欧州関連

反トルコ同盟構築を目指すギリシャ、アラブ首長国連邦と軍事協定を締結

ギリシャとアラブ首長国連邦は今月18日、対トルコを想定した軍事協定に調印して注目を集めている。

参考:Greece, UAE Sign Defence Agreement, Turkey Livid

インドに続きトルコと犬猿の仲のアラブ首長国連邦がギリシャと手を結ぶ

東地中海上の排他的経済水域(EEZ)問題でトルコと対立中のギリシャはNATOやEUから期待するほどの支持と援護が受けられない現実に直面、域外の国との関係強化に動いている。

多くのNATO加盟国は東地中海問題に関して表向きギリシャを支持しているものの、米国に次ぐ規模を誇る軍隊(常備兵力35.5万人+予備兵力38万人)とロシア黒海艦隊の地中海進出阻止に貢献しているトルコと対立するような対応を行うのは不可能で「ギリシャを支持しながらもトルコへの明確な非難を行わない」という曖昧な対応でお茶を濁しており、EUもトルコ向けの軍事物資輸出で国内防衛産業が潤っている加盟国が少なくためギリシャが要請したトルコへの経済制裁には概ね反対の立場だ。

出典:Millî Savunma Bakanlığı

トルコに対して口先だけではなく行動を起こそう主張する国は東地中海問題で影響を受けるギリシャやキプロスを除くとフランス、オーストリア、スロベニアぐらいしかない。

この状況をさらに複雑にしているのがNATOやEU加盟国以外からのトルコ支持で2ヶ国間の軍事協定を締結しているアゼルバイジャン、パキスタン、ウクライナ、リビアなどが東地中海問題でトルコ支持を明確に表明しており、多国間の2ヶ国間の軍事協定を持たないギリシャとしては非常に苦しい状況だ。

要するに複数の国で構成されたNATOやEUなどは「共通の脅威」に対して大きな抑止力を発揮するものの、加盟国同士の争いや一部の加盟国のみが受ける脅威については多国間で構成された意思決定プロセスが逆方向に作用して力を発揮できず、トルコが複数の国と締結している2ヶ国間の軍事協定の方が意思決定のプロセスがシンプルで効果が高いという逆転現象にギリシャは焦っているだ。

2ヶ国間の軍事協定を持たないギリシャは先月29日にはトルコを支持するパキスタンの宿敵インドと軍事協力を強化することで合意することに成功、今月18日にはギリシャのミツォタキス首相がアラブ首長国連邦(UAE)を訪問して対トルコを目的にした軍事協定を締結して注目を集めている。

UAEは2016年に発生したトルコのエルドアン大統領に対するクーデターを支持したといわれており、2017年のカタール外交危機の際はトルコがカタール支援に回るなど多くの事案(シリア内戦/リビア内戦/イエメン内戦など)で両国は対立関係にあるため、東地中海問題でトルコと対立するギリシャとは「共通の脅威」で結ばれている関係だ。

実際、東地中海問題が勃発した今年8月にUAEはギリシャにF-16Eを派遣して「ギリシャ支持」を打ち出しており、今回の軍事協定締結は驚くような話ではないがトルコからすれば面倒くさい相手が手を結んだと思っているだろう。

次にギリシャが反トルコ同盟構築に誘いをかけるのは恐らくEEZ問題で共闘するエジプトかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:ミツォタキス首相のツイート

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 11月 24日

    フランスはNATOの軍事から抜けてる上に東地中海に対した権益を残してないからなあ

    2
      • 匿名
      • 2020年 11月 24日

      フランスは頼りにならんでしょうね
      それよりも、イタリアはNATO抜きにしても対ロシア・対トルコの抑止力を育てないと国の未来もおぼつかないのに、全く存在感が見えないことが気になります
      何やってるんですかねえ・・・

      11
        • 匿名
        • 2020年 11月 24日

        ベーシックインカムに年金支給年齢引き下げで財政がヤバくなる見通しになった所へコロナの直撃でもう何かするカネと余裕がないのではないかな

        9
    • 匿名
    • 2020年 11月 24日

    サウジアラビアにしては何も無い部屋だと思ったら、社会的距離を空けてるのか

    2
    • 匿名
    • 2020年 11月 24日

    中東情勢は何ともややこしい・・・
    A国はB国の支持を打ち出してるからA国の同盟国であるC国もB国の支持かな、
    と単純な2大対立構図を作っていくと、
    えっ?因縁のあるこいつらが同陣営になるのかよって組み合わせになる
    なもんでそういう大同盟的には発展しないか

    6
      • 匿名
      • 2020年 11月 24日

      ユダヤ教とイスラム教、スンニ派とシーア派、国境を接している同士はあまり仲良くないことが多い
      といった整理し辛い対立軸が複数あるので、仕方が無いでしょう
      応仁の乱よりはマシと思うしかないですね

      3
      • 匿名
      • 2020年 11月 25日

      ほんとにね
      ニュースをちょこっと追ってる程度じゃワケワカラン

      3
    • 匿名
    • 2020年 11月 24日

    >2ヶ国間の軍事協定を持たないギリシャは先月29日にはトルコを支持するパキスタンの宿敵インドと軍事協力を強化することで合意することに成功、今月18日にはギリシャのミツォタキス首相がアラブ首長国連邦(UAE)を訪問して対トルコを目的にした軍事協定を締結して注目を集めている。

    近接する対立国(もしくは敵対国)への対抗上、少しでも組める国と協定を結んだり軍事協力をする流れが既にできている。
    世界の警察を自認していたアメリカがその役割を降りたことで以前では無かった自国の利益を優先する国が増えている気がする。
    軍事というより、より大きな対立の構造が作られているような。この先どうなるかが少し不安。。

    戦略としては自国と価値観が近く、より強い国と早く組んだ国が勝ち残るということか。
    駄コメ失礼。

    4
      • 匿名
      • 2020年 11月 25日

      アメリカの描いた大きな絵図に近づきつつあるようにも見えますが
      いつの間にか敵が変換されてて、気がついたらイスラエルを容認する状態に運ばれてる国が増えますよ

      4
    • 匿名
    • 2020年 11月 24日

    スロベニアの権益ってあそこ海軍あったっけ…?

    • 匿名
    • 2020年 11月 25日

    トルコ包囲網、イラン包囲網、中国包囲網
    そろそろ第三次大戦の時間かな

    3
      • 匿名
      • 2020年 11月 25日

      トルコ、イラン、中国はすぐにでも同盟組める関係だからね、むしろ敵を大きくしかねない危うさに気がつこう

      4
        • 匿名
        • 2020年 11月 25日

        対立陣営が大きいからこそだろ
        トルコ、イラン、中国がそれぞれ単独で敵対同盟と開戦しても地域戦争止まりで第三次世界大戦とはならん

        1
        • 匿名
        • 2020年 11月 26日

        問題はトルコ、イラン、中国が結んだとして中国だけ遠すぎてシナジーがなさそうなところだよねぇ。日独伊三国同盟に似てる感じ。

        3
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