欧州では航空戦力に偏っていた火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しており、エルビット・システムズは4月6日「ギリシャからPULS供給契約を6.5億ユーロで獲得した」と発表、ブルガリアでも予定していたHIMARS調達をEuroPULS(MARS-3)に切り替える動きが観測されている。
参考:Israeli defense company signs €650 mln deal with Greece
参考:Greece inks $750M deal with Israel for Elbit’s PULS Rocket Artillery Systems
参考:Bulgaria Bolsters Arsenal with 12 Advanced MARS 3 Rocket Launchers from German-Israeli Deal
参考:Der europäische Sonderweg bei der weitreichenden Bewaffnung
米国以外の国が「将来の競合を育てるだけなので技術移転には反対だ」と叫んだところで「じゃ、どうやって輸出市場で戦うの?」となる
欧州はウクライナとロシアの戦争を目の当たりにして「大規模な地上戦が再び欧州で発生する可能性」と「高度な防空システムの普及で接近拒否が成立する可能性」を認識し、航空戦力に偏っていた火力投射能力を地上戦力に戻す動きが加速しており、伝統的な榴弾砲、自走砲、多連装ロケットシステムなどが再評価されている。
| 欧州諸国の多連装ロケットシステムの導入動向(枠組み合意の数字/ドイツのEuroPULSは調達予定数/スウェーデンは見込み) | ||
| 国 | 種類 | 数量 |
| ポーランド | HIMARS | 486両 |
| Chunmoo | 290両 | |
| エストニア | HIMARS | 6両 |
| Chunmoo | 6両 | |
| ラトビア | HIMARS | 6両 |
| リトアニア | HIMARS | 8両 |
| イタリア | HIMARS | 21両 |
| ルーマニア | HIMARS | 54両 |
| スウェーデン | HIMARS? | 20両? |
| オランダ | PULS | 20両 |
| ドイツ | PULS | 5両 |
| EuroPULS | 250両 | |
| ブルガリア | EuroPULS? | 12両? |
| ギリシャ | PULS | 推定36両~40両 |
| デンマーク | PULS | 8両 |
| ノルウェー | Chunmoo | 16両 |
| フランス | 国産開発 | 13両 |
砲兵システムに関しては欧州独自の選択肢が存在するものの、多連装ロケットシステムについては独自のシステムがないため米国製のHIMARS、イスラエル製のPULS、韓国製のChunmooに人気が集中し、ポーランドとエストニアはHIMARSとChunmooを並行導入、ラトビア、リトアニア、イタリア、ルーマニアはHIMARS導入、オランダ、デンマーク、スペインはPULS導入、ノルウェーはChunmoo導入を決めた。
ただし、スペインはガザ地区での軍事作戦を理由にPULS導入をキャンセル、ドイツはウクライナへのMLRS(MARS-2)提供分を穴埋めするためPULSの少数導入を決め、KNDS Deutschlandとエルビット・システムズが提案するPULSの技術を流用したEuroPULS(MARS-3=PULSの技術を流用した欧州生産バージョン)を250両発注する予定で、フランスは独自の多連装ロケットシステムとエコシステムを1から立ち上げる可能性が高い。

出典:Ministerie van Defensie/CC BY-SA 4.0
エルビット・システムズは4月6日「ギリシャからPULS供給契約を6.5億ユーロで獲得した」と発表、ギリシャメディアの報道によればギリシャ陸軍が要求していたPULSの数量は40両(議会承認は36両)だが、エルビット・システムズの発表に取引数量について言及がないため、36両~40両という数字は飽くまで推定だ。
ブルガリアも2023年に承認した今後10年間をカバーする国防投資計画(2023年~2032年)の中でHIMARS導入を明記していたが、ブルガリアメディアのNoviniteは「検討していたHIMARS導入は納期が非常に長いため、欧州調達計画の枠組みを利用してMARS-3を12両調達することになった。この調達資金はSecurity Action for Europe(EUが加盟国の再軍備を加速させるため融資条件が有利な資金供給のこと)のメカニズムに基づくEU融資で賄われる」と報じており、これが事実ならEuroPULSはドイツ以外の顧客を初めて獲得することになる。
ドイツ軍は最大500両分のMARS-3発注に向けた枠組み合意を行う予定で、そのうちの250両はドイツ軍向け、残りの250両はドイツ軍と同じ条件でMARS-3発注を希望する同盟国向けになり、つまりブルガリアはSAFE融資を利用しドイツ軍と同じ条件でMARS-3を取得するという意味だろう。
ちなみに、ドイツのディフェンスメディア=hartpunktは多連装ロケットシステムで使用する戦術弾道ミサイルについて「欧州の弾道ミサイル調達はほぼ米国と韓国に依存している」「現時点で欧州のどの国も通常弾頭を搭載する独自の弾道ミサイルを運用しておらず、新たな運用開始の見込みもない」「ラトビア、リトアニア、エストニアは米国からATACMS売却が承認されたが、ノルウエーが要請したATACMSの後継ミサイル=PrSM売却を拒否したためバルト三国はPrSMの短期的な納入を期待できない」「ノルウエーとポーランドは射程300kmのCTM-290を運用可能な韓国製システムを発注している」と指摘。

出典:U.S. Army photo by Sgt. Asher Atkinson
ポーランドも2023年9月に「HIMARS×486両(Homar-A)調達に関する枠組み協定」を締結したが、米政府がGMLRS国産化に必要な技術移転に同意しないため、枠組み協定に基づいた最初の契約交渉(HIMARSランチャー100基前後の調達)が行き詰まって正式契約に進めず、ポーランドのディフェンスメディア=Defence24は「韓国の技術移転によるHomar-K調達や使用弾薬の国産化は順調に進んでいるが、Homar-Aは計画全体が危機に瀕している」と報じたことがある。
欧州の温度感で言えば「イスラエルも韓国も顧客の要望に応じて物理的に可能な弾薬統合に応じてくれるのに米国は自国製弾薬以外の統合を認めない」となり、何を条件にするかは米国の自由だが、輸出市場のスタンダードは「弾薬統合の自由」なので今後もPULSやChunmooはシェアを伸ばしてくことが予想され、運用国の増加に伴いサプライチェーンやエコシステムも強靭化するため、両システムの魅力はどんどん高まるだろう。

出典:Ministerstwo Obrony Narodowej
米国は輸出市場のスタンダードに従わなくても「強力な軍事力を背景にした安全保障」でゴリ押しすることができ、米国以外の国は同じ売り方を真似できないため「サプライチェーンやエコシステムを共有して利益を分かち合う方式」を追求しており、米国以外の国が「将来の競合を育てるだけなので技術移転には反対だ」と叫んだところで「じゃ、どうやって輸出市場で戦うの?」となる。
競合が存在する防衛装備の輸出を左右するのは「性能」ではなく装備調達への投資に対する産業的恩恵、雇用創出、技術移転、整備権限、サプライチェーンへの参入、金融支援といった要素のパッケージ化であり、日本が防衛装備の輸出アプローチを参考にするなら米国ではなく韓国だ。
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※アイキャッチ画像の出典:KNDS Deutschland





















>日本が防衛装備の輸出アプローチを参考にするなら米国ではなく韓国だ
その分野での商売がヘタなら、商売が上手い連中を参考にした方が良いのはそう
アメリカのはプルゴリ方式なんで、素人が真似たらダメだ
長期ならともかくぶっちゃけ日本が短中期でそこまでして売りたいものあります?
国家方針で軍需産業を国家の屋台骨にした韓国見習ったって何も参考にならんと思うし、まだアメリカの輸出管理とかサポート含めた包括パッケージを勉強したほうが
まず韓国経済の屋台骨は輸出指向型の産業で、その中に軍需が含まれている、というだけだ
その他にもサービス産業や観光業とか、色々な産業が複合的に経済を支えている
その結果、先端技術をも含めた軍事技術の結晶として、兵器や武器を売り込め、同時にサービスや産業基盤の整備も出来るというだけの話
そしてアメリカの輸出管理パッケージやサポートは、結局重要な部分がブラックボックス化されていて、メンテナンスや補修の度に金が巻き上げられる事になる
三沢でもレイセオン社の社員が出張しに来て居たりする
そんなのもうウケないよ、というのはこのブログで散々書かれて来た事では?
でしたら実際何売るんですか? と書いています
ウケるとかウケない以前に、そもそも日本には細々としたものとかお古を除いて、海外に売れる物と言ったら艦艇かGCAPくらいしか無いと考えてるのが私の意見です
もがみ型は第三国移転には日本の同意が必要ですし、GCAPの非GIGO国向け輸出は確実にもがみ型より厳しくなるでしょう
コアまで開示、輸出国先で生産して海外への転移もOKは機密的にも政治的にも現状の日本では困難で、そこで韓国のやり方を習っても(韓国と同じやり方だと)売るものが無い、機密的にも政治的にも難しいじゃ意味がありません
だったらまずは、いかにオフセットが優れてるか技術移転が優れてるかを考慮する相手よりも、政治や性能を求める相手に売って経験を積んでいくしか無いのでは
陸上兵器だと地対空ミサイルや対艦ミサイルも売れると思いますが?
フィリピンが03式に興味を示しているようですし。
アメリカがやっている売り手側優位の兵器販売を日本が実施出来るとは到底思えませんけどね。
このサイトの記事ばっかり見てると勘違いしがちですけど、FMSは殿様商売が本質ではなく、兵器購入から購入後のサポート、システムへの統合、輸出関連の法規なんかの調整まで含めた包括的な契約システムなのでそこを見習うべきと言っています
その辺の包括的な契約システムを見習うと輸出市場でどう有利なるのか具体的に説明してみ
経団連も政府に「日本版FMS制度」の創設を提言をしています。
厳格な管理を要する高度な完成装備品については、政府間(Government to Government: G to G)の移転が基本となるため、それを円滑に進める為ですね。
>兵器購入から購入後のサポート、システムへの統合、輸出関連の法規なんかの調整
これらは兵器輸出をする上では当然するべき事なのでは?
これらを行った上で技術移転や現地生産などの導入国にメリットが有る契約を結ぶのでは?
それとも例えば韓国などは
>兵器購入から購入後のサポート、システムへの統合、輸出関連の法規なんかの調整
を行っていないと主張するのでしょうか?
過去の発言を見ると、FMSを擁護したい強いバイアスを感じるのは勘違いでしょうか。
この辺は議論の余地があると思います。
短中期的にはそうだと思います。
政府が今、最優先してるのは国内兵器サプライチェーンの保護、育成です。
近年多くの企業が国内のサプライチェーンを離脱した為、増え続ける国内需要に供給側(企業)が追い付いてないのが現状です。
企業側としては輸出なんてやってる余裕はないといったところでしょうか。
政府としては利益率、調達の不透明な部分、取引方法等の見直しやっており生産基盤の強化が当面の目標です。
この辺が整わないとそもそも韓国を見習えとうい段階にならないですよね。
後は一番大事な事ですが、日本政府は防衛装備移転についてなんの方針も出せていません。
おそらく国内世論を気にしてでしょうけど、将来的な防衛装備移転についてなにも明確になってないんですよ。防衛装備品を産業の柱として輸出拡大していきたいのか、それとも国内需要を満たすだけのサプライチェーンを維持するだけなのか。共同開発をメインでやっていきたいのか。
国の政策として、政府が統一的な「防衛装備移転戦略・基本計画」を策定しないとなにも始まらないですよね。
トランプ大統領はNATO離脱を検討しているらしいけど、仮にアメリカがNATOから離脱したらヨーロッパではアメリカ製兵器は売れなくなるのでは?少なくとも記事にあるような「強力な軍事力を背景にした安全保障」でゴリ押しと言うのは難しくなりそうですけど。
米国も新興企業が無人機やら低価格巡航ミサイルやらやり出してるからしれっと低価格ロケット砲システムとか作りそう、彼ら身内どうしで割と潰しあいますよね。米軍が採用しようもんならあっさり諸外国も手のひら返しそう。
日本も海外インフラを多く受注してる国なので
>産業的恩恵、雇用創出、技術移転、整備権限、サプライチェーンへの参入、金融支援といった要素のパッケージ化
については充分ノウハウを持っていると思いますので、後はそれをどうやって防衛産業に落とし込むことが出来るかですね。
5類型も撤廃されますし、政財官合わせて防衛装備品の輸出に関しての意識も変わっていくと思いますのでやっとスタート地点立った状態です。
日本の強みを生かすなら、GPIのようなアメリカとの共同開発、GCAPを足掛かりにしたCCA,空対空ミサイル、空対艦ミサイルの共同開発等、兵器その物を売るよりはこっちなのかなとも思います。
HIMARS(アメリカ製)さすがに外交面での不透明感が、どうしても足を引っ張るのでしょうね。
HIMARSは、『発射プラットフォームを売るビジネス』ですから、弾薬によっては外交的な機微(首都を射程)にふれます。
製造国が外交重視しすぎれば、『幅広い射程がデメリット』として足を引っ張るので、大国・地域対抗を仮想敵国とする国には向いていないのかもしれませんね。
日本の武器輸出、技術移転あまり気にするようなものないと考えてまして。
どうせ他国が、ドンドン技術移転するわけですから気にせず武器売って、輸出国との信頼関係を深めていけばよかったと思うんですよね。
追記です
地域大国
>地域対抗