けに中国にも戦争を始められれば、ドイツ経済は計り知れないダメージに見舞われる。
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