ギリシャはエーゲ海上空の優位性がトルコに傾くことを恐れており、ギリシャメディアは23日「米国は最近『同じNATO加盟国に対する安全保障分野での対等性』という概念が導入した」「もはやトルコのF-35プログラム復帰がエーゲ海の軍事バランスを損なうとは考えていない」と報じた。
参考:US sends mixed signals over F-35s for Turkey
ラファールとミーティアの組み合わせ、トルコが保有していない第5世代の能力=F-35Aは技術的な優位性をギリシャに保証するだけ
ギリシャとトルコの間にはキプロス問題、エーゲ海の領海・領空問題、東地中海の排他的経済水域問題など多くの対立点が存在し、2020年にトルコが「自国のEEZ圏内」と主張する海域で油田の掘削調査を始めると両国の緊張は武力衝突寸前まで高まったが、トルコは航空戦力の近代化でギリシャの先行を許している状況だ。

出典:SAC Helen Farrer RAF Mobile News Team / OGL v1.0
ギリシャはF-16C/Dのアップグレード、ラファールの導入、F-35Aの取得契約を締結、これに対してトルコのF-35A取得はS-400導入で行き詰まり、F-16C/Dのアップグレードも米議会に対するギリシャのロビー活動に妨害され、特にラファールとミーティアの組み合わせはF-16C/DとAIM-120の組み合わせが提供する能力を上回るため「エーゲ海上空の優位性はギリシャ有利」と評されていたものの、トルコはスウェーデンとフィンランドのNATO加盟を利用して米国から「F-16V新造機×40機売却」と「既存機をV仕様にアップグレードするためキット80機分売却」を引き出すことに成功。
さらに米国への依存度を引き下げるため新規取得するF-16Vをタイフーンに置き換える交渉も進められており、トルコ輸出に否定だったドイツも交渉を許可したため、ギリシャはタイフーンの能力を制限する方向で外交努力を開始し、フランスにミーティア売却を認めないでほしいと要請したものの拒否され「武器生産国はギリシャの防衛ニーズよりも経済的利益を優先するため欧州に防衛の連帯は事実上存在しない」と嘆いていたが、ドイツはエルドアン大統領の政敵=イスタンブール市長逮捕を受けてタイフーン輸出を阻止する方向に方針を転換。

出典:U.S. Air Force photo by William R. Lewis
ギリシャは二ヶ国間の安全保障協定を締結したフランスに期待して失望したものの、最終的にドイツから希望がやって来た格好だが、今度は大西洋の対岸から重大な懸念がやって来た。
ギリシャメディア=Η Καθημερινήは23日「米国はトルコに対するギリシャの質的優位性を維持することに重点を置いていたが、最近行われた米国とギリシャの協議には『同じNATO加盟国に対する安全保障分野での対等性』という概念が導入された」「米国防総省もトルコのF-35プログラム復帰の可能性がエーゲ海の軍事バランスを損なうとは考えていない」「この件についてホワイトハウスはトランプ大統領とネタニヤフ首相の会談(イスラエルはトルコへのF-35売却に反対)に言及した」「米国の態度は曖昧で最終的な決定はエルドアン大統領との個人的な結びつきが強いトランプ大統領の意思にかかっている」と報じた。

出典:Trump White House Archived
要するに「敵対者に対する制裁措置法」「F-35とS-400の同時運用」「イスラエルの懸念」といった問題は「従来の概念に縛られないトランプ大統領の決定」「エルドアン大統領との個人的な結びつき」によって覆される可能性があり、Η Καθημερινήは「トランプ大統領に『東地中海における米国の好ましいパートナーとしてのギリシャの役割』を認識させる必要がある」「そのため長期的な外交上の努力が必要だ」と指摘しているため、再び米議会に対するギリシャのロビー活動が活発化するかもしれない。
因みにラファールとミーティアの組み合わせ、トルコが保有していない第5世代の能力=F-35Aは技術的な優位性をギリシャに保証するだけで、ウクライナでも「特定の武器システムのみで戦争の流れは変わらない」と証明されており、エーゲ海上空の優位性も実際には航空戦力の質と能力だけで決まるわけではない。
関連記事:トルコへのタイフーン輸出頓挫、英国のTranche1後継機問題が複雑化
関連記事:ギリシャが新国防戦略を発表、現在の戦争は我々が想定していたものと異なる
関連記事:勝手に期待して失望するギリシャ、欧州に防衛の連帯は事実上存在しない
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Matthew Arachik
ギリシャのGDPは、四国より大きく九州より小さい程度なうえに、人口1000万人程度なので市場に魅力がありません。
トルコは、ウクライナ戦争仲介・シリア新政権発足でも大きな存在感を見せていて、ギリシャが張り合い続けるのは無理があるのかなと感じています。
トルコ程ではないがギリシャ軍もそれなりの予算がある上に、トルコと違ってほぼ外国製頼みなので新規開拓できる市場としては普通にアリでは?
ギリシャってEU内での経済的お荷物の筆頭だった気がするけど、どこまで軍事予算あるんだろうか…
外務省HPに、ミリタリーバンス2023のデータとして、52億ドルと記載がありますね。
兵器単独として見れば、仰る通り、それなりにありなわけですが…
2国間を天秤にかけるとき、民間経済まで見据えれば、経済力の旨味・人口の魅力は大きいんですよね。
人口が多ければ、製造拠点としても考慮できるうえに、国内市場の開拓も外資系企業にとっては旨味があります。
ギリシャとしては、NATO諸国の中立は大前提として、外部に味方を探すしか無いんじゃないですかね。
まあ、トルコの仮想的ってギリシャ以外だとロシアとイランですから、NATOに加盟したままここらへんの国の協力を得られるかというと、限りなく怪しいですが…。
軍事、経済、外交、全てで詰んでる感じがしますね。
トルコの戦力強化を望まずかつ組んでもアメリカが怒らない国となると
記事中にも名前の出てくるイスラエルぐらいですかね。イスラエルの側に旨味があるかは分からないですが
ロシア牽制のためにもトルコには一定の実力を保持していてほしいので
ギリシャも妨害はほどほどのところでトルコと関係安定化させる方向でも努力してほしいです。
エルドアンとトランプは仲良しだったのか。
アナドルにF-35Bが載る日は、近いかな。
エルドアンとネタニヤフとトランプの関係がイマイチよく分からん…
特にトルコとイスラエルってことあるごとに口撃しあう割に、シリア、コーカサスと仲良くやってるイメージがあるんだが…もう中東情勢がよく分からん。
まあこうやって付かず離れずの外交姿勢は向こうじゃ常識なんだろな
仮に衝突が起きた時にトルコのUCAVが活躍するような状況を許すなら巡航ミサイル攻撃含めてかなり酷い目にあうんだろうなとは思う。F-35が無くとも将来的にトルコ有人無人戦力強化が上手くいくなら制空権は微妙。、軍事バランスの明日がどう転ぶかなんて分からないから、自国で安全保障を切り開くぐらいの気構えで行かないと駄目じゃないだろうか。