欧州関連

ギリシャ国防相、もうFPVドローンを操作できない兵士は戦場で役に立たない

ギリシャ国防省は「ドローン技術を兵士の訓練に統合することが最優先事項で兵役モデルを刷新する」と、デンディアス国防相も「もうFPVドローンを操作できない兵士は戦場で役に立たない」と述べ、ギリシャ陸軍も「電子機器の兵器廠を転換して独自のドローン生産を開始した」と報じられている。

参考:Hellenic Army factory transformed into drone production facility
参考:Greek Military Overhaul: Drones and New Technologies to Transform Training

米陸軍やギリシャ陸軍がドローンの自主生産に乗り出しているもの「ドローンのオペレーションと開発が一体化している」現れなのかもしれない

米陸軍は兵器廠や補給廠をドローン生産拠点に変貌させつつあり、ひとまず中国製部品を一切使用しない小型ドローンを月1万機規模で量産することが目標で、使用する構成部品も兵器廠や補給廠で内製化し、ドローン戦争に必要な適応力を手にいれようとしているが、ギリシャでも同様の事例が報告されている。

ギリシャメディア=Πρώτο Θέμαも22日「デンディアス国防相がアハルネスにある陸軍第306通信基地工場のドローン製造施設を視察した」「この工場は軍用の通信機器や電子機器の製造と保守に重点を置いていたが、ここ数ヶ月間でドローン製造拠点に転換された」「この製造拠点は偵察用の従来型ドローンや攻撃用のFPVドローンを含め年1,000機以上の生産能力を持っている」「ここで生産されたドローンはトラキアとエーゲ海での作戦ニーズを満たすためASDENと第4軍団に配備される予定だ」「第306通信基地工場の生産能力も必要に応じて強化され施設の拡張もできる」と報じた。

ギリシャ国防省は9月末に提出した軍事改革法案=Agenda 2030の中で「ドローン、対ドローンシステム、FPV機能といった先進技術を兵士の訓練に統合することが最優先事項で兵役モデルを刷新する」と明かし、デンディアス国防相も「改革の柱は兵士に先進技術の専門知識を身に着けさせることだ」「もうFPVドローンを操作できない兵士は戦場で役に立たない」と述べ、新兵の基礎訓練14週間の内4週間をドローン操縦に、さらに即応性の高い部隊は12週間の集中訓練を受けることになるらしい。

さらに改革法案は予備役の能力強化も優先課題に挙げ、国防省も「毎年5万人を招集して予備役にも先進技術を身に着けされる」「予備役は3年毎に招集して訓練させる計画だ」と説明しており、これは従来の訓練や兵器の有効性を否定するものではなく、ここにドローン技術が欠けていると現在の戦場では役に立たないという意味だ。

防衛省が設置した有識者会議も先月19日に発表した報告書の中で「ドローンはオペレーションと開発が一体化している」「短期間のサイクルでのイノベーションモデルを追求するならば内製化も含め開発に対する防衛省・自衛隊の関与の仕方を工夫すべきである」「ドローンの短期間改善サイクルなどへの対応はオペレーション側と開発側の連接の必要性を示唆するものである」「このような対応には小回りが利く中小企業が適している可能性もあり、新たな戦闘モデルを踏まえた産業との関係や育成の在り方を考慮する必要がある」と指摘したことがある。

出典:U.S. Army photo by Sgt. Joskanny Lua

因みにドローン戦争において最も重要なのは「高性能なドローン」ではなく「信じられないスピードで変化する脅威や対抗技術への適応力」で、デンディアス国防相も「陸軍第306通信基地工場のドローン製造能力は部隊に随伴して現地でFPVドローンを生産するように出来ている」と述べており、米陸軍やギリシャ陸軍がドローンの自主生産に乗り出しているもの「ドローンのオペレーションと開発が一体化している」現れなのかもしれない。

関連記事:米陸軍は兵器廠や補給廠をドローン生産の拠点に転換、構成部品も内製化
関連記事:防衛省有識者会議、日本の無人アセットに対する取り組みは遅れている
関連記事:今世紀最大の戦場イノベーション、米軍も来年までに小型ドローンを本格導入
関連記事:ドローン戦争の実態、光ファイバー制御ドローンがもたらす効果と問題点
関連記事:ドローン戦争の実態、最終的にはドローン同士が戦う未来に行き着く

 

※アイキャッチ画像の出典:Nikos Dendias

Airbus、Thales、Leonardo、宇宙事業を統合してStarlinkに対抗前のページ

ポクロウシクを巡る戦い、グレーゾーンが市内中心部の駅周辺まで拡大次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    4ヶ国から見限られたNH90、ベルギーも高額な維持費を理由に退役を発表

    ベルギーのフランケン国防相は10日「維持費用が極めて高額なNH90調達…

  2. 欧州関連

    英国がF-35Aと戦術核兵器の取得を検討、戦闘艦も14隻から25隻に増強

    英国のスターマー政権は国防戦略の見直しを2日に発表する予定で、Time…

  3. 欧州関連

    歩兵戦闘車の開発に乗り出すイタリア陸軍、数ヶ月以内に開発企業を選定

    イタリア陸軍は老朽化したダルドの交換に150億ユーロ(取得コストは52…

  4. 欧州関連

    トルコが開発中の第5世代戦闘機TF-X、プロトタイプがロールアウト

    トルコは今年2月に大きな地震に見舞われたものの第5世代戦闘機「TF-X…

  5. 欧州関連

    ロシア軍に要塞をプレゼントした無能司令官が解任、後任はタルナフスキー准将

    ウクライナ人ジャーナリストのブトゥソフ氏は「ポクロウシクの防衛ラインに…

  6. 欧州関連

    英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」で原因不明の水漏れで艦内が水浸しに

    英海軍が誇るクイーン・エリザベス級空母2番艦「プリンス・オブ・ウェール…

コメント

  • コメント (19)

  • トラックバックは利用できません。

    • たむごん
    • 2025年 10月 24日

    会社と同じで、垂直統合・水平分業どちらにするのかという考え方なのでしょうね。

    垂直統合した方が、一般的に自国の管理を強化してアップデートを早くできるだけでなく、他社(他国)が製造において干渉しにくくなります。

    (安全保障の問題ですから)国際的な水平分業になっていれば、他国の干渉により何らかのパーツが入手できないこともありえますから、武器が無力化されたり弱体化するリスクもあります。

    10
    • kitty
    • 2025年 10月 24日

    「え、コントローラーでFPS?w」勢のゲーマー息してる?

    4
      • 名無し
      • 2025年 10月 24日

      ドローンが銃撃できるようになればトラッキングできるキーマウの方が強いかも

      3
      • リンゴ
      • 2025年 10月 24日

      FPSゲーマー達の最大の問題点はその社会性や身体能力・体力にあると思う
      普通の人や今いる兵士を教育して、ドローンを使えるようにした方が余程安上がりだし手間もかからない、ってのが多分予備役訓練の趣旨の一つでもある気がする
      てか普段からあんな罵詈雑言吐いてる人達を、大組織に入れるのは躊躇するだろ…

      27
      • nachteule
      • 2025年 10月 25日

       FPSとFPVドローン操縦がイコールなのか?前者はインドアの仮想空間で目まぐるしい変化の中で複数の標的を素早く狙う必要があるけど、基本環境が悪い屋外のFPVドローンでやる偵察に細やかな操作を求めるものでは無いでしょう。
       仮に自爆攻撃する時に必要だとしても移動目標を横から狙うような細やかな操作が必要な攻撃をするならセンスが無いと思うし、爆弾とか落とすにしても現状では停止目標に留まっている。

       障害物やドローンによる体当たりを回避するのに必要だとか言うなら本体に自動回避機能付けるべきで、何をさせるにしても適性に差がある多くの兵士に靴に合わせろと高度な操縦を求めるのは間違っているとしか。

      1
        • kitty
        • 2025年 10月 25日

        実戦とは何かと問われて地上に引かれた1m幅の線の中を全力疾走するのは誰でもできるが地上10mで幅1mの塀の上を走れるやつはそうそういないと答えた撃墜王がいましたね。

        1
        • 名無し
        • 2025年 10月 25日

        そんな完璧に制御された条件なんて無いし、敵も同じ条件だから、つべこべ言わずに前線行けよ、これは命令だ。命令違反は軍法会議で、懲罰兵扱いで結局、前線に行くことになる。
        が現実じゃないですかね。

        1
    • ドゥ素人
    • 2025年 10月 24日

    子供とやったスプラですら酔ってできなかった私は戦場に立てませんね…
    ゲーム好きの兵士の皆さんは、訓練楽しくなるのでしょうか?

    3
      • たむごん
      • 2025年 10月 24日

      インクに潜られると、ほんと見えないですよね(笑)

      3
      • PC好き
      • 2025年 10月 25日

      長時間FPSをすると2~3割の人は酔うデータがあるので集中力を持って画面を見続けられるのも才能の類いなんですよね
      その上で高度な判断を瞬時に下せるかとなるとゲームで一定以上の腕前になったかどうかは判断基準になってくるのかも?

      3
    • 匿名希望
    • 2025年 10月 24日

    >デンディアス国防相も「陸軍第306通信基地工場のドローン製造能力は部隊に随伴して現地でFPVドローンを生産するように出来ている」と述べており

    正に兵器版地産地消。
    でもここまでして即座に適応しないとすぐ隣に死が待ち構えているというのが宇露戦争の戦訓か。

    6
    • AKI
    • 2025年 10月 24日

    小銃規模で導入しないと駄目ですね。

    4
    • せい
    • 2025年 10月 24日

    自動小銃のようにドローンが歩兵の標準装備になってしまった
    こうなったら日本国内で気軽にドローン撮影とかは益々難しくなりそうだなぁ

    3
      • kitty
      • 2025年 10月 24日

      電動キックボードの例を考えると、いっそのこと免許制にしてしまった方がいいでしょう。

      6
    • リンゴ
    • 2025年 10月 24日

    >米陸軍やギリシャ陸軍がドローンの自主生産に乗り出しているもの「ドローンのオペレーションと開発が一体化している」現れなのかもしれない
    同意
    ユーザーからのフィードバックまで一括して行える環境が、軍や戦場というのは本当に面白い話だと思う
    究極の時間競争に晒されるワケだから、開発現場としてはうってつけだよなぁと……
    これからは戦士とエンジニア、両方の属性を持つ人間が活躍していける時代なのかもしれない

    5
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 10月 24日

    言いたいことはわかるけど、ギリシャの立地と周辺環境を考えたら結局は航空能力のほうが必要なのでは?
    1,000万人いるかいないかの人口で陸戦に全振りするの?

    10
    •  
    • 2025年 10月 25日

    殆どの部品は3Dプリンターで、通信、制御系はお手軽民生品転用とかになるんじゃないかな。常に戦場に対応できるように内製化、垂直統合が必要なのは事実だが、ある程度西側で共有できる、何なら民間とも共有できるくらいでないと、それだけのバリエーション作ることも消費に耐えることも難しいし、そこは民間に水平分業したほうがいいのでは?

      • せい
      • 2025年 10月 25日

      国産の3Dプリンターと、統一された制御ソフト欲しいなぁ
      で義務教育に取り入れて、取りあえず国民なら誰でも簡易的な設計、製造が出来るような環境に変わっていって欲しい

      1
        • 名無し
        • 2025年 10月 25日

        「ひとつ何かを手に入れるなら、ひとつ何かを手放さなければならない。」
        ので、なにか新たに学ばせよう、とは、なにか学びを捨てさせよう、と同義なのです。子供に何の学力を捨てさせましょうか?という問題に繋がる訳です。

        2

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  2. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  3. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  4. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  5. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
PAGE TOP