欧州諸国が調達を検討している多連装ロケットシステムにはRheinmetallとLockheed Martinが提案するGMARS、KNDSとElbitが提案するEuroPULS、Hanwha Aerospaceが提案するChunmooが名乗りを挙げた格好で、どのシステムが支持されるのか注目が集まっている。
参考:French-German KNDS Unveils EuroPULS GTF 8X8 MLRS Rocket Launcher to Rival American M142 HIMARS.
GMLRSとEuroPULSで勢力が分割されるか、GMLRS、EuroPULS、Chunmooの三つ巴になるか
欧州ではロシア軍によるウクライナ侵攻を受けて「大規模な地上戦が再び欧州で発生する可能性」と「高度な防空システムの普及で接近拒否が成立する可能性」を認識、そのため航空戦力に依存した火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しており、伝統的な榴弾砲、自走砲、多連装ロケットシステムなどが再評価されている。

出典:Cpl Jamie Peters RLC/OGL v1.0
ドイツ、フランス、スウェーデン、ポーランド、ノルウェー、スロバキア、セルビアなどは独自の砲兵システムに投資し続けてきたため、自走砲の選択肢(PZH2000、RCH155、Caesar、ARCHER、DANA、Zuzana、Zuzana2、Nora B-52)は多彩だが、欧州諸国は多連装ロケットシステムとロケット弾に米国製(MLRSとM26/M30)を採用したため独自のシステムが存在せず、MLRSのインフラを流用できるHIMARSに注目が集まっている。
ポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、イタリアはHIMARSを選択したものの、MLRSと同等の瞬発的な投射火力を求めるデンマーク、ドイツ(ウクライナに提供したMLRSの穴埋め分)、オランダ、スペインはイスラエル製のPULSを選択、ポーランドもMLRSと同等の投射火力を発揮できる韓国製のChunmooを取得しており、このニーズに応えるためRheinmetallとLockheed MartinはMLRSと同じ=ロケット弾を装填したポッドを2基搭載するGMARS開発を発表。
Eurosatory 2024でRheinmetallとLockheed MartinはGMARSの実機を公開して注目を集めていたが、この裏でKNDSとElbitも昨年9月に合意していたEuroPULS(欧州版PULS)の実機をを展示し、欧州諸国が調達を検討している多連装ロケットシステムを巡ってGMLRS、EuroPULS、Chunmooが激突する格好だ。
GMARSにはLockheed Martin製のGMLRS、ER-GMLRS、ATACMS、PrSMが、EuroPULSにはElbit製のACCULAR、EXTRA、PREDATOR HAWK、SkyStiker、Kongsberg製のNSM、MBDA製のJFSMが、ChunmooにはHanwha Aerospace製の130mmロケット弾、239mmミサイル、400mm弾道ミサイル、600mm弾道ミサイルが統合されるため、攻撃手段の多彩さや射程において大きな違いはなく、3者とも顧客のニーズに合わせて好みの兵器統合にも応じる構えだ。

出典:KNDS EuroPULS
HIMARSと同じロケット弾を使用するGMARSには複数の欧州諸国が関心を示しており、フランスはMLRSの後継にEuroPULSを選択する可能性が高いものの、SafranとThaleはEurosatory 2024で「フランス軍の需要に応えるため独自の多連装ロケットシステム(詳細不明)を開発している」と明かしているため、ドイツはGMARSとEuroPULSの間で、フランスはEuroPULSと国産システムの間で悩むことになるだろう。
Hanwha AerospaceもEurosatory 2024で「Chunmooは納期と価格で競合より優位性がある」「Chunmooは固有のプラットフォームに依存しないため顧客の希望する独自のプラットフォームに統合可能だ」「ノルウェーとスウェーデンに輸出機会があると見ている」「システムの95%以上が韓国国内で生産されているため国際的な部品供給の問題に直面しておらず、これらの国が望んでいる2030年までの引き渡しを確実に実現出来る」と競合を牽制しており、ブラジルのAvibrasもAstrosIIの欧州市場への進出を狙っている。

出典:Michał Derela/CC BY-SA 4.0 Chunmoo
恐らく1つのシステムが欧州市場を制覇することはなく、GMLRSとEuroPULSで勢力が分割されるか、GMLRS、EuroPULS、Chunmooの三つ巴になるかのどちらかだと思うが、大雑把に言えばGMARSは実戦を経験した米国製システムがベース、EuroPULSは実戦経験という点でGMARSに劣るものの米国の制限を受けない、Chunmooは米国の制限を受けず技術移転に寛容で、どれを欧州諸国が選ぶのか非常に興味深い。
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※アイキャッチ画像の出典:KNDS EuroPULS
多連装ロケットシステムは、瞬間火力・面制圧力だけでなく、戦場の環境に適していると言えます。
ドローンによる偵察能力向上を考えれば、全弾発射~移動~再装填の時間が短いのは、非常に魅力的ですからね。
BM21グラートが、ウクライナ=ロシア双方で活躍を続けているのも、大量生産されたうえに上記のような理由があるのでしょう。
発射機も重要だけれども、何を撃つつもりかな。
独自の物を撃つならば、今のMLRS発射コンテナの中身だけを交換可能にしては。
イスラエルなどはそうしていますね。発射機が同じなら、米国製の弾も撃てますし。
対ロシアで、どれほどの時間があるかも判らないのですから。
イスラエルでは、独自の弾を米国規格のコンテナに納めていますね。
イスラエルのやり方が、一番、お金も時間もかからないのでは?。
多連装ロケット砲もだけど、ドローン(各種無人機)や電子戦部隊を各国ともに大再編してるのも注目かなぁ、と。
トルコ、エジプト、韓国なんかは師団ー連隊だったのを師団ー歩兵旅団・砲兵旅団・各兵科大隊へと再編してるけど、ウクライナ侵攻の影響で再編計画の変更、再編スピードそのものの加速が顕著ですね。
にしても各師団に全般支援砲兵、電子戦、各種無人機、情報偵察の部隊まで含めて1個師団約2万5千人とは…
地理的条件の違いもあるとはいえ部隊の人員規模的には大戦期に戻りつつありますね。